和食業界で活躍する方々へのインタビュー

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インタビュー 2017

 

インタビュー 2017(平成29)年10月

インタビュー 2017(平成29)年10月
 
京都大学名誉教授 森谷敏夫氏
 
教授に聞く
糖質制限では痩せられない
健康で美しい体を目指せ
 
近年「糖質制限ダイエット」は老若男女問わずブームとなっている。中には、糖質を制限すればタンパク質と脂肪はいくら摂っても太らないと主張する者まで現れる程だ。しかし、応用生理学と運動医科学を専門にし、生活習慣病の温床になる肥満のメカニズムに関する研究に長年取り組んできた京都大学名誉教授の森谷敏夫氏は行き過ぎた糖質制限に警鐘を鳴らす。今回、糖質制限の問題点について聞いた。(小林悟空)

◇ ◇
――糖質制限について。
「糖質を制限をすると確かに体重は落ちるので、病みつきになってしまう人が多いのでしょう。しかし実はそれは『痩せた』のではなく、水分が抜けているだけ。糖質が不足すると、脳は非常食として肝臓に蓄えたグリコーゲンを消費します。このとき、グリコーゲンに結合していた水分も一緒に抜けるため体重が急激に落ちる、というのが糖質制限ダイエットのからくりです」

――糖質は太るイメージが。
「いいえ。むしろ糖質は摂っても太りにくいことが分かっています。人間の場合、糖質は大量に摂っても、余剰分は肝臓や筋肉のグリコーゲンや、熱として代謝されます。糖が脂肪に変換されやすいというのは、ラットを使った実験との混同による誤解ですね。一方、脂質は余分に摂取すると、ほぼ全部が脂肪組織に蓄積されてしまいます」
 
――糖質制限の危険性について。
「糖質は脳の唯一のエネルギー源です。糖質が不足すると、脳の省エネのために眠くなり、運動不足が加速する悪循環に陥ります。また前述のように水分が抜けるので肌や髪が乾燥しやすくなり美容にも悪い。そして糖質不足が長引くと、脳はブドウ糖を合成するために筋肉を分解してしまいます。これにより筋肉がやせ細り『隠れ肥満』が進行し、リバウンドし易い体質になるのです」
 
――糖質と糖尿病の関係は。
「糖質が糖尿病の原因だというのも誤解です。現在の糖尿病患者・予備軍は昭和30年と比べ40倍近い数になっている一方で、主食消費量や砂糖消費量が大幅に減っている事実をみれば明らかです。実際には糖尿病は筋肉の代謝疾患のようなもので、運動不足が最大の原因。糖質を悪者扱いするのは間違いです。糖尿病に罹患してからは糖質制限をした方が改善するのは確かにそうなのですが」
 
――理想的な食事は。
「米を主食に低脂質なおかずを食べる和食はやはり理想的な食事の一つです。また、最近、サラダを最初に食べると血糖値の上昇が緩やかになると言って流行していますが、この食べ方が適するのは糖尿病患者。健康な方は主食とおかずを交互に食べて、血糖値を徐々に上げた方が食べ過ぎを防ぐことができます。和食の文化は、実に理にかなったものという訳です」
 
――正しいダイエットは。
「糖質制限をやめて必要な栄養をしっかり摂るのが大切です。その上で、体を動かし脂肪を燃焼すること。高強度の運動でなく、日常の何気ない動作で体を動かすだけでも十分効果が得られます。目的は体重の減少ではなく、脂肪を減らし体を引き締め健康で美しい体になることだということを忘れないでください」
 
【森谷敏夫プロフィール】
1950年、兵庫県生まれ。
1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授。2016年から京都大学名誉教授。(京都大学HPはこちら
著書に『やせられないのは自律神経が原因だった!』(青春出版社)、『結局、炭水化物を食べればしっかりやせる!』(日本文芸社)など多数。
【2017(平成29)年10月16日・第4909号3面掲載】
 
 
茨城県工業技術センター 食品バイオ部門 部門長-吉浦貴紀氏 主任-岩佐悟氏
部門長 吉浦貴紀氏(左) 主任 岩佐悟氏(右)
この人に聞く
香りの良い発酵漬物
様々な乳酸菌で開発へ
 
公設試験研究機関である茨城県工業技術センターは茨城県の商工労働部付きの出先機関で茨城町長岡の本所には機械・電気・化学・食品などの研究部門を持つ。食品系は食品バイオ部門(発酵食品系)と地場食品部門(加工食品系)に分かれ、それぞれ4名ずつの部門員が在籍しており、漬物等の研究、技術開発、支援を行っている。食品バイオ部門は乳酸菌HS‐1の研究を行ってきたことで知られている。発酵を関与させた商品作りを目指す動きは健康機能性に加え「家庭では真似出来ない味つけ」として注目されている。そうした中で食品バイオ部門の吉浦部門長と岩佐主任に最近の研究活動について話を聞いた。(中村裕貴)
 
◇ ◇
――トレンドである発酵食品で押さえるべきポイントは。
「発酵食品に限った話ではないが,安全・安心や機能性というキーワードは浸透しており、ただ美味しいだけでは商品価値を生みづらくなっている。美味しいは当たり前でプラスアルファな物が必要となってきている。我々は工業技術センターとして技術を支援する所なので、研究を通して,技術的な付加価値を提案していきたいと考えている」
 
――なぜ漬物研究なのか。
「茨城県は生産量全国1位の白菜をはじめ、大根、ごぼうなどの生産量が高く、これら漬物原料が『地域産業資源』として設定されている一方で、漬物生産量自体は全国10位と低く、原料供給県にとどまっており漬物製造の推進が求められている。そうした中で前任の橋本が開発し,製法についての特許を取得した漬物用乳酸菌HS‐1が本県には存在する。現在は民間に業務委託しているが菌の販売の実施まで他県に先駆けて行ってきた」
 
――乳酸菌HS‐1の特徴は。
「ガスを出さず,pH4くらいまでで活動が止まるので過度に酸っぱくならないという特徴がある。他の菌と比べても程よい発酵感で香りも強くないバランスの取れた優等生タイプの乳酸菌である。ニーズについては、お試し頂き、乳酸菌スターターとして使用を促進して頂きたいと考えている」
 
――乳酸菌HS‐1の研究の背景、その目的は。
「漬物は、独特の風味が食欲をそそり、古来より重要な副食物となっている。ただ、既存の漬物は発酵に関する菌が原料野菜によるものだったり、蔵にある樽による物であったりした。そのため、他の要件である酸素濃度、発酵温度、塩分濃度などの条件を揃えても出来る漬物の品質のばらつきが生じてしまう。あきらめに近い形で、乳酸菌を含めた形での漬物の香りや制御技術開発は行われてこなかった。しかし,下漬け時に発酵を伴うラッキョウでの香りの相談や,異常発酵をした漬物の異臭に関する相談は定期的にあり,香り制御のニーズは存在している。また,菌が関与しないと考えられる異臭も多くあり、そうした原因もほとんど見つかっていない状態にあるので、発酵しない物も含めて漬物の香りの評価・制御技術を研究している」
 
――現在の研究と期待される成果は。
「以前の研究では、乳酸菌HS‐1のみを使用した研究であった。発酵条件として酸素濃度・温度・塩分を変えた場合に香り成分の主要な物が何で、どう変化するのかということを明らかにし、HS‐1を使用する企業様向けの情報提供として知見を組み立ててきた。そして、今現在は乳酸菌をHS‐1のみでなく様々な乳酸菌を県内から取得し,種類を変えた時に香りがどう変化するのか、1種類の優秀な菌の知見を得た経験を生かし、それぞれの乳酸菌がどういう香り・成分を作るのかという研究を始めている。様々な乳酸菌と発酵条件による漬物香気の制御技術を確立させ,漬物の香りを向上させることのできるさらなる優秀な乳酸菌の選抜を目指している。発酵感が強い漬物が好きな人がいたり、乳酸菌が増えてpHが下がった酢っぱい漬物が好きだったり、あっさりした浅漬っぽい漬物が好きな人がいたりと好みは様々。消費者の好みに対応した香りを有する発酵漬物の開発や香りに特徴を有する乳酸菌スターターの開発を成果にしていきたい。香りの安定化及び香り異常を原因とする商品ロスの減少も考えており、香りを売りにした茨城漬物のブランドの確立が最終的な狙いとしてある」
 
――工業技術センターでは納豆の研究も盛んだと聞いている。
「納豆には力を入れており、日持ちのする納豆の研究を進めている。納豆の賞味期限は製造後10日程度のため作り置きが難しい商品。賞味期限を長く設定できる技術が確立すれば、製造計画にゆとりが生じたり、小売店でのチャンスロス減少による取扱量増加が起きたり、さらには流通可能範囲の増加など様々なメリットが見込める。納豆菌を遺伝子レベルで研究を行い、賞味期限を延長できる納豆菌の開発を目指している」
 
――茨城県漬物協工業協同組合の皆さんにメッセージを。
「県の研究機関ではあるが皆さんの施設として使ってほしい。話のキャッチボールをさせてもらい、商品開発だけでなく課題解決を含めて相談させて頂きたい(吉浦氏)」「どんなことでもいいので困ったことがあれば相談に来てほしい。おいしい漬物の作り方については、企業側が一番把握していると思うが、それを安定化、数値化させることに力を入れているのでその点でお手伝いできればと考えている(岩佐氏)」
【2017(平成29)年10月16日・第4909号12面掲載】
 
茨城県工業技術センターのHPはこちら
 
   
東海漬物株式会社 漬物機能研究所商品開発グループ グループ長 河本哲宏氏
開発者に聞く
機能性表示食品で差別化
漬物のイメージアップに
 
漬物業界で初の機能性表示食品を発売した東海漬物株式会社(永井英朗社長、愛知県豊橋市)の漬物機能研究所商品開発グループグループ長の河本哲宏氏にインタビュー。業界の内外で注目を集める機能性表示食品「+GABAたくあん」の開発責任者である河本氏に開発経緯や今後の方向性などについて話を聞いた。(千葉友寛)
 
◇ ◇
――「+GABAたくあん」の特徴は。
「GABAには血圧降下作用があると言われ、『+GABAたくあんシリーズ』は血圧が気になる人でも安心して食べられる沢庵。漬物機能研究所では乳酸菌を研究しており、GABAを生産する能力が高い植物性乳酸菌を発見し、自社培養して製品利用した。30%減塩した沢庵にGABAを添加することで、血圧が高めの人でも安心して食べられる沢庵として提案している。他にもGABA入りを表示している商品もあるが、GABAをどれだけ摂取すればいいのか、摂取したらどのような効果があるのか、という表現はできていない。そういった効果を言葉や数字で示すことができているので、消費者にとっても分かりやすく、付加価値になると思う」
 
――機能性表示食品を開発した理由は。
「他社と差別化を図った商品を販売することが一番の目的。GABAは他の漬物メーカーでも使用しており、他社と何が違うのか、どんな違いを出せるのか、ということを示す意味で、機能性等の表示ができることが一番のメリット。本来は特定保健用食品にチャレンジしたかったのだが、膨大なコストがかかるため、2015年4月からスタートした機能性表示食品制度に切り替えて受理を目指した。漬物は塩分が高いというイメージを持たれているが、GABAには血圧抑制効果があることが知られている。塩分と血圧の関係をテーマにすればしっくりくるので、研究を進めた。乳酸菌はGABAを生成する独自の乳酸菌を選定し、培養しているので効率よく生産することができる。『+GABAたくあん』は1食10g(2切れ)で塩分は0・3gになり、無理なく続けられる量。減塩タイプで、血圧が気になる方でも安心して食べられる沢庵となっている」
 
――漬物のイメージを変える一品になる。
「多くの人が持っている漬物へのマイナスのイメージを変えたい、という気持ちもあった。漬物の需要者は若い人よりも年配の方の比率が高くなっているが、高齢者の方は高血圧の割合も高い。そういった方は塩分を控えなければならないので、漬物が食べられないということになる。今回の新商品は血圧が高めの方でも安心して食べていただけるし、数字で裏付けしたものとしてお勧めすることもできる。弊社の商品も以前は塩分10%だった商品が現在は4%にまで落ちているし、漬物全体としても塩分は下がっている。しかし、消費者はそのことをあまり知らない。企業や業界のPR不足もあると思うが、このような機能性表示食品を開発することによって、漬物の塩分が高くて体に良くない、といったイメージが変わっていけば良い」
 
――申請で難しかったことは。
「申請のためのノウハウを知ることが必要だったので、ノウハウを学んで吸収することが大変だった。日本健康・栄養食品協会の特保部に入って申請に必要なデータや資料等について勉強した。会社としても漬物業界で1番最初に受理されることを目指していた。当社としては特定保健用食品に向けて準備をしている段階で機能性表示食品制度がスタートしてスライドした形。これを一から構築するのはかなり大変な作業で、弊社は機能性の研究をスタートしていたので早期に実現することができた。それでも、消費者庁とのやりとりは数度に渡り、スタートから10カ月あまりの時間を要した。今回の受理を通してノウハウが分かったので、今後も機能性表示食品の開発がしやすい環境となり、次の研究も進んでいる。健康へのニーズは普遍的なものがあり、漬物の機能性表示食品が従来のイメージを変えるきっかけになれば良いと思っている」
【2017(平成29)年10月16日・第4909号6面掲載】
 
東海漬物のHPはこちら
 
 

インタビュー 2017(平成29)年9月

インタビュー 2017(平成29)年9月
 
株式会社シオダ食品 社長 平塚勝美氏
 
新社長に聞く
上質な生姜はハーブの香り
会長と会社へ恩返しを
 
株式会社シオダ食品(栃木県佐野市御神楽町)の塩田孝社長の退任に伴い、2017(平成29)年7月より新社長に就任した平塚勝美氏にインタビュー。同社への入社の経緯や商品に対するこだわり、今後の抱負について話を聞いた。(千葉友寛)

◇ ◇
 
――社長就任の感想を。
「社内的には7月から新体制となっていて、社外的には9月に発表という形になりました。塩田前社長は代表取締役会長として会社を見ていただくので、全ての件で私が決断するということではないのですが、会長はどこかのタイミングでバトンタッチするという話を以前からしていたので、心の準備はできていました。ただ、入社してからずっと総務の仕事をしていたので、もっと理解を深めないといけないことが沢山あると思っています」
 
――入社の経緯は。
「入社は平成19年。その前は足利銀行に勤めていて、50歳になった時にこれまでと違う人生も経験してみたい、という気持ちで早期退職しました。当時はまだ若いから何でもできると思っていましたが、10年前は社会的にも経済的にも厳しい時代で、中々就職先を見つけることができませんでした。退職後の2年間は職業訓練を行いながらアルバイトをしていました。そんな時にシオダ食品の経理担当者が退職する、ということで仕事のお話をいただきました。会社のことは足利銀行時代に営業の担当だったので知っていましたし、会長とも顔見知りだったこともあったので、会長から『女房役として来てほしい』と声をかけていただき、すぐに入社を決めさせていただきました。私としては厳しい状況の時に拾っていただいたと思って大変感謝しています」

――異なる職種で不安は。
「総務の仕事をするということで不安はなかったですが、生姜や食品会社の知識は全くなかったこともあり、学ぶことが多かったです。生姜の特徴や健康効果などについては会長が毎日話をされるので、自然に覚えることができるようになっていきました。生姜には様々な効能があり、会社の人もそれを肌で感じていると思います。昼食時に漬物として食べるときもありますが、生姜入りの麦茶や紅茶などで毎日摂取しています。私も1年に1、2回は風邪を引いていましたが、生姜を摂取するようになってから風邪を引かなくなりました。生姜の効果によって基礎体温が上がり、免疫力が高まると言われていますが、まさにその通りだということを実感しています。入社直後は会社に入ると生姜の匂いを感じましたが、今では感じなくなりました。生姜が体に染み付いてきた、ということだと思います」
 
――御社のこだわりは。
「入社前のことですが、15年前に大量生産、大量販売から方向転換しました。安売りしていても利益を出せないので、生姜の価値を理解していただき、高く買っていただくように取り組みました。弊社の生姜原料は収穫時期を従来の30~40日早めています。その分、収量が減りますが、若採りした上質な生姜はハーブのような爽やかな香りがし、また、辛味や繊維質が少ないので食べやすいのも特徴です。弊社に入ってくる原料は新鮮なので生でもそのまま食べられます。また、鮮度の良い生姜の成分を逃さず加工できるように研究を進めています。そんな商品を近々発表できればと思っています」
 
――今後の抱負を。
「商品開発は担当部署が主体性を持ってやっています、生姜の価値を追求する方針は変わりません。また、他社では真似できないもの、市場にないものを開発していくスタンスも同じです。生姜の味と品質を評価していただき、『シオダの生姜じゃなければダメだ』と言っていただけるお客様も増えてきています。そういったお客様の期待に応えつつ、新しい需要を開拓していきたいと思っています。私は65歳なので、次の世代につなげるワンポイントの役割だと思っていますが、会長と会社への恩に報いるため一生懸命頑張る所存です。業界の方におかれましては、ご指導、ご鞭撻の程宜しくをお願い申し上げる次第でございます」
【2017(平成29)年9月4日・第4904号5面掲載】
 
株式会社シオダ食品のHPはこちら
 

インタビュー 2017(平成29)年7月

インタビュー 2017(平成29)年7月
 
ナカイクリニック 院長 中井 昭宏医師
医師に聞く
介護食品の質向上へ
メーカーが積極的な開発を
 
超高齢社会が目の前に迫る日本。
平成28年時点で65歳以上の高齢者は3461万人、全人口の約27%(総務省統計局HP)となっており、高齢者の介護問題はもはや国民全員に突きつけられる問題となりつつある。それに伴い、介護食の質の向上を求める声が年々高まっている。
近畿大学校友会地域医療ケア支部の支部長を務める、ナカイクリニック(大阪府堺市)院長の中井昭宏医師は、在宅医療に15年間取組み続けてきた経験から、食品メーカーによる良質な介護食開発の必要性について指摘する。今回、介護現場における「食」の現状について聞いた。

◇ ◇

――介護食に関心のきっかけ。
「我々にとってそうであるように、高齢者にとっても食は栄養摂取の方法であると同時に大切な楽しみの一つ。15年間在宅医療に従事してきた中で『死んでも良いから○○を食べたい』と訴える方をたくさん見てきた。この願いを何とか叶えてあげたいと思い、介護食の改善に取組んでいる」
 
――介護現場の現状について。
「満足な食事をできていない方が大半なのが実情。宅食サービスなどは少しずつ生まれているが口に合わずに残してしまうことも多く金銭的なハードルも高い。ヘルパーなど介護者を雇っている場合でも介護者の料理レベルはまちまちで酷い場合は普通の食事をミキサーにかけて流し込むように食べさせていることもある。これでは、食事を楽しめるはずもなく心も体も衰弱してしまうのは当たり前。私たち医師や訪問看護士もケアマネージャーらと協力して調理方法の工夫など呼びかけているが、一朝一夕にはいかない。そのため、簡単に調理できて安価な介護食品の普及を切望している」
 
――介護食品に求められる要素は。
「『味』・『見た目』・『栄養素』の3つが揃っていることはもちろん、毎日続けていくためには手軽さと価格も重要な要素。介護者の調理レベルや忙しさによらず、食べたいものをいつも美味しく食べられる環境を整えることが求められている。個人的な経験から言えば、高齢者が好むのはやはり和食。死んでも良いから漬物を食べたいと言う人もいる。個人の調理では解決できない課題もあるため、食品メーカーの協力は必要不可欠だろう」
 
――介護食の普及のためには。
「まずは、高齢者が食の楽しみを感じられるように、先に述べた『味』・『見た目』・『栄養素』が揃った介護食の開発が必要。自分が年を取ったら、或いは、家族に介護が必要になったら、という気持ちで食品メーカーが今以上に商品開発に注力していただければ、道は開けると思う。また、消費者との接点を増やして行くことも大切だ。数年前から『ユニバーサルデザインフード』や『スマイルケア食』などの規格が誕生したが、取り入れているのは一部の介護施設ばかりで、在宅介護ではまだ認知すらされていない。購入経路も、スーパーやドラッグストアでの取扱が少なく、ほぼインターネット通販に限られていることも問題だ。医療機関・介護会社・食品メーカーそれぞれが改善に向けて努力するとともに、紹介冊子の配布やホームページの活用など、介護食の情報にアクセスしやすい環境づくりも行っていかなければならない」
 
【2017(平成29)年7月24日・第4899号13面】
 
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有限会社信濃食品 専務取締役 伊藤 征剛氏
この人に聞く
生産者や社員との繋がり
自社農園で将来を見据える
 
2016(平成28)年9月、長雨と日照不足の影響から野沢菜は稀に見る原料不足に陥った。圃場に行くと一見良く見えても1本引き抜いてみると株が腐っていることに気づく。温暖化と大雨のせいで株に水がたまり腐食が起きていた。支え合い立っているのがぎりぎりで少し取ると一気に倒れ出す。そんな状態に頭を悩まされた。11月時点で野沢菜漬メーカー各社が供給機能を停止せざるを得ない状況となり、SMも特売はおろか既存のスペースすら確保できない状況であった。
結果、生産者も作付面積を減らすという悪循環が起きているという。年が明けても好転はせず春を迎え少しは落ち着きを取り戻したが、4月になっても気温は低く少雨のため再び原菜不足に陥った。5月になっても少雨は続き産地リレーは膠着した。
産地リレーの改善や農家の高齢化・後継者不足といかに向き合うかが野沢菜原料確保の目下の課題となっている。
そうした課題に継続的に向き合い、農業生産法人を立ち上げ解決ににじりよろうとしているのが有限会社信濃食品(伊藤博社長、長野県飯田市)の伊藤征剛専務だ。地元飯田市で収穫期を迎えた6月に信濃食品の自社農園であらためて話を聞いた。(中村裕貴)

◇ ◇
 
‐自社農園を持つきっかけ。
「弊社周辺には野沢菜の契約農家はいたが高齢化の先に後継者不足という問題が起きるだろうことに当時から危機感を抱いていた。そうした中で小泉内閣時(2002~03年頃)に飯田市は構造改革特区に指定され、跡継ぎのいない農地や休耕田を有効活用するために、法人の農業参入に対し規制緩和がなされた。弊社は10年後を見据える気持ちで手を挙げた訳だが、10年どころか5年で周りの生産者が次々に撤退してしまったことを今でも思い出す。食品会社は商品の安定供給こそが最大の責務。そのためには収穫想定量に対し120%の作付面積が必要になってくる。当初は社内に原料事業部を作りスタートした」

‐その後農業生産法人を作り県外でも野沢菜栽培を始めた。
「小泉内閣における構造特区では、自社所在地から30キロ以内に圃場を持たなくてはならないという規制があったが、2014年に農業特区の期限が切れたので、その翌年に信濃農場株式会社という農業生産法人を立ち上げた。夏期の安定確保を目指し、愛知県で試験的に栽培をスタートさせたが結局はうまくいかなかった。しかし、そこでの経験が今に繋がっている」
 
‐愛知での苦労は。
「圃場の場所は標高1000~1200mの高原でキャベツの一大産地であったが、価格の大暴落で現地生産者は辞めてしまっていた。標高400~500mの南信州では、せいぜい6月末くらい迄が野沢菜の収穫期。暑い時期の産地リレーに役立てるために高原地帯で収穫を成功させたい思いから自社農園を開拓した。1年かけて草を全て刈り取り堆肥も撒いて圃場を整えた。しかし、開拓3年目を迎えても収穫は想定の10分の1程度。30度を超える気温上昇や鳥獣被害が問題だった。温暖化だけでなく台風やゲリラ豪雨も来れば完全にアウト。愛知からは3年で撤退したが良い経験となった」
 
‐地元に転じ自社農園の役割が見えてきた。
「当初は先ほども言った様に弊社工場周辺には3町歩の畑があった。しかし借りたはいいが、土壌環境が悪く2町歩は使い物にならなかった。その畑は返し、自分たちで歩き農地を探したり農家に聞いたりして農業委員会を通し別の場所を借りた。今は株式会社として直接農家とも契約ができるようになっている。弊社は春と秋の二作となっている。有効利用でき、なおかつ畑をきれいに保つので『借りてほしい』という農家も多く、現在は順調に作付面積を増やしている。地元で原料確保の比率が上がればそれに越したことはない」
 
‐地元の生育や作柄は。
「自社農場では60センチから70センチの生育が一番良いと考えている。そうすると反収3・5~4トンくらい。少ないと思うかもしれないが柔らかくて美味しい野沢菜にこだわりを持っている。5月末までは少雨で収量が伸びなかったが6月に入り生育は回復した。徳島や群馬との産地リレーは毎年注視している」
 
‐自社農園における人材育成について。
「最初は播種から収穫まで全て手作業だった。そこに社員を飛び込ませるのには勇気が必要だし、できなかった。少しずつ設備投資を行い、機械化を進め自社の人間に引き継げるよう職場を整えていった。そして、野沢菜の知識が豊富な工場長を農場の責任者に据えた。今は、栽培計画通りに播種から収穫まで全てやって頂いている。ベテランで知識があるからこそ加工から栽培にシフトできたのだと思う」
 
‐ご自身の栽培経験が生かされているのでは。
「野沢菜漬メーカーとして栽培のノウハウは頭では全て理解できていた。それを行動に移し自分たちでも作ることを決めた。うまくいかない時は付き合いのある生産者の方に電話して相談しアドバイスをもらった。それがあるからこそ今がある。今度は工場でも機械化を進めこちらが生産者に貢献する番だと思っている」
 
‐加工でも省力化し新商品開発に取り組んでいると聞いた。
新商品「緑を食べよう のざわな」
ご存知の通り、野沢菜のホール物は株がついている。
購入後、ほとんどの消費者は株の部分を切り落とし、まな板の上で伸ばし切り揃えるという手間がある。それでも、依然としてホール物が一番売れるのはあのボリューム感だという。
「緑を食べよう のざわな」ではボリューム感や味の良さは維持したまま食べやすさも追求した。最初から株を切り落とし可食部のサイズは12センチと長さを揃えている。開けたらそのまま食べることが出来るし、お好みのサイズにカットしても良い。とにかく手間いらずにした。株が無く可食部のみなので調味液の浸透率もよく柔らかい仕上がりとなっている。
野沢菜の収穫 株より上をカットする新しい方法を試みている
ホール物からこちらにシフトすれば、原料の安定供給にも繋がる。
株の上からバインダーなどで切リ落とすことができれば、今は手作業の収穫も大幅な省力化が期待できる。これにより生産者のモチベーションも上がる。株はすでに切り落としてるため、洗浄の手間が減るだけでなくカット、軽量も規格を統一化し自動化できるためコスト削減に繋がる。生産者を守り、工場の人手不足も解消していくという道筋だ。機械化を進めるにあたっては自社農場で試験栽培を行い、実現に向けて着実に動いていきたい。野沢菜漬の安定供給を将来的に見据えるためにも挑戦してきたい」
 
【2017(平成29)年7月10日・第4898号5面】
 
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木曽町地域資源研究所所長 スローフード木曽顧問 岡田 早苗氏
乳酸菌研究の権威として知られる東京農業大学名誉教授の岡田早苗氏は昨年より木曽町地域資源研究所所長に就任、木曽町と東京を行き来する生活を続けながら〝すんき〟の研究を行っている。すんきの魅力や研究内容について聞いた。(藤井大碁)
 
--木曽ですんき研究を始めたきっかけ。
「東京農大にいる2003年からすんきの研究を行っており、十数年間すんきのシーズンには木曽に来て現地で試料採集や菌の分離などの研究を行ってきた。昨年(2016年)3月に農大を満期退職となり、木曽町長さんよりすんきの研究をしないかとお声がけ頂いたのがきっかけ。すんきの発酵と成分の研究を進めている」
 
--すんきの魅力。
「漬物ではあるが、塩を使わない。食べ方も他の漬物と全く違う。味噌汁に入れたりそばの具材に入れたり、町の人に聞くと、ほとんどそういった食べ方をしている。300年以上の歴史があるが、木曽の多くの人が未だに家庭で漬けている。流通が発達した現在でも、冬場の保存食の役割を担ってきた伝統食を食べ続けていることには何かしら理由がある。その理由は、かけがえのない美味しさがあるからだろう。毎日味噌汁に入れないと朝が始まらないという人が大勢いる」
 
--なぜ味噌汁に入れるとすんきは美味しくなるのか。
「成分分析を進めるうちに、腰を抜かした。発酵したすんきの汁を分析するとコハク酸が含まれていることが5年前(2012年)に明らかになった。コハク酸はグルタミン酸ナトリウムやイノシン酸に並ぶ旨み成分で身近な食べ物だと貝類に含まれている。都会から来た人にすんきそばを味わってもらった時に、貝の汁と同じ味がするという声が多く聞こえてきたのも今では納得できる。コハク酸はそのまま直接食べてもあまり美味しさを感じない。醤油やそばのダシと合わさった時に旨味が跳ね上がる成分だ。逆に濃度が濃くなりすぎると苦くなってしまう。味噌汁やそばで食べるのに適した特徴を持っている」
 
--乳酸菌も多く含まれています。
「すんきに主に含まれる乳酸菌は、①ファーメンタム菌②デルブルキー菌③プランタラム菌④パラブフネリ菌の4つ。このうちファーメンタム菌がコハク酸を作り出すことが分かっている。ファーメンタム菌はデルブルキー菌と共に高温状態で生育する特徴がある。このことから、すんきの製造工程では、湯通しして熱をもったまま容器に放り込み、熱が逃げないように毛布で包んだりコタツの中に入れ一晩だけ高温に保つ必要がある。高温状態を保たなければ、①②の乳酸菌が生育できずコハク酸が含まれないため美味しいすんきができない。コハク酸の存在が明らかになり作り方から食べ方まで一連の流れの理屈が繋がり、すんきの謎が一つ解けた」
 
--現在の研究内容。
「すんきの状態を調べて味わいの良いすんきはどういった状態なのかを調べている。一番美味しい状態のすんきの成分比率は、コハク酸を1とすると、乳酸が7~8、酢酸が1~2となっていることが明らかになり、④の乳酸菌がある時の方がなぜかこのバランスに近づくことが分かった。また今年の冬は、〝霜がかかったカブの方が美味しく漬かる〟という昔からの言い伝えがあるが、それがなぜなのかを研究したいと思っている。美味しいすんきを作るためのコツが判明すれば各メーカーの品質向上にもつながる」
 
--健康機能性について
「すんき1gあたり、数億から10億の乳酸菌が棲んでおり、乳酸菌の数はヨーグルトと同じくらい含まれている。ヨーグルトは高タンパク質だが、すんきにはタンパク質はほとんど含まれておらず、食物繊維を一緒に摂ることができる。乳酸菌が植物性であることもポイントだ。他にも、すんきには食物の焦げに含まれる発ガン物質の除去作用やウイルス感染予防作用、抗アレルギー作用、ピロリ菌の生育抑制などがあるとされる」
 
--先生は〝植物性乳酸菌〟という言葉の名付け親としても知られています。
「乳酸菌を摂りたい人がヨーグルト一辺倒になってしまいがちだったことから、他の選択肢もあるということを知ってもらうため〝植物性乳酸菌〟という言葉を提唱した。植物性乳酸菌は環境の変化に耐えられるため、動物性より腸内に長く生き残ることができる。何より日本人は古来より漬物とご飯などで植物性乳酸菌を摂ってきた経緯があるため身体との相性が良い。乳酸菌はいろいろなものからバランス良く摂取するのが理想だと考えている」
 
--すんきの現状
「昨今テレビで紹介され、今回地理的表示に登録されたこともあり注目が高まっているが、すぐに大量生産できるものではない。大量に原料が収獲できても、発酵時の温度コントロールに手間があるため一度に大量に漬け込むことは現状難しい。商業的にすんきを製造しているところが現在7社あるが、少しずつ生産量を増やして、まずは年間通して一年中食べられるようにしていくことが目標ではないだろうか」

--今後について
「安定した発酵により品質の良いすんきが漬けられるよう研究を続けていく。昔から言い伝えられた漬け方があるが、何が必要で何が必要でないかを精査していく。木曽地域全体がすんきにより活性化していくために少しでも力になれたら嬉しい」
 
岡田 早苗氏
木曽町地域資源研究所(http://www.town-kiso.com/chousei/machidukuri/100246/)所長 
スローフード木曽 顧問
東京農業大学(http://www.nodai.ac.jp/)名誉教授
農学博士
 
【2017(平成29)年7月3日第4897号9面】
 

インタビュー 2017(平成29)年5月

インタビュー 2017(平成29)年5月
 
国立大学法人静岡大学 農学部教授 博士(薬学)原 正和氏

教授に聞く機能性【ワサビ】

ワサビにガン抑制効果
わさび漬は先人の〝知恵の結晶〟

 

ワサビの機能性などについて10年以上に亘り研究を行っている静岡大学農学部教授の原正和氏にインタビュー。
ワサビの健康効果や理想的な食べ方などについて聞いた。(藤井大碁)
 
◇ ◇
――これまでの研究内容。
「植物が持つ機能性をヒトへの健康効果だけでなく農業や環境へ役立てることを目的に研究を進めてきた。ワサビに関しては、すりおろし用の品種と加工用の品種の辛味成分を比較分析し、違いをもたらす物質について研究した。また、ワサビの辛味を発生させる遺伝子を特定し、その遺伝子がワサビ以外にもダイコンやカラシナなどアブラナ科の食物に広く含まれるものであることを突き止めた。ワサビの辛味は、イソチオシアネートがすりおろされることでミロシナーゼと混ざり反応し発生するが、遺伝子に他の植物と大きな違いがあることが分かった。このワサビの遺伝子を特定することによりワサビを用いた加工食品に本物のワサビ成分が入っているかどうかを判断する技術を開発した」
 
――ワサビの健康効果について。
「健康機能性に関しては、これまでに元静岡県立大学教授の木苗直秀氏と金印株式会社が代表的な研究を行っている。木苗氏はワサビの研究をまとめた自身の著書の中で、ワサビ成分に『抗ガン作用』『抗酸化活性』『血栓予防効果』『抗虫作用』『抗ピロリ菌作用』などの効能があることを上げている。抗ガン作用については、胃ガン細胞の増殖を著しく抑制することが確認され、乳がん細胞やメラノーマ細胞に対しても強い増殖抑制活性があることを明らかにしている。また大腸菌やチフス菌など様々な細菌・真菌に対する抗菌性があり、〝日本特産のワサビの一滴は太陽に次ぐ殺菌力をもっている”と賞賛した外国人学者オットーショーブルの言葉を引用し、その機能を紹介している。最近話題となっている寄生虫アニサキスに対する殺虫効果の記載もある。一方、金印株式会社では大学と連携した長年にわたる研究により、本わさびの根茎に含まれる”ワサビスルフィニル(R)〟に『抗酸化作用』『解毒作用』『発がん抑制作用』『抗炎症作用』、また、本わさび特有の成分「ワサビチオへキシル(R)」に『花粉症症状緩和作用』があることを発見し同社ホームページで紹介している」
 
――理想的な食べ方。
「ワサビは辛くて一度にたくさんは食べづらいため、日々少しずつとることで継続的な効果が期待される。毎日、本わさびをすりおろして食べる方法ももちろん有効だが、その手間や経済的コストを考えると現実的ではない。そういう点では、〝わさび漬〟などのわさび加工品を食べ続けることが理想的な方法だと思う。わさび漬は酒粕の中にワサビの根・茎の破片が入っており、噛むことでイソチオシアネートとミロシナーゼが口の中で反応する。有効成分が口の中で発生し、そのまま飲みこみ体内で吸収されるため、より高い効果が得られる可能性があると考えている。ワサビは揮発性のため時間の経過と共に風味や辛味が失われやすいものだが、油に馴染みやすい性質を生かし、酒粕と混ぜることでその成分を逃がすことなく保存しているのがわさび漬。さらに、ワサビの破片を酒粕の中に加えることで、健康機能性のある成分を発生させるという、大変良くできた食品で、先人たちが発明した知恵の結晶のような食品だ」
 
――ワサビ成分のその他の機能。
「ワサビの辛味成分を植物の雑草防除に使用する研究も行い成果が実証された。また、辛味成分をふりかけることにより植物の高温耐性が上昇することも我々の研究で明らかになった。現在はこの研究をもとに違う成分で製剤が開発され、温暖化が進む中、農業に生かされている」
 
――今後について。
「まだ発見されていないワサビの新しい機能性を発見し、社会で役立つ技術を開発することができれば嬉しい。東京オリンピックを機にワサビが世界中でますます注目を集めることが期待される。我々の研究により、世界に広がる日本のワサビ文化を学術的な面から下支えすることができればと考えている」

【2017(平成29)年5月29日第4892号1面】
 
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大妻女子大学家政学部 学部長 食物学科教授 農学博士 青江誠一郎氏

教授に聞く機能性【昆布】

昆布に多量の食物繊維
佃煮は最も理想的な調理法

 

「第二の脳」と呼ばれ、健康に及ぼす影響が大きな注目を集めている腸内環境。腸内環境を改善する効果があるとされる食物繊維について20年以上に亘り研究を行っている大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授に研究内容と昆布の機能性について話を聞いた。(藤井大碁)
 
◇ ◇

――昆布の研究を始めたきっかけ。
「食物繊維の研究を20年以上続けてきたが、腸内細菌の研究が進むと共に、日本人には水溶性食物繊維が足りていないことが明らかになってきた。水溶性食物繊維を多く含む食品としては、大麦やゴボウ、ラッキョウなどが知られていたが、その2~4倍の含有率を誇るのが昆布だと分かった。昆布はこれまで、水溶性と不溶性の食物繊維を分けて分析できなかったため、食品成分表に表示されてこなかった。しかし、実際に水溶性食物繊維の量を測ってみるとかなりの量が入っていることが分かったため研究をスタートした」
 
――昆布に含まれる水溶性食物繊維とは。
「水溶性食物繊維は、糖分や脂肪分を包み込んで体外に排出する機能がある。そのため、メタボ対策に効果的で、さらに腸内細菌の餌になるため腸内環境を整えてくれる。一方で、不溶性食物繊維は溶けずに水を吸って膨らむため、胃で膨らみ食べ過ぎを抑え、大腸で水を吸ってくれるため便通がよくなる。便秘気味の人やダイエット中の人に向いている。昆布には、これら水溶性と不溶性の食物繊維の両方が含まれている。日本人はかつて雑穀を中心に水溶性食物繊維を一日に約5グラム摂取してきたが、今は約3グラムと摂取量が一日あたり2グラム不足している。米・野菜・果物といった食品から少しずつ摂取しているのが現状で、意図的に昆布を多く食べることにより不足を補うことができると考えている」
 
――理想的な食べ方。
「昆布に熱を加えて柔らかくすることで、表面から栄養素が溶け出し、中からもさらに出て来ることが分かってきた。そのため、煮る・出汁をとるという調理法や、とろろ昆布のように薄く削って食べることで、乾燥昆布をそのまま食べるよりも食物繊維を効率的に摂取することができる。そういう点では、佃煮は煮ることで表面が柔らかくなり中身が出てきて、それが煮詰めることで昆布に戻され、有効成分が凝縮されるため最も理想的な調理法といえる。高めの塩分が少し気になるので、メーカーさんには低塩の製品開発に力を入れて頂きたいと思う。大麦ご飯と昆布の佃煮の組み合わせなどは食物繊維を摂取する上で非常に良いのではないか」
 
――日本人と昆布。
「昆布の水溶性食物繊維を分解して吸収できる腸内細菌は日本人だけが持っているということが分かってきた。歴史上、永く食べ続けてきたため、分解できる腸内細菌が定着したと考えられる。そのため、外国人が食べても食物繊維は腸内細菌が利用できず、そのまま出てしまう。昆布の食物繊維はアルギン酸・フコイダン・ラミラナンという3つの食物繊維以外にも、フコキサンチンやマンニトールなどの機能成分も豊富に含まれており、昆布は機能性成分の宝庫。それを余すことなく加工しているのは日本の凄い技術で、歴史的にみても昆布は日本人の健康に大きな役割を果たしてきたといえる」
 
――腸内環境の研究。
「ここにきて、腸内環境や食物繊維に脚光が集まっている。健康な人とそうでない人の腸内細菌を比較して何がどう違うかを分析する研究が進んでいる。昔は菌を一つ一つ培養し顕微鏡で覗いて分析していたが、今は、便をとりDNAを測れば一斉に菌が分析できるようになった。漬物やヨーグルトなどに多く含まれる乳酸菌は、生きて腸に届くが数日経つと通過して消えてしまう。一時的に菌を補充して良い環境を整えてくれるので、特に腸が弱っている人には大切な役割を果たすが、あくまでも一時的なものなので取り続ける必要がある。一方で、昆布や大麦、ラッキョウなどに多く含まれる食物繊維はもともとお腹にいる菌の餌になり育ててくれる。腸にとって一番良いのは食物繊維と乳酸菌を摂取し続けることだといえる」
 
――今後の研究テーマ。
「昆布のどの成分がどういう機能性があるのか、また、昆布の種類によって機能性にどのような違いがあるのかを研究していきたい。最終的にはヒト試験を実施し昆布の機能性を実証する必要がある。昆布の何をどう加工したら良いか仮説を立てて実証することで、機能性が完全に認められる。産官学の機関が協力すれば短期間で実証することも可能ではないだろうか」

【2017(平成29)年5月15日第4890号1面】
 
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インタビュー 2017(平成29)年3月

インタビュー 2017(平成29)年3月
 
高崎健康福祉大学 健康福祉学部 健康栄養学科 松岡寛樹 教授

特別インタビュー

沢庵の機能性明らかに
生野菜ではなく漬物を摂る意義

群馬県高崎市の高崎健康福祉大学で、沢庵漬けの発色や成分について研究を行っている松岡寛樹教授にインタビュー。現在の研究内容や漬物の可能性について聞いた。

(藤井大碁)

◇    ◇

 ――これまでの経歴を教えてください。
「高校生の頃に食品の安全性や添加物など、一般的にはあまり知られていない食の裏側を知りたいと興味をもったのがきっかけで、食品の研究を始めました。宇都宮大学及び大学院で前田安彦先生の研究室に6年間籍を置き、『大根の辛味成分とその分解物の抗菌性』を主なテーマとして博士号を取得しました。宇都宮大学の博士課程が東京農工大・茨城大の連合農学研究科という形をとっていたので、最終学歴は東京農工大になります。大学院卒業後、29歳の時に群馬女子短大(現・高崎健康福祉大学)に赴任し、沢庵漬けの研究を進めています」


――現在の研究について。
「約320人の学生に食品学の講義を行いながら、研究室では7~8人のチームで沢庵漬けの発色や機能性に関する研究を行っています。沢庵漬けは漬け込まれる過程で黄色に変色しますが、退色が進みやすいため、ウコンやクチナシを使用することで鮮やかな黄色に仕上げている漬物メーカーさんが多いと思います。この退色の原因を分析し、食品添加物を使用せずに鮮やかな黄色を保持できるようにすることが現在の研究のテーマです。以前は、白い沢庵漬けを作りたいというメーカーさんの要望もあり、その研究を行っていましたが、白さを保つためには徹底した温度管理をしなければならず、販売場所の状況などを考えると現実的に難しいということが分かりました。食品は鮮やかな色が好まれる傾向にあるので、現在は沢庵漬けの理想の色は黄色だと考えています」


――研究の成果と課題。
「毎年、研究室の学生と共に自分たちで200~300キロの大根を収獲し、実際に沢庵漬けを作り、栄養・機能性成分の変化を解析しています。大根は漬け込みにより、イソチオシアナートと呼ばれる辛味成分の化学構造が変化することで黄色くなります。我々はその黄色物質を明らかにし、蛍光灯などの照明の光を浴びることが原因で鮮やかな黄色が退色していくことを突き止めました。特定の光を遮断する沢庵漬け専用のパッケージの開発など、添加物を使用せずに鮮やかな黄色を保持する沢庵漬け製品の開発も可能ではないかと考えています。また、そういった製品づくりと共に進めていかなければならないのが、〝沢庵漬けが漬け込みの工程で自然に黄色くなる〟という事実の訴求です。一般消費者の方には知らない人も多く、この事実を認知してもらわなければ、無添加の黄色い沢庵漬けを製造してもそれほど効果的なPRにはならないと思います」


――現在の食志向。
「世界保健機構(WHO)の勧告もあり、塩分が健康に良くないという風潮がありますが、食生活が豊かになり、タンパク質の摂取量も十分な食事において、食塩と血圧の直接的な関連性が疑問視されてきています。同時に、極端に減塩を進めることで味がぼけ、食が細くなるという現象も起きています。塩分の代わりに脂質や糖質を摂取することで、満足度を補完するという傾向が出てきており、それを防ぐために現在〝だし〟に注目が集まっています。前田先生の功績により、漬物に関しては、だしと食塩のバランスをとって低塩化するということが高いレベルで行われており理想的な状態に近いのではないかと思います。昔のように汗をかかなくなっていますので、時代に合わせた低塩化は必要ですが、今は過剰なになってきていると思います。理想の塩度は季節や素材にもよりますが、沢庵漬けで2~3%、白菜漬けなどシンプルな味わいのものは1・5%~2%くらいではないかと考えています」


――沢庵漬けのトレンド。
「先程お話した食の嗜好はありますが、甘いモノに対する欲求は根強いため、沢庵漬けに関しても甘さが求められているのではないかと感じています。塩味を若干感じにくくし、旨みと甘みを調和させたものが人気を集めています」


――若い人たちに漬物を食べてもらうために。
「学生達は漬物の中でも桜漬や福神漬を好んで良く食べます。桜漬はお弁当に入っていることもあり、身近で色合いも鮮やかなこと、福神漬はカレーのパートナーとしてやはり身近なことがその理由だと思います。若年層に漬物を食べてもらうためには、さらに食べやすくする工夫も必要だと思います。例えば、漬物製品の漬け汁は、コンビニなどで購入しても食べ終わった後の処理に困ります。難しいことは承知していますが、これを解決するような商品が出てくれば面白いのではないでしょうか」


――漬物の健康性。
「沢庵漬けは漬け込みの工程でγ(ガンマ)‐アミノ酪酸(GABA)が増えることが明らかになってきました。漬け込みの工程で大根にストレスがかかり増加すると考えられます。GABAには精神安定やリラックス効果の他、血圧の上昇を抑制する効能が期待されています。まさに、大根から沢庵漬けに生まれ変わるときに起きる栄養・機能性成分の変化の研究をまとめた論文を今月海外の学術雑誌で発表できることになりました」


――今後について。
「〝漬物で野菜を摂る意義〟を真剣に考える時代になってきたのではないかと感じています。どうしても日本人は生野菜信仰が強い。生野菜ももちろん大切ですが、人間は他の動物と異なり、野菜を漬物など加工・調理された食品で摂っていくことが大変重要です。なぜなら生野菜は食べた感じはしますが、実際には十分な量が摂れていない、というケースが多いからです。生野菜の消費量は増えているものの食物繊維の摂取量は減っているというデータもあります。栄養を効率的に摂取するための手段として、漬物を食べる習慣が浸透していけば、漬物の需要回復にも繋がると思います」

 

《当HP限定資料ダウンロード》

沢庵漬けに関するより詳細な研究報告は以下のPDFファイルを御覧ください。

【松岡寛樹(まつおかひろき)】
1968年名古屋市生まれ、1992年宇都宮大学農学部農芸科学科卒、1997年東京農工大学大学院連合農学研究科修了取得学位:博士(農学)、1997年群馬女子短期大学生活学科食物栄養専攻専任講師、2010年より高崎健康福祉大学健康福祉学部健康栄養学科教授
【2017(平成29)年3月27日第4884号4面】
 
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