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「梅」インタビュー2024

3月21日号 梅特集

中田食品株式会社 代表取締役社長 中田吉昭氏

若い世代にアプローチ
産地ブランドを守る
中田食品株式会社(和歌山県田辺市)の中田吉昭社長にインタビュー。今年の梅の開花状況や梅干しの売れ行きなどについて話を聞いた。業界の課題でもある若い世代へのアプローチとしてSNSの活用やキッチンカーのイベント出店など、新しい需要を開拓するための取組を推進して梅の魅力を広く発信していく方針を示した。(千葉友寛)
◇   ◇
 ‐今年の開花状況は。
 「開花は10日か2週間くらい早かった。花が早く咲くと養分が花に届かず結実が良くない、と言われており、開花が早い年は不作になる年が多い。これからの天候にもよるが、作柄の見通しはあまり良くない」
 ‐梅干しの売れ行きは。
 「全体で見ると、10月までは前年と比べても良かったが、年末と年明けは少し落ちている。当社の12月と1月の数字は103%と好調で、紀州梅の定番商品が安定した動きを見せている。価格訴求型の商品も出てきており、競争は厳しくなっている。色々なものの価格が上がっている中で一番削られやすいのが食費。その中でも梅干しは単価が高いので手に取ってもらう数が減ってしまう可能性がある。そのような中でも当社の商品が支持されていることには大変ありがたく思っている」
 ‐需要の開拓について。
 「当社では若い人に日々の食事の中で取り入れてもらうための提案をSNSを活用して行っている。そのまま食べるだけではなく、料理素材や味のアクセントなどとして利用してもらえれば需要が増えると考えている。梅味が好きだという若い女性も多いので、まだまだ伸び代はあると思っている。2月に初めて開催されたおにぎりサミットでは、当社もバレンタインに梅を使用した『バレンタインおにぎり』を提案した。おにぎりは誰でも作れるし、大切な人との縁を結ぶ御結びにもなる。今後もおにぎり協会と協力して梅の魅力を発信していきたいと考えている」
 ‐昨年8月に組合の青年部組織である若梅会が音楽イベントに出店して梅をPRした。
 「今年もサマーソニックに出店する予定だと聞いている。若い人が集まるイベントなので紀州梅干し普及の良い機会になると思う。当社としてもイベント等にキッチンカーを出して梅干しをPRしたいと考えている。カレーやうどんのトッピングの他、梅を素材にしたケーキやスイーツのソースなど、食べ方提案を行って裾野を広げたいと思っている。イメージとしては梅の宣伝カーで、現在は当社社員を対象に考案したレシピの試食やオペレーションのテストを行っている。このような取組を通じて少しでも梅が普及してくれれば嬉しい」
 ‐間近に迫った物流問題について。
 「早めに出荷を行うなど、計画的な発送が求められる。運べる量や時間の制限がある中で、計画生産、計画出荷を行うため、迅速に対応しなければならない。お客様のニーズを早くとらえて、必要とされるところにそのタイミングで届けられるように準備しておくことが重要だ」
 ‐6月から漬物製造業が許可制になる。
 「梅干し業界にも影響があると思っている。梅干しも農家の方が商品をパックに詰めて販売しているケースがあるが、基準を満たした衛生的な施設や設備で漬物を製造しなければならなくなるため、製造許可が下りない事業者も出てくると見ている。そうなると、道の駅や直売所などで販売されている商品がなくなる可能性もある。産地ブランドを守るという意味でも、食品安全は食品メーカーが守らなければならない一番の責務。組合加盟企業はすでに大半の企業が製造許可を取っているが、その時代その時代で要求されるものに対応できなければ事業を継続することができない。我々としては法令を遵守し、お客様に満足していただける商品を提供し続けていくことが大きな課題だ」
【2024(令和6)年3月21日第5157号2面】

中田食品

紀州みなべ梅干協同組合 理事長 殿畑雅敏氏

組合のメリットは情報提供
産地一体で市場拡大へ
紀州みなべ梅干協同組合殿畑雅敏理事長(株式会社トノハタ社長)にインタビュー。梅干しの売れ行きや産地の在庫状況などについて話を聞いた。6月に漬物製造業の許可制度が完全施行となるが、組合に加盟していれば情報が提供されて準備することができると加盟のメリットを強調。また、全ての問題を解決する有効な手段として市場拡大を掲げ、将来に向けた取組を行っていることを明かした。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の開花状況は。
 「3週間くらい早い。昨年は6月の台風で梅が落とされて漬け込み量は平年並みだったが、作柄としては豊作傾向だった。開花が早い年は気温が上がらず、交配も進まないので実がつかない。3月下旬から4月上旬にかけて着果状況を見ないと分からないが、今年の作柄は良くないとの見方が多い。ただ、不作になるにしても、どこまでの不作になるかはこれからの天候次第。5年前は半作に近い凶作となった。それが1割減、2割減で収まるのか、現時点では分からない」
 ‐梅干しの売れ行きは。
 「昨夏は猛暑で残暑も長かったので売れ行きは堅調だった。秋以降も大幅には落ちていない。中国梅も比較的堅調に動いた。コロナの3年で需要が増えたものや逆に減ったものもあるが、梅干しにおいては変化がなかった。梅干しの需要は急に拡大したり、縮小したりするものではなく、安定した市場だと言える」
 ‐漬物製造業の製造許可制度が完全施行となる。
 「組合に加盟している企業は組合を通じて事前に告知されているので、すでに準備している。組合に入っているメリットの一つとして、法律や衛生規範などが変わる時、行政や関係団体から情報が提供され、会議等で集まった際にレクチャーしていただける、ということがある。事前に情報が入れば理解を深めることもできるが、組合に加盟していない事業者は情報が入ってこない。保健所も人手不足なので全ての事業者をフォローすることは難しいだろう。組合に入っているのと入っていないのとでは大きな差がある」
 ‐物流問題や原料の確保など多くの課題がある。
 「農家の生産意欲を維持するためにも原料価格を安定させる必要がある。その他、様々な課題があるが、それらの課題を解決する最も有効な手段は市場を拡大させること。一社の力で市場を拡大させることは困難だが、団体や業界が力を合わせれば大きな力になる。和歌山にはみなべと田辺でそれぞれ梅干組合があり、それに行政、JA、生産者も加われば一体となって市場拡大という大きな目標にチャレンジすることができる。梅干しの場合、輸出は難しいので目指すのは国内市場。梅干しは日本人の生活に広く浸透しているが、まだまだ食べていない人も多い。特にこれからの需要者となる若い人へのアプローチが重要なのだが、明確な購買動機がないと中々購入にはつながらない。梅干しは体に良さそう、というイメージがあるのは良いことだが、自分の体や健康を意識する年齢の方でないと健康機能性を訴求しても効果が弱い。我々は薬事法の関係で健康機能性をPRすることが難しいのだが、薬事法に抵触せずその認知を広める活動を考える必要がある。和歌山県漬物組合連合会では毎年、小学生を対象に『梅干しで元気〓キャンペーン』を実施し、食育活動を行っている。子供の時に梅干しを食べたり歴史を学ぶ機会を作ることで、20年後、30年後にお客様になる可能性が出てくる。地道な活動ながら今後も産地を上げて取り組んでいく」
【2024(令和6)年3月21日第5157号3面】

紀州みなべ梅干協同組合 https://wakayama.tsukemono-japan.org/list_minabe.html

紀州田辺梅干協同組合 理事長 前田雅雄氏

「一日一粒」テーマに
販売面で生産者の不安払しょくへ
紀州田辺梅干協同組合の前田雅雄理事長にインタビュー。今年の梅の開花状況や販売動向などについて話を聞いた。紀州では昨年まで3年続けて良い作柄が続いており、原料面は安定している。その一方で農家は原料価格などに不安を抱えており、生産意欲を維持するためにもメーカーが販売を強化していくことが重要と強調。今後も「一日一粒」をテーマに活動していく方針を示した。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年の開花状況は。
 「今年は開花が例年より10日くらい早かったのだが、その後は寒い日が続いて受粉が進まなかった。梅林によっては開花期がずれて予定より早く梅まつりが終わったところもある。紀州では開花が早い年は不作になると言われており、作柄においては不安要素が多くある」
 ‐梅干しの販売状況は。
 「年々減少している印象だ。特に若い人の梅離れ、漬物離れは強く感じている。私は一日一粒をテーマに取り組んできたが、これからもその方針を継続し、青年部組織である若梅会と協力しながら若い人に食べてもらったり、梅のことを知っていただく機会を作っていきたいと考えている」
 ‐産地在庫は。
 「メーカーが抱えている原料と農家が抱えている原料があり、昨年まで3年連続で平年作以上の作柄だったことや昨今の売れ行きなどを見ても、それなりの在庫が残っていると見ている。農家が漬けている原料は大粒で等級の良いもので、メーカーが漬けているのは小粒傾向で普及品の原料。サイズや等級によっても異なるが、全体的にタイトになっている状況ではない。昨年の収穫が終わった時に農家の方から、今年も引き続き梅を買ってくれるのか、と質問された。これまで購入していた業者が買い切れなかったケースもあるようだ。農家も収入や将来のことについて不安を持っている。我々としては農家の方が安心して梅を生産できるようにしっかりと販売につなげて良い循環を作っていくことが重要だ」
 ‐梅干しの需要は。
 「日本は人口が減少し、少子高齢化も進む。年を取ったら自然に食べるというものでもなく、若い時から食べる習慣を作ることが将来の需要につながるため、情報を発信するだけではなく、実際に食べる機会を作ることが重要だ。昨年8月に若梅会が音楽イベントに出店して梅のPRを行い、多くの関心を集めた。今年も出店を予定しているので期待している。また、田辺市では梅酒で乾杯条例を制定して10年が経った。今後も海外を含めて幅広い活動を行っていく方針で、我々も協力して盛り上げたいと思っている」
 ‐今後の見通し。
 「コロナが明けて不調だった業務用や土産関係が戻りつつある。昨夏は記録的な猛暑で残暑も長く販売面においては好機となったが、期待していたほどの売れ行きにはならなかった。長期予報では今年の夏も暑くなるとのことで、梅は塩分補給や熱中症対策として浸透しているイメージを追い風にできればと思っている。梅を毎日食べ続けていただければ市場の土台が大きくなり、将来の需要開拓にもつながる。生産者、加工業者、行政が協力して地道ながらもPR活動を推進しつつ、安定した産地作りと梅の更なる普及に向けて尽力していきたい」
【2024(令和6)年3月21日第5157号4面】

紀州田辺梅干協同組合 https://kishu-tanabe-umeboshikumiai.com/
紀州うめまさ http://www.umemasa.co.jp/

若梅会 会長 濱田朝康氏

「梅と広報」など3つのテーマ
共通販売できる商品を開発
株式会社濱田(濱田洋社長、和歌山県田辺市)の濱田朝康専務取締役にインタビュー。同氏は紀州田辺梅干協同組合(前田雅雄理事長)と紀州みなべ梅干協同組合(殿畑雅敏理事長)を合わせた青年部組織「若梅会」の会長を務めており、今年1月に2期目(1期2年)を迎えた。今期も引き続き「梅と食」、「梅とスポーツ」、「梅と広報」をテーマに、それぞれのグループに分けて活動を行う。2025年大阪・関西万博も視野に入れながら梅の魅力を広く発信する方針だ。
(千葉友寛)
◇    ◇
 ‐今年1月に2期目のスタートを切った。
 「1期目は、梅の情報を発信するプラットフォームの構築とイベントへの参加及び実施に注力した。昨年は8月に大阪で開催された音楽イベント『サマーソニック』に出店して梅を使ったうどんやおにぎりを販売して盛況となった。今年もサマーソニックに出店する予定で、若い人にアプローチする。予算面についても紀州梅の会からサポートしていただけることになった。今期も新しい3人の副会長が今期の活動のテーマとして掲げた『梅と食』、『梅とスポーツ』、『梅と広報』の3グループのリーダーとして、それぞれの活動を行う。また、2年後に迫った大阪・関西万博に出展する和歌山県ブースでも何か関われないかという話もあるので、引き続き梅のPRに力を入れていく」
 ‐ニーズが多様化している。
 「若い世代もイベントや特別感のある売場では価格を気にせず購入してくれる。ライトユーザー向けに入りやすい価格帯の商品も必要だが、シーンによっては高付加価値商品も支持される。そのような意味では、業界は消費者のニーズを探れていない部分があると思う。大事なことは消費者の声を聞きながら対応していくことだと思っている」
 ‐具体的な取組について。
 「みなべと田辺の梅干組合から、加盟している全組合企業が共通して販売できる商品の開発を依頼されている。たくさん開発をして数を打つのではなく、年代、価格帯、どのような売場で販売するかなど、ターゲットを定めることが重要。そこから新しい需要を開拓していきたいと考えている。以前に紀州みなべ梅干協同組合と和歌山高専が梅酢ゼリー『梅アクティーボ』を共同開発したのだが、商品のポテンシャルの割にはあまり売れていないように感じている。開発までは良かったが、商品のブランディング、広報が不足している。過去、梅業界は広報しなくても注文が入ってくる良い時代があった。その良かった時代の受け身の姿勢がまだどこか残っている気がしている。個人的には良い商品だと思っているので、マーケティングをしっかり行ってこちらから仕掛けていくなど、『梅アクティーボ』を売るチャレンジをしたい。それが若梅会会員のマーケティングの勉強になればと思っている。共同商品のPRがうまくいけば会社の規模に関係なくその商品を扱う全ての会社にメリットが出てくる。スポーツの大会やイベントなどで提供するなど、テーマの一つである『梅とスポーツ』の活動で取り組んでいきたい」
 ‐梅と広報について。
 「間もなくホームページができる。今行っているSNSなども連携し、広く梅の情報を発信していく。また、以前に農家の方が梅を生産する様子がテレビで放映されて大きな反響があった。私たちも梅干しができるまでの様子を動画で見られるようにして、関心を持っていただくためのツールにしたいと考えている」
【2024(令和6)年3月21日第5157号4面】

濱田
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