有限会社小林蒟蒻店(飯田市南信濃和田)は南信州・下伊那のこんにゃくのシェア9割を占める。先代の原料問屋時代から遡ると創業80年にもなる老舗。「こんにゃくは味しみの良い小林さんの所でしか買わない」という地元ファンの声も多く聞かれる。精粉からではなく年間を通して地元産のこんにゃく芋から直接製造するため風味豊かで歯ごたえのある絶品のこんにゃくを世に送り出し続けている。
今回注目したいのが「こんにゃくめん」だ。火を通さず軽く水洗いをして水切りし、添付スープにつけて蕎麦のようにすする。薬味もわさび、生姜、茗荷と何でも合うが、柚子胡椒で食べるのも粋だ。透き通る緑とやさしい味わいが食欲をそそる。添付されている和風だれは本醸造の醤油ベースで、鰹節、鯖節、しいたけの出汁がきいていて「こんにゃくめん」との相性は抜群。麺にはホウレン草が練り込んであり健康食としても男女問わず人気を集めている。ダイエット効果もあるのでリピーターも多い。
振り返ればこんにゃく麺は約30年前に起きた麺ブームの時に開発された歴史を持つ。カロリー低めでヘルシーなイメージを持ち引き合いを強めた。当初はマンナン麺として売り出され平麺タイプが多かった。小林蒟蒻店の「こんにゃくめん」は今も平麺を踏襲しており、どこか懐かしさが漂う。SMのバイヤーからもそのおいしさは認められて売り場でも大ヒットとなった。製品に添付してある食べ方提案の説明書も丁寧でうれしい。
また、小林蒟蒻店は昔ながらの玉こんにゃくタイプである「手造りこんにゃく」さらには青のり入りとほうれん草入りの2種類が味わえる「おさしみこんにゃく」など豊富なラインナップを揃えている。
信州こんにゃく発祥の地
こんにゃくはインドシナが原産で植物としては縄文時代に日本に伝来していたと言われている。平安時代には貴族や僧侶に宮廷料理や間食として珍重されたが江戸時代に精粉技術が発明され量産を可能とし庶民に普及した。当時は水戸藩の専売品であったが、各地の山村でこんにゃくの栽培は行われていた。
日本こんにゃく協会の「近代こんにゃく資料」によれば、長野県における蒟蒻栽培の歴史は江戸中期で遠州から秋葉街道(国道152号)を通じて遠山郷に伝えられたと言われている。
粘りが強く質の良い遠山産のこんにゃく芋「天龍玉」は有名で、明治10年代には飯田から遠山谷に商人が買いつけに来ていたという。昭和初期の郡農会による生産高調査では当時の下伊那郡産こんにゃくの97・3%が遠山産で占められていた。
戦中戦後の配給統制が終わるとこんにゃくは暴騰しブームが巻き起こった。その後は昭和40年代頃まで、夏期に養蚕用の桑、秋にはこんにゃく芋を収穫するというサイクルが地場産業として成りたっていた。
現在は各産地で生産が減り、原料確保が問題となっている。生芋からこだわりの商品を製造する小林蒟蒻店にとっても喫緊の課題だ。栽培に関して言えば連作はできないが歩留りも良い。昨年から地元農家とも協力し「天龍玉」を残していく取組みにも小林社長は着手。自社農園でこんにゃくを作付している。
【2018(平成30)年8月6日第4944号19面】