7月21日号 塩特集 インタビュー
株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏
“赤穂の塩づくり”来年400年
日本遺産の歴史的な価値発信
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および業務用塩関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩づくり”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。
日本遺産の歴史的な価値発信
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および業務用塩関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩づくり”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。
(藤井大碁)
◇ ◇
ー塩製品の動き。
「昨年は梅の凶作から始まり、その後も野菜が一年中高かったが、ようやく野菜の価格が落ち着き、6月頃から塩の動きが活発化している。梅は今年も不作になったものの、昨年に比べると状況は良く、梅干し用の塩の動きも悪くはなかった。6月は前年より好調だった」
ー特に売れている製品。
「塩飴や塩タブレットが熱中症対策アイテムとして良く売れている。6月から国が企業に職場で適切な熱中症対策を取ることを義務付けたことにより、企業からの受注が増えている」
ーその他に売れている商品。
「高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した『天海の平釜塩』が年々伸長している。国産、平釜でつくる製法、サラサラで使い勝手が良い、海水のみでつくる味わいの良さなどが支持されている要因として挙げられる。『天塩の天日にがり』などのにがり製品の動きも良い。にがりには現代人に不足しがちなマグネシウムが豊富に含まれている。その健康性や美容への効果がSNSで話題になり、若年層からシニア層まで幅広い層に購入していただいている。また米不足により、備蓄米や古米が流通する中、にがりを使うことでごはんがふっくら美味しく炊けるという認知が広がり、にがりの需要を押し上げている」
ー下半期の見通し。
「例年のように夏の猛暑が続けば、熱中症対策の塩の需要も含めて、塩製品は活発な動きが期待できるものと考えている。10月には2023年以来の値上げを予定しており、塩の価値をしっかりと訴求し、販売に結び付けていくことが必要とされる」
ー塩の価値。
「様々な食品が値上げされる一方で、年間400万トン以上の食品が国内で廃棄されている。塩は単なる調味料としてだけでなく、古くから食品の保存に欠かせない役割を担ってきた。現代においても、適切な塩の使い方を知ることは、家庭での食品ロス削減に直結する。天塩スタジオなどで様々なイベントを開催し、塩の機能性や価値を引き続き訴求していく」
ー塩業界の課題。
「塩製造施設は広大な土地と清浄な海水が必要であることから辺境の地にあることが多く、人手の確保が年々難しくなっている。現在、塩業界において外国人労働者の受け入れができるよう塩関連団体で連携して取り組んでいる。働き甲斐のある職場であることやSDGsの取組などを業界全体でPRすることにより、一人でも多くの人に塩業界で働きたいと思って頂けるよう取り組んでいくことが必要だ」
ー今年度より食用塩公正取引協議会の会長に就任した。
「消費者が安心して塩を選べるようにするための重要な目印である『塩公正マーク』の認知度上昇を目指し活動していく。会員企業は約130社あるので、会員が出展するイベントなどで塩公正マークのパンフレットなどを配布してもらうよう連携して取り組んでいきたい」
ー今後について。
「毎年60万人程の人口が減少し、2050年には人口が9000万人台になるという予想がある中で、塩だけでなく食品全体の需要は何もしなければ年々減少していく。長期的な見通しで対策を立てていかなければならない。まず大切なのは根底から塩の重要性を訴えていくことだ。熱中症対策が日常的になってきているが、食事の中でしっかりと塩分を適切にとることが重要であるということを改めて訴えていきたい。経済的であるし効率的な対策が立てられる。自分で料理を作ることにより、使用している塩分量も把握することができる」
ー最後に。
「来年2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。赤穂と東京で連携し、文化庁より日本遺産に認定されている“赤穂の塩づくり”の歴史的な価値を伝えていきたい」
ー塩製品の動き。
「昨年は梅の凶作から始まり、その後も野菜が一年中高かったが、ようやく野菜の価格が落ち着き、6月頃から塩の動きが活発化している。梅は今年も不作になったものの、昨年に比べると状況は良く、梅干し用の塩の動きも悪くはなかった。6月は前年より好調だった」
ー特に売れている製品。
「塩飴や塩タブレットが熱中症対策アイテムとして良く売れている。6月から国が企業に職場で適切な熱中症対策を取ることを義務付けたことにより、企業からの受注が増えている」
ーその他に売れている商品。
「高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した『天海の平釜塩』が年々伸長している。国産、平釜でつくる製法、サラサラで使い勝手が良い、海水のみでつくる味わいの良さなどが支持されている要因として挙げられる。『天塩の天日にがり』などのにがり製品の動きも良い。にがりには現代人に不足しがちなマグネシウムが豊富に含まれている。その健康性や美容への効果がSNSで話題になり、若年層からシニア層まで幅広い層に購入していただいている。また米不足により、備蓄米や古米が流通する中、にがりを使うことでごはんがふっくら美味しく炊けるという認知が広がり、にがりの需要を押し上げている」
ー下半期の見通し。
「例年のように夏の猛暑が続けば、熱中症対策の塩の需要も含めて、塩製品は活発な動きが期待できるものと考えている。10月には2023年以来の値上げを予定しており、塩の価値をしっかりと訴求し、販売に結び付けていくことが必要とされる」
ー塩の価値。
「様々な食品が値上げされる一方で、年間400万トン以上の食品が国内で廃棄されている。塩は単なる調味料としてだけでなく、古くから食品の保存に欠かせない役割を担ってきた。現代においても、適切な塩の使い方を知ることは、家庭での食品ロス削減に直結する。天塩スタジオなどで様々なイベントを開催し、塩の機能性や価値を引き続き訴求していく」
ー塩業界の課題。
「塩製造施設は広大な土地と清浄な海水が必要であることから辺境の地にあることが多く、人手の確保が年々難しくなっている。現在、塩業界において外国人労働者の受け入れができるよう塩関連団体で連携して取り組んでいる。働き甲斐のある職場であることやSDGsの取組などを業界全体でPRすることにより、一人でも多くの人に塩業界で働きたいと思って頂けるよう取り組んでいくことが必要だ」
ー今年度より食用塩公正取引協議会の会長に就任した。
「消費者が安心して塩を選べるようにするための重要な目印である『塩公正マーク』の認知度上昇を目指し活動していく。会員企業は約130社あるので、会員が出展するイベントなどで塩公正マークのパンフレットなどを配布してもらうよう連携して取り組んでいきたい」
ー今後について。
「毎年60万人程の人口が減少し、2050年には人口が9000万人台になるという予想がある中で、塩だけでなく食品全体の需要は何もしなければ年々減少していく。長期的な見通しで対策を立てていかなければならない。まず大切なのは根底から塩の重要性を訴えていくことだ。熱中症対策が日常的になってきているが、食事の中でしっかりと塩分を適切にとることが重要であるということを改めて訴えていきたい。経済的であるし効率的な対策が立てられる。自分で料理を作ることにより、使用している塩分量も把握することができる」
ー最後に。
「来年2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。赤穂と東京で連携し、文化庁より日本遺産に認定されている“赤穂の塩づくり”の歴史的な価値を伝えていきたい」
【2025(令和7)年7月21日第5202号10面】
天塩
日本食塩製造・日本精塩株式会社 代表取締役社長 福家顕一氏
事業再編でコスト圧縮
医療用など高純度塩に強み
日本食塩製造株式会社、日本精塩株式会社(ともに神奈川県川崎市)は、メキシコからの輸入天日塩を原料に、食品加工用、工業用、医療用など幅広いカテゴリーの塩製品を製造している。両社では、様々なコストが上昇する中、今年10月に事業再編を実施。日本精塩の事業を日本食塩製造に統合することで、生産性の向上につなげていく。両社の代表取締役社長を務める福家顕一氏は、関東エリアでの人材確保が難しくなる中、事業再編によりコストを圧縮し、人的資本への投資を強化していく方針を語った。(藤井大碁)
医療用など高純度塩に強み
日本食塩製造株式会社、日本精塩株式会社(ともに神奈川県川崎市)は、メキシコからの輸入天日塩を原料に、食品加工用、工業用、医療用など幅広いカテゴリーの塩製品を製造している。両社では、様々なコストが上昇する中、今年10月に事業再編を実施。日本精塩の事業を日本食塩製造に統合することで、生産性の向上につなげていく。両社の代表取締役社長を務める福家顕一氏は、関東エリアでの人材確保が難しくなる中、事業再編によりコストを圧縮し、人的資本への投資を強化していく方針を語った。(藤井大碁)
ー近年の業績。
「ここ数年、販売数量は8万トン前後で推移しており、数量に大きな変化はないが、値上げの影響もあり2022年度に約35億円だった売上は前期2024年度に約43億円まで伸長、過去最高売上を記録した。売上は順調に推移しているものの、様々なコスト上昇により利益面は圧迫されており、前期は増収減益となった」
ー特に好調なカテゴリー。
「医療用塩は底堅い需要があり、値上げ後も数量が減少していない。医療用塩の製造には、医薬品の製造管理および品質管理に関する基準であるGMPへの準拠が求められ手間はかかるが、一般的な用途の塩と比較して相対的に高価格帯であり、この分野の売上構成比が増加したことが収益向上に繋がっている」
ー貴社の強み。
「塩を溶かして精製することにより塩化ナトリウム99・99%の高純度な塩を製造できる点だ。原料である天日塩の特性で臭素などの不純物が少ないという特徴も持ち合わせており、透析用製剤向けをはじめ医療用塩市場では約5割のシェアを獲得している」
ー10月より事業再編を行う。
「現在は業務用塩・家庭用塩・医薬用塩を製造する『日本食塩製造』と洗浄塩などの特殊製法塩を製造する『日本精塩』との2社体制で事業を展開しているが、2025年10月に日本精塩の事業を日本食塩製造に継承し、製造機能を日本食塩製造に一本化する。2社体制ではバックオフィス機能もそれぞれに必要であり、非効率な部分が多く存在していた。今回の統合は、こうした無駄を無くし、生産性を向上させるための一手となる。日本精塩は日本食塩製造の持ち株会社としての位置づけとなり、社員は日本食塩製造に異動する予定だ」
ー近年、営業体制についても変革を進めてきた。
「2021年に販売会社である『ソルトワン・トレーディング』を設立。自社製品の他、他社で製造する原塩や粉砕塩の販売についても一元化することで営業効率を高めてきた。10月の事業再編により、日本精塩は持ち株会社、日本食塩製造は製造会社、ソルトワン・トレーディングは販売会社という明確な役割分担が確立される」
ー関東に工場を持つ強み。
「関東から地方への輸送の方が地方から地方への輸送よりも有利な場合がある。しかし、西日本で製造される製品との競合が激しく、関東以北で唯一の塩製造工場でありながら、その立地の優位性を十分に生かしきれていないのが現状だ。関東に工場を持つ強みを発揮できるよう将来に向け施策を練っていきたい」
ー環境対策にも積極的に取り組んでいる。
「製塩に使用する燃料は天然ガスに転換している。製造過程で排出される二酸化炭素を回収し、それを塩の精製助剤の原料として再利用する研究にも取り組んでいる。また、倉庫の建て替え時には太陽光パネルを設置するなど、できる限りの環境負荷低減策を実施している」
ー今後について。
「原材料費や物流コスト、そして人件費の高騰は、当社にとって大きな課題となっている。特に、関東エリアに工場があるため、人件費の上昇は日本のトップクラスであり、毎年ベアを実施しても人材確保は容易ではない。大手企業でも人手不足に苦しむ中、中小企業である当社が持続的に人材を確保し、育成していくためには、人的資本への投資は不可欠だ。事業再編によりコストを圧縮するとともに、医療用途など付加価値を付けた塩の製造設備への更新投資を継続し、何より人財の確保・育成に努めていく」
【2025(令和7)年7月21日第5202号10面】
日本食塩製造株式会社、日本精塩株式会社
伯方塩業株式会社 代表取締役社長 石丸一三氏
8月に約15%価格改定
業務用が成長の鍵に
業務用が成長の鍵に
伯方塩業株式会社(愛媛県松山市)の、石丸一三社長へインタビュー。同社の「伯方の塩」シリーズは主力の1㎏をはじめ、小容量の200gスタンドパックや今年リニューアルした「伯方の塩 焼塩250g」などが好調に推移している。8月より価格改定を実施、市販用希望小売価格は10~15%値上がりする。石丸社長は市販用の売上維持と、業務用提案強化が成長の鍵になると見通しを示す。
(大阪支社・小林悟空)
ー価格改定の背景は。
「製造にかかる光熱費や資材費、物流費とあらゆるコストが上昇していることに尽きる。昨年末には『伯方の塩』の原料となるメキシコ、オーストラリアの天日塩田塩の値上がりもあった。今後の設備投資や賃上げも考慮すれば価格改定による利益確保が必須と判断した」
ー価格改定の背景は。
「製造にかかる光熱費や資材費、物流費とあらゆるコストが上昇していることに尽きる。昨年末には『伯方の塩』の原料となるメキシコ、オーストラリアの天日塩田塩の値上がりもあった。今後の設備投資や賃上げも考慮すれば価格改定による利益確保が必須と判断した」
ー価格改定が続く。
「2019年、2023年に続き今回で三度目。当社の歴史でもこの頻度での改定は初めてのこと。これまでは『塩の価格はこれくらい』というイメージや他社動向などトータルで鑑みて価格設定をしてきた。しかし今回の価格改定は、我々が思う適正価格を目指し、直近二回よりも改定幅は大きく、チャレンジの一年となりそうだ」
ー影響の見通しは。
「コスト上昇はもはや共通認識であり、得意先企業には理解いただいている。問題はその先にいる消費者の皆様の受け止め方。一度に使う量で考えれば微々たる差のはずだが、売場では10円や100円の差が大きく見えるもの。その価格差に見合うだけの価値が『伯方の塩』にはあると感じてもらう努力が必要だ」
ー既に抜群の知名度を誇り、日経POSセレクション食塩部門でもトップだ。
「非常にありがたいこと。今回の価格改定をしても維持できるように取組を進める。具体的にはWebキャンペーンや、大三島工場でのリアルイベント開催のほか、コンセプトショップの拡大も計画している。昨年オープンした松山駅の1号店に続いて2店目、3店目の候補地が挙がっている」
ー今期(4月~)の業績。
「昨期は最需要期の一つである梅の時期に、過去最悪レベルの不作によって塩の出荷も大幅に減った。今期はそれよりは改善している。しかし、今後も漬物を家で漬ける習慣や調理の頻度は下がっていくこと、そして人口減少を考えれば、市販用の需要は維持が精一杯というのが正直なところ。成長を目指すには業務用筋や海外展開が鍵になる」
ー業務用について。
「当社売上は市販用が7割であり、業務用にはまだまだ伸びしろがある。飲食店向けにはポーションタイプの『味香塩』シリーズを提案しており、8月から『唐辛子塩』を投入する。食品工場向けの提案も強化している。味の違いを感じてもらうことに加えて“伯方の塩使用”がアピールポイントになるものと自負している。市販用でのブランド力向上策が業務用にも良い影響を与える。その逆も然り。両方の成長を目指したい」
「非常にありがたいこと。今回の価格改定をしても維持できるように取組を進める。具体的にはWebキャンペーンや、大三島工場でのリアルイベント開催のほか、コンセプトショップの拡大も計画している。昨年オープンした松山駅の1号店に続いて2店目、3店目の候補地が挙がっている」
ー今期(4月~)の業績。
「昨期は最需要期の一つである梅の時期に、過去最悪レベルの不作によって塩の出荷も大幅に減った。今期はそれよりは改善している。しかし、今後も漬物を家で漬ける習慣や調理の頻度は下がっていくこと、そして人口減少を考えれば、市販用の需要は維持が精一杯というのが正直なところ。成長を目指すには業務用筋や海外展開が鍵になる」
ー業務用について。
「当社売上は市販用が7割であり、業務用にはまだまだ伸びしろがある。飲食店向けにはポーションタイプの『味香塩』シリーズを提案しており、8月から『唐辛子塩』を投入する。食品工場向けの提案も強化している。味の違いを感じてもらうことに加えて“伯方の塩使用”がアピールポイントになるものと自負している。市販用でのブランド力向上策が業務用にも良い影響を与える。その逆も然り。両方の成長を目指したい」
【2025(令和7)年7月21日第5202号11面】
伯方塩業 HP
一般社団法人日本塩協会 代表理事副会長 西田直裕氏
“塩の重要性”改めて訴求
国産塩のブランド力高める
国産塩のブランド力高める
昨年4月、イオン交換膜製塩4社(日本海水、ダイヤソルト、ナイカイ塩業、鳴門塩業)により一般社団法人日本塩協会(野田毅代表理事会長)が設立された。同協会ではカーボンニュートラルへの対応や国産塩のPRといった活動テーマに沿って、活発な取組を行っている。昨秋には新たに協会ホームページを開設、会員4社が一丸となり、“塩の正しい知識の啓蒙”にも力を入れている。西田直裕代表理事副会長(日本海水代表取締役社長)に協会の役割や今後の方針、日本海水の事業展開などについてインタビューした。
(藤井大碁)
◇ ◇
ー日本塩協会の役割。
「日本塩協会の役割は、塩の正しい情報をお客様にお伝えすることによって、塩の重要性をご理解いただき、食品産業をはじめとするすべてのお客様に安定的に塩を供給すること、と考えている。現在は、有事の場合の対応や品質の更なる向上に向けた技術的事項などの検討に加え、カーボンニュートラルの達成に向けた情報交換など将来に向けた課題についても検討している」
ー具体的な取組。
「現在、企画委員会の下に『カーボンニュートラル分科会』と『国産塩分科会』を設置し、様々な取組を進めている。カーボンニュートラルについては、勉強会を開催し、業界全体のSDGsへ貢献することを目指し、各社がそれぞれの状況に応じた取り組みを進めている。また、不透明な時代に対応するため、BCP(事業継続計画)対策についても議論を重ねている。人手不足への対応として、外国人の採用などについても情報を共有している。今後も必要に応じて新たな分科会を設置していく方針だ」
ー昨秋、協会ホームページを開設した。
「塩について分かりやすくお伝えすることをテーマに制作した。ページ内ではカラフルなイラストを用いて塩の歴史や役割を紹介するなど様々なコンテンツを用意している。WEB絵本“塩のちから”を読んでいただくこともでき、子どもでも親しみやすい内容に仕上がっている」
ー塩の市場動向。
「塩の消費量は年間1%ずつ減少しており、この10年間で10%ほど低下した。少子高齢化や減塩の風潮などが主要な要因とされるが、異常気象による農水産物の不作不漁の影響も大きい。梅や野菜の不作、魚の不漁により塩の使用量が減少している。一方で、熱中症対策や陸上養殖への活用といった新たな塩の用途が出てきている。塩の使い方をうまく提案しながら需要を維持していく必要がある」
ー国産塩の特長と重要性。
「国産塩は、国内の原料(海水)を使用し国内で製造されている塩で、世界最高レベルの品質を誇る。海洋プラスチックなどの海水汚染が除去されており、極めて安全性が高い。また、国産塩を食べることは大きな枠組みの地産地消であり、輸送距離の短縮などSDGsへの貢献にもつながる。協会各社がそれぞれ地域で特徴のある塩づくりを行っており、地元の雇用を生み出している。さらに、国産塩の役割として重要なのが、有事の際の塩の供給だ。台湾有事などがもし起きれば、輸入塩が国内に入って来なくなる可能性がある。そうした場合に、国産塩がなければ、日本人の生活や生命に大きな影響を及ぼすことになる。そのようなことにならないよう、会員4社で連携し安定供給に努めていく」
ー今後に向けて。
「改めて塩が重要であるという訴求とともに、SDGsに沿った業界であるという認知を広げ、国産塩のブランド力を高めていきたい。他の塩団体とも連携し、イベント開催なども検討していく方針だ」
ー日本海水の取組。
「各工場でCO2排出量削減に向けた施策を推進している。2014年に赤穂工場の発電設備を石炭コークスからバイオマスに転換。その後、赤穂工場に第二設備、九州の苅田に第三設備を稼働し、再生可能エネルギーの供給に力を注いできた。今後は、2030年度までに讃岐工場の燃料転換、2035年度までに赤穂工場のガスタービン使用廃止を予定しており、これによりカーボンニュートラルが達成できる見通しとなっている」
ー塩以外の事業領域を拡大している。
「現在の弊社の事業内容は、塩、環境、電力、食品の4つで、売上に占める割合はほぼ同じとなっている。4つの事業の中で現在一番力を入れているのが環境事業だ。これから全世界で環境規制が厳しくなる中、国内外でビジネスチャンスが増えていくことが予想される。安全な飲料水の確保や土壌汚染に寄与するリード吸着剤の製造などの事業へ特に力を入れていく」
ー食品事業の見通し。
「国内では『まぜこみチュモッパ』などのふりかけ類が好調に推移しているが、ヨーロッパにおいても動物由来の素材を一切使用しない“アニマルフリー”のふりかけ製品が伸長している。将来的に世界が進む方向を先取りし、参入していけば色々なビジネスチャンスがあるものと考えている」
ー新たな塩事業。
「近年、陸上養殖や都市型水族館向けの人工海水の供給などを行う人工海水事業を展開するなど新しい塩の用途を開拓している。また塩造りの過程で生まれる水と苦汁を使用した海水ビール『910』を発売した。これからも塩の可能性を追求し、様々な事業にチャレンジしていきたい」
【2025(令和7)年7月21日第5202号12面】
(藤井大碁)
◇ ◇
ー日本塩協会の役割。
「日本塩協会の役割は、塩の正しい情報をお客様にお伝えすることによって、塩の重要性をご理解いただき、食品産業をはじめとするすべてのお客様に安定的に塩を供給すること、と考えている。現在は、有事の場合の対応や品質の更なる向上に向けた技術的事項などの検討に加え、カーボンニュートラルの達成に向けた情報交換など将来に向けた課題についても検討している」
ー具体的な取組。
「現在、企画委員会の下に『カーボンニュートラル分科会』と『国産塩分科会』を設置し、様々な取組を進めている。カーボンニュートラルについては、勉強会を開催し、業界全体のSDGsへ貢献することを目指し、各社がそれぞれの状況に応じた取り組みを進めている。また、不透明な時代に対応するため、BCP(事業継続計画)対策についても議論を重ねている。人手不足への対応として、外国人の採用などについても情報を共有している。今後も必要に応じて新たな分科会を設置していく方針だ」
ー昨秋、協会ホームページを開設した。
「塩について分かりやすくお伝えすることをテーマに制作した。ページ内ではカラフルなイラストを用いて塩の歴史や役割を紹介するなど様々なコンテンツを用意している。WEB絵本“塩のちから”を読んでいただくこともでき、子どもでも親しみやすい内容に仕上がっている」
ー塩の市場動向。
「塩の消費量は年間1%ずつ減少しており、この10年間で10%ほど低下した。少子高齢化や減塩の風潮などが主要な要因とされるが、異常気象による農水産物の不作不漁の影響も大きい。梅や野菜の不作、魚の不漁により塩の使用量が減少している。一方で、熱中症対策や陸上養殖への活用といった新たな塩の用途が出てきている。塩の使い方をうまく提案しながら需要を維持していく必要がある」
ー国産塩の特長と重要性。
「国産塩は、国内の原料(海水)を使用し国内で製造されている塩で、世界最高レベルの品質を誇る。海洋プラスチックなどの海水汚染が除去されており、極めて安全性が高い。また、国産塩を食べることは大きな枠組みの地産地消であり、輸送距離の短縮などSDGsへの貢献にもつながる。協会各社がそれぞれ地域で特徴のある塩づくりを行っており、地元の雇用を生み出している。さらに、国産塩の役割として重要なのが、有事の際の塩の供給だ。台湾有事などがもし起きれば、輸入塩が国内に入って来なくなる可能性がある。そうした場合に、国産塩がなければ、日本人の生活や生命に大きな影響を及ぼすことになる。そのようなことにならないよう、会員4社で連携し安定供給に努めていく」
ー今後に向けて。
「改めて塩が重要であるという訴求とともに、SDGsに沿った業界であるという認知を広げ、国産塩のブランド力を高めていきたい。他の塩団体とも連携し、イベント開催なども検討していく方針だ」
ー日本海水の取組。
「各工場でCO2排出量削減に向けた施策を推進している。2014年に赤穂工場の発電設備を石炭コークスからバイオマスに転換。その後、赤穂工場に第二設備、九州の苅田に第三設備を稼働し、再生可能エネルギーの供給に力を注いできた。今後は、2030年度までに讃岐工場の燃料転換、2035年度までに赤穂工場のガスタービン使用廃止を予定しており、これによりカーボンニュートラルが達成できる見通しとなっている」
ー塩以外の事業領域を拡大している。
「現在の弊社の事業内容は、塩、環境、電力、食品の4つで、売上に占める割合はほぼ同じとなっている。4つの事業の中で現在一番力を入れているのが環境事業だ。これから全世界で環境規制が厳しくなる中、国内外でビジネスチャンスが増えていくことが予想される。安全な飲料水の確保や土壌汚染に寄与するリード吸着剤の製造などの事業へ特に力を入れていく」
ー食品事業の見通し。
「国内では『まぜこみチュモッパ』などのふりかけ類が好調に推移しているが、ヨーロッパにおいても動物由来の素材を一切使用しない“アニマルフリー”のふりかけ製品が伸長している。将来的に世界が進む方向を先取りし、参入していけば色々なビジネスチャンスがあるものと考えている」
ー新たな塩事業。
「近年、陸上養殖や都市型水族館向けの人工海水の供給などを行う人工海水事業を展開するなど新しい塩の用途を開拓している。また塩造りの過程で生まれる水と苦汁を使用した海水ビール『910』を発売した。これからも塩の可能性を追求し、様々な事業にチャレンジしていきたい」
【2025(令和7)年7月21日第5202号12面】
日本塩協会
4月1日号 特殊製法塩協会会長インタビュー
日本特殊製法塩協会会長・株式会社青い海代表取締役社長 又吉元榮氏
製塩業を特定技能対象に
環境配慮とコスト削減両立
環境配慮とコスト削減両立
今年で設立10周年を迎える日本特殊製法塩協会の初代会長であり、昨年から2度目の会長に就任した又吉元榮氏(株式会社青い海社長)にインタビュー。特塩協は会員企業の要望をすくい上げ、実行に移していくため法人化を目指す。人手不足が深刻化する中、製塩業が特定技能労働対象職種に組み入れてもらうことを最優先課題として取り組む。青い海ではCO2排出量の少ない真空式蒸発缶の導入や、環境配慮包材の採用によって、コスト削減とブランド向上を両立させていく考えを語った。
‐特塩協の活動。
「設立当時、塩づくりに携わる中小事業者が集まる団体がなく、行政や社会へ塩に関する発信が不足していたため、天塩、伯方塩業、日本精塩、マルニと当社が発起人となり設立した。イベントに出展するなど消費者向けの活動を行ってきた。しかしその他の課題については、ようやく会員からすくい上げ整理できたところであり、これから解決に向けて活動を進めるフェーズに入っていく。より発信力を強めていくためにも、次の総会で法人登録について諮る計画だ」
‐業界が抱える課題は。
「塩の消費量減少とコスト上昇が同時に来ているため、物流の共同化は長年模索している。コスト削減に繋がり、輸送時の温暖化ガス削減にも繋がるので模索を続けている。また、喫緊の課題として取り組もうとしているのが人手不足の問題だ。郊外にある製塩工場には日本人が集まりづらく、外国人人材の活用が必要という意見を頂戴している。そこで製塩業が特定技能労働の対象職種となるよう行政へ要請していく。塩関連の他団体とも連携しながら、企業単位では解決できない課題に集中していきたい」
‐塩の消費減少について。
「人口減少や減塩ブーム、家庭内調理の減少といった大きな流れは今後も続く。当協会の会員は市販用の構成比が高く、厳しい状況であるのは間違いない。私としては減塩という言葉が独り歩きして、塩が悪者のように扱われている状況は変えなければならないと思っている。体格や運動量によって必要量が変わるのは当然なのに、塩の重要性が伝えられていない。熱中症患者が30年前に比べ5倍以上になっていることの意味を考えるべきだ。当社含め会員の多くが市販用を主力とし、消費者との距離は近く、塩のイメージ改善には主体的に取り組むべきだ」
‐青い海は昨年創業50周年を迎えた。
「1960年代、沖縄でも本土復帰と共に専売法が敷かれ昔ながらの塩田から塩を作る製造法は禁止されたのだが『青い海と自然塩を守る会』が沖縄の食文化とシママースを守るために発足したのが始まり。当社製品は高単価であるにも関わらずご愛顧いただき50年も続いたことは本当にありがたい。ただ近年は先述の通り出荷数量は漸減しており、回復は見込みづらい。より付加価値を高めた商品開発による単価向上や、コスト削減、そして持続可能な産業であるための環境配慮活動を推進していく方針だ」
‐新設備が稼働する。
「海水を煮詰める工程に使う真空式蒸発缶(立釜)を新設した。この4月から試運転を開始し、来年から切り替える。これまでの平釜ではLPガスとバイオディーゼルを使用してきたが、新設備ではバイオディーゼルは使用せず、LPガスの使用量も削減できるため、CO2排出量を最大30%削減できる」
‐商品開発について。
「昨年4月に、紙製スタンドパックを採用した『シママース300g』を発売した。沖縄の海の恩恵を受ける企業として、綺麗な海を守ることは使命であると同時に、我々のブランドを向上させていく上でも重要な問題だ」
(大阪支社・小林悟空)
「設立当時、塩づくりに携わる中小事業者が集まる団体がなく、行政や社会へ塩に関する発信が不足していたため、天塩、伯方塩業、日本精塩、マルニと当社が発起人となり設立した。イベントに出展するなど消費者向けの活動を行ってきた。しかしその他の課題については、ようやく会員からすくい上げ整理できたところであり、これから解決に向けて活動を進めるフェーズに入っていく。より発信力を強めていくためにも、次の総会で法人登録について諮る計画だ」
‐業界が抱える課題は。
「塩の消費量減少とコスト上昇が同時に来ているため、物流の共同化は長年模索している。コスト削減に繋がり、輸送時の温暖化ガス削減にも繋がるので模索を続けている。また、喫緊の課題として取り組もうとしているのが人手不足の問題だ。郊外にある製塩工場には日本人が集まりづらく、外国人人材の活用が必要という意見を頂戴している。そこで製塩業が特定技能労働の対象職種となるよう行政へ要請していく。塩関連の他団体とも連携しながら、企業単位では解決できない課題に集中していきたい」
‐塩の消費減少について。
「人口減少や減塩ブーム、家庭内調理の減少といった大きな流れは今後も続く。当協会の会員は市販用の構成比が高く、厳しい状況であるのは間違いない。私としては減塩という言葉が独り歩きして、塩が悪者のように扱われている状況は変えなければならないと思っている。体格や運動量によって必要量が変わるのは当然なのに、塩の重要性が伝えられていない。熱中症患者が30年前に比べ5倍以上になっていることの意味を考えるべきだ。当社含め会員の多くが市販用を主力とし、消費者との距離は近く、塩のイメージ改善には主体的に取り組むべきだ」
‐青い海は昨年創業50周年を迎えた。
「1960年代、沖縄でも本土復帰と共に専売法が敷かれ昔ながらの塩田から塩を作る製造法は禁止されたのだが『青い海と自然塩を守る会』が沖縄の食文化とシママースを守るために発足したのが始まり。当社製品は高単価であるにも関わらずご愛顧いただき50年も続いたことは本当にありがたい。ただ近年は先述の通り出荷数量は漸減しており、回復は見込みづらい。より付加価値を高めた商品開発による単価向上や、コスト削減、そして持続可能な産業であるための環境配慮活動を推進していく方針だ」
‐新設備が稼働する。
「海水を煮詰める工程に使う真空式蒸発缶(立釜)を新設した。この4月から試運転を開始し、来年から切り替える。これまでの平釜ではLPガスとバイオディーゼルを使用してきたが、新設備ではバイオディーゼルは使用せず、LPガスの使用量も削減できるため、CO2排出量を最大30%削減できる」
‐商品開発について。
「昨年4月に、紙製スタンドパックを採用した『シママース300g』を発売した。沖縄の海の恩恵を受ける企業として、綺麗な海を守ることは使命であると同時に、我々のブランドを向上させていく上でも重要な問題だ」
(大阪支社・小林悟空)
【2025(令和7)年4月1日第5191号8面】
日本特殊製法塩協会 https://www.tekien.net/
株式会社青い海 https://www.aoiumi.co.jp/
3月21日号 塩特集 インタビュー
株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木 恵氏
『身土不二』プロジェクト始動
「赤穂の塩づくり」400年に向けPR
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩づくり”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
‐この一年を振り返って。
「春先の梅の不作に始まり、その後も一年を通して白菜などの野菜が高騰したことにより塩にとっては厳しい一年になった。梅干しや野菜の漬物を家庭で漬け込む人が減り、塩の需要が減少した。猛暑が続いた夏場は塩飴などの製品が堅調に推移したものの、冬場はエリアによっては記録的な降雪となり、買い物頻度の減少により塩の動きが鈍っている。一方で、こうした厳しい環境下においても、伸び続けている製品もある。売れている製品がなぜ売れているかを分析することで今後の対策を立てていきたい」
‐売れている製品は。
「弊社では、高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した“天海の平釜塩”が8年前の発売以来、年々伸長している。国産、平釜でつくる製法、サラサラで使い勝手が良い、海水のみでつくる味わいの良さなどが支持されている要因として挙げられる。また、“天塩の天日にがり”などのにがり製品の動きも良い。にがりには現代人に不足がちなマグネシウムが豊富に含まれている。その健康性や美容への効果がSNSで話題になり、若年層からシニア層まで幅広い層に購入していただいている」
‐新たな取組。
「人口減少や少子高齢化などにより塩の消費量が減少していく中、“量から質への転換”に力を注いでいく。新たに取り組んでいるのが『身土不二(しんどふじ)』プロジェクト。身土不二とは、その土地の恵まれた自然を活かして暮らすという考え方で、その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康上も望ましいという思想に通ずる。この思想の下、日本各地の海水をとり、その海水のみを原料として使用した“ご当地ソルト”を製造し、各地域で付加価値を付けて販売してもらうことを目指している。海水は日本全国どこでも同じではなく、その土地ならではの特徴がある。塩の地域性をアピールすることで、付加価値を訴求していきたい」
‐塩の新たな楽しみ方を提案している。
「昨年12月に東京・泉岳寺の義士祭にアマシオキッチンカーで出店し、日本酒のおつまみとして天日塩を提案したところ好評だった。日本酒を飲みながら、ご当地ソルトの味の違いを感じてもらい、その土地の風景を想像してもらうという楽しみ方を提案していきたい」
‐今後の方針。
「2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。現在それに向けた準備も進めており、赤穂化成の天日塩製造施設『天のハウス』などのPRを行いながら、日本遺産に認定されている“赤穂の塩づくり”の歴史的な価値を伝えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
天塩
https://www.amashio.co.jp/
「赤穂の塩づくり」400年に向けPR
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、“赤穂の塩づくり”の啓蒙活動に力を入れていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向について聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
‐この一年を振り返って。
「春先の梅の不作に始まり、その後も一年を通して白菜などの野菜が高騰したことにより塩にとっては厳しい一年になった。梅干しや野菜の漬物を家庭で漬け込む人が減り、塩の需要が減少した。猛暑が続いた夏場は塩飴などの製品が堅調に推移したものの、冬場はエリアによっては記録的な降雪となり、買い物頻度の減少により塩の動きが鈍っている。一方で、こうした厳しい環境下においても、伸び続けている製品もある。売れている製品がなぜ売れているかを分析することで今後の対策を立てていきたい」
‐売れている製品は。
「弊社では、高知県室戸沖海洋深層水を平釜でじっくり時間をかけて結晶化した“天海の平釜塩”が8年前の発売以来、年々伸長している。国産、平釜でつくる製法、サラサラで使い勝手が良い、海水のみでつくる味わいの良さなどが支持されている要因として挙げられる。また、“天塩の天日にがり”などのにがり製品の動きも良い。にがりには現代人に不足がちなマグネシウムが豊富に含まれている。その健康性や美容への効果がSNSで話題になり、若年層からシニア層まで幅広い層に購入していただいている」
‐新たな取組。
「人口減少や少子高齢化などにより塩の消費量が減少していく中、“量から質への転換”に力を注いでいく。新たに取り組んでいるのが『身土不二(しんどふじ)』プロジェクト。身土不二とは、その土地の恵まれた自然を活かして暮らすという考え方で、その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康上も望ましいという思想に通ずる。この思想の下、日本各地の海水をとり、その海水のみを原料として使用した“ご当地ソルト”を製造し、各地域で付加価値を付けて販売してもらうことを目指している。海水は日本全国どこでも同じではなく、その土地ならではの特徴がある。塩の地域性をアピールすることで、付加価値を訴求していきたい」
‐塩の新たな楽しみ方を提案している。
「昨年12月に東京・泉岳寺の義士祭にアマシオキッチンカーで出店し、日本酒のおつまみとして天日塩を提案したところ好評だった。日本酒を飲みながら、ご当地ソルトの味の違いを感じてもらい、その土地の風景を想像してもらうという楽しみ方を提案していきたい」
‐今後の方針。
「2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えている。現在それに向けた準備も進めており、赤穂化成の天日塩製造施設『天のハウス』などのPRを行いながら、日本遺産に認定されている“赤穂の塩づくり”の歴史的な価値を伝えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
天塩
https://www.amashio.co.jp/
株式会社ソルト関西 代表取締役社長 山本博氏
塩の価値向上に取り組む 海外市場開拓への原動力に
株式会社ソルト関西(山本博社長、大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された塩の元売企業。山本社長は、全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長、そして塩の各団体が垣根を越えて業界を取り巻く共通課題へ取り組むべく結成された全国塩業懇話会初代会長の要職を務めている。山本社長は塩の消費量は減少していくことを見据えながらの企業経営の展望や懇話会で取り組む課題について語った。(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
ー塩の出荷動向は。
「塩業界は、構造的に出荷量の減少が続いている。食用は、日本の人口減少と、少子高齢化の伸長と共に、フードロス削減の動きなども加わり、慢性的な需要減にある。物価上昇により消費者の財布の紐が硬くなり、高単価の塩の買い控えの影響も顕在化している。どれも簡単に止めようのない問題であり、我々塩に携わる者は、減塩化の逆風も重なり、塩の消費量は漸減傾向が続くということは念頭に置いている」
ー貴社の対応は。
「塩以外の物、例えばグルソーや砂糖などの調味料や手袋等の生産資材関係といった幅広い商材をお客様目線で探し出し、売上の維持拡大を図っている。塩と一括して納入できればお客様にとっても管理負担が軽減できる。特に今年度はだし分野の伸長が顕著であるが、色々な事にチャレンジする事で、売上をますます伸ばしていきたい。今後も小売店から大規模工場まで食品事業者と幅広くお取引してきた強みを活かしていきたい。お客様の要望があれば、扱う品目は増やしていく予定だ」
ー懇話会の活動は。
「懇話会は日本塩工業会、塩元売協同組合、塩輸送協会、全国輸入塩協会、日本特殊製法塩協会5団体が連携した団体として、分野横断的に共通課題解決へ向け議論を重ねている。昨年末は国土交通省へ意見交換で訪問し、融雪用塩のスムーズな納入について議論した。道路管理者は融雪塩の在庫を持たずに緊急輸送に頼りがち。運送の2024年問題対応もあり、余裕を持った輸送が出来る様、管理現場等への働きかけを要望した。幸いにして概ね良い方向へ向かっているとの報告が上がってきている。また中期的課題として、カーボンニュートラル化を業界全体で見据えた諸施策を実施する上での調整役を担いたい」
ー塩の価値向上については。
「塩が必須栄養素であることは紛れもない事実である。『五味』のなかで塩味は塩以外に代替できない。このような事実は昨今の飽食の時代に忘れられがちである。我々は塩の正しい知識の普及と価値向上に引き続き取り組む。中でも日本の塩の品質の高さや安定供給の大切さを国民により認知していただく必要がある。このことが海外市場開拓への大きな原動力にもなると考える。日本の塩は世界トップレベルの品質だということを発信していけるような新しい試みも考えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
◇ ◇
ー塩の出荷動向は。
「塩業界は、構造的に出荷量の減少が続いている。食用は、日本の人口減少と、少子高齢化の伸長と共に、フードロス削減の動きなども加わり、慢性的な需要減にある。物価上昇により消費者の財布の紐が硬くなり、高単価の塩の買い控えの影響も顕在化している。どれも簡単に止めようのない問題であり、我々塩に携わる者は、減塩化の逆風も重なり、塩の消費量は漸減傾向が続くということは念頭に置いている」
ー貴社の対応は。
「塩以外の物、例えばグルソーや砂糖などの調味料や手袋等の生産資材関係といった幅広い商材をお客様目線で探し出し、売上の維持拡大を図っている。塩と一括して納入できればお客様にとっても管理負担が軽減できる。特に今年度はだし分野の伸長が顕著であるが、色々な事にチャレンジする事で、売上をますます伸ばしていきたい。今後も小売店から大規模工場まで食品事業者と幅広くお取引してきた強みを活かしていきたい。お客様の要望があれば、扱う品目は増やしていく予定だ」
ー懇話会の活動は。
「懇話会は日本塩工業会、塩元売協同組合、塩輸送協会、全国輸入塩協会、日本特殊製法塩協会5団体が連携した団体として、分野横断的に共通課題解決へ向け議論を重ねている。昨年末は国土交通省へ意見交換で訪問し、融雪用塩のスムーズな納入について議論した。道路管理者は融雪塩の在庫を持たずに緊急輸送に頼りがち。運送の2024年問題対応もあり、余裕を持った輸送が出来る様、管理現場等への働きかけを要望した。幸いにして概ね良い方向へ向かっているとの報告が上がってきている。また中期的課題として、カーボンニュートラル化を業界全体で見据えた諸施策を実施する上での調整役を担いたい」
ー塩の価値向上については。
「塩が必須栄養素であることは紛れもない事実である。『五味』のなかで塩味は塩以外に代替できない。このような事実は昨今の飽食の時代に忘れられがちである。我々は塩の正しい知識の普及と価値向上に引き続き取り組む。中でも日本の塩の品質の高さや安定供給の大切さを国民により認知していただく必要がある。このことが海外市場開拓への大きな原動力にもなると考える。日本の塩は世界トップレベルの品質だということを発信していけるような新しい試みも考えていきたい」
【2025(令和7)年3月21日第5190号7面】
ナイカイ塩業株式会社 代表取締役社長 野﨑泰彦氏
黒字確保もコスト増危惧 歴史・文化継承地域と共に
ナイカイ塩業株式会社(野﨑泰彦社長、岡山県倉敷市)は1829年創業、年間18万トンの生産能力を有する国内製塩大手企業である。野﨑社長は塩の需要減少とコスト増が同時進行する今、改めてライフラインである塩の徹底した安全安心と、安定供給の重要性を指摘する。設備投資や、企業価値向上に向けた取組の状況を聞いた。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー直近の業績は。
「2024年度(3月決算)は黒字着地を見込んでいる。22年度には燃料価格が高騰して数十年来で初の赤字に陥ったのだが、その後少なくとも2度の価格改定を実施し、全てのお客様にご理解いただけたおかげで赤字を脱出できた。しかし内容を見ると、売上金額は値上げにより増収だが、塩の出荷量は横ばい~微減。また燃料価格は落ち着いたものの以前に比べて高止まりしており、労務費や、2024年問題による物流費をはじめとした諸コストも大きく増加した。物価上昇が今後も続くのは確実であり、従業員の待遇改善や設備投資にも取り組まねばならないことを考慮し、今秋を目処に3度目の価格改定も視野に慎重に検討しているところだ」
ー設備投資に積極的だ。
「国内では人口減に伴う塩需要の減少と物価上昇が同時進行していく。その前提の中でどう売上や利益を確保していくか考えると、安全安心という価値の追求による差別化と、生産効率改善によるコスト圧縮を同時に達成しなければならない。そのためには投資が必要不可欠だ。製塩現場への設備投資はもちろんのこと、入出荷や事務方におけるDX化まで、他業種や海外企業も参考に取り組んでいる」
ー製塩現場への投資は。
「23年から今年年初にかけて、かん水(濃い塩水)を煮詰める加熱缶2基を更新した。来年以降に発電タービンの更新も行う。製塩設備には日々強大な負担がかかっていて、定期的なメンテナンスが欠かせない。それぞれ数億円の投資だが、ライフラインである塩の安全と、安定的な供給を守るには必要な投資だ。またかん水を作る工程には現在イオン交換膜を利用しているが、より効率の良い新手法の研究も進めている。産業として毎日稼働させるとなると劣化も起きるはずであり、テストプラントを作り数年単位での観察を行う計画である」
ーカーボンニュートラルへの取組について。
「かん水製造の新手法が上手くいけば使用電力を削減できる。煮詰め工程でも、電力会社などの技術を見学しさらなる効率化を図っていく。ただ、電力や燃料の使用をゼロにするのは不可能。別のアプローチとして炭酸ガスを利用する化成品の開発など、当社が昔から取り組んできた化成品事業は有効であり研究を強化していく」
ー地域貢献にも取り組む。
「当社は地域の皆様に受け入れられて事業を続けられている。共存共栄のためにも環境保護や地域貢献は責務として取り組んでいる。地元が活性化することは企業存続においても不可欠であり、また塩づくりの仕事や文化が地域の人々に知ってもらえれば、働く人の誇りにもなる。昨年は創業195年記念事業として当社本社地である倉敷市と玉野工場のある玉野市には各1000万円を子どもたちのために寄付した。野﨑家に伝わる古文書10万点の解読を続けていただいている岡山大学には1200万円を寄付した。国指定重要文化財である塩業歴史館(旧野﨑家住宅)の公開や能、落語の振興など、塩や地域の歴史と文化伝承にも力を注いでいる」
【ナイカイ塩業株式会社】
今年で創業196周年を迎える。グループ企業の日本家庭用塩株式会社は味の素グループの「瀬戸のほんじおⓇ」や「アジシオⓇ」の受託メーカーとしても著名だ。客観的裏付けのある安全安心な塩作りを続ける。 これまでに品質マネジメントシステムのISO9001、環境マネジメントシステムのISO14001、さらに2022年には食品安全マネジメントシステムのFSSC22000認証を取得している。医療用の製剤原料に使われる局方塩の製造をしていることも、高い技術力を証明している。
【2025(令和7)年3月21日第5190号8面】
ナイカイ塩業
https://www.naikai.co.jp/
ナイカイ塩業株式会社(野﨑泰彦社長、岡山県倉敷市)は1829年創業、年間18万トンの生産能力を有する国内製塩大手企業である。野﨑社長は塩の需要減少とコスト増が同時進行する今、改めてライフラインである塩の徹底した安全安心と、安定供給の重要性を指摘する。設備投資や、企業価値向上に向けた取組の状況を聞いた。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー直近の業績は。
「2024年度(3月決算)は黒字着地を見込んでいる。22年度には燃料価格が高騰して数十年来で初の赤字に陥ったのだが、その後少なくとも2度の価格改定を実施し、全てのお客様にご理解いただけたおかげで赤字を脱出できた。しかし内容を見ると、売上金額は値上げにより増収だが、塩の出荷量は横ばい~微減。また燃料価格は落ち着いたものの以前に比べて高止まりしており、労務費や、2024年問題による物流費をはじめとした諸コストも大きく増加した。物価上昇が今後も続くのは確実であり、従業員の待遇改善や設備投資にも取り組まねばならないことを考慮し、今秋を目処に3度目の価格改定も視野に慎重に検討しているところだ」
ー設備投資に積極的だ。
「国内では人口減に伴う塩需要の減少と物価上昇が同時進行していく。その前提の中でどう売上や利益を確保していくか考えると、安全安心という価値の追求による差別化と、生産効率改善によるコスト圧縮を同時に達成しなければならない。そのためには投資が必要不可欠だ。製塩現場への設備投資はもちろんのこと、入出荷や事務方におけるDX化まで、他業種や海外企業も参考に取り組んでいる」
ー製塩現場への投資は。
「23年から今年年初にかけて、かん水(濃い塩水)を煮詰める加熱缶2基を更新した。来年以降に発電タービンの更新も行う。製塩設備には日々強大な負担がかかっていて、定期的なメンテナンスが欠かせない。それぞれ数億円の投資だが、ライフラインである塩の安全と、安定的な供給を守るには必要な投資だ。またかん水を作る工程には現在イオン交換膜を利用しているが、より効率の良い新手法の研究も進めている。産業として毎日稼働させるとなると劣化も起きるはずであり、テストプラントを作り数年単位での観察を行う計画である」
ーカーボンニュートラルへの取組について。
「かん水製造の新手法が上手くいけば使用電力を削減できる。煮詰め工程でも、電力会社などの技術を見学しさらなる効率化を図っていく。ただ、電力や燃料の使用をゼロにするのは不可能。別のアプローチとして炭酸ガスを利用する化成品の開発など、当社が昔から取り組んできた化成品事業は有効であり研究を強化していく」
ー地域貢献にも取り組む。
「当社は地域の皆様に受け入れられて事業を続けられている。共存共栄のためにも環境保護や地域貢献は責務として取り組んでいる。地元が活性化することは企業存続においても不可欠であり、また塩づくりの仕事や文化が地域の人々に知ってもらえれば、働く人の誇りにもなる。昨年は創業195年記念事業として当社本社地である倉敷市と玉野工場のある玉野市には各1000万円を子どもたちのために寄付した。野﨑家に伝わる古文書10万点の解読を続けていただいている岡山大学には1200万円を寄付した。国指定重要文化財である塩業歴史館(旧野﨑家住宅)の公開や能、落語の振興など、塩や地域の歴史と文化伝承にも力を注いでいる」
【ナイカイ塩業株式会社】
今年で創業196周年を迎える。グループ企業の日本家庭用塩株式会社は味の素グループの「瀬戸のほんじおⓇ」や「アジシオⓇ」の受託メーカーとしても著名だ。客観的裏付けのある安全安心な塩作りを続ける。 これまでに品質マネジメントシステムのISO9001、環境マネジメントシステムのISO14001、さらに2022年には食品安全マネジメントシステムのFSSC22000認証を取得している。医療用の製剤原料に使われる局方塩の製造をしていることも、高い技術力を証明している。
【2025(令和7)年3月21日第5190号8面】
ナイカイ塩業
https://www.naikai.co.jp/
伯方塩業株式会社 代表取締役社長 石丸一三氏
今年中の価格改定検討 ブランド力でシェア拡大目指す
伯方塩業株式会社(愛媛県松山市)の、石丸一三社長へインタビュー。「伯方の塩」シリーズは日経POSで売上1、2位を独占する、名実ともに日本を代表する塩であるが、今期は昨年の梅の不作の影響で減収の見通し。原料塩の価格が上昇したことで、価格改定も検討している。石丸社長は企業ブランドのさらなる向上により、シェアの維持拡大を目指す考えを示した。(大阪支社・小林悟空)
ー今期の業績は。
「3月末が決算となるが、減収を見込んでいる。昨年は梅が不作だったのが一番の原因で、本来最需要期である5~6月の売上が2割減となったのが大きく響き、その後のリカバリーが追いつかなかった。ただ、日経POSの1位に『伯方の塩500g』、2位に1㎏がランクインした。順位の交代はあったが、5年連続で当社製品が1位であり、梅の凶作という状況下でも当社製品の人気は揺るがないという結果が出たのは良かった。また、業務筋、特に加工用が増加した。まだ売上の3割に留まっているが、提案次第で伸ばせるという手応えを感じている」
ー利益面は。
「物流費をはじめあらゆるコストが上昇していて利益を圧迫している。今年1月には、原料として使用しているメキシコ産天日塩の値上がりが、商社から言い渡された。機械化やDXによるコスト削減には取り組んでいるが、企業努力で吸収できる範囲を超えており、価格改定も今年中の実施が必要と考えている。しかし2023年7月に続き2度目の実施となれば消費者の手が伸びづらくなる懸念もある。人口が減少する日本で塩は消費量が上向くことはなく、シェアの取り合いをせざるを得ないのが現実であり、時期や改定幅は慎重に検討しなければならない」
ー昨年9月、松山駅にコンセプトショップを開店した。
「『ちょっとおもしろいかも、塩。』をキャッチコピーとした店で、塩の新たなおもしろさや魅力と出会えるひとときを提供することが狙い。秋口のオープンにも関わらず、それまで大三島工場限定だった『伯方の塩ソフト』が想定を上回るほどの売れ行きであり、今年初めて迎える夏の動きが楽しみ。第二の柱となるような商品も開発していく。この店舗の人気が高まれば、企業ブランド力の向上にも繋がる。市販品や業務用にも好影響があるはずだ」
ー企業ブランド力向上の取組について。
「たくさんある塩の中から、消費者の方に伯方の塩を選んでもらう、また飲食店や食品メーカーにとって伯方の塩を使うことが付加価値になると思ってもらうために重要なこと。Webキャンペーンや大三島工場での伯方の塩まつりなど、様々な角度で取り組んでいる。最近では大相撲や、製糖大手のDM三井製糖様とのコラボも実施した。塩は目立つ存在ではないので、意外性のあることにもチャレンジして注目をしてもらい、魅力に気づくきっかけを作っていかなければならない」
ー塩自体のイメージ改善も必要だ。
「昨今は減塩が無条件に良いことのように言われているが、スポーツや肉体労働をする人、炎天下での活動といった場合には塩分が不足することは珍しくない。一人ひとりそれぞれの『適塩』があるということは伝えていきたい」
ー最後に、会長を務める食用塩公正取引協議会は来期が役員改選年度。振り返りを。
「消費者への公正で正直な情報公開を目的とした協議会であり、加盟者(153社)にはその理念が浸透し不当な表示はほとんどなくなった。ところが非加盟企業の製品には誤解を招く表示が今なお残っているため、行政や販売店とも連携しながら改善に努めてきた。課題点は、公正マークの消費者認知度が低いこと。マークを付けていることが信頼性向上、売上向上に繋がっているとは言い難い状況であるので、会員にとってメリットある活動が必要だ」
ー今期の業績は。
「3月末が決算となるが、減収を見込んでいる。昨年は梅が不作だったのが一番の原因で、本来最需要期である5~6月の売上が2割減となったのが大きく響き、その後のリカバリーが追いつかなかった。ただ、日経POSの1位に『伯方の塩500g』、2位に1㎏がランクインした。順位の交代はあったが、5年連続で当社製品が1位であり、梅の凶作という状況下でも当社製品の人気は揺るがないという結果が出たのは良かった。また、業務筋、特に加工用が増加した。まだ売上の3割に留まっているが、提案次第で伸ばせるという手応えを感じている」
ー利益面は。
「物流費をはじめあらゆるコストが上昇していて利益を圧迫している。今年1月には、原料として使用しているメキシコ産天日塩の値上がりが、商社から言い渡された。機械化やDXによるコスト削減には取り組んでいるが、企業努力で吸収できる範囲を超えており、価格改定も今年中の実施が必要と考えている。しかし2023年7月に続き2度目の実施となれば消費者の手が伸びづらくなる懸念もある。人口が減少する日本で塩は消費量が上向くことはなく、シェアの取り合いをせざるを得ないのが現実であり、時期や改定幅は慎重に検討しなければならない」
ー昨年9月、松山駅にコンセプトショップを開店した。
「『ちょっとおもしろいかも、塩。』をキャッチコピーとした店で、塩の新たなおもしろさや魅力と出会えるひとときを提供することが狙い。秋口のオープンにも関わらず、それまで大三島工場限定だった『伯方の塩ソフト』が想定を上回るほどの売れ行きであり、今年初めて迎える夏の動きが楽しみ。第二の柱となるような商品も開発していく。この店舗の人気が高まれば、企業ブランド力の向上にも繋がる。市販品や業務用にも好影響があるはずだ」
ー企業ブランド力向上の取組について。
「たくさんある塩の中から、消費者の方に伯方の塩を選んでもらう、また飲食店や食品メーカーにとって伯方の塩を使うことが付加価値になると思ってもらうために重要なこと。Webキャンペーンや大三島工場での伯方の塩まつりなど、様々な角度で取り組んでいる。最近では大相撲や、製糖大手のDM三井製糖様とのコラボも実施した。塩は目立つ存在ではないので、意外性のあることにもチャレンジして注目をしてもらい、魅力に気づくきっかけを作っていかなければならない」
ー塩自体のイメージ改善も必要だ。
「昨今は減塩が無条件に良いことのように言われているが、スポーツや肉体労働をする人、炎天下での活動といった場合には塩分が不足することは珍しくない。一人ひとりそれぞれの『適塩』があるということは伝えていきたい」
ー最後に、会長を務める食用塩公正取引協議会は来期が役員改選年度。振り返りを。
「消費者への公正で正直な情報公開を目的とした協議会であり、加盟者(153社)にはその理念が浸透し不当な表示はほとんどなくなった。ところが非加盟企業の製品には誤解を招く表示が今なお残っているため、行政や販売店とも連携しながら改善に努めてきた。課題点は、公正マークの消費者認知度が低いこと。マークを付けていることが信頼性向上、売上向上に繋がっているとは言い難い状況であるので、会員にとってメリットある活動が必要だ」
【2025(令和7)年3月21日第5190号8面】
静岡塩業株式会社 代表取締役社長 水野直人氏
前期売上は過去最高 DXや物流改善で効率化
静岡塩業株式会社(静岡県静岡市)は鈴与グループの塩元売企業として、塩製品や食品加工用素材を幅広く取り扱う。近年は調味料や健康食品向けの原料供給が好調に推移し、前期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。水野直人社長は、人口減少や高齢化により、塩を取り巻く環境が厳しくなる中、DXなどにより効率化をさらに進め、塩でしっかりと利益がとれる仕組みづくりを行っていきたいと話した。
(藤井大碁)
―貴社の歴史。
「1947年に塩元売人の指定を受け創業した静岡食塩株式会社がベースとなっている。54年に静岡塩業株式会社に社名を変更。62年に塩元売の兼業禁止が解除されたことを機に、いち早く食品加工用素材の事業をスタートした。現在の取扱い品目は、塩製品が約700アイテム、食品加工用素材が約1300アイテムとなっている」
―現在の事業内容。
「塩卸売、食品加工素材卸売を中心に展開している。売上に占める割合は塩が3割、食品加工素材卸売が7割程。そのうち、業務用が98%、家庭用は2%となっており、圧倒的に業務用の割合が多い。当社の特徴として、塩の売上においては、遠洋カツオ漁向けの需要が大きなウエイトを占めている。カツオの鮮度を保つためのブライン凍結に塩が使用されている。焼津港は2024年に2位に転落したものの、それまで8年連続で日本一の水揚げ金額を誇った日本を代表する漁港。その関係から、塩の卸売り先は、遠洋カツオ漁向け以外にも、缶詰など水産製品向けが多い。また近年、伸長しているのが食品加工用素材。特に調味料や健康食品向けが好調だ」
―直近の業績。
「前期2024年3月期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。塩は値上げの影響で数量が減少したものの、単価が上がったため売上は上昇した。健康食品やペットフード向けの食品加工用素材が特に好調だった。だが今期はここまで厳しい状況が続いている。物価上昇による消費者の節約志向もあり、食品の購買点数が減っており、塩や食品加工用素材の引き合いも減少している。また、昨年は紅麹問題の影響もあり、健康食品向けの需要も伸び悩んだ」
―今後について。
「2021年から全社でDXを推進し、ペーパーレス化など様々な取組を通して業務プロセスの改善を進めている。また物流業務の改善にも着手している。物流費が上昇する中、配送ルートや配送頻度などを見直し効率化を図っている。人口減少や高齢化が進む中、塩を取り巻く環境は厳しいが、創業以来の事業である塩事業を切り離すことは考えられない。数量が減少する中で、いかに利益を確保していけるか。効率化をさらに進め、塩で利益がしっかりととれる仕組みづくりを行い、万全な塩の供給ができるよう努めていく」
【2025(令和7)年3月21日第5190号9面】
静岡塩業
https://www.shizuen.co.jp/
静岡塩業株式会社(静岡県静岡市)は鈴与グループの塩元売企業として、塩製品や食品加工用素材を幅広く取り扱う。近年は調味料や健康食品向けの原料供給が好調に推移し、前期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。水野直人社長は、人口減少や高齢化により、塩を取り巻く環境が厳しくなる中、DXなどにより効率化をさらに進め、塩でしっかりと利益がとれる仕組みづくりを行っていきたいと話した。
(藤井大碁)
―貴社の歴史。
「1947年に塩元売人の指定を受け創業した静岡食塩株式会社がベースとなっている。54年に静岡塩業株式会社に社名を変更。62年に塩元売の兼業禁止が解除されたことを機に、いち早く食品加工用素材の事業をスタートした。現在の取扱い品目は、塩製品が約700アイテム、食品加工用素材が約1300アイテムとなっている」
―現在の事業内容。
「塩卸売、食品加工素材卸売を中心に展開している。売上に占める割合は塩が3割、食品加工素材卸売が7割程。そのうち、業務用が98%、家庭用は2%となっており、圧倒的に業務用の割合が多い。当社の特徴として、塩の売上においては、遠洋カツオ漁向けの需要が大きなウエイトを占めている。カツオの鮮度を保つためのブライン凍結に塩が使用されている。焼津港は2024年に2位に転落したものの、それまで8年連続で日本一の水揚げ金額を誇った日本を代表する漁港。その関係から、塩の卸売り先は、遠洋カツオ漁向け以外にも、缶詰など水産製品向けが多い。また近年、伸長しているのが食品加工用素材。特に調味料や健康食品向けが好調だ」
―直近の業績。
「前期2024年3月期は売上、経常利益ともに過去最高を記録した。塩は値上げの影響で数量が減少したものの、単価が上がったため売上は上昇した。健康食品やペットフード向けの食品加工用素材が特に好調だった。だが今期はここまで厳しい状況が続いている。物価上昇による消費者の節約志向もあり、食品の購買点数が減っており、塩や食品加工用素材の引き合いも減少している。また、昨年は紅麹問題の影響もあり、健康食品向けの需要も伸び悩んだ」
―今後について。
「2021年から全社でDXを推進し、ペーパーレス化など様々な取組を通して業務プロセスの改善を進めている。また物流業務の改善にも着手している。物流費が上昇する中、配送ルートや配送頻度などを見直し効率化を図っている。人口減少や高齢化が進む中、塩を取り巻く環境は厳しいが、創業以来の事業である塩事業を切り離すことは考えられない。数量が減少する中で、いかに利益を確保していけるか。効率化をさらに進め、塩で利益がしっかりととれる仕組みづくりを行い、万全な塩の供給ができるよう努めていく」
【2025(令和7)年3月21日第5190号9面】
静岡塩業
https://www.shizuen.co.jp/































