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塩 インタビュー2023

7月21日号 塩特集

株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏

7月11日に創業50周年
“地産地消”訴求しブランド化

 株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを含ませた塩づくり“差塩製法”を継承した「塩づくり」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来に繋げている。同社は赤穂化成株式会社が製造する「赤穂の天塩」および関連商品の販売会社である。「赤穂の塩づくり」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社では、今年7月11日に創立50周年を迎えた。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、今年から4年間をかけ、“赤穂の塩作り”の啓蒙を行っていく。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や50周年の取組について聞いた。(藤井大碁)
‐塩の動き。
 「6月については、7月からの値上げを前にした駆け込み需要と、梅の需要期が重なったこともあり好調に推移した。今年は梅が豊作で、価格が安かったこともあり、梅が店頭に並び始めてから、それと連動するかたちで塩の動きが良くなっている。暑い夏が予想されているので、さらに塩の需要が伸ばせるよう積極的な販促活動を展開していく」
‐値上げの状況。
 「輸入する天日塩が大幅に上昇し電気代などの燃料代の高騰も影響が大きいため、7月より2019年以来となる値上げを実施した。塩業界だけの値上げではないので、影響は一部だと考えているが、今後の動向を注視していく」
‐業務用の引き合いが増えている。
 「赤穂の天塩を使用することにより自社商品の味わいが変わる、という認識が広がっている。単に焼塩でも、にがりの量のバランスによって、食品に与える特性が大きく変わる。企業の研究が進み、こうした特性を理解して赤穂の天塩を使用してもらえるケースが増えている」
‐塩の購入単価が上がっている。
 「塩は一世帯あたりの購入数量は減っているが、購入単価は上がっている。健康への意識や美味しさといったこだわりから付加価値の高い塩を選ぶ人が増えていると思う。マーケティングに力を入れることにより、こうした需要を的確に捉え、消費者に支持される商品を開発していく。地方では一世帯当たりの消費量は、都会の数倍の需要がまだある。販売エリアにおける特徴を考慮しながら、メリハリのある、販売施策を実施して売り上げを維持したいと考えている」
‐塩にも地域ごとの特性がある。
 「塩はその土地の海水や製法などの違いで、それぞれがオリジナルな特徴を持っている。原料でも海水には産地表示がある。単に海水は日本全国どこでも同じという訳ではない。その部分をもっと消費者にアピールすることでブランドの成長に繋げたい」
‐食育教室やイベント開催を積極的に実施している。
 「昨年から塩づくり体験の企画をいろいろな場面で開催している。消費者の方に“塩とは?”をもっと知っていただきたい。人が生きるためには、絶対に必要なのは分かっているのだが、それがどのように作られ、何が大切かを知っていただくことで、単に減塩という風潮が進んでいる状況に歯止めをかけたい。戦略として地道な地上戦ではあるが、塩づくりに参加して、“よかった”のお声を頂く機会は多く、もっと多くの方々に参加してもらえるよう継続していきたい」
‐50周年を迎えて。
 「私自身が塩の街・赤穂で生まれ、幼少の頃から塩田の風景を見て育ってきた。塩の街に生まれ、塩の会社にいる身であり、自分の人生の役割は塩の訴求をしていくことだと理解している。これからは今までと矛先を変えて、塩の価値や魅力を世の中に発信していく。地産地消のイメージを訴求し、フランスの“ゲランド”に負けないくらいのブランドに“赤穂の天塩”を育てていきたい。そのために大切なのは美味しさと、情熱を持って伝えられる語り部の存在であり、そうした取組にも力を入れる。赤穂の塩作りの歴史400年、天塩50周年を機に、塩の可能性を信じて、その価値を改めて発信していく」
【2023(令和5)年7月21日第5135号10面】

天塩

3月21日号 塩特集

一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会 代表理事 青山志穂氏

青山代表理事
漬物と塩の共創を 
減塩より「適塩」推進 
 一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事の青山志穂氏にインタビュー。塩は人間になくてはならないもので、食品の味付けに必須の存在である。しかし、近年の減塩ブームが「塩=悪」というイメージを持たせ、塩の摂取を控える消費者が出てきている。青山代表は、2月の全国漬物検査協会の漬物技術研究セミナーで講演し、「適塩」推進と、漬物業界がもっと塩に関心を持つことで共創できると訴えた。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇  ◇
 ー塩に関心を持ったきっかけ。
 「大学を卒業後、食品業界に携わりたいという思いから大手食品メーカーに入社し、商品開発やマーケティングを学んだ。山形のイタリアン『アル・ケッチァーノ』の奥田政行シェフに出会い、塩が食材の味を引き立たせることに驚き、塩のことをもっと知りたいと思った。沖縄に移住し、塩の販売店へ転職、塩の買い付けから販売まで担当させてもらった。そこで得た人脈が、今の仕事に活きている。塩を販売するよりも、塩の魅力を啓蒙したいという思いが高まり、協会を設立した」
 ーソルトコーディネーターとは。
 「ジュニアソルトコーディネーター、ソルトコーディネーター、シニアソルトコーディネーターの3つを用意し、順に難易度が高くなっていく。ジュニアは塩の基礎知識(原料・製法・特性)や歴史など、入門編。ソルトコーディネーターは塩と食材の相性についてグループディスカッション付きで学ぶ。塩と美容は女性受講者の関心が高いテーマだ。この2つはオンライン講座だが、シニアは講師として塩の魅力を語れるまで知識とプレゼン力を身に着けてほしい。そのため、対面で2日間じっくり受講し、実技試験も実施する。シニア取得者の経歴は、ダイビング好きで大の海好きになり塩に関心を持った方がいたり、美容から入ったりと幅広い。和歌山の梅干メーカーの方までいる」
 ーソルトコーディネーター取得のメリットは。
 「塩への理解が深まることが1番。当協会のウェブサイトでコーディネーターの紹介を行っており、講師として講演依頼を受けることもできる。また、コーディネーターが在籍のお店も紹介しており、ネットコスメショップや焼肉屋、塩がコンセプトのレストランまで閲覧できる。ウェブサイトでは、コーディネーター同士が交流できる特別ページもあり、取得後も協会の担当者だけでなく、取得者同士でフォローしあえる」
 ー塩のトレンドは。
 「『減塩市場』は2015年から頭打ちで、実は思ったほど伸びていない。食品メーカーとしては、塩チョコ、塩やきそばを発売し、定番化している。環境への優しさをアピールする製塩メーカーは、パッケージにもこだわっている。減塩よりもむしろ『適塩』の時代が来ていると感じ、塩業界の関係者も同じ方向を向いている。お肉と塩、そばと塩など食材と合わせる店が増えている。味の相性はもちろん、塩の粒の大きさも重要で、味の濃いお肉は粒が大きいのがおすすめだ」
 ー漬物における塩の役割
 「漬物の塩は『粗塩』が良いと一般的に言われる。だが粗塩とは正式な名称でなく、塩化ナトリウムの純度が低い塩を指す。にがり成分やマグネシウム、カルシウムが野菜に含まれるペクチンと結合し、マグネシウム塩やカルシウム塩を作り、漬物の歯切れが良くなる。漬物の野菜には豊富にカリウムが含まれており、ナトリウムの排出を促し、血圧上昇を抑制する働きがある。『漬物は塩分が高いからダメ』と決めつけるのではなく、ぜひ理解してほしい。吟味した塩を使うと、食への意識が高い層の支持がより得られそうだ。漬物と塩が共創することで、両者への関心を高められる」
【2023(令和5)年3月21日第5123号8面】

日本ソルトコーディネーター協会


株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏

7月で創業50周年
”赤穂の塩作り”啓蒙幅広く

 株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり〝差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社では、今年7月11日に創業50周年を迎える。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、今年から4年間をかけ、”赤穂の塩作り”の啓蒙を幅広く行っていく予定だ。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や50周年の取組について聞いた。
(藤井大碁)
 ◇    ◇
――足元の状況。
 「昨年12月までは前年並で推移していたが、年明け1月、2月は塩の動きが良くない。消費者物価指数が上昇し、節約志向が高まっている。塩だけではないが、余計な物は買わないという消費行動が浸透している。また卵の高騰や不足により料理メニューが限定されていることもマイナス要因となっている。例年春先から需要が増え、6月には梅の漬け込みも控えているので、動きが活発化していくことを期待したい」
――値上げについて。
 「塩業界も製法により差はあるがエネルギーコストや物流費の高騰により大きな影響を受けている。弊社においても、輸入する天日塩が大幅に上昇し、電気代などの燃料代の高騰も影響が大きい。そのため今年7月に2019年以来の価格改定を実施する予定だ」
――厳しい環境下、どのような施策があるか。
 「塩は一世帯あたりの購入数量は減っているが、購入単価は上がっている。量をたくさん買う人は減少しているが、健康性や美味しさといったこだわりを持って、付加価値の高い塩を選ぶ人は増えていることが分かる。マーケティングに力を入れ、消費者一人ひとりが何を求めているか、細分化したニーズを汲み取り、商品開発に生かしていく」
――業務用の引き合いが増えている。
 「SDGsなど環境配慮の流れが強まる中、自然の力を利用して作る天日塩は環境への負荷が少ないということで、我々の塩を選んでもらえる機会が増えている。また価格と品質の二極化が進む中で、塩で差別化を図り、製品に付加価値を付けようとする食品メーカーからの引き合いも多い」
――キッチンカーの販売やイベントに積極的だ。
 「子供からシニア層まで幅広い年齢層に”赤穂の天塩”を使用した料理を食べてもらう貴重な機会になっている。食べてもらうだけでなく、対話やサンプリングをすることで消費者ニーズを汲み取ることもできる。塩や調味料は、消費者が使い方を認知しなければ購入に結びつかいないため、売場に並べているだけでは消費は増えない。イベントで塩や調味料の使い方を説明しながら草の根的に広めていく必要がある」
――50周年を迎える。
 「おかげ様で7月11日に50周年を迎える。これまで弊社を支えてくれたお得意様や取引先様、その他関係者の方々に深く感謝を申し上げたい。また2026年には、赤穂で塩田が開墾されて400年を迎える。弊社では今年から2026年までの4年間をかけて、赤穂の塩作りの歴史や赤穂という場所について認知してもらうための活動を行っていく予定だ。イベント出店やキャンペーンなども積極的に行い、50周年の感謝の気持ちを伝えていく。また〝天塩ファン〟の方との交流にも力を入れる。ファンの方を集めて天塩のことをもっと知ってもらうイベントを4年間通して開催し、さらにファンの方との絆を深めていく」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】

電子版 Web展示会 天塩

マルニ株式会社 代表取締役社長 脇田慎一氏

小袋塩強化で増収増益 7月から価格改定を決断
 昨年、特殊製法塩協会4代目会長に就任したのがマルニ株式会社(大阪府八尾市)の脇田慎一社長だ。異業種で磨いた経営手腕を買われた脇田社長は2017年にマルニへ入社し、2020年に社長就任。小袋塩の設備投資を推進し売上拡大を実現した。塩業界の競争やコスト上昇への考えを聞いた。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
 --略歴を。
 「パナソニックで35年間働き、うち20年以上を海外で過ごし、各地の現地法人経営に携わってきた。2017年、日本帰国を機に人材バンクに登録したところ、マルニからオファーがあり入社した」
 --経営課題とは。
 「マルニは1962年から『エンリッチ塩』を発売、業容を拡大してきた。しかし2002年に塩の専売制度が廃止(自由化)され新規参入が増え競争が激化したこと、減塩志向が強まったことから、売上を大きく落とし赤字経営が続いていた。一方で小袋塩の注文は増えていたものの、生産設備の能力不足からお断りせざるを得ない場面が度々発生していた。そこで小袋塩の需要増を見込んで工場拡張、設備投資を行った」
 --小袋塩の動き。
 「小袋の受注は順調に増え、本社移転等の経営改革実施により黒字転換できた。弁当や惣菜に添付する利用が多くコロナ禍でテイクアウトやデリバリーが増加したのも当社にとって好機となった。工場拡張・設備投資により生産能力を2・5倍程まで強化したのだが、それでもフル稼働という状態が続いている」
 --選ばれる理由。
 「味・品質は当然として、小回りが利く点を評価頂いている。設備投資は大型機1台でなく小型機を複数導入する形とした。小袋塩のフレーバーや外装など要望に応じ、小ロットで対応可能だ。授業員30人規模なので意思疎通がスムーズで、依頼対応の速さもある。そうして実績が増えてきたことにより問屋・商社様からも小袋塩といえばマルニと定着して依頼が舞い込む好循環が生まれている」
 --今後の方針は。
 「売上は改善したが、それと同時に原料塩や各種資材、電気代などコスト上昇が襲いかかっている。このままコスト増が続けば再び赤字転落は避けられず、今年7月から価格改定を実施する決断をした。しかし中外食業界においても他のあらゆるコストが上がっている中、小袋塩がカット対象になることも出てくる。この状況をただ受け入れるのではなく攻めの姿勢で、来年からは第2期工事としてエンリッチ塩生産設備の刷新に取り組む。小袋塩の生産能力に余裕を持たせるとともに『エンリッチ塩』のリニューアルやSDGs対応も進めていく計画だ」
 --御社の強みは。
 「製造、開発、営業、総務など各部署に30年以上勤続しているプロフェッショナルが居るのは、塩について素人である私にとって大変ありがたかった。課題と目標を示せば具体策は彼らが自ら立案し実践してくれる。私が前職で習得した松下幸之助の全員経営を実践できる環境が揃っていた」
 --特殊製法塩協会会長として。
 「協会が第一に掲げるのが『適塩』の普及。塩が悪者扱いされることは私達にとって市場縮小に直結する。何より、誇りを持って作っているものなのだからその価値をしっかり伝えていかなければいけない。人が集まるイベントへの協賛など、塩は適切に摂るべきものであると伝えていきたい。会員の意見を汲み取り関連省庁や塩に関わる業界団体が集まる全国塩業懇話会へ伝えていくことも重要だ。燃料や資材コストの上昇による価格改定、ゼロカーボンへの対応など、特殊製法塩業界の実情に寄り添い、サポートしていける協会でありたい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】


伯方塩業株式会社 代表取締役社長  石丸一三氏

業務筋のシェア拡大強化 価格以上の価値あるブランドへ
 伯方塩業株式会社(愛媛県松山市)の石丸一三社長へインタビュー。2023年度は創業50周年を迎える年であり、中期経営計画の最終年度となる。コロナ下で外食向けの出荷減や、現在の諸コスト高騰といった困難に直面しながらも国内シェア拡大に力を注いできた。今年7月には価格改定を実施するが、10年ビジョン『世界で1番有名な塩メーカーになる』に基づくブランド育成へ取り組むことで、価格以上の価値を提供していく。
(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 --創業50周年の取組は。
 「対外的には、キャンペーンや広告等で発信し、塩について考え、関心を持って頂く機会を作っていく。社内的には、一過性のイベントで終わらせずこれを機にさらなる飛躍が目指せるような変革の年と位置づけている」
 --中期経営計画の達成状況は。
 「営業面では、新型コロナウイルスの影響から外食店など業務筋の動きが鈍り、目標から遅れている。しかしその一方で新規にビールのノベルティ採用や、コンビニPBの原料採用など大口の供給が始まっている。ポストコロナの時代へと移れば、この3年間の取組が芽を出していくと期待している」
 --新規取引獲得に積極的だ。
 「当社が成長していくには国内シェアを拡大することが必要になる。特に業務筋にはまだまだ伸びしろがある。中外食向けの『味香塩』シリーズについても新規取引獲得の武器として、提案先を広げている」
 --価格改定について。
 「今年7月出荷分より価格改定を実施する予定。輸入原料の調達コストや燃料代、輸送費などが上昇している。合理化を尽くしてきたが、これ以上の自助努力による吸収は不可能と判断した」
 --価格改定の進捗は。
 「家庭用は大半のお取引先様にご理解いただけているのだが、その先に居る消費者の目は厳しい。固定ファンを手放さず、売場を見て決める浮動層をどう取り込めるかが重要となってくる。現在は若い世代へ向けてWebでの発信に力を入れている。『伯方の塩』の宣伝だけでなく塩そのものへの理解関心を引き出せるよう、戦略的な発信を模索している」
 --業務用は。
 「当社だけでなく食に関わるあらゆるコストが上昇している状況下、全体的な原材料見直しをされているお客様もいる。そういう時に、伯方の塩は代えずに今まで通り使おうと思ってもらえなければいけない。そのためには対消費者のブランド育成や、50年間大切にしてきた誠実できめ細かい対応をさらに徹底することが必要」
 --ブランドについて。
 「2019年度からの10年ビジョンとして『世界で1番有名な塩メーカーになる』を掲げている。宣伝をバンバン打つということではなくて、1番の核は『社員が自らの仕事に誇りを持ちイキイキと働ける会社を目指そう』ということ。このビジョンに向かって取組を進める過程や結果を通して、顧客サービスの向上や地域社会への貢献を達成し、周囲からの評判が上がり、自然と伯方塩業というブランドが認知されることを目指している」
 --脱炭素が求められている。
 「自然塩存続運動から生まれた当社にとって、環境保護への取組は重要課題。現在は塩水を煮詰める釜を入れ替え熱効率を改善するなど設備更新に取り組んでいる。将来的にはA重油からより効率の良い燃料へ切り替える、工場の太陽光発電を増設する、発生したCO2を有効利用するなど様々な観点からカーボンニュートラルを実現し、世界に誇れる塩メーカーを目指したい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】


鳴門塩業株式会社 専務取締役 石井英年氏・取締役営業本部長 青木貴嗣氏

二次値上げ95%完了へ 安全安心な国産塩の価値発信
 鳴門塩業株式会社(安藝順社長、徳島県鳴門市)は、年間最大20万tの製塩プラントを有する国内製塩大手である。昨年4月に業務用塩を1㎏当たり10円以上、11月に同14円以上の値上げを実施。年に2度の値上げは塩業界として極めて異例かつ、値上げ幅も過去最大である。石井英年専務と青木貴嗣部長は石炭価格を筆頭にコスト上昇が自助努力の範囲を超えていることを指摘。安全安心な国産塩の供給には、適正価格の追求が必要であると訴える。(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 --値上げの背景は。
 石井専務「当社を含め日本塩工業会3社は膜濃縮製塩法を採っている。これはイオン交換膜という特別な装置で海水から塩の成分を集めて濃い塩水を作り、最後にそれを燃料で煮詰めて塩にするというもの。製塩時の燃料、人件費、設備維持修繕費や輸送費が国産塩の価格を決定していることになる。これらのコストが一斉に上がっているのは皆様もご承知の通り。合理化で吸収できる範囲を越え、昨年11月に1㎏当たり14円以上の値上げを実施する決断へ至った。1年で2度、大幅な値上げとなり、ご負担をおかけするが理解いただきたい」
 --進捗は。
 青木部長「年度内に95%以上のお客様において値上げが完了する。輸入塩への切替を検討されるお客様でも、国産塩の長所をしっかりお伝えすることで納得いただいている。一方、他の国産塩メーカー様も同様に価格改定をされているようで、当社へ代替の相談をいただくこともあるのだが、提示される単価では請けられないケースが増えているのが正直なところ」
 --国産塩の長所とは。
 石井専務「一番は安全安心であること。イオン交換膜は分子レベルで海水を処理するので目に見える異物は勿論のこと、海水中に含まれる環境ホルモンやダイオキシン、ヒ素などの物質も除去できる。仮に海が汚染されていたとしても安全ということになる。この製塩法は日本が生み出したものであり、世界に誇れる技術だと言える。また万が一のクレーム発生時にも国産であれば迅速な対応が可能で、あらゆる点でリスクを減らせる」
 --御社ならではの強みは。
 青木部長「当社は2002年に医薬品製造許可を取得し、医薬品GMP管理のもと、日本薬局方塩化ナトリウム(医薬用原薬)を生産するようになった。医薬品の製造は食品よりさらに厳しい管理が求められる。この経験が食品製造においても意識を高め、衛生管理レベルは格段に向上している」
 --家庭用塩の値上げは。
 石井専務「業務用と同じく価格改定を実施する方針。ただ家庭用の場合、一度棚落ちしてしまうとその後の再導入が難しく、長期的な損失が発生してしまう。塩は日配品等と違いサイクルが長いので慎重にならざるを得ない。時期や改定率を検討するとともに、価格以外の価値を訴求をしていく努力が必要と感じている」
 --塩の価値について。
 青木部長「日本独自の製塩法による品質や安全性の面の発信、またカーボンニュートラルで環境に優しい塩作りを実現し、積極的に国産塩を選んでいただける未来を作っていきたい。国産塩はこれまで食のインフラ的側面が強く、またこれほど強烈なコスト上昇は今までなかった。困難な状況だが、塩の価値を見つめ直し発信する機会になったと前向きに捉えていきたい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号10面】


株式会社九州ソルト 代表取締役社長 髙本公利氏

塩の売上キープが課題 食品以外にも積極的に着手
 株式会社九州ソルト(福岡県福岡市東区)は、平成8年(1996年)2月に九州の塩元売9社により設立された「九州塩業協業組合」を礎とし、平成13年(2001年)10月に現行の株式会社に組織変更。同社は昨年6月、髙本公利氏が代表取締役社長に就任した。髙本社長に九州の業界動向、同社の今後の方針などについて話を聞いた。
(菰田隆行)
◇    ◇
 ‐九州業界の現況。
 「九州はそもそも農業や水産業が盛んで、漬物や海産物の加工品に塩を使用する頻度は高いが、天候や季節に大きく左右されやすい。また、九州の西海岸での漁獲高は年々減少しており、熊本県の阿蘇たかなも、農家の高齢化、担い手問題で収穫高の減少が大きく影響してきている。昨今では塩蔵から冷凍保存へと変わってきていることもあり、加工食品向けの販売をどうキープしていくか、どうやって伸ばしていくのかが課題だ」
 ‐塩以外の製品動向。
 「現在、塩と添加物等の一般商品の販売比率は7‥3ぐらいだが、それを6‥4くらいに持っていきたいと考えている。一般商品は糖類、グルソー、うまみ調味料、ビタミン剤、クエン酸などになるが、他にも食品添加物をはじめ工業用薬品等も増やしていきたいと考えている。ただ、それらの製品は輸入に頼っているので価格も不安定であり、どう対応していけるかがこれからの検討課題だ。工業用では、クリーニング業向けで水処理用の塩の取引からクリーニング用の糊として使用される澱粉、現在ではアルカリ剤での実績も上がってきている。外の業種でも横に広げられる製品を見つけていきたい」
 ‐SDGsへの対応。
 「営業車はハイブリッドなどの低公害車を導入しているが、配送トラックもアイドリングストップ機能付きトラックとか、ハイブリッドトラックなどの低公害車の導入を検討しなければならないと考えている。今後は、SDGs対応した商品が求められてくるので、対応商品の取り揃え、対応した容器や包材なども取り扱っていきたい。なかなか難しい課題ではあるが、できるところからやっていきたいと考えている」
【2023(令和5)年3月21日第5123号11面】

九州ソルト HP
https://www.kyushu-salt.com/

株式会社ソルト関西代表取締役社長 山本博氏

約200社の塩が値上げ 脱炭素を製配両面で議論尽くす
 株式会社ソルト関西(山本博社長、大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された塩の元売企業。山本社長は、全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長、そして塩の各団体が垣根を越えて業界を取り巻く共通課題へ取り組むべく結成された全国塩業懇話会初代会長の要職を務めている。元売企業と業界団体両方の立場から、塩の価格改定へ理解を求めるとともに、共通課題である脱炭素実現への取組を語った。
(大阪支社・小林悟空)
◇    ◇
 --塩の値上げについて。
 「業務用の国産塩値上げが昨年中に出揃い、現在はほぼ全てのお取引先様へご案内し、了承いただけた。塩は製造時の燃料代や人件費、輸送費などが価格決定の要素であり、その全てが上がっている。年に2度の値上げというのは初めての事態だったが、切羽詰まった状況であることを真摯に説明してきた。各社で値上げ幅が似通っていることもあり値上げによる切り替えなどもほとんど起こらなかった。現在は業務用の値上げが済み、家庭用塩の値上げ商談が始まっている」
 --家庭用塩の値上げ状況。
 「当社が取引する約200社の大半が値上げされ、大手各社は揃って7月に実施される。家庭用塩は製法が輸入天日塩を国内で再加工するものや、グルソー等添加物を加えたもの、岩塩など製法や原料がまちまちで値上げ幅にも差はあるが、この物価上昇の影響を受けていない製品は皆無と言える状況だ」
 --御社の業績は。
 「塩の出荷量はほぼ変わらず、値上げした分がそのまま売上にも反映された。食用としての塩は急に抑えられるものではなく、コロナや物価高といった突発的な影響はほとんど受けていない。また当社では塩以外の調味料や資材関係も扱っているのだが、それらも同様の状況だ。ただし利益面はほぼ横ばいで、売上増加分もその案内に掛かる営業コストや輸送費上昇で相殺されている」
 --懇話会の取組は。
 「懇話会では我々元売業界やメーカーらが集まってそれぞれの意見を集約している。業界が最も頭を悩ませているのが脱炭素の取組。政府は2030年度までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年には実質排出ゼロとすることを目標に掲げており、塩業界においても製造や輸送時の燃料を削減する責任がある。本来であればその実現へ向けて投資を始めている時期なのだが、物価上昇によりその資金が食いつぶされたのは痛い誤算だった。値上げ対応に終われ議論も停滞しているのが実情」
 --脱炭素への構想は。
 「製造面で言えば、燃料を石炭や重油からクリーンエネルギーへ切り替えるには新たな設備が必要で莫大な時間も費用もかかる。当面は、発生したCO2を炭酸マグネシウムなど別の物質に変換して活用する、また発生するCO2を相殺する植樹に投資する、など収支をゼロへ近づける方法など現実的なアイデアが出ている。各企業任せにするのでなく、懇話会を通じて研究機関や塩事業センターから知恵を借りるなど取り組んでいる。また輸送面では共同配送や、鉄道・船の活用拡大など具体的な実現方法について詳細な議論をしている。塩は低単価高重量だが消費期限はないので、柔軟な対応が可能だろう」
 --塩の情報発信については。
 「減塩志向が強まっているが、塩は身体に必要不可欠であることもまた『くらしお』で活動いただき広く知られるようになってきたと思う。味や製法の違い等は各社発信に取り組まれているが、その後押しを業界団体としてどう取り組んでいけるか模索中だ。また少子高齢化への対策として、海外市場の開拓も視野に入れる必要がある。日本の塩は異物混入や汚染がなく、世界トップレベルの品質を持つことを主体的に発信していけるよう議論を進めていきたい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号11面】


株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏

7月で創業50周年
”赤穂の塩作り”啓蒙幅広く

 株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり〝差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社では、今年7月11日に創業50周年を迎える。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、今年から4年間をかけ、”赤穂の塩作り”の啓蒙を幅広く行っていく予定だ。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や50周年の取組について聞いた。
(藤井大碁)
 ◇    ◇
――足元の状況。
 「昨年12月までは前年並で推移していたが、年明け1月、2月は塩の動きが良くない。消費者物価指数が上昇し、節約志向が高まっている。塩だけではないが、余計な物は買わないという消費行動が浸透している。また卵の高騰や不足により料理メニューが限定されていることもマイナス要因となっている。例年春先から需要が増え、6月には梅の漬け込みも控えているので、動きが活発化していくことを期待したい」
――値上げについて。
 「塩業界も製法により差はあるがエネルギーコストや物流費の高騰により大きな影響を受けている。弊社においても、輸入する天日塩が大幅に上昇し、電気代などの燃料代の高騰も影響が大きい。そのため今年7月に2019年以来の価格改定を実施する予定だ」
――厳しい環境下、どのような施策があるか。
 「塩は一世帯あたりの購入数量は減っているが、購入単価は上がっている。量をたくさん買う人は減少しているが、健康性や美味しさといったこだわりを持って、付加価値の高い塩を選ぶ人は増えていることが分かる。マーケティングに力を入れ、消費者一人ひとりが何を求めているか、細分化したニーズを汲み取り、商品開発に生かしていく」
――業務用の引き合いが増えている。
 「SDGsなど環境配慮の流れが強まる中、自然の力を利用して作る天日塩は環境への負荷が少ないということで、我々の塩を選んでもらえる機会が増えている。また価格と品質の二極化が進む中で、塩で差別化を図り、製品に付加価値を付けようとする食品メーカーからの引き合いも多い」
――キッチンカーの販売やイベントに積極的だ。
 「子供からシニア層まで幅広い年齢層に”赤穂の天塩”を使用した料理を食べてもらう貴重な機会になっている。食べてもらうだけでなく、対話やサンプリングをすることで消費者ニーズを汲み取ることもできる。塩や調味料は、消費者が使い方を認知しなければ購入に結びつかいないため、売場に並べているだけでは消費は増えない。イベントで塩や調味料の使い方を説明しながら草の根的に広めていく必要がある」
――50周年を迎える。
 「おかげ様で7月11日に50周年を迎える。これまで弊社を支えてくれたお得意様や取引先様、その他関係者の方々に深く感謝を申し上げたい。また2026年には、赤穂で塩田が開墾されて400年を迎える。弊社では今年から2026年までの4年間をかけて、赤穂の塩作りの歴史や赤穂という場所について認知してもらうための活動を行っていく予定だ。イベント出店やキャンペーンなども積極的に行い、50周年の感謝の気持ちを伝えていく。また〝天塩ファン〟の方との交流にも力を入れる。ファンの方を集めて天塩のことをもっと知ってもらうイベントを4年間通して開催し、さらにファンの方との絆を深めていく」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】

電子版 Web展示会 天塩

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