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コラム/視点2024

<視点> 特産漬物の供給量減少へ 課題多く製造許可取得断念も

食卓を彩る漬物
 地域で受け継がれてきた特産漬物の供給量が減少し、流通や品揃えも変化する可能性が出てきている。
 2021年6月に食品衛生法が改正され、漬物の製造は届け出制から営業許可の対象に変わり、衛生基準を満たす施設での製造が必要になった。現在は移行期間となっているが、許可の取得期限は今年5月31日までとなっている。
 全日本漬物協同組合連合会(中園雅治会長)の組合員数は696社だが、漬物製造の事業者は全国で1万社以上あるとされており、全国的に見ると野菜を生産する農家が漬物を製造し、道の駅などで販売するケースも多い。
 その種類は加工度の低い浅漬から製造に手間と時間がかかる秋田の「いぶりがっこ」や和歌山の「梅干し」など多岐にわたり、スーパーやドラッグストアなどとは異なる商品構成で地域の魅力を発信している。
 だが、営業許可の取得期限まで4カ月を切った段階で浮き彫りになったことは、漬物を製造するための施設や設備などの基準を満たすために数十万円から数百万円の投資が必要となるため、後継者の不在や高齢化などの問題を抱える小規模事業者はこれを機に事業継続を断念するケースが多数出てくると見られている、ということだ。
 地域によっては県や自治体が特産品や伝統の味を守るため、設備の投資や増強に伴う費用を補助するところもあり、事業継続を支援している。だが、補助金は最大でも全費用の50%程度に留まるため、どこまで事業者を引き留められるか不透明な部分もある。
 全漬連の加盟企業においても、少人数で製造を行っている企業が多数ある中、農家と同様の問題を抱え、事業の継続を迷っている企業も多く存在する。設備投資を行っても回収できる見通しが立たなければ「止める」という判断が出てくるのは当然のことで、組合員数がピークの2000社から700社を割るところまで減少した漬物業界においても、想定以上の影響が出てくると見られる。
 昨年10月1日からスタートしたインボイス制度の影響もある。農協や卸売市場が仲介する委託販売が多い農業従事者は、約9割が免税事業者で従事分量配当、作業委託料、機械賃借料、圃場管理料などについて仕入税額控除ができなくなることになり、消費税の納税負担が増えると見られている。
 また、これまでは所得税の申告のみで済んでいた手続きが、インボイス導入で消費税の申告納税が必要になる農家が増えることも想定され、さらなる負担の増加が指摘されている。
 一部の地域や素材によっては、すでに減産の動きが出てきている。栃木県で生産されている唐辛子はコロナ禍で業務用の需要が減ったため、数年に亘って生産調整を余儀なくされた。その後、コロナが落ち着いて業務用需要が回復してきた中で、メーカーが農家に増産を依頼しても「インボイスの対応」や「納税額の増加」を理由に農業及び生産を止めると返答され、コロナ前の数量を確保することができなくなった。
 その他、小規模農家が多い徳島県でも瓜、野沢菜、壬生菜、なた豆など漬物原料の割合が多い野菜の他、胡瓜や小茄子なども同様の理由で作付面積及び収穫量の減少が懸念されている。
 大規模農家が生産している農作物や市場流通量が多い野菜については、すぐに確保できなくなるということにはならないが、小規模で生産されるケースが多い地域の伝統野菜は他地域で補填することができず、特産品で希少価値の高い素材ほど確保することがさらに難しくなることが予想される。そのため、それらを原料とする加工品、つまり伝統的な特産漬物の供給についても影響が出てくることが懸念されている。
 流通や品揃えにも変化が起こる可能性がある。農家や小規模事業者の生産量が減少すると、道の駅などの売場にはスーパーに商品を供給するメーカーの商品が置かれることになる。地域性の商品など店舗の魅力や特徴を出しにくい環境となり、近隣の小売店との価格帯も課題だ。
 ここ数年の漬物市場は、キムチが浅漬を抜いてトップのシェアになるなど内訳には変化があるものの、市場規模は横ばいとなっている。製造許可を取得している事業者は生産量が増える可能性があり、寡占化はさらに進むことが予想される。
 4月からの物流問題、6月に迫った営業許可制度の完全施行と、上半期は超えなくてはならない高い壁が立ちはだかっており、漬物産業は大きな転換期を迎えようとしている。
(東京本社 編集部 部長 千葉友寛)
【2024(令和6)年2月11日第5153号10面】

2024年おせち総括 数量減少も売上微増

新年を美味しく祝うおせち料理
佃煮おせちの集約進む 
 昨年のおせち商戦は、値上げやコロナ5類移行に伴う人流増加の影響で、単品おせち、お重ともに数量が減少。値上げにより単価がアップしたため全体売上は、前年並から微増となったメーカーが多かったようだ。
 近年、コロナ禍の巣ごもり需要の影響もあり、おせち市場は拡大を続けてきたが、社会の正常化に伴い、市場は踊り場を迎えている。
 また冷凍おせちの台頭により販売チャネルが多様化。通販でお重を早期予約する消費者が増加していることも、単品おせちの需要減退に繋がっている。
 佃煮おせちは、カテゴリーごとに明暗が分かれた。主要アイテムにおいては、栗きんとん、黒豆は値上げの影響を受けながらも堅調に推移、昆布巻きも値上げ幅が大きかったわりに健闘した。一方で、たづくりは近年減少傾向にあったが、不漁の影響もあり今年はさらに数量が減少。鬼がら、わかさぎといった串物類も大きく数量を落とし、佃煮おせちの集約が進んだ年となった。
 全体的な傾向としては、「値上げした商品の動きが悪かった」「高単価商材が苦戦した」といった声が聞かれ、ハレの日のおせち商戦にあっても、物価上昇が続く中、消費者の強い節約志向が浮き彫りになった。 
 近年躍進を続けてきたお重にとっても厳しい商戦となった。スーパーマーケット、コンビ二、百貨店共に数量が減少した店舗が多かった。だが、首都圏の百貨店の中には、料亭監修などの高額おせちの早期予約が好調で、数量、金額共に前年を超えた店舗もあった。 
 また、大手通販メーカーにおいては、冷凍おせちの販売量が宅配できる物量の上限に達し、販売を早期に締め切らざるを得ないところもあった。
 物流2024年問題の影響を受ける今年のおせち商戦は、人手不足、原料不足の中、"どう作るか、どう売るか"という近年の課題に加え、"どう届けるか"という配送面の課題がさらに色濃くなりそうだ。(藤井大碁)
【2024(令和6)年1月21日第5151号1面】

<新年の風景>「東京べったら漬」好評 長岡京 楊谷寺の「花手水」

初詣客が訪れる寶田恵比寿神社
寶田恵比寿神社門前の販売所
東京べったら漬
べったら市保存会 寶田恵比寿神社門前で販売
 日本橋恵比寿講べったら市保存会は、元旦から7日にかけて毎年10月にべったら市が開催される寶田恵比寿神社(東京都中央区)の門前で、株式会社東京にいたか屋(中川英雄社長、東京都中央区)の「東京べったら漬」を販売、参拝者に好評を博した。
 寶田恵比寿神は商売繁盛、家族繁栄、火防の守護神として、崇敬者は広く関東一円に及び、毎年10月に開催されているべったら市は、多くの人出で賑わう。が、コロナの影響で2020年と21年は中止となり、22年は規模を縮小して開催された。
 昨年のべったら市は10月19、20日の両日に開催。コロナによる中止と規模縮小を経て4年ぶりの本格開催となり、かつての賑わいを取り戻した。
 中止されていた「おとな神輿」も復活し、詰めかけた来場者が神輿の行進にカメラを向ける光景も見られた。
 東京にいたか屋の話では「原料事情は依然厳しかったが、3年ぶりの開催となった前年と同じく多くの人出があり、売上については前年よりも好調だった」とコメントしている。
 寶田恵比寿神社は元々皇居前にあった宝田村の鎮守で、慶長11年の江戸城拡張の際に現地へ転居。祭壇の中央に安置されている恵比寿神像は、村の名主・馬込勘解由が徳川家康から授けられたもので、運慶作と伝えられている。
手水舎に花を浮かべ龍の字を表現(楊谷寺)
長岡京 楊谷寺
 京都府長岡京市にある柳谷楊谷寺は今年の干支である龍(辰)の字を「花手水」で美しく表現している。
 楊谷寺は数年前、現住職へ交代するに際して「歴史と四季を感じられる聖地にしたい、不安な現代にご利益と共に五感を通じて心に平安を」という思いから手水舎・手水鉢に花を浮かべるようになった。
 これがメディアやSNSを通じ全国で知られるようになり参拝客が急増した。今では自らSNSを活用しており動画配信や、境内改修に関するクラウドファンディングの活用なども始まっている。
 楊谷寺の取組は、きっかけが写真映えであれ、何であれ、興味を持った人々に対して和の心を伝える結果へと繋がっていくものである。企業におけるSNS活用の重要性が高まる今、その活用方法のヒントを見い出せそうだ。
【2024(令和6)年1月11日第5150号1面】

歴史を伝える「名前」 名付けは在り方示す行為

旧上難波村にある難波神社
縄文時代の大阪(出典:大阪府『治水のあ・ゆ・み』』)
現在の大阪平野(出典:同)
天満菜
 難波神社は大阪市中央区、ビジネス街の中心にある。商売繁盛の神社として新年の初詣にも多くの参拝客を集めている。
 難波と名が付いているが、現在一般的に難波といえばもっと南側を指す。ではなぜ難波神社かといえば、ここが昔は上難波村と呼ばれていた地域だからだ。この難波という地名は、読んで字の如く波が激しく打ち付ける場所という意味がある。かつてはこの辺りまで河内湾が切り込んでいたことを示すものだ。
 「名は体を表す」というように、難波神社という名前一つから連鎖して様々な歴史を垣間見ることができる。名前を残すということはそのまま歴史を残すことに繋がる。
 それは伝統野菜や伝統食においても同様だ。大阪では「なにわの伝統野菜」が21品目あるが、その名から、今ではビル街となっている場所でも農業が盛んに行われていたと分かる。
 大阪府漬物事業協同組合(長谷川豊光理事長)は「天満菜」などの共同栽培を行っているが、これは商業的な目的だけでなく歴史を伝える意義も見出すことができる。
南高梅
 また、昨年は「紀州南高梅」発祥の地である紀州みなべ梅干協同組合(殿畑雅敏理事長)の創立50周年式典が行われたが、そこで繰り返し述べられたのが先人への感謝の言葉だった。
 南高梅という名前は、品種の発見者である高田貞楠氏や、その選抜調査に尽力した南部高校教諭の竹中勝太郎氏らにちなんでいる。この名前がある限り、先人への感謝の思いが途切れることはないだろう。
 名付けという行為は日々身近な場面でも行われる。子どもの名付けには「こうなって欲しい」との願いが、商品やブランドなら「こう思われたい」「ここに注目してほしい」との意図が込められる。
 情報網の発達で名前が独り歩きすることも増え、名前の重要性は高まっている。本号で掲載した業界団体長は皆さん共通して商品価値向上に言及している。名付けもその重要な要素となるに違いない。
 人々の思いや歴史が込められ、ものの在り方を示す名前。今年一年も皆様にとって、新たな出会いに満ちた年になることだろう。そのときに、ぜひ名前にも注目してみてほしい。
【2024(令和6)年1月11日第5150号3面】

<視点>2024年は再スタート

昇龍の如く勢いのある年に
 2024年の干支は辰だが、本来の干支は十干と十二支を組み合わせた60種類があり、2024年の正式な干支は、十干の「甲」と十二支の「辰」が組み合わさった「甲辰(きのえたつ)」となる。
 甲は十干の最初に出てくる干で、甲冑の「甲」の文字から鎧や兜を連想させ、種子が厚い皮に守られて芽を出さない状態や物事に対して耐え忍ぶ状態を表す。また、生命や物事の始まり、成長も意味する。
    辰は「振るう」という文字に由来しており、自然万物が振動し、草木が成長して活力が旺盛になる状態を表す。辰は竜(龍)のことでもあり、十二支の中で唯一の空想上の生きもの。東洋で権力や隆盛の象徴として親しまれていた龍は、身近な存在であったことから干支に選ばれたと言われている。
 甲と辰が合わさる2024年は、辰年のキーワードである「変革(転機)」や「激動」が示すように、時代が動く年になる、との見方もされている。
 少子高齢化や人口減少、空き家問題、買い物難民、介護離職、老老介護、社会保障費の増大、貧困、待機児童、フードロス、物価高、エネルギー価格の上昇、長引く円安、食料自給率など、日本が抱える課題は枚挙にいとまがないほど山積している。
 本紙関連で見れば、原料の安定確保と人手不足は深刻な問題となっており、5年先、10年先を見通すことができない状況だ。全日本漬物協同組合連合会(中園雅治会長)の会員数はピークの2000社から700社を割った。次の世代の人たちが希望を持ち、持続可能な業界であるために、いま何を考え、どのような行動を起こすべきか真剣に考える必要がある。
 今年は4月1日から「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用されることで運送・物流業界に生じる「物流問題」の影響が懸念されている他、漬物製造業や水産製品製造業、複合型そうざい製造業など新たに32業種が営業許可業種となり、6月1日より(32業種)完全施行となる。法許可取得ができていない事業者は製造することができなくなり、商品の動きや流れが変わる可能性もある。そこにはピンチもあるが、チャンスもある。
 物流問題については物流費の上昇に加え、国内荷物量の14%が運べなくなるとの試算もある。これにより、食品業界も4月から多くの商品で価格改定が実施されることが想定され、漬物や佃煮をはじめとした和日配業界も迅速かつ説得力のある対応が求められている。
 コストの上昇分を製品価格に転嫁できなければ利益を確保することができず、採算が合わなくなる商品も出てくる。持続可能な事業を行っていくためにも適正価格にするための努力は今後、より重要となる。
 物価の上昇に賃金の伸びが追いついていない状態が続いており、生活者の節約志向は高まるばかり。スーパーマーケットでは客単価の上昇と買上点数の減少が顕著となっており、「メリハリ消費」や二極化の線引きは、これまで以上に明確になることが予想される。
 コストの上昇による単純な値上げでは、バイヤーをはじめ消費者を納得させることは難しい。また、単価の上昇によって嗜好性が高まる可能性もあるが、嗜好品になることで日常的に食べるものではなくなり、消費量や生産量の減少につながることも考えられる。必要とされ続けるために、食べる意味や動機の他、和日配商材が訴求できる健康機能性、季節感、地域性などの価値を発信し続けなければならない。
 農水省は昨年4月、「野菜を食べようプロジェクト」の一環として、「漬物」で野菜の消費拡大を図るための取組をスタート。見た目でも分かりやすいチラシを作成し、野菜摂取の手段として「漬物」を食べることを推奨している。日本政府が健康維持のために「漬物を食べましょう」と漬物業界を後押ししており、過去にないほどの追い風が吹いている。また、昨年は「和食」のユネスコ無形文化遺産登録から10年が経ち、世界的にも認知が広がりつつある。
 昨年5月にコロナが5類に移行し、4年ぶりに制限等がない年の初めを迎えることになる。業界各位におかれては、再スタートとなる2024年が殻を割った龍が風に乗って大空を飛び回る昇龍の如く、元気で勢いのある飛躍の年になることを祈念している。
【2024(令和6)年1月1日第51479号1面】    
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