〝早出しおせち〟拡大傾向 少人数用や個食タイプが増加
今年も年末に向けたおせち商戦がスタートした。コロナ禍の影響で、百貨店や業務用商材の苦戦が続く中、おせち商戦への期待は例年以上に高まっている。今年の傾向や見通しについて、丸千千代田水産株式会社加工品部加工品二課主任の星野一平氏に聞いた。
(藤井大碁)
――おせち商戦の見通し。
「コロナの影響で、海外旅行に加え、帰省出来ない人も多く、自宅でどのように過ごし、お金をどこに使うかというのが焦点となる。こうした後ろ向きな時代だからこそ、あえておせちのような縁起物にお金を使う、という予想もあり、量販店各社でも例年以上に強気の姿勢を見せているところが多い。そういった流れもあり、弊社でも今年は前年比5~6%増を目指していく」
――今年の特徴。
「セット物に関しては、おもてなしの機会が減るため、3段重などの大人数向けより、2~3人用の少人数向けや個食タイプのおせちのラインナップが増えている。また、年末に集中する売場の混雑を緩和するため、量販店では〝早出しおせち〟に力を入れる傾向もある。おせち売場は例年、クリスマス後の棚替えによりスタートするのが一般的だが、少しでもお客様を分散させるため、今年は早めに売場を展開する店舗が増えるのではないか。ただ、一般的な栗きんとん製品などは、統一賞味のため日持ちの面で懸念があり、レトルト殺菌された常温で日持ちする商品などの需要が増えることも予想される」
――単品おせちの傾向。
「近年、単品からセット物への移行が進む中で、単品にはセット物にはないようなこだわりが求められるようになってきている。例えば、栗きんとんであれば、芋あんに安納芋を使用していたり、栗の産地まで明記したものなど、何かしらコンセプトがある商品の方が打ち出しやすく、バイヤー側としてもチャレンジしやすい商品となっている」
――コロナ禍の佃煮の動き。
「4~5月は外出自粛による巣ごもりで、ご飯と相性の良い昆布や海苔、あみの佃煮などの需要が高まったが、弊社では市販用に比べ、鮮魚店や飲食店向けといった業務用の割合が多いため苦戦した。6月以降も業務用の売上はなかなか戻ってきていない。一方で、市販用は前年比微増と堅調に推移している。今月に入り、新米が出始めて、海苔の佃煮などの需要は再び伸びてきている」
――今年は『年末商品合同展示会』が中止となった。
「年末の情報が一番得やすい展示会が中止になった影響は大きいが、電話やメールで積極的な情報発信に努めている。例年以上に提案力が求められており、それが年末商戦の結果にも繋がると思う。事前に試食サンプルを送り、Zoomで商談するという新しいスタイルもスタートしている」
――新たな取組み。
「霞ヶ浦では、7月に解禁されたワカサギ漁が不漁のため、シラウオ漁を例年より早くスタートしており、量的にもかなりとれている。ちりめんぐらいのサイズ感で、前浜でとれたものを生炊きし、佃煮にしている。味がとても良く、色合いも薄口醤油で炊くことで黄金色に仕上がっており差別化できる商材として人気を集めている。シラウオ漁は11月末頃まで続くが、少しずつサイズが大きくなっていくため、佃煮にするには今が一番で、今しか食べられない、まさに旬の佃煮と言える」
――今後に向けて。
「佃煮は一度棚に入ると、変わらず安定した売上を上げられる商材で、春夏・秋冬の変動も季節変わりもなかったが、これだけ水産原料を調達することが難しくなると状況が変わってくる。先ほどのシラウオの話ではないが、その季節にとれるものを炊き、旬の提案を店側にしていかなければ、佃煮がさらに伸びていくことは難しいのではないか。そのためには、我々荷受け側が主導して、原料面の提案を行っていくことも必要だと考えている」
【2020(令和2)年9月11日第5033号1面】