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塩 インタビュー~2019

2019年7月29日号 塩特集

株式会社ソルト関西
代表取締役社長 山本 博氏
 
提案力で共存共栄へ 業界挙げて新たな取り組みを
株式会社ソルト関西(大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された元売企業。
代表取締役社長の山本博氏は、現在全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長の要職を務めており、長年にわたって塩の安定供給、業界発展に貢献して来た功績から、一昨年藍綬褒章を受章している。
食用塩の動向や業界を挙げた取り組みの必要性について、山本社長に聞いた。
‐業績について。
「2018年度3月決算は85億6千万円で着地した。部門別では、この20年で経験したことの無い暖冬によって大きく数量が落ち込んだ融雪用以外は、ほぼ横ばいとなった。また今まで毎年金額が増加していたグルソーや砂糖といった調味料関係など塩以外の部門が約17億円と初めて若干のマイナスに転じた。近年力を入れてきた部門だが、もう一度足元を見直し、きめ細かく需要の掘り起こしを狙って行かなくてはならない。社員には自分から壁を作らず、どんどんチャレンジして欲しいと常々話している。割合の大きい融雪向けは計算が立たない部分もあるが、来期はもう一度売上100億円を目標に、取り組むつもりだ」
‐今年(2019年)は5月の10連休、6月のG20と、これまでに無いスケジュールが続いたが、影響は。
「10連休の前後では、4月に前年比20%以上の売上増があったものの、4・5月をトータルで見ると前年をやや割り込む数字となった。G20による交通規制の影響で6月最終週も配送が出来ず、イレギュラーな動きとなった。需要の先食いをしたことや、増税も含めた先行き不安があると思われることで、現在は消費者の財布の紐が固いように感じられる」
‐家庭用食用塩の動向。
「昨年の業務用に続き、今年4月に家庭用が値上げとなったことで仮需要があり、数字の判断がしにくいが、普遍的な減塩ニーズがある中で棚が縮小し、総量はやや落ち気味だ。家庭用の仮需要については、問屋や小売店、また地方部で見られたものの、都市部ではそれほど多くないように感じる。これは生活スタイルや家族構成が影響していると思うが、当社のエリアでは、昨年の業務用値上げ時ほどの大きな動きは見られなかった。また特殊製法塩に関しては7月からの値上げが多いため、今後の動向を注視して行く必要がある」
‐業務用については。
「当社は加工食品業界向けの割合が多いが、ここ数年は激烈な天候に毎年左右されることが続いている。昨年は梅干業界向けが大きく伸長した一方で、シラスやイカナゴ、また海苔や若布などの海藻を含めた水産物が不漁となり、大きな影響を受けた。生鮮と比較すれば波は少ないのだが、基本的にはマイナス側に振れることが常で、厳しい状況が続く可能性は高い」
‐社内の体制作りに関する取り組み。
「当社はほとんど人の力によってのみ成り立っている業態なので、人に対する投資、仕組み作りを積極的に進めている。社内研修はOJTが基本になるため、全員がひとつの目標に向かうための一体感を生み出すことが課題だ。また我々の業界は謂わば職人寄りの世界で、ベテラン社員の知識や経験が重宝されて来た。しかし一方で、今までの商習慣に囚われない、若い世代による推進力も必要だ。今後を見据えると、塩を通じて構築した関係をベースに、新しい種を蒔いて刈り取らせていただき、得意先と共存共栄の道を切り開く提案力が求められる。社員が充足感を持ちながら働き、その質を高めて行けるように、社員の満足度と会社からの評価のバランスがとれるよう、給与体系のピッチの見直しなどを進めている」
‐全国塩元売協会、塩元売協同組合としての活動。
「組合では新しい商材の案内など今までの活動を継続しているが、専売制度下での感覚や過去の商習慣に囚われない、新しい取り組みの必要性を感じている。組合加盟企業の事業規模や強みはそれぞれ異なっており、互いに得意なことを持ち寄る、業界内でのビジネスマッチングには可能性を感じる。互いに特徴ある企業が上手く調和できるような仕組みを構築しなければ、この先業界として成り立たなくなる懸念もある。我々が扱うのは、塩という人間の生命維持に欠くべからざるものであり、供給責任を果たすためには、組合組織をベースにした、合理的な方法を模索することも必要だ。例えば営業に力を入れている当社と、他地域で物流を得意とする企業が役割分担しながら、共存して行く道もありえると考えている」
‐業界を挙げた取り組みの必要性。
「塩業界は専売時代の役割分担を引き継いだ形で、生産・物流・流通・特殊製法塩と、4つの業界団体があるが、一堂に会する機会は実は少ない。現在は塩と暮らしを結ぶ運動(くらしお)などの活動で融和が図られているが、得意先と直接対面する我々のような業態は、業界内の接着剤としての役割を果たせる可能性がある。専売制度時代の垣根を取り除き、塩業界全体で真剣に取り組んで行く必要があると考えている」
【2019年7月29日第4987号15面】
 
 
 
 
日本食塩製造・日本精塩株式会社
代表取締役社長 貞永 憲作氏
 
高純度塩で医療・工業用伸長 各団体の横断的な取組みを
 日本精塩株式会社(貞永憲作社長、神奈川県川崎市)は、1969年に特殊製法塩の製造販売を目的として食卓塩や精製塩を製造する日本食塩製造株式会社から分離し、設立。日本食塩製造の高級塩製造の技術とノウハウを活用し、業務用と家庭用の両面で良質な商品を販売し続けている。同社は製造が難しいとされていた高純度塩の製法を確立したパイオニア的な存在で、医療の他、工業分野において広く認知されている。幅広い塩製品を供給している日本食塩製造グループの社長で、食用塩公正取引協議会会長、全国輸入塩協会会長、日本特殊製法塩協会副会長などの要職に就いている貞永憲作氏に同社の取組みと業界の課題について話を聞いた。 (千葉友寛)

‐御社製品の売上構成比は。
「弊社の製品は大きく食用塩と食品以外に区分され、グループで言えば食品が65%、非食品が35%となる。食品のうち、業務用が8割、家庭用が2割という比率になる。ここ数年、多少の増減はあるが、全体的な比率は変わっていない。ただ、弊社の強みでもある高純度塩を使用する医薬用や工業用の需要は増加傾向にある。今後については人口減少や少子高齢化、減塩志向の高まりなどの流れを考えると、食品のカテゴリーを拡大させていくのは難しいと見ている。今後や医薬用と工業用により力を入れていきたいと考えている」
‐天日塩溶解再結晶法と洗滌法の違いと用途について。
「日本食塩製造で行っている天日塩溶解再結晶法は、メキシコの天日塩を溶かして塩水にして再結晶させる。これにより、不純物を除去することができ、高純度の塩を作ることができる。日本精塩で行っている洗滌法は、天日塩を綺麗に洗って汚れを落とし、原料塩と比べて不溶解分(汚れ)が十分の一。溶解再結晶はしていないので、ユーザー様の最終商品には『天日塩』使用を表示しているものもあり、差別化を図ることも可能だ。洗滌法で作られた天日塩は漬物にも適しており、梅干や大根漬に使用されている」
‐天日塩溶解再結晶法で作られた塩の用途は。
「純度が高くサラサラしている為、軽量では誤差を出すことなく利用することができるので、多くの食品工場で使用されている。輸入塩はコストパフォーマンスが良く、天日塩溶解再結晶法で作った塩は高純度で99・95%以上にすることができるため、最大の特徴となっている。利用されている用途は幅広く、不純物がないため、医薬品や工業用にも利用されている。日本においても潜在的な需要があり、先日も工業用で使用したい、というご連絡をいただき、『日本では99・9%以上の高純度塩は無いと思っていた』とお話しされていた。そういった意味ではまだまだPR不足なので、弊社製品も含めた塩に関する情報を発信していきたい。また、塩は重いので物流費に占める割合も高いのだが、弊社は関東圏に所在しているという立地状況、小規模のロットにも対応できる体制が整っているので気軽にお問い合わせをいただきたいと思っている」
‐原料塩について。
「原料塩については中国の動向が注視される。日本の塩の自給率は10%程度(約98万t)で、90%(約820万t)をメキシコやオーストラリア、中国から輸入している。世界一の塩生産国である中国では消費が増え、輸出も行っているが輸入も行っている。そのような背景もあり、原料塩価格は今年1月から上がった。そのため、弊社も同時期から値上げを行っており、全体的に塩の価格が改定された。中国からの供給については今後も不透明で、予断を許さない状況だ」
‐塩業界の課題は。
「大きくは表示と塩への理解。2020年4月から栄養成分表示が義務付けとなる。業務用は表示義務がないのだが、弊社の業務商品をネットで購入したお客様が店で販売しているケースもあり、エンドユーザーが食用か工業用で使用するのか見えない部分がある。軽減税率が絡んでくる問題なので、弊社では業務用も現在の包材が切れるタイミングで切り替える。また、日本の構造的な問題や減塩志向の高まりにより、家庭用の消費は減少していく。物流費や人件費、原材料価格の上昇など、企業が吸収するのは難しくなってきており、業界として理解を求めながら適正価格での販売を行っていく必要がある。業界団体としても『くらしお』(塩と暮らしを結ぶ運動推進協議会)など、横断的な取組みも必要だと考えている」
【2019年7月29日第4987号14面】
 
日本食塩製造 http://www.nihonsyokuen.co.jp/
 
 
 
株式会社天塩
代表取締役社長 鈴木 恵氏
 
塩作りの背景伝える 播州赤穂が日本遺産に認定
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり〝差塩製法〟を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。今年(2019年)5月、「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されたばかりだ。同社は「赤穂の天塩」の全国総販売元であり家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の天塩」の製造会社である赤穂化成や同社を中心としたAKOグループは、塩や深層水といった豊富な製品群を通じて自然豊かなミネラルを提供し消費者の生活の質向上に大きく貢献している。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や今後のビジョンについて聞いた。
(藤井大碁)

―天塩の歴史やこだわり。
「1971年の塩田整備法により赤穂の歴史的な塩田が廃止となり、その後の塩田製塩時代の塩を求める自然塩運動をきっかけに、生まれたのが『赤穂の天塩』だ。安全で良質な塩をお届けするために、世界遺産として知られるオーストラリア・シャークベイの海水を自然の力で塩田濃縮した天日塩とにがりを原料に、約400年前より赤穂に伝わる、にがりを戻す塩づくり〝差塩製法”により「にがりを含んだ塩」に仕上げている。今年5月には、“塩づくりのまち播州赤穂”は、その歴史的な価値が評価され文化庁より「日本第一」の塩を産したまち播州赤穂として、日本遺産に認定された。これにより、「赤穂の天塩」は“世界遺産で作られた原料を使用した、日本遺産の播州赤穂で作る塩〟ということになる。安全で良質な塩が作られる背景に、こうしたストーリーがあることを今後は積極的にPRしていきたいと考えている」
―天塩の美味しさ。
「海の自然な成分であるにがりを含んでいるため、塩の辛みとにがりの渋みが混ざり合い角々しい塩の味わいに丸みが出る。素材の味を引き出し、料理の味わいを深めると高い評価をおかげ様で頂いている」
―天塩は海の成分からつくられた天然の調味料として多くのファンから支持されている。
「日本人は、生まれ育った長い歴史の中で海から採った塩が遺伝子に刷り込まれており、にがりを含んだ塩が日本人の身体に適しているといえる。しかし日本人はマグネシウムやカリウム等のミネラル成分が不足であると厚生労働省が指摘する。近年の食生活の変化もあるが、塩に含まれていたにがりを摂取する機会が減ったことに起因するのではないか。こうしたミネラル成分は身体のなかでいろいろな働きに消費され、常に摂取しなければならないもの。食生活においてバランス良く摂取することが健康にとって大切なことではないか」
―塩の動向。
「昨年6月からスタートした前期は、梅の出来栄えが良かったこともあり、平年の120%と幸先の良いスタートが切れた。7月の猛暑により塩飴の販売も好調だったが、想定を上回る需要が続き早々に塩飴の在庫は切れてしまった。8月頃から酷暑の影響で野菜価格が高騰し、その影響で8~10月は塩の販売量が前年割れとなった。11月頃から秋冬の野菜が順調で平年を大きく下回る安価が続いたため、下期は塩の購入量は平年並みで推移した。前年度は野菜に振り回され、野菜に助けられた一年だったといえる」
―新商品として塩分60%カットの塩味調味料「ファイブスター」を全国発売する。
「3年程前に〝塩でない塩を作る〟というプロジェクトがスタートしようやく形になった。減塩志向の高まりから減塩調味料が増えているが、塩味の代役に塩化カリウムなどの添加物を使うことが多い。我々はあえてそういったものを使用せず、海水のみで作っているところが特徴だ。塩の定義は塩分が40%以上のため、60%以上減塩したこの商品は塩ではなくミネラル調味料という位置づけとなる。身体に不足がちなミネラルを摂取できる健康調味料として特に健康志向の高い方にPRしていきたい」
【2019年7月29日第4987号13面】
 
 
 
 
伯方塩業株式会社 代表取締役社長
日本特殊製法塩協会 会長 石丸一三氏
 
「特殊製法塩」および「塩特定販売業」の各社が集まる、日本特殊製法塩協会。青い海、天塩、伯方塩業、日本精塩、マルニの5社が発起人となり2015年に設立され、現在では39社が加盟している。今回、協会会長に2018年就任した石丸一三氏(伯方塩業社長)にインタビュー。協会の方針や、業界の現状について聞いた。(小林悟空)
◇ ◇
協会の成り立ちは。
「特殊製法塩は塩事業法によれば、『平釜式、蒸気利用式、温泉熱利用式その他の真空式以外の方法により製造されたもの』や、『香辛料、にがり、添加物、胡麻、昆布を含むもの』など、非常に広い範囲を含んでいる。『特殊』という、言葉のイメージとは違い、それを生業とする企業は塩業界の中で最も多く、その価値向上と消費者への啓発活動を目的として設立されたという経緯がある」
現在の取組について。
「制度化が目前に迫ったHACCPについては、加盟企業向けのガイドラインを制定中で、9月(2019年)には講習会も開催する予定だ。現在加盟する39社は、製法や企業規模も異なるため、一括で指針を示すのは簡単ではない。しかし、加盟企業が存続できるようサポートすることは製法の多様性を守ることにもつながるため、急いで対応を進めている」
‐対外的な活動は。
「消費者向けのイベント出展を企画している。食品メーカーや小売店など、業界関係者には塩の違いを理解していただいているが、末端消費者には未だ不十分だと感じている。塩の種類の豊富さや、その違いがあることにインパクトをもって伝えたい。また加盟企業の情報発信の機会にもなれば良い。それに加えて非常に多くある塩の中で消費者はどのような塩を選べばよいか、という疑問を持っている。塩ごとにお勧めの料理を示す、味わいや溶けやすさ等をそのままチャート化する、など啓蒙コンテンツを充実させ、色々な塩を試したくなる方法を模索している」
‐世間的には減塩意識が高まっているが。
「塩に限らず摂りすぎは良くない。塩は人間にとって必要不可欠なものであり、過度な減塩には疑問を感じている。きちんと必要量は摂取することが重要だ。そのため当会では『適塩』を提唱し、設立以来発信を続けている。特に、たくさん汗をかく夏や運動前後には水だけでなく塩分も摂った方が良い。昨年の猛暑は塩の摂り方を考えるきっかけになったと思う」
‐協会内外でも値上げが相次いでいる。
「塩は重量単価が安く、運送費等の値上げの影響をダイレクトに受ける。塩事業センターの値上げ発表から、当会の会員の中にも値上げを発表・実施する企業が出てきている。2019年10月には追い打ちをかけるように消費税増税もある。各社では消費者に製法や特徴をしっかり訴求し、価格に見合った価値を見出してもらうため一層の努力が必要になってくるだろう。当協会員が塩の地位向上へ向けて協力しつつも、こうした点では競争もしなければいけない」
‐特殊製法塩のアピールを。
「塩は製法によって味も舌触りも違ってくる。また製法それ自体が地域に根付いた古い歴史をもっているケースが多く、消費者の共感を呼ぶストーリーの役割を果たしうる。最近になって塩の味・製法・成分にこだわりを持つ人が増えてきた。当協会が提唱する『適塩』は『適切な塩分摂取量』を呼びかけると同時に、料理や一人ひとりの味覚に『適した塩』を呼びかける言葉でもある。食品業界の皆様にも、一度塩を見直す機会をもち、より良い商品づくり、売場づくりを目指していただければ幸いです」
 
【2019年7月29日第4987号12面】
 
 
 
 
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