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漬物・佃煮女子/漬物MEN 2017

2017年12月11日(第4915号)8面掲載 漬物WOMAN

株式会社三奥屋 常務取締役 近聡子氏

時代に合わせた販売戦略
女性のネットワークを構築
 
看板商品〝晩菊〟が全国に知られている株式会社三奥屋(近清剛社長、山形県東置賜郡高畠町)の近聡子常務取締役にインタビュー。平成27年7月に現在の役職に就き、財務、労務、商品企画開発、店舗運営など、経営に携わるようになった近常務にこれまでのことやこれからのことなどについて話を聞いた。
(千葉友寛)
 
―常務に就任して心境の変化は。
「かなりある。会社を経営するという部分で、大変な責任を感じるようになった。全てを考えた上で小さい歯車を上手く噛み合わせないと会社として機能しなくなる。社長と意見がぶつかる時もあるが、以前よりも社長が言っている意味が理解できるようになってきた。経営には相当の体力が必要だと感じていて、社長の体力には驚いている。また、会社を長く続けていくことは本当に大変で、弊社は古くて小さい会社だが、昔ながらの良さを守ってきた。それを継承しつつ、時代に合わせた販売戦略を打ち出していくことも必要。新しいものを作る時には感性が大事で、私も社長のような感性を持てるように努力している」

―御社のこだわりは。
「地元を中心に農家と契約栽培を行っていて、基本的には野菜を農家から直接いただく。加工については手作業の工程が多く、手間はかかるがその時の素材や気候などの変化に対応できるよう、職人が目で見て手で触って技術を活かして漬け込む。木樽で本漬を作る企業は減ってきていると思うが、素材を生かし手間暇をかけて発酵による自然の旨さや香り豊かな風味が特徴の漬物は優しい味で本当に美味しい。そういった漬物の伝統や良さを多くの人に伝えていきたいと考えている」
 
―漬物の需要の変化について。
「食が多様化し、お米よりも小麦粉を使用したメニューが増えている。ご飯が出てこないと漬物が出てくるシーンも減ってしまうのは当然のことだ。しかし、逆の視点で見れば和食の付加価値がより一層上がる。和食には漬物を必ず取り入れたいと思ってもらえることも重要だと考えている。様々な食のシーンに対応しながら、付加価値の追求と提案を行っていくことが三奥屋の課題だと思っている」
 
―11月に発足した漬物研究同志会の女子会メンバーに入った。
「先日は短い時間だったが、発足式に出席させていただいた。全国から漬物の有力企業の経営者が集う会で、宮尾茂雄先生にもご指導いただきながら勉強していきたい。買い物は主婦や女性がする機会が多いため、女子会においては女性目線での意見や情報交換を行って商品開発などに活かしていきたい。同志会の良いところは他地域の漬物の専門家のご意見を聞けること。地域によって気候や風土はもちろん、感性や感覚も異なるため、大変貴重なお話です。特に女性は見た目で価値観がすごく変化する。パッケージやポップを見ていて、ちょっとした変化にも気がつく。新しいものに興味が沸くので新商品には敏感に反応する。漬物にも女性の心をくすぐる部分が必要だと思う。これまで漬物業界における女性のネットワークはなかったので、新しいネットワークを上手く構築しながら女性ならではの感性や感覚を商品に組み込んでいきたいと思っている」
【2017(平成29)年12月11日第4915号8面】

2017年8月28日(第4903号)12面掲載 漬物WOMAN

堺共同漬物株式会社 営業部主任 柴田麻友子氏

知識は信用へ直結
仕入れのお役に立てるよう
 
出身は香川県。小学校から高校まではバスケットボールに明け暮れる日々だった。山の麓にある高校までは毎日自転車で坂道を駆け上がり、自分より背の高い相手に負けまいと必死で練習した。その甲斐あって、チームではレギュラーとして活躍。日々の努力を大切にする性格は、学生時代に培った。大学入学を機に大阪へ移り住むと、経営学部で4年間を過ごし就職した。「私が就職活動をしていたのは、ちょうど就職難と言われる時期でした。入社させていただいたのは本当にありがたいことだったので、お世話になっている恩返しをしたいと考えています」。入社から6年、営業部に所属するが、繁忙期には工場の応援や配達も行う。

同社の看板商品「泉州水なす漬」と出逢ったのは入社してからのことだ。「初めて食べた時、こんなに美味しい漬物があるのかと思いました。中でも本漬した水なすを使った〝みずなす茶漬〟はご飯にぴったりのイチオシ商品です」と今では自社商品を、自信を持って案内する。業務に携わる中で、漬物の奥深さや幅広さにも気がついた。豊かな漬物の世界を日々学ぶ延長で、今年(2017年)2月には漬物製造管理士技能評価試験3級を受験、見事合格した。「ベンダーの役割を果たす上で、知識は信用に直結します。全国各地の様々な漬物の種類や効能など、しっかりと勉強する良い機会になりました。テキストが分かりやすかったので、勉強も捗りました」と振り返る。テキストには初めて知る内容も多かったが、持ち前のひたむきさと努力でやり遂げた。身につけた知識や経験に加え、その真摯な姿勢が評価され、今年からは主任として業務にあたる。
 
仕事のやりがいは、自ら提案した商品が販売に繋がることだという。「実績が出来るのはもちろんですが、バイヤーさんのお役に立てたことが嬉しいです」と、相手の立場を慮るスタイルが結果に結びついている。真剣に取り組む中で見えてきたこともある。

「普段、漬物売場にあまり足を運ばない30~40代くらいの方々に対しても、惣菜売場など違った角度から提案すれば購入していただけるケースもありました。一口に〝漬物離れ〟と言っても、漬物の味が嫌いな訳では無いのだと思います。簡単なことではありませんが、健康と浅漬を上手く結び付けるなど漬物に目を向けてもらえるような提案が出来れば、今後需要拡大も実現出来るのではないかと考えています」。

豊かで奥深い漬物の世界を学ぶのには終わりが無い。勉強を続けながら、会社への恩返しになるようなヒット商品を提案することが今後の目標だ。(門馬悠介)
【2017(平成29)年8月28日第4903号12面】
 
堺共同漬物 http://www.mizunasu.co.jp/

2017年8月14日(第4901号)15面掲載 佃煮男子

株式会社平松食品 取締役商品企画本部長 平松大地氏

若い世代へアプローチ
今までにない佃煮開発で
 
入社3年目の28才。現在は商品開発を主に担当する。昨年開発した「甘露しょうが煮」は『よしもと47シュフラン』の金賞に選出され、佃煮としてだけではなく、スイーツとして食べられる汎用性の高さ、和紙を使用した高級感溢れるパッケージも高い評価を受けた。

「つくだ煮をジュレ状にした『テリヤキフィッシュジェリー』やオリーブオイルと合わせたつくだ煮など今までの概念とは異なる商品を入口として、最終的には伝統のつくだ煮も食べてもらえるよう若い世代にアプローチしていきたい」と抱負を語る。

蒲郡東高校ではセキヤ食品工業の関谷社長と同級生。当時面識はなかったものの、同じ年として現在は大きな刺激を受けている。進学した東海大学海洋学部では、水産物関係の他、HACCPなど食品衛生に関しても学んだ。卒論のタイトルは『食品加工残渣の有効利用に関する研究』。水産物製造過程で発生する加工残渣を再利用する研究を行った。

大学卒業後は岩田食品㈱に3年間勤務。商品開発に携わり、その圧倒的な技術力と開発スピードを目のあたりにした。「原価計算から始まり、現場でどのように展開していくか、本当に貴重な勉強をさせて頂き感謝しています」。自分で良いと思っていても万人受けするとは限らないこと、とりわけ会社にとって商品開発がいかに重要か身をもって学んだ。

平松食品では、今年(2017年)3月に食品安全の国際規格『FSSC22000』を取得。そのチームリーダーとしてプロジェクトを推進した。「ハードウエアの具体的な対応が要求されていて、外部環境整備、アクセス管理など新しい視点からの管理も必要になりました。大変な部分でしたが、社員に取組む理由を説明し、自主的に動いてもらうことで何とか取得することができました」。

現在も毎月開催される5S委員会では、部署間の衛生レベル管理、問題点の情報共有などを実施。FSSC22000で学んだことを活かし、会社全体の衛生レベルを常に高めている。

担当するもう一つの大きなプロジェクトが、直営店「美食倶楽部」の売上を伸ばし、三河つくだ煮の魅力をより多くの方に知ってもらうこと。 ネット戦略の強化やBtoBの販路開拓など、様々な仕掛けを駆使し目標達成に向け取組んでいる。「自社製品がテレビで紹介される機会が増えており、その放送を見て買いに来てくれたお客様にリピーターになってもらうことが最初の目標」と話す。

父である賢介社長のことを尊敬している。「アイデアや行動力、そしてリスクを恐れずやり抜く勇気はすごいと思います。下請けから始まり、自社ブランドを磨くことで会社をここまで大きくしてこられたのは社長のおかげです」。

家業に入る前、一カ月間ヨーロッパを旅した。各地の食文化に触れ、食の多様性を知った。「素材や味付けなど本当に様々で面白いと感じました。その国で食べてもらうためには現地の食文化に合わせたつくだ煮をつくることが必要だと考えています」。〝世界の食卓につくだ煮を〟、同社が掲げるスローガンを受け継ぎ、海外へも目を向けている。

今年から豊橋佃志会に入会した。「佃志会は皆さんフレンドリーで家族的な温かさがあります。まだまだ自分自身の力不足を感じているので、色々と努力しながら勉強していきたい」。地域での取組みを通して成長し、三河つくだ煮の魅力を発信していく。
(藤井大碁)
 
【2017(平成29)年8月14日第4901号15面】
 

2017年7月3日(第4897号)3面・12面掲載 漬物WOMAN

東海漬物株式会社 品質保証室・主任 西尾 翔子氏

2017(平成29)年2月に実施された全日本漬物協同組合連合会(野﨑伸一会長)の第4回漬物製造管理士・技能評価試験において、第3回試験で1級最高得点合格を果たした同社所沢工場工場長の武中晋也氏に続く2年連続の1級トップ合格となった東海漬物株式会社品質保証室主任の西尾翔子氏にインタビュー。同社の漬物製造管理士は98名で、全国でも断トツ1位の人数となっている。試験に積極的に取組み、安全安心への意識も高い同社の中でも非凡な才能を見せる西尾氏に試験を通じて学んだことやこれから生かしていきたいこと、仕事に対するこだわりなどについて話を聞いた。
(千葉友寛)

◇ ◇
 
-学歴と職歴は。
「大阪府立大学農学部大学院卒で、入社9年目です。農学部では遺伝子の勉強をしていました。小さい頃から『遺伝子』という言葉がかっこ良くて憧れていました。『遺伝子』について勉強している内に、小さな細胞の力で大きな働きができることが分かり、その可能性の大きさに面白みを感じていました。発酵にも興味があり、微生物の働きで美味しいものを作ったりできることが楽しく、微生物や発酵に関係する仕事がしたい、と思って入社しました。入社後の7年間は研究所の要素技術開発グループに所属し、昨年9月から品質保証室の配属になりました」
 
-仕事の内容は。
「工場を巡回し、安心安全な商品が作られているか、正しく表示されているのかということを確認して問題があれば対策を考えます。品質保証室は消費者に近い存在と言いますか、最前線で安全安心を守る部署だと認識しています。もちろん、美味しさや栄養は重要ですが、メーカーとしてはそれ以前に安全安心を守ることが必要です。品質保証室は安全安心のシンボルで、品質保証室の担当者が工場に行くと緊張感が漂うこともあるのですが、私がそのような存在になるまでにはもう少し時間がかかりそうです」
 
-漬物製造管理士について。
「トップ合格というのはおまけだと思いますが、試験にチャレンジして良かったことは資格を取るということではなく、試験勉強を通じて漬物について幅広い視点から学べたことです。私は工場で働いた経験がなく、作業場の注意点などについては分からないことが多かったのですが、そういったことも知ることができました。また、漬物の歴史も知らないことが多かったので、漬物のことを語れるようになったことは良かったです。日々の業務に追われて改めて勉強の時間を取るのは大変なことですが、漬物メーカーにおいては必要な内容で、漬物のことを学ぶきっかけとしてはこれ以上にない制度だと思います。技術部門の方はもちろんですが、営業や総務の方も勉強をすると世界観が広がるので是非、チャレンジしていただきたいと思います」
 
-漬物の需要拡大のために必要なことは。
「若い人が漬物を食べる習慣がないことは大きな問題です。年を取ったら漬物を食べるようになるということではなく、若い時に食べていなければ年を取っても食べることにはならないと思います。若い世代に漬物を食べていただくようにすることが大きな課題だと思います。日本は経済成長とともに食が豊かになり、選択肢も増えました。そのような中で漬物を食べる魅力や理由が薄れていったのだと思います。漬物は若い世代にPRするという意味で対応が遅く、魅力を伝えきれていない状況です。しかし、飽食の時代だからこそカロリーゼロであっさりと食べられる漬物にもチャンスがあると思います。高塩のイメージを払しょくし、減塩されてきていることをしっかり伝えていくことが重要です。漬物業界の課題は食育とPRだと思います」
【2017(平成29年)7月3日・第4897号3面掲載】
 
東海漬物のHPはこちら→http://www.kyuchan.co.jp/
 
 

株式会社やまへい 総務課 上原 麗華氏

 
〝野沢菜〟で故郷に恩返し
ISOの社内監査員に
 
長野県佐久市生まれ、東京生活に憧れ高校卒業後に上京。美容師の資格を取得し8年間、渋谷や六本木の店で腕を振るった。「何もなく退屈だと思って故郷を飛び出したが、東京に住んで初めて長野の魅力が分かった」。豊かな自然、美味しい食べ物、ずっと何もないと思っていた故郷には東京にない宝物が溢れていた。満員電車や街の人混みに嫌気がさし帰郷を決めた。

「地元で働くにあたって、せっかくなので地元の特産品に携わりたいと思った」。就職先を探していた時に、偶然立ち寄った『お食事処やまへい』の前菜として出てきた野沢菜漬の味わいに感動。その味わいを多くの人に知ってもらいたいと思い、すぐに就職を決めた。「祖母が漬けてくれた野沢菜漬の味に似ていた。東京生活で疲れた時、いつも求めていた優しい味わいだった」。
 
2016年3月に入社。現在は商品の受注業務を担当する傍ら、ISO22000の社内監査員の一人として重要な役割を担う。HACCP義務化に向けた取組みとして、株式会社やまへいでは2017(平成29)年夏ISO22000認証取得を予定。専門家を招いて行った2カ月に及ぶ監査員養成研修を、先日無事修了した。

「専門用語が多く難しかったが、普段携わらない製造分野について学べたことは非常にためになった。製造工程のこんなに細かいところまで記録する必要があることには驚いた」。今後はISOの規格に沿って、社内での運用がなされているかを審査する。
自社製品のイチオシは野沢菜漬以外では「生ふりかけ」シリーズ。〝野沢菜”と〝ハリハリ大根〟が特に好みだ。味わいも去ることながら手軽にお弁当やおにぎりに使用でき野菜不足が補える点も気に入っている。

東京で暮らしていた時も冷蔵庫でぬか漬けを漬ける程の漬物好きだが、同世代の漬物離れには強い危機感を抱いている。「美容効果も期待できるので、若い人たちにももっと漬物を食べてほしい。野沢菜本漬けには乳酸菌が含まれているので、少しずつ毎日とることで腸内環境が改善されお肌にも良い」。友人に会うたび、漬物の魅力についてこう力説する。

好きな言葉は『因果応報』。「人にしたことはやがて自分に返ってくる。できるだけ他人に優しく接することを心掛けているので、いつも人から優しくしてもらえる」と微笑む。

今後の目標は、専門的な知識を高めて会社の品質管理に貢献すること。「HACCPの勉強をしていくうちに、食の安全に興味を持った。もっとたくさん勉強して、大好きな野沢菜漬の品質を高めていきたい」。特産品の野沢菜を通して、故郷・長野へ恩返しする時がやってきた。(藤井大碁)
【2017(平成29)年7月3日・第4897号12面掲載】
 
株式会社やまへいのHPはこちら→http://www.yamahei.com/

2017年6月26日(第4896号)10面掲載 漬物WOMAN

株式会社吉岡屋 代表取締役社長 吉川 絵美子氏

築地の老舗背負う決意
伝統と革新で価値伝える
二年前、父で前社長の隆治郎氏が亡くなったのを機に社長に就任した。昭和4年創業、伝統の〝亀甲奈良漬〟で知られる老舗の看板を背負っている。

大学卒業後、銀行に就職。結婚して長女を出産後は、母校でもある日本女子大に勤務。結婚や出産を機に仕事を辞めた女性たちの社会復帰を支援するプロジェクトを主導した。今から十年前の当時は、現在のように女性の社会復帰に企業の理解がなく、再就職は容易ではなかった。新卒採用のジョブフェアを廻り、企業の採用担当者に女性の再就職枠を設けてもらえないか掛け合ったりもした。
このプロジェクトはメディアからも注目を集め、NHKや全国紙のインタビューを受けるなど、女性が活躍するための社会の枠組みをつくる先進的な取組みとして報道された。
 
その後、他の大学に転職。新卒採用支援の職務に就いたが、前社長の病気が発覚。亡くなる一カ月前に社長を継ぐことが決まった。仕事を急に辞めることは出来ず、社長業を兼務する生活が一年半に亘り続いた。

当初予定されていた築地の豊洲移転を11月に控え、7月末に大学を退社し社長業に専念。だが、その一カ月後に移転が延期となった。「会社の体制を整えるという意味で移転延期は有難たかった」と振り返る。
 
「ようやく会社全体を把握することができ、自社の長所や短所が分かってきた」。最近は新たな取組みにも積極的だ。地域食ブランド「本場の本物」コーナーを店内に設置、日本茶専門店のイベントで季節に合わせた漬物をお茶請けとして提供するなど漬物の新しい可能性を探っている。

奈良漬の味にもこだわりがある。浅漬けタイプのライトな奈良漬が増える中、「伝統的な奈良漬の味わいを残していきたい」と酒粕にしっかりと漬け込んだ色が濃く酒の香りも強い昔ながらの奈良漬づくりを続ける。
 
一方、伝統にとらわれない柔軟性も必要だと考えている。「鰻屋さんも板前さんの世代交代と共に奈良漬から浅漬けやぬか漬けに切り替えるところが出始めている。鰻に添える以外に、何かアレンジして使ってもらえるようなレシピを考案してニーズを掘りおこしていきたい」と話す。店頭でもより購入しやすい真空パック入りの奈良漬の販売をスタートした。試食も積極的に行うことで、若者や外国人観光客からの人気も上がっている。
 
豊洲への移転問題が世間を騒がせているが、築地には特別な思いがある。「築地のおかげでここまで育ててもらったという恩義がある。築地の名物女将的な存在だった祖母からも築地についてたくさんの良い話を聞き、商売の楽しさを学んだ」。同社は築地場内と場外に店舗を構えており、仮に市場が豊洲に移転しても場外の店は築地に残る。「この先も築地と共に愛される吉岡屋でいられるよう努力していきたい」。そう語る眼差しには強い決意が表れている。(藤井大碁)
【2017(平成29)年6月26日第4896号10面掲載】
 
吉岡屋 公式HPはこちら→http://yoshiokaya.net/

2017年3月27日(第4884号)6面掲載 漬物WOMAN

有限会社遠坂商店 女性社員一同

離職率ゼロの職場づくり
女性も働きやすく工夫

有限会社遠坂商店(遠坂美千代社長、群馬県太田市)は、胡瓜・大根・茗荷・ナスなど国産塩蔵原料を幅広く取り扱う有力原料メーカーとして知られる。

遠坂社長、古屋光彦常務、遠坂翼部長を中心に全社員が力を合わせ、クライアントのニーズに合わせた高質原料を日々供給している。

同社では、社員14名のうち半数の7名が女性。2年半前に遠坂社長が就任して以来、女性社員を含め社員が誰一人として辞めていない〝離職率ゼロ”の職場だ。それを支えているのが遠坂社長が取り組む〝女性も働きやすい職場づくり〟。

子育て中の母親でも安心して働けるよう基本の就業時間は8時半~16時半に設定、子供の送迎や買物がしやすいようにした。また、その日の都合により就業時間をずらすことや子供の急病による休みも認め、フレキシブルな働き方ができるようにした。

「皆さん主婦なので、都合に合わせて働けるように工夫しています」と遠坂社長。女性社員からは「子育てしながらでも安心して働ける貴重な職場」という声が返ってくる。

働きやすい職場づくりは社員だけでなく会社にとってもプラスに働いている。「人手不足の中、せっかく仕事を覚えてもらっても社員が辞めてしまえば、またゼロからのスタート。一人一人の社員に長く働いてもらうことは会社にとって一番のメリット」(遠坂社長)。実際、2年半前に入社した社員は野菜加工の未経験者だったものの経験を積むことで原料野菜の選別やカットの作業効率が各段に上がっている。「なるべく早く綺麗に仕上げることを目標にしている」と上達するための熱意を全社員がもっている。

やりがいについては、「全てカットした後の達成感」や「最終的に漬物になって食べてもらえることが喜び」などそれぞれだ。全社員が和気あいあい伸び伸びと働く職場環境が、結果的に原料供給の対応力の高さにつながっている。同社の勤務形態は、人手不足が深刻化する中、一つの成功事例として参考になりそうだ。(藤井大碁)
【2017(平成29)年3月27日第4884号6面掲載】
 

2017年3月20日(第4883号)5面掲載 漬物WOMAN

三井食品工業株式会社 品質管理開発部商品開発課 長井 早織氏

職業病で買物が長引く
漬物を進化させて常備菜に
平成25年4月入社で一児の母として仕事と家事を両立させている三井食品工業株式会社の品質管理開発部商品開発課の長井早織氏にインタビュー。岐阜大学大学院で微生物学を学び、菌のスペシャリストとして期待される29歳の長井氏。商品開発につなげるため、スーパーに行くと漬物売場はもちろん、野菜売場、総菜売場、菓子売場にも足を運ぶため、買物が長引いてしまうという職業病に頭を悩ませながら、アンテナを高く張っている。初挑戦の漬物製造管理士技能評価試験で2級に合格し、漬物の未来像を思い描く漬物ウーマンに話を聞いた。(千葉友寛)
 
◇ ◇
――微生物の勉強をしていたそうですね。
「岐阜大学の学部は応用生物科学部で、大学院では応用生物科学研究科で主に食、健康、環境に関する分野を勉強しました。その中でも研究していたのはビフィズス菌の遺伝子組み換えで、機能などを解明することが目的でした。微生物を勉強しようと思ったきっかけはもともと生物学が好きで、食にも関心があったからです。就職するにあたっては食に関わる仕事がしたいという気持ちがありましたし、今の仕事でも発酵した商品を作る時にどうやって制菌するかなど、学んだことを活かしています」
 
――商品開発で大切にしていることは。
「漬物の枠だけに捉われず、色々なカテゴリーの商品やトレンド、味、パッケージの形態や色使いなどを参考にしています。職業病なのですが、スーパーに買い物に行くと漬物売場は当然なのですが、野菜売場、総菜売場、菓子売場にも自然と足が行ってしまいます。惣菜では野菜を使用した商品も多く、そういった商品を見本に野菜をメーンにした商品が作れないかなとイメージしています。菓子売場で参考にしているのはデザインです。若い人が目を向けるような文字やイラスト、色使いは漬物には中々ないものなので刺激になります。どうしてもスーパーの滞在時間が長くなってしまうので、2歳の娘が一緒の時だと途中で飽きてしまって機嫌を取るのが大変です」
 
――初挑戦の漬物製造管理士技能評価試験で2級に合格されましたが、勉強して良かった点は。
「技術の向上や基礎知識の再確認につながったと思います。また、漬物の歴史については普段の業務にあまり関係ないもので、知らなかったことを学べたことは良かったです。また、昨年の4月から主に小学生を対象とした工場見学の一部を担当していますが、前日にテキストで復習してその内容を子供たちに説明しています。漬物離れという言葉が聞かれるようになりましたが、食べないのではなく、食べる機会がない、というのが正しいと思います。漬物を食べたことがないという子供もいるのですが、食べると美味しいと言ってくれます。小さい頃から漬物に馴染めるような機会を提供していくことが重要で、当社ではぬか床作り教室と酒粕漬作り教室の開催をはじめました。今後も親子で一緒に漬物に親しめる環境を作っていきたいと思います」
 
――漬物の魅力は。
「当社のキャッチフレーズでもあるのですが、漬物は野菜を美味しく食べられる手段の一つです。生で多くの量を食べるのは大変ですが、漬けることによって水分が抜けて野菜の旨味や成分が凝縮されます。塩漬の段階では有用な微生物である乳酸菌が増えて発酵します。発酵によって生み出された旨味、風味、成分は生にはない優位点です。漬けるという技術を漬物以外の他の食品に活用すれば賞味期限を延ばすなど新しい可能性も出てくると思います。各家庭の冷蔵庫には常備菜がありますが、漬物が進化して新たな常備菜のような存在になれば需要は増えていくと思います。そういった商品を開発するのが今後の目標です」
【2017(平成29)年3月20日第4883号5面掲載】
 
三井食品工業 公式HPはこちら→https://www.mitsuishokuhin.co.jp/

2017年3月6日(第4881号)12面掲載 漬物WOMAN

株式会社不動農園 商品企画担当 古野 惠氏

梅干は縁結びのアイテム
レシピ提案で裾野を拡大

株式会社不動農園(不動正巳社長、和歌山県田辺市)は、『栽培から加工まで』をキャッチフレーズに着々と業容を拡大。紀州上芳養〝不動の梅〟として一般流通はもとより通販、進物品に強い販売実績を持つ。同社が創立した昭和58年に生まれ、梅とともに育ったのが商品企画担当の古野(旧姓=不動)惠さんだ。同社営業部の古野晃氏と運命の赤い糸ならぬ「赤い梅」で結ばれたエピソードや主婦の目線で提案する梅を使ったレシピなど、梅に関する話を聞いた。(千葉友寛)
 
◇ ◇
――子供の時の梅の印象は。
「小さい時は梅干をあまり食べていませんでしたね。身近すぎると言いますか、いつもある存在なので関心を持つことはなかったです。記憶として残っているのは母の体から梅の香りがしたことです」
 
――印象が変わったのはいつ頃からですか。
「学校を卒業して一人暮らしをするようになってからです。白いご飯を食べる時に自然と食べるようになりました。また、自社で作った梅干を友達やお世話になった方に差し上げると大変喜ばれました。梅に対する価値観が変わったと言いますか、梅ってすごいんだな、と思いました」
 
――梅が縁でご結婚されたそうですね。
「夫は1歳年下で、中学2年生の時に引っ越してきました。私は中学3年生で1年間は同じ学校に通っていたのですが、お互いを認識することはありませんでした。夫の自宅では梅干が食卓に並び、好んで食べていたそうですが、知り合うことはありませんでした。地元の信用金庫に就職した夫は仕事の関係で当社を訪問するようになり、私も話をするようになりました。ある時、当社の梅干を食べると驚いた表情を浮かべたんです。夫の母の好みだったのだと思いますが、夫がずっと食べていたのは当社の梅干でした。そういったことがきっかけとなってお付き合いをするようになり、信用金庫を退職して当社で働いてくれています。今は展示会も担当していて、食料新聞さんの2月27日号の5面に掲載されているのが夫です」
 
――ウエディング商品の動きはいかがですか。
「自分たちの結婚式でも用意したのですが、引き出物や出席者へのプチギフトとして提案させていただいています。すごく好評で、注文は少しずつですが増えています。梅の産地である和歌山という色は強くなってしまうかもしれませんが、私たちも皆さんの幸せのお手伝いをさせていただきたいと思いますし、縁結びのアイテムとして浸透していけば嬉しいです」
 
――梅の魅力は。
「結婚して子供も生まれて、子供が食べるものもそうですが、自分が食べるものも気にするようになりました。極力添加物や保存料を使用していないものを選んでいます。梅干は疲れている時に食べると疲労の回復効果が実感できます。その他には寝不足でもだるくない、胃がもたれないなどの効果も感じています。また、以前から梅肉エキスを粒状にしたものを飲んでいるのですが、風邪を引かなくなりました」
 
――HPで多くの梅レシピを紹介されています。
「管理栄養士の友達に作ってもらっているレシピを掲載しています。食べる機会や需要の幅を広げるためにご飯以外の食べ方やメニューを紹介していて、その数は数千になっていると思います。梅干はご飯と一緒に食べるのが一般的で、和食にしか合わないというイメージがあると思いますが、どんな料理にも合います。和洋折衷と言いますか、独特の風味と酸味が料理の味を引き立たせてくれますし、スイーツとしても合わせられます。季節感のあるお勧めレシピはお得意様にダイレクトメールを送っています。『試したら美味しかったよ』と声をかけてくれるお客様もいらっしゃいます。店頭販売ではそういったお声掛けもさせていただき、少しでも裾野を広げていくことを目指しています」
【2017(平成29年)3月6日第4881号12面】
 
不動農園 公式HPはこちら→http://www.fudonoume.co.jp/

2017年2月13日号(4879号)掲載 「佃煮男子」

かねだい食品株式会社 営業 岩重 雄也氏

新しい美味しさ挑戦
「従業員のため」が地域貢献に

 佃煮・調理食品ほか、菓子・健康食品など多彩に製造する「かねだい食品株式会社」(岩重敏郎社長、鹿児島県南九州市川辺町)は、主に地元・鹿児島県で獲れる魚介類を加工する有力メーカーだ。岩重社長の長男で営業担当の雄也氏は、広告代理店勤務を経て家業のかねだい食品へ戻って3年目。今年35歳になる若手〝佃煮男子〟の雄也氏に、業界の現状と自社の取り組みなどについて伺った。(文中敬称略、聞き手=福岡支局・菰田隆行)
◇   ◇
 ――家業に入社して3年目ということですが、現状をどうお感じですか。
 岩重 時代的に、難しいところに直面しているなと感じています。製品の原料は主に鹿児島県内で獲れる魚を使っています。かつお、まぐろ、さば、かんぱちなどですが、漁獲量は年々減っています。かつお漁で有名な枕崎漁港では、かつおの他にもまぐろなどを取り扱っていますが、全国的に有名な枕崎でさえも状況は厳しいものがあります。原料の仕入れ値のほか、包材、人件費など全てがコストアップしており、それを末端の製品価格に転嫁できないのが現状です。
 ――では、その現状を打破するために取り組まれていることは。
 岩重 伝統的な佃煮一本では、ごはん食の減少とともに売上が減少していくことは否定できません。ですから、佃煮から派生した惣菜の分野に取り組んでいます。例えば3~4年ほど前に発売した「お芋と魚の和ディップ」は、当社の佐々木一朗常務が開発した商品ですが、和食だけでなくカナッペやパスタ、ピザなど西洋料理のソースや調味料としても利用できる商品です。創業者である祖父・藤吉の「地のものを大切に使う」という意志を継承しながら、新しい美味しさにも挑戦していきたいと考えています。
 ――現在の主な販売先と業務内容は。
 岩重 メーンの売上は地場ですが、業務用は中部・関西・福岡・北九州などにも流通しています。また、学校給食で一人に一袋配る豆菓子は、主に関西、福岡などのほか、遠くは東北・秋田まで行っています。営業を担当していて、今まで売っていない地域に行けるのは嬉しいですね。一昨年はトレードショーの「こだわり食品フェア」に出展し、昨年と今年はトレードショー本体の鹿児島県ブースに出展いたします。出展した時に出会った関東地区の方々にも、徐々にですが営業をかけています。
 ――ご自身の信条と、今後への抱負は。
 岩重 現在、当社ではパートも含めて約20名の従業員が働いてくれていますが、私はその社員さんたちのために働きたいですね。毎朝早くから精を出してくれている社員さんは、近くに住んでいる地元の人たちですから、しっかりと生業に励むことが地域への貢献になります。地元・南九州市のふるさと納税の返礼品にも、少しですが登録しています。また、今はネットのSNSなどで全国各地の食材にスポットが当たりやすくなっていますので、地方の企業なりに特徴のあるものを造っていけば、決して将来を悲観することはない、と思っています。
 ――貴重なお話をありがとうございました。
【2017(平成29)年2月13日第4879号9面】

 
かねだい食品株式会社 http://satsuma-kanedai.jp/
 

2017(平成29)年1月9日第4874号15面掲載「漬物WOMAN」

株式会社若菜 大丸東京店 店長 井上 美裕さん

大切なことはホスピタリティ
来年の自分に贈り物
文政11年(1827年)に開業した料亭「得月楼」の伝統を今に伝える株式会社若菜(山田耕平社長、本社=海部郡蟹江町)は、伝統的な奈良漬や季節の野菜を活かした浅漬の他、チーズの味噌漬・酒粕漬など、和と洋を取り入れた商品開発も行い、こだわりの逸品を提供。東京に構える13店舗(全国では17店舗)の中でも、1日40万人以上が利用する東京駅に隣接する施設で、同社の旗艦店と位置づけられる大丸東京店(東京都千代田区丸の内)の店長に入社3年目、23歳で抜擢された井上美裕店長(24)に仕事のこだわりや今後の目標などについて話を聞いた。
(千葉友寛)
 
◇ ◇
 
--入社のきっかけは。
「短期大学で接客やビジネスマナーの勉強をしていて、人と関わるのが好きだったこともあって接客業の仕事に就きたいと思っていました。学校で1年先輩の方が若菜の渋谷店に勤めていて仕事をしている様子を見たのですが、すごいイキイキとしていて楽しそうに仕事をしていました。先輩の話を聞いて前向きな気持ちになり、自分もこういったお店で仕事をしたい、と思いました」
 
--漬物への抵抗はなかったのでしょうか。
「両親が漬物好きで、毎日食卓にあったこともあり抵抗は全くありませんでした、というよりも、私も小さい時から好きでした。小さい時から食べているので食卓にあるのが普通ですし、今でも欠かせない存在です」
 
--一番好きな漬物は。
「水なすの浅漬です。なすは皮が厚いイメージがあるのですが、水なすは皮が薄くて果肉もみずみずしいのが特徴です。多くのメーカーさんが水なす製品を販売されていますが、私のオススメは若菜の水なすです」
 
--昨年(2016年)、入社3年目で店長に就任されたとのことですが。
「プレッシャーはあります。一番大変なのは商品管理です。売上ももちろん大事で、以前は毎日気にしていたのですが、今日がダメなら明日頑張る、という気持ちでやれるようになってきました。若菜の商品は鮮度が命なので、できる限り廃棄を出さないように心がけています。当社の商品は手間暇をかけて作っているので、一人でも多くのお客様に若菜の漬物を食べていただけるように毎日取り組んでいます。発注も難しく、土日や連休が絡むところの日程を念頭に置きつつ、新幹線の乗車率などを確認しながら人の動きを予測します。それでも予測通りにいかないことも多く、毎日が勉強です。個人的に作っている店長ノートは、売上、客数、天気などを記録したものですが、来年の自分への贈り物として記しています」
 
--仕事で心がけていること、やりがいを感じるところは。
「学校でも学んだことですが、ホスピタリティです。お客様は性別、年齢、購入動機が異なります。それぞれのお客様の状況、状態を理解して対応するようにしています。商品の魅力を伝えることはもちろん、目線や荷物への気配りも大切です。やりがいという部分では、『ありがとう』と言われるとやっぱりうれしいですね。『また来たよ』と声をかけてくださるお客様も増えていて、お客様との信頼関係を感じると仕事をやっていて良かったと思います」
 
--目標や夢は。
「会社としての目標は、大丸東京店が会社で一番の売上を達成することです。そのためには若い人が辞めずに仕事を続けていける環境を作ることが必要だと思います。自分がスタッフのサポートを得られるように頑張らないといけませんし、信頼関係を構築することが大切です。若い人に漬物を食べていただくようにするためには、手に取りやすいパッケージにするなど見た目の変化も重要だと思いますが、より親近感を感じていただくという意味では若いスタッフの存在も大切だと思います。夢は若菜=若者に支持される漬物、とイメージされるようになることです。2020年は東京オリンピックが開催されるので、国内外の方が東京に訪れます。東京に来た方がお土産を若菜で買っていただけるように、お店や商品の魅力を発信していきたいと思います」
【2017(平成29)年1月9日第4874号15面】
 
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