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漬物JAS・全国漬物検査協会2024

<全国漬物検査協会> 第32回漬物技術研究セミナー

宮尾会長
大羽実行委員長
第32回漬物技術研究セミナー
9名による講演と研究発表
 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は2月28日、東京都江東区の森下文化センターで第32回漬物技術研究セミナーを開催した。当日は、宮尾会長、実行委員長である大羽恭史副会長をはじめ約70名が出席、4つの講演と5つの研究発表が行われた。
 講演では、株式会社クレオサニテーション事業本部の内田樹香氏、宝化成株式会社代表取締役の小暮始氏、農林水産省大臣官房政策課企画官の加集雄也氏、全漬検会長で東京家政大学大学院客員教授の宮尾茂雄氏が講演。
 研究発表では、株式会社新進品質保証部係長の澁川寛行氏、東海漬物株式会社漬物機能研究所要素技術開発課の宝田美月氏、遠藤食品株式会社工場長の堀江裕介氏、茨城県産業技術イノベーションセンターの岩佐悟氏、株式会社新進生産本部購買部課長で土壌医の五十嵐学氏が発表を行った。
 開会挨拶で宮尾会長は「セミナーが初開催されてから、30年以上が経つ。業界の皆様の積極的な研究発表や、先生方のご講演、昨年他界された前田先生の功績も非常に大きかったと思っている。色々な方々に支えられて今日までやってくることができた。本日のセミナーも成功裡に終わるようご協力お願いしたい」と述べた。
 大羽実行委員長は、「32回目のセミナーということで、多くの皆様にお集まり頂いたことに感謝申し上げる。円安が進み、3度目の150円台に乗った。海外原料に依存する食品業界にとっては痛いこと。これを乗り切るには、値上げを進めていかなければならない。だが、単に値上げするのではなく、新しい商品を開発して、新しい価格で売っていくことが理想。そのためには技術者の皆様のお力が必要なので、本日のセミナーでヒントを得て新商品開発にお役立て頂きたい」と話した。
 会場では、昨年の研究発表者へ宮尾会長から表彰状が贈呈された後、講演がスタート。昼休憩を挟んで行われた研究発表では、宮尾会長が座長、高崎健康福祉大学農学部生物生産学科教授の松岡寛樹氏がアドバイザーとして進行役を務めた。登壇者は多様なテーマで発表を行い、セミナーは漬物に関する幅広い見識を身につける機会となった。
 発表の概要は次の通り。
[洗浄と衛生管理] ▼内田樹香氏
 株式会社クレオサニテーション事業本部の内田樹香氏が「洗浄と衛生管理について」というテーマで講演。
 食品の安全安心への関心が高まる中、食品工場は多くの課題を抱えている。特に深刻なのが人手不足。人手不足が深刻化することで、作業ミスが起こり、品質や安全性に関わる重大な問題に発展する可能性もある。生産性を向上させ、安全な食品を製造するために作業の効率化を図ることが必要不可欠になっている。
 作業の効率化を図る上で重要になる衛生管理や洗浄性の向上に向けたポイントを紹介。①洗いやすい環境を整える、②洗浄手順の確認、③マニュアルの整備・現場教育、④洗浄の4要素~TACT~、⑤洗浄の効率化(機械化・泡洗浄)の5つの項目に分けて、その施策を説明した。
 また、省人化、原料・資材の高騰、SDGsへの対応といった課題がある中、その解決に向け、問合せが増えている同社商品として『タイマー付き自動洗浄システム「CS-01」』と『安定型過酢酸製剤「パーサン MP2-J」』を紹介した。
 内田氏は、「作業の効率化と衛生度の向上を実現するには、洗いやすい環境を整えること、そして機械化や泡洗浄の導入が有効。そのためには現状把握とコスト比較が重要」と語った。
[輸入野菜原料の現状] ▼小暮始社長
 宝化成株式会社代表取締役の小暮始氏が「輸入野菜原料の現状と課題」というテーマで講演した。
 小暮氏は冒頭、輸入野菜の歴史について説明。1960~70年代は台湾、1970年~80年代は中国・タイ、1980~90年代はベトナム、ミャンマー、ラオス、インドネシア、フィリピンなどに原料産地が変遷してきた歴史を振り返り、近年はベトナムの存在感が高まっていることを挙げた。また、中国産塩蔵原料産地について、キュウリやナスを例に紹介すると共に、漬物原料について、常温流通からチルド流通に変わってきたこれまでの流れを説明した。 
 輸入原料の課題として、安心安全リスクや為替リスクなどを挙げる一方で、年間契約で質・量が安定することや加工度の高さなど、そのメリットを説明した。 最後に、自社で取り扱う中国産ザーサイやベトナム産メンマなどを紹介。「塩蔵、冷凍、乾燥野菜など幅広い海外原料を取り扱っているので、原料に関わるご要望があれば是非ご相談頂きたい」と講演を結んだ。
[食料・農業・農村政策] ▼加集雄也企画官
 農林水産省大臣官房政策課企画官の加集雄也氏が「食料・農業・農村政策について」というテーマで講演した。世界的な食料情勢の変化に伴う食料安全保障上のリスクの高まりや、地球環境問題などへ対応するため、「食料・農業・農村基本法」の改正に向け取り組んでいることを説明。穀物の国際的な価格高騰、物流2024年問題、食料品アクセス困難人口の上昇といった日本の食料安全保障上の課題を指摘した。 
 国内の野菜市場について、内食から中食への食の外部化が進展し、生鮮食品から加工食品へ需要がシフトしていることを説明。漬物について、米の消費量の減少に伴い消費量は減少傾向にあるとしながら、海外輸出の拡大など、今後への可能性に触れた。
 また、農業従事者の高齢化などによる労働力不足を重大な課題とし、農作業委託によるスマート技術の導入などをその対策として挙げた他、環境に配慮した持続可能な農業を実現することの重要性を示した。
 加集氏は、「農業だけでなく食品産業全体で持続可能な取組を行っていく必要がある。様々な課題がある中、そのための取組を進めていきたい」と話した。
[つけもの―健康力―] ▼宮尾茂雄会長
 全漬検会長で東京家政大学大学院客員教授の宮尾茂雄氏が「つけもの―健康力―」というテーマで講演。 女子短大生を対象にした漬物の嗜好に関する実態調査で、回答者の3割が漬物の塩分が高いと認識している結果がでたことを紹介。実際は企業努力により漬物の食塩濃度は年々低下していることや、食品群別食塩摂取量によると漬物から摂取している塩分比率は全体のわずか4%に過ぎず、思っている以上に漬物から摂取している塩分量が少ないことを指摘した。
 また野菜に多く含まれるカリウムにナトリウム(食塩)を排出する機能があることを説明し、野菜を塩漬けや糠漬けにすることで、生野菜よりカリウムが増えるケースを紹介した。
 さらに、長寿県として知られる長野県民が食塩や味噌と共に、野菜をたくさん摂っていることを挙げ、ナトリウムとカリウムのバランスである「ナトカリ比」の重要性を強調した。
 宮尾氏は農水省の「漬物で野菜を食べよう!」の取組を紹介。「1日350gの野菜摂取が目標とされているが、現状は280gで70g不足している。漬物にして食べると35gで不足分が補える。塩は漬物からという固定観念を払拭し、漬物を食べることで野菜不足を解消していけることをPRしてほしい」と話した。
[ESCOEVOの活用] ▼澁川寛行係長
 株式会社新進品質保証部係長の澁川寛行氏が「ESCOEVO 情報一元管理システムを活用した防虫管理」というテーマで発表。 ESCOEVOはアース環境サービス株式会社が提供するWEB上で報告書の閲覧やデータの共有が行えるサービス。必要な情報にいつでもアクセスできるため、衛生管理の情報共有やデータ分析に活用できる。 新進では2021年よりESCOEVO導入による防虫管理を実施している。導入前は、防虫対策委員会で対策を確認後に改善活動が始まるため、対応が遅れていた。しかし導入後はESCOEVOへ改善指摘レポートが更新され次第、すぐに改善活動を開始することができるため、迅速な対応が可能となった。
 またサイト内がクラウド化されているため改善レポートへの同時アクセスも可能となり、防虫業者だけでなく、工場を良く知る内部からも改善指摘レポートを作成することができるようになり、外部・内部両面から改善活動を行うことが可能となった。 
 その他にも、改善日数短縮による虫捕獲数減少効果、過去データとの比較検証ができることなど様々な導入メリットがあった。
 澁川氏は「今後もESCOEVOを活用して、防虫衛生活動のレベルアップを図っていきたい」と話した。
[“漬ける”の優位性] ▼宝田美月氏
 東海漬物株式会社漬物機能研究所要素技術開発課の宝田美月氏が「調理野菜の水溶性ビタミン含量と“漬ける”の優位性」というテーマで発表。
 野菜を様々な調理加工法で処理した時のビタミン含量を測定・比較し、漬物のビタミン含量を明らかにすると共に、漬けることの優位性を示すことを目的として研究を行った。漬物によく用いられる4種類の野菜(きゅうり、キャベツ、大根、白菜)を使用し、生、水浸漬、ゆで、浅漬、ぬか漬など7種類の調理法を用いて、各調理野菜の水溶性ビタミン量を測定。その結果、浅漬やぬか漬には水溶性ビタミンが多く残存していることが分かった。
 ぬか漬にはビタミンB1が生の3~6倍、ビタミンB2が1~2倍含まれていた。また、浅漬にはゆでや炒めよりも多くの水溶性ビタミンが残存していることが分かった。
 宝田氏は「漬物はビタミンなどの栄養素を効率良く摂取できる食物であり、漬物のナトカリ比は惣菜やサラダと比べても、同程度または、より低い。“漬ける”は優れた調理法であり、適切に摂取することで漬物は栄養源となる」と話した。
[DXを見据えて] ▼堀江裕介工場長
 遠藤食品株式会社工場長の堀江裕介氏が「システムによる生産効率向上~DXを見据えて~」というテーマで発表。過去から現在の業務変化や、現状の同社におけるシステム事例、今後検討していく取組や業務について説明した。
 同社では受注業務について、従来の電話から、メールやFAXへの切り替えを案内することで、電話での注文がほぼ無くなった。最終的にはペーパーレス化を目指している。
 在庫管理については、工場と倉庫を往復して在庫を確認していたが、現在はシステムを構築し、製造効率の向上が図られている。在庫を一元管理し、社内で共有することで、社内連絡時間の削減に繋がっている。また受注から製造計画についても、在庫や受注状況が一覧で閲覧できるようになり、製造効率が向上した。
 一方、食品ロスの観点から、定番商品の適正在庫数を明示することが望まれるが、商品の動きが変動するため現状は難しく、季節や時期的に注文が多い商品の認識(経験)がデータだけでは伝わりにくいことなども課題となっている。
 堀江氏は、「変化に対応できないと生き残っていけない。DX化をさらに進めて漬物文化を次世代に繋げていけるよう取り組んでいきたい」と話した。
[乳酸菌の社会実装] ▼岩佐悟主任
 茨城県産業技術イノベーションセンター技術支援部フード・ケミカルグループ主任の岩佐悟氏が「茨城県が開発した乳酸菌の社会実装に向けた取り組み」というテーマで発表した。
 第28回漬物技術研究セミナーで発表した「乳酸菌は発酵漬物の香りをコントロールできるか?」の研究結果をもとに、香りの特徴を大きく変化させることが可能な乳酸菌5株(IBARAKI-TS1~TS5株)を発見。菌株の選択により、発酵漬物の香りをデザインすることが可能であることが分かった。
 その後、これら乳酸菌を特許化し、企業への提案と製品化支援を実施。多くの企業に知ってもらうため、学会発表や業界紙での発表など、幅広く周知を図った。
 個別企業への提案も行った結果、茨城県内の2社が乳酸菌使用の胡瓜発酵漬物や発酵甘酒を製品化した。
 岩佐氏は、「今後に向け、香り以外の健康機能性の解明や発表による高付加価値化や、さらなる製品化に向けた支援を行っていきたい」と述べた。
[塩類集積改善] ▼五十嵐学課長
 株式会社新進生産本部購買部課長で土壌医の五十嵐学氏が「レタスハウスでの塩類集積改善」というテーマで発表した。
 農業法人のハウス栽培で2作連続でレタスが収穫出来ないという話を2021年1月に聞き、現場を訪問し状況の聞き取りを行った。原因の仮説を立て、堆肥を使った微生物の多様性の改善を行ったものの収穫までには至らなかった。
 その後、土壌分析を行ったところ塩基飽和度、EC等が高く塩類集積であることが判明。灌水ホースで約3日かけて約20時間散水。緑肥ハウスにはソルゴーを使用し、播種後約60日間成長させてから圃場へ鋤き込みを行った。灌水除塩ハウス、緑肥除塩ハウスとも一部生育の良くない所もあったものの、4年目にして初めて収穫ができて、さらに無施肥によるコスト削減も実現できた。その後、2作目となる今年も順調に生育している。 
 五十嵐氏は「良い土が作れれば、美味しい野菜が育つ。良い野菜が採れれば、美味しい製品を作ることができる。本日ご参加の皆様に土壌医の存在を知ってもらい、良い土づくりに繋がれば嬉しく思う」と話した。
【2024(令和6)年3月11日第5156号1、10面】

<全国漬物検査協会> 2月28日に漬物技術研究セミナー 各社調査研究等も発表

 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は、2月28日に東京都江東区の森下文化センターにて、第32回全漬検漬物技術セミナーを開催する。
 ▼名称:第32回漬物技術研究セミナー
 ▼日時:2月28日(水)9:30~16:45
 ▼会場:江東区森下文化センター(東京都江東区森下3‐12‐17)
 ▼内容
 ○講演(講演順は未定、敬称略)
 ・内田樹香(クレオサニテーション事業部)「洗浄と衛生管理について」
 ・小暮始(宝化成社長)「輸入原料の現状と課題について」
 ・農林水産省(担当官)「食料・農業・農村政策について‐食料・農業・農村基本法の見直し‐」
 ・宮尾茂雄(東京家政大学大学院客員教授)「つけもの‐その魅力と健康力‐」
 ○研究発表(発表順は未定、敬称略)
 ・東海漬物 宝田美月「調理野菜の水溶性ビタミン含量と〝漬ける〟の優位性」
 ・新進 澁川寛行「Escoevo情報一元管理システムを活用した防虫管理」
 ・遠藤食品 堀江裕介「システムによる生産効率向上~DXを見据えて~」
 ・新進 五十嵐学「レタスハウスでの塩類集積改善」
 ▼申込〆切り:令和6年2月23日(金)申込み100名超の時は〆切りとする。
 ▼申込方法:
 ①本協会に電話、FAX、E‐mailにてセミナー案内、申込書を請求。
 ②申込書に氏名、社名、電話、FAX、E‐mail、懇親会出欠の有無を記入して参加申込み。
 ③申込み後の参加費の確認次第、「参加証・会場案内」をFAX、メールで送信する。
 ▼参加費用:1人1万円(別途、懇親会費3500円)
 ▼振込先:みずほ銀行深川支店 普通預金=1098946 一般社団法人全国漬物検査協会
 ▼連絡先:一般社団法人全国漬物検査協会 03‐3643‐0461、FAX03‐3643‐0462、E‐mail(aaz13340@nyc.odn.ne.jp)
【2024(令和6)年2月1日第5152号1面】

<全国漬物検査協会> 2月28日に漬物技術研究セミナー

 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は、2月28日(9時30分~16時30分)に東京都江東区の森下文化センターにて、第32回全漬検漬物技術セミナーを開催する。
 研究は発表5~6題。漬物関係者による研究発表の募集を行っている(2月初旬まで)。
 講演は2~3題(予定)。「洗浄と衛生管理について」、「輸入原料の現状と課題(仮題)」、「食が変わる(食料、農業、農村基本法の見直し)(仮題)」。
【2024(令和6)年1月11日第5150号15面】
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