5月21日号 キムチ浅漬 インタビュー
秋本食品株式会社 代表取締役社長 秋本善明氏
選択と集中で生産性向上へ
価格力ではなく商品力を磨く
5月10日付で代表取締役社長に就任した秋本食品株式会社(神奈川県綾瀬市)の秋本善明氏にインタビュー。浅漬やキムチの売れ行き、今後の営業戦略などについて話を聞いた。製造コストが上昇する中、アイテムの集約化を図って生産効率を上げる取組や食品ロス削減の観点から賞味期限を延長するなど商品力を磨く方針を強調。6月13日、14日の展示会開催をアドバンテージとし、漬物の供給を通して農家や産地を守っていく意思を示した。
(取材日:4月28日、千葉友寛)
◇ ◇
‐浅漬の売れ行きは。
「浅漬はここ半年は芳しくなく、数%減で推移している。以前の浅漬売場は季節商品がしっかり並んでいたが、いまはアイテム数が減少傾向にある。この数年の間にオクラやブロッコリーなど、これまでになかった素材で新しい商品も出てきて勢いもあったが、その後は新しい商品が出にくい環境となっており、動きも落ち着いている。ベーシックな商品に偏っていると感じている」
‐キムチの動きは。
「昨年のキムチの数字は2021年よりプラスとなっており、巣ごもり需要の反動減も見られた中で盛り返してきている。特に後半の動きは良かった。市場としてもプラスになっている。当社では昨今の製造コスト上昇に伴い、昨秋から規格変更を他社に先駆ける形で行った。実質的な値上げで売れ行きを心配していた部分もあるが、大きな影響はなく推移しており、お客様から支持されていることを感じている。その一方で、一部メーカーが昨年から価格を下げてきており、商品力というよりも価格力で売場を取りに来ている動きもある。そのため、キムチは昨年から価格競争が激しくなってきており、特にボリュームゾーンは熾烈な戦いとなっている。あらゆる製造コストが上昇する中、価格訴求の動きは業界の寡占化や市場のシュリンクを加速させることにつながりかねない。価格競争は業界が一番望まないことで、生産者も含めて誰も喜ぶ人はいない」
‐原料の課題は。
「当社が主力とする白菜は、夏場になると産地が茨城から長野に移る。その長野では今夏から1ケース10%程度の値上げになるという話が出ている。特に夏場は産地が限られるので、ある程度の値上げを受けなければ原料が入ってこない。市場の競争が激しくなる中で、原料面も厳しくなる見通しだ」
‐今後の営業戦略について。
「競合の動きを見ると、ある程度価格が引っ張られてしまうことを想定しなければならない。当社ではこれまでもコスト削減に取り組んできたが、さらに生産性を上げる努力をし続けなければならない。取組の一つとしてはアイテムの集約化。幅広いアイテムを持っていると見栄えが良く、売場としての提案もできるのだが、1つの商品が複数のチェーンに入るケースは少なく、一つ一つの商品の数が売れるわけでもない。可能な部分は機械化を進め、手間がかかったり採算が合わない商品については止める覚悟も必要。工場の生産状況も考慮しながら選択と集中を推進していきたい。また、賞味期限を延長するなど商品力を磨く努力も引き続き行っていく」
‐6月13日と14日に展示会を開催する。
「これまでになかったような新しい商品など、大きな変化や提案はできないかもしれないが、得意先のバイヤーが春にかなり代わった。展示会は昨年から開催できているのだが、全国の漬物が一堂に会して紹介できる場は他にない。当社と取引すればこれだけのものを扱うことができる、と感じていただければ大きなアドバンテージになる」
‐漬物業界の未来像について。
「個人的な考えとしては、長期的な視野で見ると日本は競争力が低下する。優秀な技術者は海外に流出して技術力が弱まり、輸出も期待できなくなる。悲観的な見解を述べたが、そのような中でも一次産業はなくなることはない。これまで輸入に頼っていたものを国内で賄う必要があり、国内生産で供給されている売場はなくなることはないだろう。農家は減少し続けているが、農家や産地を守ることは我々の使命。国産にこだわり続け、産地と消費者を結びつける役割を担っている。農家を未来永劫守っていくためにも商品の供給を通じて我々が市場をリードしていければ良いと思っている。世界が認める長寿国である日本の食文化の中には漬物も入っている。我々は日本人の健康を支えてきたという自負を持ってこれからも漬物を作り続けていく」
【2023(令和5)年5月21日第5129号3面】
バイヤー必見!イチ押し商品 秋本食品ページ
株式会社ピックルスホールディングス 代表取締役社長 影山 直司氏
旬の素材を旬の時期に提供
冷凍食品でロングライフ対応
株式会社ピックルスホールディングス(埼玉県所沢市)代表取締役社長の影山直司氏に2023年2月期の決算や中長期的な戦略などについて話を聞いた。2023年2月期決算は減収減益となったが、季節によって野菜の仕入れ価格が大きく異なる商品の販売方法を見直し、旬の素材を旬の時期に提供することを基本路線とし、利益を確保する。また、ニーズが高まっているロングライフに対応し、惣菜と冷凍食品の開発及び提案を強化していく方針を示した。(千葉友寛)
◇ ◇
‐2023年2月期の総括を。
「2023年2月期は新しい会計基準を適用しているため、売上高は前期の450億600万円から4110億5200万円まで下がっているのだが、旧基準で見ると約3%減。売上高は節約志向の影響を受けて減収となった。利益面も減収や原材料費、光熱費、物流費などの高騰により減益となり、厳しい1年だった」
‐コロナの影響による巣ごもり需要が落ち着いてきた中で、キムチと浅漬の売れ行きは。
「キムチは、前半は厳しかったが、後半から復調の兆しが見えてきた。浅漬はまだ前年の数字まで戻ってきておらず、厳しい状況が続いている。物価が上がって財布の紐が固くなり、食べたいものと控えるものの線引きがより明確になってきている。節約志向の高まりで食品全般に影響がある。生活に必要な食品への需要は戻っており、安い商品へのシフトも進んでいる。スーパーでは買い上げ点数が減っており、例えば、これまで購入していた4点が3点に減り、その1点に浅漬が入ってしまったという印象だ。キムチはおかずやおつまみの位置付けで戻りが早かった。当社では昨年11月に増量を行ったところ、前年比で2桁伸びた。冬は白菜の契約を多くしていたので、今年の2月、3月も生活応援キャンペーンとして実施し、ご好評をいただいた」
‐製造コストが上昇している状況が続いているが、利益を生み出す体制作りについて。
「当社の商品の中に利益が出ていない商品もある。年間を通して見ると、野菜の価格は一定ではない。そのため、通年販売は利益が出る時期と出ない時期があり、旬の時期に提供する形を基本にしたいと考えている。規格や価格についても昨年と同じ価格で販売するのではなく、その時の原材料などを考慮して季節ごとに規格を変える。季節ごとに見直しをする中で、採算が合わない商品は止めていく方針だ。売上の減少が予想されるが、その分は違う商品で売上を伸ばしていく。旬の時期に利益を出せるように季節感のあるものを積極的に提案していく」
‐昨年3月に農作物の生産、加工及び販売を行う株式会社ピックルスファームを設立した狙いは。
「ピックルスファームは、工場で使用する全ての原料を生産するということではなく、農作物をどのように作っているのか、どのような大変さがあるのかということを学ぶ意味もあり、新入社員研修でも活用している。現在、ピックルスファームでは小松菜やさつまいも、小麦を生産しており、小麦はOH!!!で提供を予定しているパンの原料として栽培している。また、さつまいもは焼きいもがブームになっていることもあり、非常に可能性がある素材だと思っている。昨年は冷たいまま食べられる冷凍の焼きいもを販売し、好評だった」
‐原料の安定供給について。
「SDGsの観点からも野菜の加工を通じて持続可能な農業の実現を目標としている。契約農家にも持続可能な事業を行ってほしい、ということでJGAP認証を取得している事業者との契約を優先するようにしている。そのため、各工場の工場長や原料調達を担当している社員にはJGAPの指導員の資格を取得してもらい、契約農家への指導と支援を行っている。現在、弊社でJGAP指導員の資格を持っている社員は38名。契約農家との連携を強化し、工場ごとに原料を購入する体制を整えている。野菜の生産で一番大変なのが収穫。植え付けや畑の管理はできても、高齢化のため収穫はできない、という農家が増えている。そのため、ピックルスファームでは収穫作業を請け負う事業を行う予定で、原料の安定供給、持続可能な農業の構築を目指している。また、社会貢献として農福連携の取組も視野に入れている」
‐惣菜市場における御社の戦略は。
「惣菜と冷凍食品はこれからも売れていくだろう。弊社の惣菜の売上は100億円を突破し、柱の一つになっている。惣菜は基本的に今日買ってその日に食べるものでロスが発生しやすいため、長期間保存できる食品のニーズがある。弊社では、ガス置換により、商品のロングライフ化を実現。現在は、切り干し大根、ひじき煮、卯の花、きんぴらなどがあり、量販店でテスト販売している。また、冷凍食品については、昨年、冷凍のキムチ鍋をスーパーでテスト販売したところ、大変評判が良かった。今年は冷凍のアヒージョも展開する予定。今後もおつまみ需要などに対応した商品を開発していく」
‐漬物業界も倒産、廃業が続いている。
「下請け的な仕事をしている、価格が合わない商品を製造している、自社ブランドの商品を作っていない、などの事業を行っている企業は経営が厳しくなってきていると感じている。当社グループは全国に拠点があり、全国展開しているスーパーやCVS、ドラッグストアに同じ品質の商品を供給することができる。仕入れ商品もあるので、幅広い商品提案も可能だ。今後も全国ネットワークを活かした営業戦略を推進していく。弊社の漬物市場シェアは15%を目標としている」
‐主力商品の値上げについて。
「『ご飯がススムキムチ』の値上げはまだ行っていない。もちろん製造コストは上がっているが、同商品は発売から値上げは一度も行っておらず、もう少しやれることがないか常に考えながら対応している。だが、この先も値上げしない、とは言い切れない状況だ。また、大手企業が関東に拠点を作ったことで、価格面での競争が激しくなる可能性もあると考えている」
【2023(令和5)年5月21日第5129号12面】
冷凍食品でロングライフ対応
株式会社ピックルスホールディングス(埼玉県所沢市)代表取締役社長の影山直司氏に2023年2月期の決算や中長期的な戦略などについて話を聞いた。2023年2月期決算は減収減益となったが、季節によって野菜の仕入れ価格が大きく異なる商品の販売方法を見直し、旬の素材を旬の時期に提供することを基本路線とし、利益を確保する。また、ニーズが高まっているロングライフに対応し、惣菜と冷凍食品の開発及び提案を強化していく方針を示した。(千葉友寛)
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‐2023年2月期の総括を。
「2023年2月期は新しい会計基準を適用しているため、売上高は前期の450億600万円から4110億5200万円まで下がっているのだが、旧基準で見ると約3%減。売上高は節約志向の影響を受けて減収となった。利益面も減収や原材料費、光熱費、物流費などの高騰により減益となり、厳しい1年だった」
‐コロナの影響による巣ごもり需要が落ち着いてきた中で、キムチと浅漬の売れ行きは。
「キムチは、前半は厳しかったが、後半から復調の兆しが見えてきた。浅漬はまだ前年の数字まで戻ってきておらず、厳しい状況が続いている。物価が上がって財布の紐が固くなり、食べたいものと控えるものの線引きがより明確になってきている。節約志向の高まりで食品全般に影響がある。生活に必要な食品への需要は戻っており、安い商品へのシフトも進んでいる。スーパーでは買い上げ点数が減っており、例えば、これまで購入していた4点が3点に減り、その1点に浅漬が入ってしまったという印象だ。キムチはおかずやおつまみの位置付けで戻りが早かった。当社では昨年11月に増量を行ったところ、前年比で2桁伸びた。冬は白菜の契約を多くしていたので、今年の2月、3月も生活応援キャンペーンとして実施し、ご好評をいただいた」
‐製造コストが上昇している状況が続いているが、利益を生み出す体制作りについて。
「当社の商品の中に利益が出ていない商品もある。年間を通して見ると、野菜の価格は一定ではない。そのため、通年販売は利益が出る時期と出ない時期があり、旬の時期に提供する形を基本にしたいと考えている。規格や価格についても昨年と同じ価格で販売するのではなく、その時の原材料などを考慮して季節ごとに規格を変える。季節ごとに見直しをする中で、採算が合わない商品は止めていく方針だ。売上の減少が予想されるが、その分は違う商品で売上を伸ばしていく。旬の時期に利益を出せるように季節感のあるものを積極的に提案していく」
‐昨年3月に農作物の生産、加工及び販売を行う株式会社ピックルスファームを設立した狙いは。
「ピックルスファームは、工場で使用する全ての原料を生産するということではなく、農作物をどのように作っているのか、どのような大変さがあるのかということを学ぶ意味もあり、新入社員研修でも活用している。現在、ピックルスファームでは小松菜やさつまいも、小麦を生産しており、小麦はOH!!!で提供を予定しているパンの原料として栽培している。また、さつまいもは焼きいもがブームになっていることもあり、非常に可能性がある素材だと思っている。昨年は冷たいまま食べられる冷凍の焼きいもを販売し、好評だった」
‐原料の安定供給について。
「SDGsの観点からも野菜の加工を通じて持続可能な農業の実現を目標としている。契約農家にも持続可能な事業を行ってほしい、ということでJGAP認証を取得している事業者との契約を優先するようにしている。そのため、各工場の工場長や原料調達を担当している社員にはJGAPの指導員の資格を取得してもらい、契約農家への指導と支援を行っている。現在、弊社でJGAP指導員の資格を持っている社員は38名。契約農家との連携を強化し、工場ごとに原料を購入する体制を整えている。野菜の生産で一番大変なのが収穫。植え付けや畑の管理はできても、高齢化のため収穫はできない、という農家が増えている。そのため、ピックルスファームでは収穫作業を請け負う事業を行う予定で、原料の安定供給、持続可能な農業の構築を目指している。また、社会貢献として農福連携の取組も視野に入れている」
‐惣菜市場における御社の戦略は。
「惣菜と冷凍食品はこれからも売れていくだろう。弊社の惣菜の売上は100億円を突破し、柱の一つになっている。惣菜は基本的に今日買ってその日に食べるものでロスが発生しやすいため、長期間保存できる食品のニーズがある。弊社では、ガス置換により、商品のロングライフ化を実現。現在は、切り干し大根、ひじき煮、卯の花、きんぴらなどがあり、量販店でテスト販売している。また、冷凍食品については、昨年、冷凍のキムチ鍋をスーパーでテスト販売したところ、大変評判が良かった。今年は冷凍のアヒージョも展開する予定。今後もおつまみ需要などに対応した商品を開発していく」
‐漬物業界も倒産、廃業が続いている。
「下請け的な仕事をしている、価格が合わない商品を製造している、自社ブランドの商品を作っていない、などの事業を行っている企業は経営が厳しくなってきていると感じている。当社グループは全国に拠点があり、全国展開しているスーパーやCVS、ドラッグストアに同じ品質の商品を供給することができる。仕入れ商品もあるので、幅広い商品提案も可能だ。今後も全国ネットワークを活かした営業戦略を推進していく。弊社の漬物市場シェアは15%を目標としている」
‐主力商品の値上げについて。
「『ご飯がススムキムチ』の値上げはまだ行っていない。もちろん製造コストは上がっているが、同商品は発売から値上げは一度も行っておらず、もう少しやれることがないか常に考えながら対応している。だが、この先も値上げしない、とは言い切れない状況だ。また、大手企業が関東に拠点を作ったことで、価格面での競争が激しくなる可能性もあると考えている」
【2023(令和5)年5月21日第5129号12面】
株式会社ピックルスホールディングス HP
5月1日号 漬物の素・夏の甘酒特集インタビュー
日本いりぬか工業会 会長 足立昇司氏
「ぬか漬けの日」をPR
今年は体制作りに注力
今年は体制作りに注力
昨年3月の総会で日本いりぬか工業会の会長に就任し、2年目を迎えた足立昇司会長(株式会社伊勢惣専務取締役)にインタビュー。コロナ禍で昨年度までは思うような活動ができなかったが、今年度は5月8日の「ぬか漬けの日」に合わせて業界紙の電子媒体やSNSなどを活用し、情報発信、プレゼントキャンペーンなどを行う計画。来年以降、ぬか漬教室などのイベントを継続的に実施するため、今年は体制作りに注力する意向を示した。(千葉友寛)
‐ぬか床製品の売れ行きは。
「ぬか床の売れ行きについては、コロナ禍で巣ごもり消費が増加したことに加え、テレビなどのメディアでぬか床やぬか漬が紹介されたことで需要が大幅に増加し、市場も拡大した。健康や美容といった観点以外にも家庭で手軽にできる趣味など、多くの魅力を感じていただきぬか床の利用者が増えた。コロナが落ち着いた現在は落ち着いた状態となっているが、この3年でぬか床やぬか漬に対する認知度はかなり高まったと感じている」
‐ブームとなった甘酒の動きは。
「甘酒は2016年あたりから需要が拡大した。2011年に大ヒットした塩麹の登場によって麹を利用した商品への関心が高まり、甘酒も大きな脚光を浴びた。その流れで新規参入する企業が増加し、市場も一気に拡大した。だが、ブーム的な動きは時間とともに弱含みとなり、全体の需要も減少傾向にあった。だが、昨年の売れ行きは前年並みに推移し、ようやく下げ止まった動きとなっている。全体的に売場のアイテム数は減っている状況だが、逆に甘酒を全く販売していない店舗もない。つまり、売場で定番になっているということは、普段の生活に取り入れることが習慣となっている消費者がいるということを示している。甘酒の市場は10年前と比べてもかなり大きくなっている。美味しくて栄養、健康、美容の3要素が揃っている甘酒にはまだまだ伸び代があると思っている」
‐ぬか床や甘酒の値上げについて。
「残念なことにどちらの品目も昨今の値上げラッシュの波に乗ることができず、値上げは進んでいない。その要因は市場で大きなシェアを持つカテゴリーリーダーのような企業が存在しないことが大きいと思っている。中小企業で構成されるぬか床と甘酒は競争が激しく、値上げするとその他の企業に棚を取られてしまう。ぬか床については米ぬかの価格が上がっていることに加え、包装資材や電気代などの製造コストが上昇しており、利益を圧迫している。値上げをしたいのはどの企業も同じだと思うが、棚を失うリスクが高いため動きたくても動けないという状況が続いている。濃縮タイプの甘酒も同様に競争が激しいため値上げはできていない。ブランド力や差別化された商品があれば値上げをすることができると思うが、そのような商品は現在の売場にはない。商品開発やブランドを磨く努力が必要なのだが、現在は我慢比べの様相となっている」
‐日本いりぬか工業会の活動について。
「工業会としてはまずぬか床やぬか漬のことを一般の方に認知してもらうため、5月8日の『ぬか漬けの日』に合わせ、業界紙の電子媒体やSNSなどを活用し、情報発信、プレゼントキャンペーンなどを行う。今年の事業計画には入れられなかったが、来年以降はぬか漬教室などのイベントを継続的に実施したいと考えている。今年は来年以降に向けた体制作りに注力したいと思っており、会員企業の理解と協力をいただきながら業界の活性化につながるような活動をしていきたい」
‐ぬか床製品の売れ行きは。
「ぬか床の売れ行きについては、コロナ禍で巣ごもり消費が増加したことに加え、テレビなどのメディアでぬか床やぬか漬が紹介されたことで需要が大幅に増加し、市場も拡大した。健康や美容といった観点以外にも家庭で手軽にできる趣味など、多くの魅力を感じていただきぬか床の利用者が増えた。コロナが落ち着いた現在は落ち着いた状態となっているが、この3年でぬか床やぬか漬に対する認知度はかなり高まったと感じている」
‐ブームとなった甘酒の動きは。
「甘酒は2016年あたりから需要が拡大した。2011年に大ヒットした塩麹の登場によって麹を利用した商品への関心が高まり、甘酒も大きな脚光を浴びた。その流れで新規参入する企業が増加し、市場も一気に拡大した。だが、ブーム的な動きは時間とともに弱含みとなり、全体の需要も減少傾向にあった。だが、昨年の売れ行きは前年並みに推移し、ようやく下げ止まった動きとなっている。全体的に売場のアイテム数は減っている状況だが、逆に甘酒を全く販売していない店舗もない。つまり、売場で定番になっているということは、普段の生活に取り入れることが習慣となっている消費者がいるということを示している。甘酒の市場は10年前と比べてもかなり大きくなっている。美味しくて栄養、健康、美容の3要素が揃っている甘酒にはまだまだ伸び代があると思っている」
‐ぬか床や甘酒の値上げについて。
「残念なことにどちらの品目も昨今の値上げラッシュの波に乗ることができず、値上げは進んでいない。その要因は市場で大きなシェアを持つカテゴリーリーダーのような企業が存在しないことが大きいと思っている。中小企業で構成されるぬか床と甘酒は競争が激しく、値上げするとその他の企業に棚を取られてしまう。ぬか床については米ぬかの価格が上がっていることに加え、包装資材や電気代などの製造コストが上昇しており、利益を圧迫している。値上げをしたいのはどの企業も同じだと思うが、棚を失うリスクが高いため動きたくても動けないという状況が続いている。濃縮タイプの甘酒も同様に競争が激しいため値上げはできていない。ブランド力や差別化された商品があれば値上げをすることができると思うが、そのような商品は現在の売場にはない。商品開発やブランドを磨く努力が必要なのだが、現在は我慢比べの様相となっている」
‐日本いりぬか工業会の活動について。
「工業会としてはまずぬか床やぬか漬のことを一般の方に認知してもらうため、5月8日の『ぬか漬けの日』に合わせ、業界紙の電子媒体やSNSなどを活用し、情報発信、プレゼントキャンペーンなどを行う。今年の事業計画には入れられなかったが、来年以降はぬか漬教室などのイベントを継続的に実施したいと考えている。今年は来年以降に向けた体制作りに注力したいと思っており、会員企業の理解と協力をいただきながら業界の活性化につながるような活動をしていきたい」
【2023(令和5)年5月1日第5127号6面】
日本いりぬか工業会 副会長 山﨑理香子氏
提案型の売り方が鍵
いりぬかは伸びるアイテム
いりぬかは伸びるアイテム
日本いりぬか工業会の山﨑理香子副会長(国城産業㈱代表取締役社長)にインタビュー。山﨑副会長は、いりぬか製品の動向や値上げ状況を語ると共に、5月8日「ぬか漬けの日」に絡めた提案型の売り場作りがぬか漬け関連製品の売上増加に繋がると指摘した。(藤井大碁)
――いりぬか製品の動向。
「いりぬか製品は2020年4月に緊急事態宣言が発令された後から、急激に需要が増加した。巣ごもりにより時間ができたことでぬか漬けにチャレンジする人が増えた。また緊急事態宣言のタイミングが、ぬか漬けシーズンのスタート時期とも重なったため、郊外型の大型店を中心に特設コーナーで販売され、それが一般的な食品スーパーにも波及し売上が伸びた。パンやパスタが品薄になる中で、ご飯を食べようという流れも追い風になり、ピーク時の出荷量は例年の約2倍に拡大。2020年、2021年の2年間はコロナ前と比較して150~160%で推移した。2022年は巣ごもりの減少と共に、いりぬか製品の需要も落ち着き、現在に至るまでコロナ前と同水準で推移している。足元では、気温の高低差が激しいことも影響し、ぬか漬けシーズンスタートの出足は例年より鈍い。これから本格的なシーズンインとなるので、需要拡大に期待したい」
――値上げについて。
「弊社では4月より10%程の値上げを実施した。全てのコストが上昇しているが、特に米ぬか原料と物流費の高騰のインパクトが大きい。米ぬか原料は、輸入飼料の価格上昇に伴い、それに引っ張られる格好で国内飼料として使用されている米ぬかが上昇、一年間で約3倍近い価格になっている。米ぬかは近年人気が拡大している米油の原料としても引き合いが多く、この先も原料価格が下がる要素はない。物流費も一年間で15%程上がっており影響は大きい。いりぬかは、使う人は使う、使わない人は使わないという嗜好性の高い商品なので、値上げの影響は比較的少ない部類であると考えているが、今後の動きを注視して慎重に対応していきたい」
――ぬか漬けファンは増加傾向にある。
「健康性や発酵食品としての認知度上昇に加え、近年はSNSを通じて、若い世代にもぬか漬けの魅力が広がり、コロナ禍を経て、新たなユーザーが増加した。コロナ特需は落ち着いたが、そういう意味でも、いりぬか製品は、売り方によって今後まだまだ伸びるアイテムだと考えている。小売店において、いりぬかやぬか床製品を購入する場合、現在はいりぬか製品(ドライタイプ)はグロッサリー売場、ぬか床製品(ウェットタイプ)は青果売場というように、ぬか漬け関連製品の売場が分かれてしまっている。これを青果売場に統一し、POPなどで使い方を分かりやすく明記することによりぬか漬け関連製品の売上を伸ばしていけると考えている。特設コーナーを展開した店舗の売上が伸びていることを見ると、“ぬか漬けを始めませんか”という提案型の売り方が鍵になる。健康性や、食品ロス削減といったSDGsの要素の他、5月8日の『ぬか漬けの日』を絡めた売場での販促を提案していきたい」
――他社のいりぬかメーカーが、いりぬか以外の製品を幅広く取り扱う中、貴社では50年間いりぬか一筋を貫いてきた。
「『いりぬか』ならどこのものでも一緒と思われがちな商品であるが、国内唯一のいりぬか専業メーカーとしては、いりぬかの質が最も重要であると考えている。お米の種類やその年の出来具合により、ぬかの質は変わる。その違いを見極め、製造していくことで、お客様に長く愛される商品を作り、日本固有の食文化“ぬか漬け”を守り続けていくために今後も努力していきたい」
――いりぬか製品の動向。
「いりぬか製品は2020年4月に緊急事態宣言が発令された後から、急激に需要が増加した。巣ごもりにより時間ができたことでぬか漬けにチャレンジする人が増えた。また緊急事態宣言のタイミングが、ぬか漬けシーズンのスタート時期とも重なったため、郊外型の大型店を中心に特設コーナーで販売され、それが一般的な食品スーパーにも波及し売上が伸びた。パンやパスタが品薄になる中で、ご飯を食べようという流れも追い風になり、ピーク時の出荷量は例年の約2倍に拡大。2020年、2021年の2年間はコロナ前と比較して150~160%で推移した。2022年は巣ごもりの減少と共に、いりぬか製品の需要も落ち着き、現在に至るまでコロナ前と同水準で推移している。足元では、気温の高低差が激しいことも影響し、ぬか漬けシーズンスタートの出足は例年より鈍い。これから本格的なシーズンインとなるので、需要拡大に期待したい」
――値上げについて。
「弊社では4月より10%程の値上げを実施した。全てのコストが上昇しているが、特に米ぬか原料と物流費の高騰のインパクトが大きい。米ぬか原料は、輸入飼料の価格上昇に伴い、それに引っ張られる格好で国内飼料として使用されている米ぬかが上昇、一年間で約3倍近い価格になっている。米ぬかは近年人気が拡大している米油の原料としても引き合いが多く、この先も原料価格が下がる要素はない。物流費も一年間で15%程上がっており影響は大きい。いりぬかは、使う人は使う、使わない人は使わないという嗜好性の高い商品なので、値上げの影響は比較的少ない部類であると考えているが、今後の動きを注視して慎重に対応していきたい」
――ぬか漬けファンは増加傾向にある。
「健康性や発酵食品としての認知度上昇に加え、近年はSNSを通じて、若い世代にもぬか漬けの魅力が広がり、コロナ禍を経て、新たなユーザーが増加した。コロナ特需は落ち着いたが、そういう意味でも、いりぬか製品は、売り方によって今後まだまだ伸びるアイテムだと考えている。小売店において、いりぬかやぬか床製品を購入する場合、現在はいりぬか製品(ドライタイプ)はグロッサリー売場、ぬか床製品(ウェットタイプ)は青果売場というように、ぬか漬け関連製品の売場が分かれてしまっている。これを青果売場に統一し、POPなどで使い方を分かりやすく明記することによりぬか漬け関連製品の売上を伸ばしていけると考えている。特設コーナーを展開した店舗の売上が伸びていることを見ると、“ぬか漬けを始めませんか”という提案型の売り方が鍵になる。健康性や、食品ロス削減といったSDGsの要素の他、5月8日の『ぬか漬けの日』を絡めた売場での販促を提案していきたい」
――他社のいりぬかメーカーが、いりぬか以外の製品を幅広く取り扱う中、貴社では50年間いりぬか一筋を貫いてきた。
「『いりぬか』ならどこのものでも一緒と思われがちな商品であるが、国内唯一のいりぬか専業メーカーとしては、いりぬかの質が最も重要であると考えている。お米の種類やその年の出来具合により、ぬかの質は変わる。その違いを見極め、製造していくことで、お客様に長く愛される商品を作り、日本固有の食文化“ぬか漬け”を守り続けていくために今後も努力していきたい」
【2023(令和5)年5月1日第5127号8面】
厚生産業株式会社 代表取締役社長 里村俊介氏
業界のトップを目指す
発酵食品の素晴らしさ伝える
昭和34年創業、米麹・甘酒・漬物の素を製造販売する厚生産業株式会社(岐阜県揖斐郡大野町)は4月1日付で、里村俊介専務取締役が新たに代表取締役社長に就任した。里村社長は「漬物の素 名実ともにナンバーワン」、「誰からも認められる 麹の第一人者企業となる」を目標に掲げる。その先に見据えるのは業界のリーディング企業となり発酵食品の素晴らしさを次代へ伝えていくことだ。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー略歴は。
大学卒業後ブルドックソース㈱(東京都中央区)に入社し営業職として勤務した。同じ食品メーカーであり貴重な経験を得ることができた。同社は東日本ではリーディング企業だが、西日本ではまだ挑戦者の立場。両方のエリアを経験できたことは良い経験だった。7年間勤め、2011年に厚生産業に入社した。
ー漬物の素、麹のトップ企業を目標に掲げた。
単に売上を増やすということではなく『誰からも認められる』リーディング企業となり、説得力のある発信をしていくことに主眼を置いている。当社の使命は発酵食品の素晴らしさや手作りの楽しさを次代へ伝えること。大きく果てしない使命なので、具体的な道標としてこの目標を掲げた。
ー「漬物の素」事業について。
創業当初はJAの婦人部で講習会を行い販売しつつ、ご意見を商品開発に生かしてきた。そのノウハウを今も生かし、現在は対面の講習会だけでなく「漬けるドットコム」や「簡単&時短 発酵レシピ」の運営に繋げている。その後、生協や量販店等へ販路を広げてきた。日経POSセレクション2021では「コミローナ 熟成ぬか床1㎏」が「1つ星」に選出されたように、順調にシェアを伸ばせている。
ー漬物の素の現状と方針は。
全体的にはダウントレンドで、特にたくあん漬などの保存漬は急減しているのが現状。その一方でぬか漬は発酵食品ブームという新しい価値観に合致し市場拡大した。マンネリを打破できる商品があれば、漬物の素はまだまだ期待が持てるということ。この度発売した「洋風ぬか漬の素」も、ぬか漬の固定観念を崩していく狙いがある。
ー麹事業について。
業務筋への素材提供を主力にしている。麹菌は数千もの株が発見されていて、例えば酵素を産出する力などに差がある。味噌や酒、甘酒など用途に応じて提案するのが当社の役割。最近では農業活性化の一環として大豆や麦を麹化することにも需要が出てきている。麹の研究をさらに深めて提案の幅を広げること、要望に応えるだけでなく能動的な提案を強化していくことに取り組んでいく。
ー新規分野にも積極的だ。
麹を化粧品分野へ提供している。化粧品分野では食品以上にエビデンスや“ストーリー性”を求められる。これに対応する中で研究面、営業面ともにレベルアップしてきた。他にもプラントベースフード等、当社の調味技術や発酵の研究力を生かした新規事業に挑戦していきたい。
【里村俊介社長】
1982年2月21日生まれ。明治大学農学部卒業。2004年ブルドックソース入社。2011年厚生産業入社、2015年取締役経営管理部長、2017年専務取締役。
【2023(令和5)年5月1日第5127号9面】
4月21日号 泉州水なす特集インタビュー
大阪府漬物事業協同組合 理事長 林野雅史氏
水なす漬は成長続く
伝統野菜に特化し差別化図る
大阪府漬物事業協同組合理事長を務める、堺共同漬物株式会社(林野雅史社長、大阪府堺市)の林野雅史社長にインタビュー。林野社長は泉州水なす漬が今も成長を続けているとし、水なすやなにわ伝統野菜へ集中し地域性を追求することが同社の生き残りに必要不可欠であると話す。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
―昨年の水なす漬の実績は。
「定着率の高い関西の市場をしっかり維持しながら、関東など他地域への販売を増やすことができた。水なす原料は産地が限定され、天候に左右されやすいため急な増産はできないが、右肩上がりの成長を続けられている。漬物全般が苦戦している中で水なす漬は稀有な存在だと言える」
―今期の原料状況は。
「3月までに予想外に温かい日が続いたことで成長が進んだため、4月現在は原料を確保でき良いスタートを切れた。その分、5月に途切れる不安があるが、結局は天候次第なので柔軟に対応していくしかない。原料価格については加温ハウス用の燃料や肥料など農業コストも上昇しているため、高止まりしている。当社も価格改定して望む年となる」
―今後の販売拡大には栽培拡大が必要だ。
「水なすは他作物から転換する農家も多く、また若い方も就農してくれている。それは大阪漬協全体で水なす漬を安売りしなかった、つまり原料価格を適正に保ってきた成果だ。無理に栽培を急拡大させるのではなく、我々が漬物の販売実績を重ねていき、農家の方々に『作りたい』と思っていただく流れを作り自然に栽培が増えていくのが望ましい」
―今年の販売戦略は。
「浅漬は引き続き販売拡大を目指していく。関西は大阪はもちろん周辺府県でも完全に定着したと言えるが、関東ではまだまだ新規導入を増やしていける。またSDGsの観点で取引先様から再評価を受けているのが水なすのしば漬や茶漬といった本漬商品。傷ついたり、余ったりして浅漬に出来ない原料を使用するので食品ロス削減になり、生産農家の収入の底上げにもなっている。SDGsは今後、取引先だけでなく消費者へ向けたアピールもしていきたい」
―漬物以外にも着手している。
「水なす漬の天ぷらや『みずなすカレー』など惣菜からレトルト食品まで幅広く挑戦している。生の水なすではなく漬物を素材としているので、当社だけの商品として提案できる。漬物以外の商品を扱うようになったことで、漬物にも新しい視点を取り入れられるようになってきている。将来的には、水なすを漬物に収まらない一つのカテゴリに育てていくことが目標。その先例が梅干しで、菓子や飲料、ソースなどの派生品も多く確固たる地位を築けている。水なすは他の茄子と一線を画す唯一無二の素材のため、ポテンシャルは十分にあると思う」
―今後の方針は。
「物価上昇や大手企業がシェアを広げている状況下、これまでと同じことをしていては事業継続は難しくなる。当社としては今まで以上に水なすを始めとしたなにわ伝統野菜へリソースを集中させていき、はっきりと棲み分けることが生き残りの道だと考えている。漬物を軸とした伝統野菜の加工業という立ち位置で、狭く深く特化していく方針だ」
【2023(令和5)年4月21日第5126号4面】
伝統野菜に特化し差別化図る
大阪府漬物事業協同組合理事長を務める、堺共同漬物株式会社(林野雅史社長、大阪府堺市)の林野雅史社長にインタビュー。林野社長は泉州水なす漬が今も成長を続けているとし、水なすやなにわ伝統野菜へ集中し地域性を追求することが同社の生き残りに必要不可欠であると話す。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
―昨年の水なす漬の実績は。
「定着率の高い関西の市場をしっかり維持しながら、関東など他地域への販売を増やすことができた。水なす原料は産地が限定され、天候に左右されやすいため急な増産はできないが、右肩上がりの成長を続けられている。漬物全般が苦戦している中で水なす漬は稀有な存在だと言える」
―今期の原料状況は。
「3月までに予想外に温かい日が続いたことで成長が進んだため、4月現在は原料を確保でき良いスタートを切れた。その分、5月に途切れる不安があるが、結局は天候次第なので柔軟に対応していくしかない。原料価格については加温ハウス用の燃料や肥料など農業コストも上昇しているため、高止まりしている。当社も価格改定して望む年となる」
―今後の販売拡大には栽培拡大が必要だ。
「水なすは他作物から転換する農家も多く、また若い方も就農してくれている。それは大阪漬協全体で水なす漬を安売りしなかった、つまり原料価格を適正に保ってきた成果だ。無理に栽培を急拡大させるのではなく、我々が漬物の販売実績を重ねていき、農家の方々に『作りたい』と思っていただく流れを作り自然に栽培が増えていくのが望ましい」
―今年の販売戦略は。
「浅漬は引き続き販売拡大を目指していく。関西は大阪はもちろん周辺府県でも完全に定着したと言えるが、関東ではまだまだ新規導入を増やしていける。またSDGsの観点で取引先様から再評価を受けているのが水なすのしば漬や茶漬といった本漬商品。傷ついたり、余ったりして浅漬に出来ない原料を使用するので食品ロス削減になり、生産農家の収入の底上げにもなっている。SDGsは今後、取引先だけでなく消費者へ向けたアピールもしていきたい」
―漬物以外にも着手している。
「水なす漬の天ぷらや『みずなすカレー』など惣菜からレトルト食品まで幅広く挑戦している。生の水なすではなく漬物を素材としているので、当社だけの商品として提案できる。漬物以外の商品を扱うようになったことで、漬物にも新しい視点を取り入れられるようになってきている。将来的には、水なすを漬物に収まらない一つのカテゴリに育てていくことが目標。その先例が梅干しで、菓子や飲料、ソースなどの派生品も多く確固たる地位を築けている。水なすは他の茄子と一線を画す唯一無二の素材のため、ポテンシャルは十分にあると思う」
―今後の方針は。
「物価上昇や大手企業がシェアを広げている状況下、これまでと同じことをしていては事業継続は難しくなる。当社としては今まで以上に水なすを始めとしたなにわ伝統野菜へリソースを集中させていき、はっきりと棲み分けることが生き残りの道だと考えている。漬物を軸とした伝統野菜の加工業という立ち位置で、狭く深く特化していく方針だ」
【2023(令和5)年4月21日第5126号4面】
株式会社天政松下 代表取締役社長 松下雄哉氏
水なす漬200万P販売
「野菜が摂れる」は新形態で支持
株式会社天政松下(松下雄哉社長、大阪市西淀川区)は昨年、水なす漬の販売約200万パックを達成。関東での販売拡大が原動力となった。今期は量販店で主力となる切漬商品に大小2サイズの新商品を投入する。また漬物グランプリ2023で金賞以上を受賞した「野菜が摂れる10品目。」が内容量変更後に販売が伸長し始めた。松下社長は商品特性に合わせたジャストサイズを探る必要性を強調する。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
―水なす漬の動向は。
「地元関西では水なす漬は完全に定着しているが、関東を始め他地域ではまだまだ拡大の余地がある。一昨年の販売実績は約190万パック、昨年は約200万パックと伸ばせた。当社は群馬に関東工場がある強みを生かしていける。原料面に限りがあるので急拡大は出来ないが、少しずつ全国へ広めていきたい」
―商品展開は。
「関西では姿物のぬか漬と切り漬の2アイテムが基本だが、他地域では切漬タイプのみの販売が多い。今期から切漬タイプから新たにカップ入り新商品2品を発売する。大判サイズの『泉州水なす切漬100g』、食べ切りサイズの『泉州水なす切漬60g』。既存商品の袋入り『水なすのお漬物90g』と合わせて3サイズを展開することで、細かなニーズに対応可能となる」
―商品形態を重視している。
「やはり多様化に対応していく必要がある。ユニット、簡便性、個食だけでも資材や内容量で何パターンも組み合わせが出てくる。出来るだけ手に取って食べてもらえるよう工夫し続けないといけない。昨年からの値上げで商品改廃をせざるを得ない状況もある。この機会に長年売ってきた商品でもそれが当たり前と思わずに、消費者に支持されるものがどこにあるのかさらに向き合っていきたい」
―漬物グランプリで「野菜が摂れる10品目。」が金賞以上の受賞となった。
「元々は約10年前に発売した商品でサラダ感覚漬物として最初は大ヒットしたがその後は勢いを落とし伸び悩んだ。10年間試行錯誤しながら容器形態、内容量、原材料も変化させながら販売を続けてきた。今回は開発事業課の小山が容器形態を丸カップのバージョンにし、量目を過去最低の130gまで抑えた。値頃感のある価格設定にしたところ、再び量販店での導入が増え、出荷数が大幅に伸びてきている。やはり内容量と売価が嵌れば反応も大きく変わる。あらためて商品開発の奥の深さを感じている」
―動画SNSに力を入れている。
「商品宣伝よりも、リクルートに重点を置いている。求職者は社内のリアルな情報を知りたいので『どんな人が働いているのか?』『事務所の雰囲気は?』『年齢層は?』『社長はどんな人?』などはSNSを活用して補っている。漬物の内容があまりないのは求職者が欲しい情報は、そこではないと思うから。先日、某求人媒体と求人募集のデータを分析したところ、他社に比べて200%近い募集率となっており、SNSがリクルートに影響がある事を少し裏付けることができた。仮説を実証するにはまだまだサンプル数が少ないので、どれくらいリクルートに効果的なのかはこれから引き続き検証していきたい」
【2023(令和5)年4月21日第5126号5面】
天政松下 HP
https://www.tenmasamatsushita.co.jp/
「野菜が摂れる」は新形態で支持
株式会社天政松下(松下雄哉社長、大阪市西淀川区)は昨年、水なす漬の販売約200万パックを達成。関東での販売拡大が原動力となった。今期は量販店で主力となる切漬商品に大小2サイズの新商品を投入する。また漬物グランプリ2023で金賞以上を受賞した「野菜が摂れる10品目。」が内容量変更後に販売が伸長し始めた。松下社長は商品特性に合わせたジャストサイズを探る必要性を強調する。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
―水なす漬の動向は。
「地元関西では水なす漬は完全に定着しているが、関東を始め他地域ではまだまだ拡大の余地がある。一昨年の販売実績は約190万パック、昨年は約200万パックと伸ばせた。当社は群馬に関東工場がある強みを生かしていける。原料面に限りがあるので急拡大は出来ないが、少しずつ全国へ広めていきたい」
―商品展開は。
「関西では姿物のぬか漬と切り漬の2アイテムが基本だが、他地域では切漬タイプのみの販売が多い。今期から切漬タイプから新たにカップ入り新商品2品を発売する。大判サイズの『泉州水なす切漬100g』、食べ切りサイズの『泉州水なす切漬60g』。既存商品の袋入り『水なすのお漬物90g』と合わせて3サイズを展開することで、細かなニーズに対応可能となる」
―商品形態を重視している。
「やはり多様化に対応していく必要がある。ユニット、簡便性、個食だけでも資材や内容量で何パターンも組み合わせが出てくる。出来るだけ手に取って食べてもらえるよう工夫し続けないといけない。昨年からの値上げで商品改廃をせざるを得ない状況もある。この機会に長年売ってきた商品でもそれが当たり前と思わずに、消費者に支持されるものがどこにあるのかさらに向き合っていきたい」
―漬物グランプリで「野菜が摂れる10品目。」が金賞以上の受賞となった。
「元々は約10年前に発売した商品でサラダ感覚漬物として最初は大ヒットしたがその後は勢いを落とし伸び悩んだ。10年間試行錯誤しながら容器形態、内容量、原材料も変化させながら販売を続けてきた。今回は開発事業課の小山が容器形態を丸カップのバージョンにし、量目を過去最低の130gまで抑えた。値頃感のある価格設定にしたところ、再び量販店での導入が増え、出荷数が大幅に伸びてきている。やはり内容量と売価が嵌れば反応も大きく変わる。あらためて商品開発の奥の深さを感じている」
―動画SNSに力を入れている。
「商品宣伝よりも、リクルートに重点を置いている。求職者は社内のリアルな情報を知りたいので『どんな人が働いているのか?』『事務所の雰囲気は?』『年齢層は?』『社長はどんな人?』などはSNSを活用して補っている。漬物の内容があまりないのは求職者が欲しい情報は、そこではないと思うから。先日、某求人媒体と求人募集のデータを分析したところ、他社に比べて200%近い募集率となっており、SNSがリクルートに影響がある事を少し裏付けることができた。仮説を実証するにはまだまだサンプル数が少ないので、どれくらいリクルートに効果的なのかはこれから引き続き検証していきたい」
【2023(令和5)年4月21日第5126号5面】
天政松下 HP
https://www.tenmasamatsushita.co.jp/
4月11日号 調理食品インタビュー
全国調理食品工業協同組合 副理事長 佐々 重雄氏
変化するプライスライン
惣菜市場には伸び代がある
全国調理食品工業協同組合の佐々重雄副理事長(株式会社佐々商店代表取締役社長)にインタビュー。調理食品、惣菜、佃煮の売れ行きや原料状況、製品の値上げの動きなどについて話を聞いた。物価高で節約志向が高まる中、佐々副理事長は必要とされる商品を供給すれば買い控えの対象にはならないと明言。惣菜の市場についても「まだまだ伸び代がある」と前向きな見解を示した。
惣菜市場には伸び代がある
全国調理食品工業協同組合の佐々重雄副理事長(株式会社佐々商店代表取締役社長)にインタビュー。調理食品、惣菜、佃煮の売れ行きや原料状況、製品の値上げの動きなどについて話を聞いた。物価高で節約志向が高まる中、佐々副理事長は必要とされる商品を供給すれば買い控えの対象にはならないと明言。惣菜の市場についても「まだまだ伸び代がある」と前向きな見解を示した。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐調理食品や惣菜の売れ行きは。
「売価が上がっているので数量は多少落ちている。数量ベースは5%減で、金額ベースでは2、3%増となっているが、スーパーによっては数量も落ちていないところがある。物価高で節約志向が高まっている状況だが、お客様の方でも製造コストが上昇していることへの理解が浸透している部分もある。お客様のニーズをとらえ、必要とされる商品を提供することができれば多少の値上げでは買い控えの対象にはならないと考えている」
‐値上げの動きは。
「調理食品業界では昨年から今年の春にかけて昨今の製造コストの上昇及び為替の影響を受けて多くの企業が値上げを実施している。弊社も1月からほぼ全ての商品で値上げを行った。商品によっては量目調整もあるが、量が減ると商品が貧弱に見えてしまうので基本的には価格改定でお客様にお願いしている。改定率は5~10%。本来ならば改定率はもっと高めたいというのが本音だが、お客様が離れてしまう可能性が出てくるので最小限に留めている。これまでのスーパーのプライスラインは198円、298円だったが、そのラインは崩れてきており、維持できる環境ではなくなってきている」
‐昨年から続く値上げの主な要因は。
「他の食品メーカーと同様で、原材料、油、調味料、包装資材などに加え、物流費やエネルギーコストも上昇している。とても自助努力で吸収できるものではなく、価格転嫁しなければ赤字製造となる。我々の業界においては、水産物を原料とする商品も多く、天候要因などの影響で原料が獲れなくなってきている。さらに、原料を獲る人も減少しているため、大変深刻な問題となっている。その他、中国産のタケノコや栗の価格は30%以上上がっている。原料を仕入れる我々も原料メーカーの値上げを認めなければ原料が入ってこなくなり、商品の供給ができなくなる。物が作れなくなる、ということは企業にとって死活問題だ。販売先様はもちろん、原料の仕入先様もより重要な存在となる。お客様のニーズに対応し、お客様が取り扱うことが難しい原料を仕入れて売れる商品を作ることが大事。水産物にしても農産物にしてもこれまでのように安定して仕入れることができなくなっており、原料の目利きが重要になる」
‐調理食品や惣菜の市場について。
「惣菜はコロナ禍で需要が増えたが、コロナが落ち着いてきても惣菜のマーケットは広がっている。単身世帯の増加や女性の社会進出などで、家庭で料理を作る時間は減少傾向にあり、電気、ガス、油の価格が上がっていることも影響している。ひじき煮や筑前煮を食べたいと思っても、自宅で作る人は少ない。そのようなことを考えれば惣菜の市場はまだまだ伸び代があると言える。ただ、物価高で節約志向が高まっており、商品に求められる品質や価格はより厳しくなっていくと思うが、佃煮や惣菜などお客様の必要とされる商品を提供してくことが重要だ。これまで日本の食品は低価格が価値の一つとされていたが、現在は安い商品を作ることができない。価値ある素材を使ってお客様を飽きさせることなく、適正価格での販売を目指していかなければならない」
【2023(令和5)年4月11日第5125号3面】
◇ ◇
‐調理食品や惣菜の売れ行きは。
「売価が上がっているので数量は多少落ちている。数量ベースは5%減で、金額ベースでは2、3%増となっているが、スーパーによっては数量も落ちていないところがある。物価高で節約志向が高まっている状況だが、お客様の方でも製造コストが上昇していることへの理解が浸透している部分もある。お客様のニーズをとらえ、必要とされる商品を提供することができれば多少の値上げでは買い控えの対象にはならないと考えている」
‐値上げの動きは。
「調理食品業界では昨年から今年の春にかけて昨今の製造コストの上昇及び為替の影響を受けて多くの企業が値上げを実施している。弊社も1月からほぼ全ての商品で値上げを行った。商品によっては量目調整もあるが、量が減ると商品が貧弱に見えてしまうので基本的には価格改定でお客様にお願いしている。改定率は5~10%。本来ならば改定率はもっと高めたいというのが本音だが、お客様が離れてしまう可能性が出てくるので最小限に留めている。これまでのスーパーのプライスラインは198円、298円だったが、そのラインは崩れてきており、維持できる環境ではなくなってきている」
‐昨年から続く値上げの主な要因は。
「他の食品メーカーと同様で、原材料、油、調味料、包装資材などに加え、物流費やエネルギーコストも上昇している。とても自助努力で吸収できるものではなく、価格転嫁しなければ赤字製造となる。我々の業界においては、水産物を原料とする商品も多く、天候要因などの影響で原料が獲れなくなってきている。さらに、原料を獲る人も減少しているため、大変深刻な問題となっている。その他、中国産のタケノコや栗の価格は30%以上上がっている。原料を仕入れる我々も原料メーカーの値上げを認めなければ原料が入ってこなくなり、商品の供給ができなくなる。物が作れなくなる、ということは企業にとって死活問題だ。販売先様はもちろん、原料の仕入先様もより重要な存在となる。お客様のニーズに対応し、お客様が取り扱うことが難しい原料を仕入れて売れる商品を作ることが大事。水産物にしても農産物にしてもこれまでのように安定して仕入れることができなくなっており、原料の目利きが重要になる」
‐調理食品や惣菜の市場について。
「惣菜はコロナ禍で需要が増えたが、コロナが落ち着いてきても惣菜のマーケットは広がっている。単身世帯の増加や女性の社会進出などで、家庭で料理を作る時間は減少傾向にあり、電気、ガス、油の価格が上がっていることも影響している。ひじき煮や筑前煮を食べたいと思っても、自宅で作る人は少ない。そのようなことを考えれば惣菜の市場はまだまだ伸び代があると言える。ただ、物価高で節約志向が高まっており、商品に求められる品質や価格はより厳しくなっていくと思うが、佃煮や惣菜などお客様の必要とされる商品を提供してくことが重要だ。これまで日本の食品は低価格が価値の一つとされていたが、現在は安い商品を作ることができない。価値ある素材を使ってお客様を飽きさせることなく、適正価格での販売を目指していかなければならない」
【2023(令和5)年4月11日第5125号3面】
全調食東日本ブロック会 会長 菊池 光晃氏
“佃煮煮豆の価値”見直す時
知恵と行動で荒波乗り越える
全調食東日本ブロック会の菊池光晃会長(菊池食品工業社長兼COO)に、昨年のおせち商戦や値上げの状況などについてインタビュー。菊池会長は様々なコストが高騰し、調理食品メーカーの経営環境が悪化する中、佃煮・煮豆の価値を見直す時期が来ていると語った。
知恵と行動で荒波乗り越える
全調食東日本ブロック会の菊池光晃会長(菊池食品工業社長兼COO)に、昨年のおせち商戦や値上げの状況などについてインタビュー。菊池会長は様々なコストが高騰し、調理食品メーカーの経営環境が悪化する中、佃煮・煮豆の価値を見直す時期が来ていると語った。
(藤井大碁)
◇ ◇
―昨年のおせち商戦。
「数量は前年を割り込んだが、売上は値上げを実施した影響により前年並みで着地した。一昨年、首都圏のスーパーではロスが多かったため、当初から数量ベースで前年比95%、売上100%前後で計画しているところが多く、そのトレンド通りの結果となった。抑え気味の発注となったため、昨年はロスがほとんどなかった一方で、売場から早めに商品が無くなり、追加注文を頂く機会も多かった。品切れによるチャンスロスもかなりあったようだ。カテゴリー別では、栗きんとん、黒豆、昆布巻き、たづくりの主力4品の売上は堅調だったが、原料面では、栗の手配が厳しく、昆布巻も年々巻き手の減少により原料手当てが難しくなっている」
―昨年のおせち商材は原価計算が難しかった。
「商談に合わせて早めのタイミングで原価計算が必要で、それなりのコスト増を見越して算出したものの、それ以降に想定を上回るコスト増が何度も押し寄せ、最初に計算していた原価とは大きな乖離が生まれた。昨年のおせち商材は各メーカーが平均5%程の値上げを実施したが、結果的には、約20%の値上げを実施しなければ原価を下回ってしまう状況だった。為替の影響に加え、全てのコストが値上がりする中、特に電気代、ガス代、段ボール、調味料の値上げのインパクトが大きかった。これからさらに、物流費、冷蔵庫などの蔵賃などが上昇する見込みで、さらなる値上げが必要になる。調理食品業界では、これまで通りのことを普通にやっていては、利益が全く出ない状況だ」
―今年のおせちの見通しは。
「特に栗に関しては、円安が最も進んでいた昨年の仕入れのため、大幅な値上げを実施せざるを得ない。栗きんとんの売れ筋は1000円が主流だが、内容量を変えずに単純に価格転嫁すれば、昨年1000円で販売していたものを1300円から1400円で販売する必要がある。おせちは一年の始めに食べる特別な食事なので、美味しくなければいけない。美味しいものを作るためにも、ある程度のコストアップが必要になるということをご理解いただくと共に、内容量と価格のバランスをどうしていくか、今後熟考していかなければならない」
―通常品の値上げ。
「4月より、昨年10月以来の値上げを実施する。これにより収支が少しでも改善することを期待したい。値上げにより、数量はある程度落ちると思うが、社内努力で耐えられる状況ではないので、会社存続のため、やらざるを得ない。もちろん値上げするだけでなく、美味しさの追求など商品のグレードアップにも力を注いでいく。佃煮・煮豆の価格は、長年変わっていない。様々なコストアップにより、調理食品メーカーの経営環境は限界に差し掛かってきており、事業継続が不可能になれば、廃業や倒産が続出してしまう。伝統文化を守るためにも、佃煮・煮豆の価値を見直す時期に来ているのではないか」
―北海道2社廃業の影響は。
「栗きんとんを道内で量産供給できるメーカーがほとんど無くなってしまった。北海道へ本州以南から商品を供給するのは物流費の割合が大きいため難しい。弊社は函館工場があるため、どうにか対応することができる。4月から札幌に営業所を開設し、体制を整える。道内の佃煮、おせち需要にしっかりと応えられるよう、安定供給に努めていきたい」
―今後に向けて。
「環境が良い時は、会社は伸びないと言われる。環境が厳しくなった時に、どうやって生き残るか。社員と一緒に考え、乗り越えていくことで、会社が成長するのではないか。今は厳しいが、この環境はみんな一緒。ここを乗り越えたところが、この業界で生きていけるものと考えている。この厳しさを自分たちの磨き石だと捉え、知恵と行動により荒波を乗り越えていきたい」
【2023(令和5)年4月11日第5125号4面】
◇ ◇
―昨年のおせち商戦。
「数量は前年を割り込んだが、売上は値上げを実施した影響により前年並みで着地した。一昨年、首都圏のスーパーではロスが多かったため、当初から数量ベースで前年比95%、売上100%前後で計画しているところが多く、そのトレンド通りの結果となった。抑え気味の発注となったため、昨年はロスがほとんどなかった一方で、売場から早めに商品が無くなり、追加注文を頂く機会も多かった。品切れによるチャンスロスもかなりあったようだ。カテゴリー別では、栗きんとん、黒豆、昆布巻き、たづくりの主力4品の売上は堅調だったが、原料面では、栗の手配が厳しく、昆布巻も年々巻き手の減少により原料手当てが難しくなっている」
―昨年のおせち商材は原価計算が難しかった。
「商談に合わせて早めのタイミングで原価計算が必要で、それなりのコスト増を見越して算出したものの、それ以降に想定を上回るコスト増が何度も押し寄せ、最初に計算していた原価とは大きな乖離が生まれた。昨年のおせち商材は各メーカーが平均5%程の値上げを実施したが、結果的には、約20%の値上げを実施しなければ原価を下回ってしまう状況だった。為替の影響に加え、全てのコストが値上がりする中、特に電気代、ガス代、段ボール、調味料の値上げのインパクトが大きかった。これからさらに、物流費、冷蔵庫などの蔵賃などが上昇する見込みで、さらなる値上げが必要になる。調理食品業界では、これまで通りのことを普通にやっていては、利益が全く出ない状況だ」
―今年のおせちの見通しは。
「特に栗に関しては、円安が最も進んでいた昨年の仕入れのため、大幅な値上げを実施せざるを得ない。栗きんとんの売れ筋は1000円が主流だが、内容量を変えずに単純に価格転嫁すれば、昨年1000円で販売していたものを1300円から1400円で販売する必要がある。おせちは一年の始めに食べる特別な食事なので、美味しくなければいけない。美味しいものを作るためにも、ある程度のコストアップが必要になるということをご理解いただくと共に、内容量と価格のバランスをどうしていくか、今後熟考していかなければならない」
―通常品の値上げ。
「4月より、昨年10月以来の値上げを実施する。これにより収支が少しでも改善することを期待したい。値上げにより、数量はある程度落ちると思うが、社内努力で耐えられる状況ではないので、会社存続のため、やらざるを得ない。もちろん値上げするだけでなく、美味しさの追求など商品のグレードアップにも力を注いでいく。佃煮・煮豆の価格は、長年変わっていない。様々なコストアップにより、調理食品メーカーの経営環境は限界に差し掛かってきており、事業継続が不可能になれば、廃業や倒産が続出してしまう。伝統文化を守るためにも、佃煮・煮豆の価値を見直す時期に来ているのではないか」
―北海道2社廃業の影響は。
「栗きんとんを道内で量産供給できるメーカーがほとんど無くなってしまった。北海道へ本州以南から商品を供給するのは物流費の割合が大きいため難しい。弊社は函館工場があるため、どうにか対応することができる。4月から札幌に営業所を開設し、体制を整える。道内の佃煮、おせち需要にしっかりと応えられるよう、安定供給に努めていきたい」
―今後に向けて。
「環境が良い時は、会社は伸びないと言われる。環境が厳しくなった時に、どうやって生き残るか。社員と一緒に考え、乗り越えていくことで、会社が成長するのではないか。今は厳しいが、この環境はみんな一緒。ここを乗り越えたところが、この業界で生きていけるものと考えている。この厳しさを自分たちの磨き石だと捉え、知恵と行動により荒波を乗り越えていきたい」
【2023(令和5)年4月11日第5125号4面】
第32回調理食品青年交流会東京大会 大会会長 笈川陽平氏
「東京大会」9月12日に
『仲間が集うTOKYO』テーマ
『仲間が集うTOKYO』テーマ
「第32回調理食品青年交流会・東京大会」が9月12日に浅草花劇場で開催される。大会テーマは「『仲間が集うTOKYO』~創り出そう新たな時代~」。当日は大会セレモニーや代表者会議の他、一般社団法人ニッポンおかみさん会会長で協同組合浅草おかみさん会理事長の冨永照子氏による講演会や東京湾を遊覧する屋形船を貸し切っての懇親会などが実施される。大会会長を務めるフードネットワーク関東の笈川陽平代表(有限会社丸安商店専務取締役)に東京大会の見所や佃煮の可能性について聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
ー大会テーマに込めた思い。
「コロナ禍やウクライナ侵攻などにより世界情勢は混乱続きで、原料価格やエネルギー費用など様々なコストが過去類を見ないほど上昇している。想定していない出来事が次々と起こり、今までの常識が通用しない時代が到来している。そうした中、世界各国からたくさんの人が集まる浅草の地に調理食品業界の仲間が集結し、新たな時代に向けて、活発な情報交換を行うと共に、改めて一致団結し協力関係を築きたい、という思いを大会テーマに込めた」
ー東京大会の見所について。
「会場となる浅草花劇場は浅草のシンボルである“花やしき”の施設内に2019年にオープンした新施設で、会場周辺は江戸情緒溢れる浅草の街並みが広がっている。講演会では、浅草おかみさん会の冨永照子理事長にお話をして頂く。冨永理事長は、浅草サンバカーニバルやロンドンバスなど様々な企画により、戦後衰退していた浅草の街を復興させた中心人物として知られる。浅草の街の復興は、コロナ後の復興という意味で、現在と重なる部分も多い。アフターコロナに向けたくさんのヒントが得られるのではないだろうか」
ー懇親会は屋形船で実施する。
「東京湾を遊覧する屋形船は、江戸の風物詩であり、美しい夜景や江戸料理も楽しんで頂くことができる。コロナも落ち着いてきたので、是非、大勢の方に東京大会にご参加頂きたい。準備をしっかり進めて、皆様をおもてなししたいと考えている」
ー丸安商店では佃煮の直売が人気を呼んでいる。
「本社工場では10年前から直売を始めていたが、コロナ禍で地元を散策する人が増え、売上はコロナ前の2倍に増加した。路地裏の目立たない場所にあるが、近隣のマンションに住む20~30代の若い世代が買いに来てくれるようになった。そのきっかけとなっているのが“クランベリークルミ”の存在。店前の看板にクランベリークルミの取扱いを記載してから、若い世代が興味を持って店に寄ってくれるようになった。最初はクランベリークルミのみを購入していったお客様が次第に魚介佃煮の美味しさを知り、リピーターになってくれている。1品500円という値段設定や、お客様自身がSNSで発信してくれる宣伝効果も大きいと思う。今後もクランベリークルミのような若い世代に興味を持ってもらえる商品を開発し、それをきっかけに様々な佃煮の美味しさをたくさんの方に知ってもらいたい」
【2023(令和5)年4月11日第5125号5面】
全調食東海北陸ブロック会 会長 平松賢介氏
消費者ニーズに合わせた販路拡大
6月の研修会はベトナムへ
全調食東海北陸ブロック会の平松賢介会長(平松食品社長)にインタビュー。平松食品では2022年に開催された全国水産加工たべもの展において「Teriyaki Fish Jerky いわし」が水産庁長官賞を受賞するなど「Teriyaki Fish」シリーズが新しいスタイルを提案するつくだ煮として、注目を集めている。平松会長は、コスト増が続く中、消費者のニーズに合わせ、販路の拡大や販売方法の変化を仕掛けていく必要があると語った。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
ー昨年の年末・おせち商戦。
「行動制限の緩和があり、年末・おせち関連の売上は落ち着くかと思ったが、結果的にはまずまずの成績で着地した。弊社で扱う甘露煮の市場はある程度集約されているため、飛び抜けて動くことはないが、にしん甘露煮については、年越しそばの具材として近年コンスタントに推移している。おせちの売上を牽引したのが、地元三河産の本はぜ甘露煮だ。昨年開催した三河湾産マハゼを釣り人から買い取る『ハゼ釣りんピック』のスキームは成功で、今年も実施する。近年、地元漁師の減少により、おせち原料として使用する三河湾産マハゼが不安定になっていたが、この取組により原料確保への道筋が見えた。安定した原料が見込めれば、戦略が組めるため、今後は甘露煮やそれに付随するマーケットへ提案を行っていきたい」
ー2月の節分いわしの動向。
「3月から全体的に5%ほど値上げを実施する、と事前案内していたので、1月と2月に駆け込みがあると予想していたが、あまりその動きは少なく、いわし甘露煮金ごま包みがけん引した。節分いわしは各地域で年々売上を伸ばしており、発祥の地と言われる関西はもとより、東海や関東圏も伸びてきているので、いかに需要に応えていくか、生産体制を整えるかが課題だ」
ー平松食品のブランドを高めている。
「自社商品は『豊川ブランド』を取得しており、地元でも評価が高い。4月4日、イオンモール豊川がオープンし、豊川市観光協会でブース出展するので、自社の商品も陳列してもらっている。これら地元で知名度が上がることで認知度が拡大し、『平松食品で働きたい』と思ってもらえる企業にしていき、求人活動の支援にもつなげていきたい」
ー海外輸出にも力を入れている。
「ベトナムが有望と思っている。継続した経済成長、勤勉な国民性ともに平均年齢も若く、将来有望だ。現在同国のイオン全店に当社の製品が導入され、滞在している日本人に加え、現地の方にも手に取ってもらっている。しかし、水産加工品の輸出には、日本とベトナムの両国で審査登録が必須で、計1年は掛かる。計画的に、戦略的に動く必要があり労力を要求されるが、競合が少ないので、狙い目だと見ている。中国・香港については、人口や経済規模からしてマーケットとしては魅力があるものの、政治的リスクが高く、慎重になる日本企業がより増えるのではないか。イギリスがTPPに加盟するというニュースを見て、ヨーロッパ進出を視野に、新しい可能性が広がると感じた」
ー組合活動について。
「4月の総会のセミナーでは、まるや八丁味噌の社長をお呼びして、八丁味噌の歴史と伝統食品の近代化についてお話しいただく。6月には研修旅行でベトナムに行く。ハノイの日系スーパー・現地系スーパーを視察して、技能実習生の送り出し会社でお話を聞き、JETROのブリーフィングを通じ、現地の熱気を体感する」
ー今後について。
「米シリコンバレー銀行が3月に破綻した。相次ぐ銀行破綻で、最悪の場合、リーマンショック級の金融危機が起きても不思議ではない。景気低迷のシナリオも頭に入れながら、柔軟に対応していく必要がある。消費者の節約志向は高まっているが、メーカーと小売が一体となり、新しい売場を作ることを仕掛けていく必要がある。海外輸出を含め、ある程度リスクを取らなければ、未来の果実は得られないと考えている」
(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
ー昨年の年末・おせち商戦。
「行動制限の緩和があり、年末・おせち関連の売上は落ち着くかと思ったが、結果的にはまずまずの成績で着地した。弊社で扱う甘露煮の市場はある程度集約されているため、飛び抜けて動くことはないが、にしん甘露煮については、年越しそばの具材として近年コンスタントに推移している。おせちの売上を牽引したのが、地元三河産の本はぜ甘露煮だ。昨年開催した三河湾産マハゼを釣り人から買い取る『ハゼ釣りんピック』のスキームは成功で、今年も実施する。近年、地元漁師の減少により、おせち原料として使用する三河湾産マハゼが不安定になっていたが、この取組により原料確保への道筋が見えた。安定した原料が見込めれば、戦略が組めるため、今後は甘露煮やそれに付随するマーケットへ提案を行っていきたい」
ー2月の節分いわしの動向。
「3月から全体的に5%ほど値上げを実施する、と事前案内していたので、1月と2月に駆け込みがあると予想していたが、あまりその動きは少なく、いわし甘露煮金ごま包みがけん引した。節分いわしは各地域で年々売上を伸ばしており、発祥の地と言われる関西はもとより、東海や関東圏も伸びてきているので、いかに需要に応えていくか、生産体制を整えるかが課題だ」
ー平松食品のブランドを高めている。
「自社商品は『豊川ブランド』を取得しており、地元でも評価が高い。4月4日、イオンモール豊川がオープンし、豊川市観光協会でブース出展するので、自社の商品も陳列してもらっている。これら地元で知名度が上がることで認知度が拡大し、『平松食品で働きたい』と思ってもらえる企業にしていき、求人活動の支援にもつなげていきたい」
ー海外輸出にも力を入れている。
「ベトナムが有望と思っている。継続した経済成長、勤勉な国民性ともに平均年齢も若く、将来有望だ。現在同国のイオン全店に当社の製品が導入され、滞在している日本人に加え、現地の方にも手に取ってもらっている。しかし、水産加工品の輸出には、日本とベトナムの両国で審査登録が必須で、計1年は掛かる。計画的に、戦略的に動く必要があり労力を要求されるが、競合が少ないので、狙い目だと見ている。中国・香港については、人口や経済規模からしてマーケットとしては魅力があるものの、政治的リスクが高く、慎重になる日本企業がより増えるのではないか。イギリスがTPPに加盟するというニュースを見て、ヨーロッパ進出を視野に、新しい可能性が広がると感じた」
ー組合活動について。
「4月の総会のセミナーでは、まるや八丁味噌の社長をお呼びして、八丁味噌の歴史と伝統食品の近代化についてお話しいただく。6月には研修旅行でベトナムに行く。ハノイの日系スーパー・現地系スーパーを視察して、技能実習生の送り出し会社でお話を聞き、JETROのブリーフィングを通じ、現地の熱気を体感する」
ー今後について。
「米シリコンバレー銀行が3月に破綻した。相次ぐ銀行破綻で、最悪の場合、リーマンショック級の金融危機が起きても不思議ではない。景気低迷のシナリオも頭に入れながら、柔軟に対応していく必要がある。消費者の節約志向は高まっているが、メーカーと小売が一体となり、新しい売場を作ることを仕掛けていく必要がある。海外輸出を含め、ある程度リスクを取らなければ、未来の果実は得られないと考えている」
【2023(令和5)年4月11日第5125号7面】
株式会社おかわりJAPAN 代表取締役社長 長船邦彦氏
「ご飯のお供専門家」としてECや催事で“体験”伝える
「ご飯のお供専門家」として数々のメディアに出演する、株式会社おかわりJAPAN代表取締役社長の長船邦彦氏。ご飯好きが高じて趣味としてブログを始めたが、いつしか「ご飯の素晴らしさを知ってほしい」という夢を持つようになり、独立。詰め合わせセットを販売するECサイト運営やメディア出演、イベント企画へ取り組んでいる。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ーおかわりJAPANとは。
「私は子供の頃から食べることが大好きで、食品会社に勤めながら、趣味として食べたものを書き留めておくために始めたブログが始まりです。続けていくうちに、地域差や共通点が見えるようになってきて、それを体系化するようになりました。すると、多くの方に見て頂き、メディアからも声がかかるようになりました。勤め先にも副業として認めていただいていたのですが、活動に本格的に取り組むため、2021年10月に独立起業しました」
ー独立のきっかけは。
「地方の小規模メーカーの多くは発信が苦手で、せっかく良いものを作っても見つけてもらえないケースがとても多いです。中には廃業される会社もあります。私が紹介して注文が増えたと感謝のお言葉を頂くこともあります。日本の隠れた名品をもっと多くの方に知って欲しい、ご飯の素晴らしさを伝えたいと考えて独立しました。現在はEC、メディア出演、イベント企画の3本を軸としています」
ーECサイトについて。
「色々なコンセプトを立てて、詰め合わせセットを販売しています。商品単体ではなく“体験”を販売しているイメージです。オリジナル商品にはあまり取り組まず、今ある地方の美味しいものを紹介していくというスタンスを大切にしていきたいと考えています」
ーメディア出演の状況は。
「昨年は約30番組に出演しました。以前は会社員としての仕事優先で出演をお断りするケースもありましたが、今後は積極的に出演できそうです。例年9~11月の新米時期にオファーが集中して、その時期にはブログやECのアクセスも倍増しています」
ーイベントの計画は。
「全国各地で実施していく計画中です。3月には名古屋の名鉄百貨店本店TSUTAYA BOOKSTOREシェアラウンジで、美味しいお米とご飯のお供を楽しむセミナー形式のイベントを開催しました。地元米穀卸の㈱米由様、AKOMEYA TOKYO様にもご協力頂いて、お米を色々な炊飯器で食べ比べたり、AKOMEYA様の商品の魅力を解説したりと“体験”を重視したイベントとしました」
ー今後について。
「これまでは食べて美味しいものを紹介していくのがメインでした。今後は生産者の現場や思いを伝えることが出来れば“体験”の質も高まっていくと思います。共感いただけるメーカー様がいらっしゃれば、ぜひお声がけください」
◇ ◇
ーおかわりJAPANとは。
「私は子供の頃から食べることが大好きで、食品会社に勤めながら、趣味として食べたものを書き留めておくために始めたブログが始まりです。続けていくうちに、地域差や共通点が見えるようになってきて、それを体系化するようになりました。すると、多くの方に見て頂き、メディアからも声がかかるようになりました。勤め先にも副業として認めていただいていたのですが、活動に本格的に取り組むため、2021年10月に独立起業しました」
ー独立のきっかけは。
「地方の小規模メーカーの多くは発信が苦手で、せっかく良いものを作っても見つけてもらえないケースがとても多いです。中には廃業される会社もあります。私が紹介して注文が増えたと感謝のお言葉を頂くこともあります。日本の隠れた名品をもっと多くの方に知って欲しい、ご飯の素晴らしさを伝えたいと考えて独立しました。現在はEC、メディア出演、イベント企画の3本を軸としています」
ーECサイトについて。
「色々なコンセプトを立てて、詰め合わせセットを販売しています。商品単体ではなく“体験”を販売しているイメージです。オリジナル商品にはあまり取り組まず、今ある地方の美味しいものを紹介していくというスタンスを大切にしていきたいと考えています」
ーメディア出演の状況は。
「昨年は約30番組に出演しました。以前は会社員としての仕事優先で出演をお断りするケースもありましたが、今後は積極的に出演できそうです。例年9~11月の新米時期にオファーが集中して、その時期にはブログやECのアクセスも倍増しています」
ーイベントの計画は。
「全国各地で実施していく計画中です。3月には名古屋の名鉄百貨店本店TSUTAYA BOOKSTOREシェアラウンジで、美味しいお米とご飯のお供を楽しむセミナー形式のイベントを開催しました。地元米穀卸の㈱米由様、AKOMEYA TOKYO様にもご協力頂いて、お米を色々な炊飯器で食べ比べたり、AKOMEYA様の商品の魅力を解説したりと“体験”を重視したイベントとしました」
ー今後について。
「これまでは食べて美味しいものを紹介していくのがメインでした。今後は生産者の現場や思いを伝えることが出来れば“体験”の質も高まっていくと思います。共感いただけるメーカー様がいらっしゃれば、ぜひお声がけください」
【2023(令和5)年4月11日第5125号8面】
おかわりJAPAN
4月11日号 栃木特集インタビュー
栃木県漬物工業協同組合 理事長 秋本 薫氏
栃木は少数精鋭で共同体
加工技術を磨き明るい未来へ
3月に開催された総会で留任が決まり、6期目を迎えた栃木県漬物工業協同組合の秋本薫理事長(株式会社アキモ代表取締役社長、栃木県宇都宮市)にインタビュー。6期目の抱負や今後の活動方針、10月17日に開催される全日本漬物協同組合連合会青年部会第41回全国大会栃木大会について話を聞いた。漬物産業や農業はIT化が遅れていることを指摘した上で「逆に言えばIT化を進められる余地があるので伸び代があるということ」と明言し、改めて漬物の魅力や可能性を強調した。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐3月の総会で留任し、理事長として6期目を迎えた。
「理事長を10年務めたことになるが、長くは感じなかった。諸先輩方をはじめ、組合員の方々、業界の方に支えられて組合活動を行うことができてとても感謝している。自分たちの役目は次の世代にバトンを渡すこと。そのようなことも考えながら、活動していきたいと考えている」
‐組合員が減少している。
「25年前に栃木県で1回目の青年部会全国大会を開催したのだが、当時の組合員数は43社だった。現在は14社で、業者数は大幅に減少している。残った企業についてはそれぞれの個性や特徴を活かしながら、しっかりと事業を行っている。都道府県別の漬物出荷金額を見ると、栃木県は毎年5位以上に位置している。まさに少数精鋭といったところで、時代が大きく変化する中でも協力関係を築き、共同体として進んでいきたい」
‐栃木の魅力は。
「首都圏に位置し、消費地である東京と距離が近いことが大きい。東西南北を連携する高速道路をはじめ、新幹線を利用すれば通勤圏内でもある。開発が進んでいる宇都宮の発展、日光や鬼怒川などの観光地、いちごを代表とする農産物など全国に誇るものが数多くある。漬物においても日本一の生産量を誇る酢漬の他、バラエティー豊かな漬物を製造している。売り先も量販店から外食向けの業務用、観光土産と幅広く、色々なものが集約されている。全国大会では餃子をテーマにした記念講演を開催させていただくので、楽しみにしていただきたい」
‐今後の漬物業界について。
「漬物は食物繊維を効率良く摂取できるサプリメントのようなもの。世界の人は日本食を健康食品だと認知していて、その中には日本が誇るべき食品である漬物も含まれている、ということをPRしていく必要がある。漬物産業と日本の農業はIT化が遅れているのだが、逆に言えばIT化を進められる余地があるので伸び代があるということ。農業の発展とともに加工技術を磨き、漬物にこだわらず野菜を美味しく楽しく健康的に食べられるものに加工できれば、新たな市場が生まれる。農業との関りを強くすれば行政の支援も期待でき、国民の健康と食料自給率の向上に貢献することができる。ネガティブな意見も耳にするが、私は明るい未来しか想像できない」
【2023(令和5)年4月11日第5125号12面】
加工技術を磨き明るい未来へ
3月に開催された総会で留任が決まり、6期目を迎えた栃木県漬物工業協同組合の秋本薫理事長(株式会社アキモ代表取締役社長、栃木県宇都宮市)にインタビュー。6期目の抱負や今後の活動方針、10月17日に開催される全日本漬物協同組合連合会青年部会第41回全国大会栃木大会について話を聞いた。漬物産業や農業はIT化が遅れていることを指摘した上で「逆に言えばIT化を進められる余地があるので伸び代があるということ」と明言し、改めて漬物の魅力や可能性を強調した。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐3月の総会で留任し、理事長として6期目を迎えた。
「理事長を10年務めたことになるが、長くは感じなかった。諸先輩方をはじめ、組合員の方々、業界の方に支えられて組合活動を行うことができてとても感謝している。自分たちの役目は次の世代にバトンを渡すこと。そのようなことも考えながら、活動していきたいと考えている」
‐組合員が減少している。
「25年前に栃木県で1回目の青年部会全国大会を開催したのだが、当時の組合員数は43社だった。現在は14社で、業者数は大幅に減少している。残った企業についてはそれぞれの個性や特徴を活かしながら、しっかりと事業を行っている。都道府県別の漬物出荷金額を見ると、栃木県は毎年5位以上に位置している。まさに少数精鋭といったところで、時代が大きく変化する中でも協力関係を築き、共同体として進んでいきたい」
‐栃木の魅力は。
「首都圏に位置し、消費地である東京と距離が近いことが大きい。東西南北を連携する高速道路をはじめ、新幹線を利用すれば通勤圏内でもある。開発が進んでいる宇都宮の発展、日光や鬼怒川などの観光地、いちごを代表とする農産物など全国に誇るものが数多くある。漬物においても日本一の生産量を誇る酢漬の他、バラエティー豊かな漬物を製造している。売り先も量販店から外食向けの業務用、観光土産と幅広く、色々なものが集約されている。全国大会では餃子をテーマにした記念講演を開催させていただくので、楽しみにしていただきたい」
‐今後の漬物業界について。
「漬物は食物繊維を効率良く摂取できるサプリメントのようなもの。世界の人は日本食を健康食品だと認知していて、その中には日本が誇るべき食品である漬物も含まれている、ということをPRしていく必要がある。漬物産業と日本の農業はIT化が遅れているのだが、逆に言えばIT化を進められる余地があるので伸び代があるということ。農業の発展とともに加工技術を磨き、漬物にこだわらず野菜を美味しく楽しく健康的に食べられるものに加工できれば、新たな市場が生まれる。農業との関りを強くすれば行政の支援も期待でき、国民の健康と食料自給率の向上に貢献することができる。ネガティブな意見も耳にするが、私は明るい未来しか想像できない」
【2023(令和5)年4月11日第5125号12面】
全日本漬物協同組合連合会青年部会 第41回全国大会栃木大会 大会会長 遠藤栄一氏
青年部員4名で栃木大会開催
適正価格化の意識共有へ
3月15日に開催された栃木県漬物工業協同組合(秋本薫理事長)の総会で副理事長に就任した遠藤食品株式会社(栃木県佐野市下彦間町)の遠藤栄一社長にインタビュー。同組合青年部部長でもある遠藤社長は、10月17日に開催される全日本漬物協同組合連合会青年部会第41回全国大会栃木大会の大会会長として業界を盛り上げる役割を担っている。遠藤社長はSDGsをテーマに青年部員4名で開催する栃木大会を通して適正価格化の意識共有を図り、全国に元気と勇気を発信する意向を示した。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐全国大会の会場となる宇都宮の開発が進んでいる。
「宇都宮駅東口地区整備事業によって誕生した『ウツノミヤテラス』は、使いやすさと上質さを兼ね備えたライフスタイル型商業施設で、関東最大級の収容人数を誇るライトキューブ宇都宮の他、緑あふれる広場などを備える宇都宮の新たなランドマークとなる大型複合施設。次世代型路面電車『LRT』の運行も今年8月にスタートする。栃木には日本酒、焼酎、ワインなどのお酒や日光東照宮、鬼怒川温泉、足利学校などの観光地、名物の餃子や生産量日本一を誇るいちごなどがある。多くの方に進化した栃木の魅力や良さを伝えたい」
‐全国大会で伝えたいことは。
「青年部会のメンバーは業界の未来を担っている。そのような方たちに何かを学んでいただきたい、ということではなく全国の方たちとの出会いの場を提供したいと考えている。異なる風土や地域の方が集まれば、自分にはなかった発想やアイデアに触れることができる。人脈だけでなく固定されがちな考え方を広げるチャンスになる。それこそが全国大会の大きな意義だと思っているので、多くの方にお越しいただきたい」
‐全国の青年部会員と共有したい考えは。
「原材料をはじめ、調味料や包装資材の他、物流費やエネルギーコストも上昇し続けている。本来ならば価格転嫁をスムーズに行う必要があるのだが、漬物業界は思うように進んでいないように見える。持続可能な会社経営、未来ある業界を作っていくためには適正価格を追求する必要がある。物価が上昇し、消費者の節約志向は以前にも増して高まっているが、消費者に支持される商品を提供し続けることがメーカーの使命で、価格競争は誰のためにもならない。全国大会はそのようなことを意識していただくきっかになれば良いと思っている」
‐青年部員4名で栃木大会を開催する。
「青年部は私と菅野嘉弘実行委員長(すが野専務)、新規入会2名の合計4名だが、不安はない。秋本薫理事長にはいつも貴重な意見をいただいており、企画や運営の面でも協力をいただいている。月1回程度のペースで打合せを行っているが、人数が少ない分、スピーディーに準備を進めることができている。初のオンライン開催となった新潟大会、岸田首相の挨拶など素晴らしい内容を披露した広島大会と良い流れで迎える栃木大会は、SDGsに対応した取組を行いながら『~愛を込めて、自然・健康、そして、持続可能な開発へ~』をテーマに開催する。少ない人数でも開催できる、ということを見ていただき、全国の方に元気と勇気を発信できればと思っている」
【2023(令和5)年4月11日第5125号10面】
適正価格化の意識共有へ
3月15日に開催された栃木県漬物工業協同組合(秋本薫理事長)の総会で副理事長に就任した遠藤食品株式会社(栃木県佐野市下彦間町)の遠藤栄一社長にインタビュー。同組合青年部部長でもある遠藤社長は、10月17日に開催される全日本漬物協同組合連合会青年部会第41回全国大会栃木大会の大会会長として業界を盛り上げる役割を担っている。遠藤社長はSDGsをテーマに青年部員4名で開催する栃木大会を通して適正価格化の意識共有を図り、全国に元気と勇気を発信する意向を示した。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐全国大会の会場となる宇都宮の開発が進んでいる。
「宇都宮駅東口地区整備事業によって誕生した『ウツノミヤテラス』は、使いやすさと上質さを兼ね備えたライフスタイル型商業施設で、関東最大級の収容人数を誇るライトキューブ宇都宮の他、緑あふれる広場などを備える宇都宮の新たなランドマークとなる大型複合施設。次世代型路面電車『LRT』の運行も今年8月にスタートする。栃木には日本酒、焼酎、ワインなどのお酒や日光東照宮、鬼怒川温泉、足利学校などの観光地、名物の餃子や生産量日本一を誇るいちごなどがある。多くの方に進化した栃木の魅力や良さを伝えたい」
‐全国大会で伝えたいことは。
「青年部会のメンバーは業界の未来を担っている。そのような方たちに何かを学んでいただきたい、ということではなく全国の方たちとの出会いの場を提供したいと考えている。異なる風土や地域の方が集まれば、自分にはなかった発想やアイデアに触れることができる。人脈だけでなく固定されがちな考え方を広げるチャンスになる。それこそが全国大会の大きな意義だと思っているので、多くの方にお越しいただきたい」
‐全国の青年部会員と共有したい考えは。
「原材料をはじめ、調味料や包装資材の他、物流費やエネルギーコストも上昇し続けている。本来ならば価格転嫁をスムーズに行う必要があるのだが、漬物業界は思うように進んでいないように見える。持続可能な会社経営、未来ある業界を作っていくためには適正価格を追求する必要がある。物価が上昇し、消費者の節約志向は以前にも増して高まっているが、消費者に支持される商品を提供し続けることがメーカーの使命で、価格競争は誰のためにもならない。全国大会はそのようなことを意識していただくきっかになれば良いと思っている」
‐青年部員4名で栃木大会を開催する。
「青年部は私と菅野嘉弘実行委員長(すが野専務)、新規入会2名の合計4名だが、不安はない。秋本薫理事長にはいつも貴重な意見をいただいており、企画や運営の面でも協力をいただいている。月1回程度のペースで打合せを行っているが、人数が少ない分、スピーディーに準備を進めることができている。初のオンライン開催となった新潟大会、岸田首相の挨拶など素晴らしい内容を披露した広島大会と良い流れで迎える栃木大会は、SDGsに対応した取組を行いながら『~愛を込めて、自然・健康、そして、持続可能な開発へ~』をテーマに開催する。少ない人数でも開催できる、ということを見ていただき、全国の方に元気と勇気を発信できればと思っている」
【2023(令和5)年4月11日第5125号10面】
4月1日号 高菜漬特集 トップに聞く
オギハラ食品株式会社 代表取締役社長 荻原浩幸氏
4年連続不作で原料不足 付加価値ある商品作り重要
大正5年創業、オギハラ食品株式会社(荻原浩幸社長、福岡県大牟田市)は、創業100年を超える高菜漬の老舗メーカー。荻原社長は、九州産高菜原料が不足する中、付加価値のある商品作りに取り組むことが重要だと強調する。
(小林悟空)
◇ ◇
‐高菜の原料状況は。
「収穫は4月上旬に終わる予定で、今のペースのままなら4年連続の減収になりそうだ。1月25日に『最強寒波』が日本を襲い、九州でも氷点下になり降雪があった。高菜の外葉が霜焼けになり生育も悪く、全体的に小株傾向。厳しい作柄が続いているため、大切に売っていく一年間となっていきそうだ」
‐対応は。
「原料価格を上げ、儲かる農業を実現してもらうのが最も根本的な解決方法であり、そのためには付加価値のある商品を作り、我々メーカーから生産者へ還元を図っていかなければいけない。付加価値とは何かを考える良い例となるのがごま高菜。当社は約30年前に『元祖三池ごまたかな』をいち早く商品化したが、その背景には当時は姿物が主流であったため、刻んでごまをまぶすことで差別化する狙いがあったようだ。発売当初は苦労があったようだが、今では刻み高菜の方が主流となるほど定着している。流行を捉えることは重要だが、時には自ら革新を生み出そうとする気概も必要という好例だ」
‐販促活動について。
「原料の不足傾向が続いているので、積極的な販路拡大には踏み切れない。コロナで減っていた商談も再開してきたので、歯がゆい思いをしている。その分、消費者向けの発信や、社内体制の整備に力を入れている。消費者へ向けて力を入れているのがSNS。宣伝ではなく、まずは高菜や当社に興味を持ってもらうためのレシピ提案や、製造風景の公開を行っている。一気に話題にならなくても、コツコツと蓄積していけば会社の財産になると考えている」
‐社内体制の整備は。
「働く目的はお金や向上心などそれぞれだが、一言でまとめると幸せになることに行き着く。社長就任して5年目の年にコロナ禍となって以来このことを意識するようになり、業績第一の姿勢から『志』の経営へシフトしている。その指針となるのが経営理念『伝統を守り、革新を続け、食文化に貢献する。高菜漬の可能性を追求し、さらにおいしく、食生活をもっと豊かに』。3月25日に社内で経営方針発表を行い、組織として目指すべき姿を共有した」
‐高菜漬への思い。
「高菜漬作りは決して楽な仕事ではなく、機械やマニュアルがあっても、それ任せではなく高菜に対して理解を持って現場で判断していかなければ完璧な仕事は出来ない。今期の全社目標は『スマイル』。高菜漬に対し誇りと喜びを持って笑顔で働ける職場を作れば、自然とパフォーマンスが上がり、結果として業績にも繋がると信じている。当社の頑張りが原料生産者や関連する全ての人々も笑顔に繋がることを胸に、努力していく」
【2023(令和5)年4月1日第5124号7面】
電子版「九州うまかモン」
https://www.syokuryou-shinbun.com/pages/254/
大正5年創業、オギハラ食品株式会社(荻原浩幸社長、福岡県大牟田市)は、創業100年を超える高菜漬の老舗メーカー。荻原社長は、九州産高菜原料が不足する中、付加価値のある商品作りに取り組むことが重要だと強調する。
(小林悟空)
◇ ◇
‐高菜の原料状況は。
「収穫は4月上旬に終わる予定で、今のペースのままなら4年連続の減収になりそうだ。1月25日に『最強寒波』が日本を襲い、九州でも氷点下になり降雪があった。高菜の外葉が霜焼けになり生育も悪く、全体的に小株傾向。厳しい作柄が続いているため、大切に売っていく一年間となっていきそうだ」
‐対応は。
「原料価格を上げ、儲かる農業を実現してもらうのが最も根本的な解決方法であり、そのためには付加価値のある商品を作り、我々メーカーから生産者へ還元を図っていかなければいけない。付加価値とは何かを考える良い例となるのがごま高菜。当社は約30年前に『元祖三池ごまたかな』をいち早く商品化したが、その背景には当時は姿物が主流であったため、刻んでごまをまぶすことで差別化する狙いがあったようだ。発売当初は苦労があったようだが、今では刻み高菜の方が主流となるほど定着している。流行を捉えることは重要だが、時には自ら革新を生み出そうとする気概も必要という好例だ」
‐販促活動について。
「原料の不足傾向が続いているので、積極的な販路拡大には踏み切れない。コロナで減っていた商談も再開してきたので、歯がゆい思いをしている。その分、消費者向けの発信や、社内体制の整備に力を入れている。消費者へ向けて力を入れているのがSNS。宣伝ではなく、まずは高菜や当社に興味を持ってもらうためのレシピ提案や、製造風景の公開を行っている。一気に話題にならなくても、コツコツと蓄積していけば会社の財産になると考えている」
‐社内体制の整備は。
「働く目的はお金や向上心などそれぞれだが、一言でまとめると幸せになることに行き着く。社長就任して5年目の年にコロナ禍となって以来このことを意識するようになり、業績第一の姿勢から『志』の経営へシフトしている。その指針となるのが経営理念『伝統を守り、革新を続け、食文化に貢献する。高菜漬の可能性を追求し、さらにおいしく、食生活をもっと豊かに』。3月25日に社内で経営方針発表を行い、組織として目指すべき姿を共有した」
‐高菜漬への思い。
「高菜漬作りは決して楽な仕事ではなく、機械やマニュアルがあっても、それ任せではなく高菜に対して理解を持って現場で判断していかなければ完璧な仕事は出来ない。今期の全社目標は『スマイル』。高菜漬に対し誇りと喜びを持って笑顔で働ける職場を作れば、自然とパフォーマンスが上がり、結果として業績にも繋がると信じている。当社の頑張りが原料生産者や関連する全ての人々も笑顔に繋がることを胸に、努力していく」
【2023(令和5)年4月1日第5124号7面】
電子版「九州うまかモン」
https://www.syokuryou-shinbun.com/pages/254/
3月21日号 梅特集
中田食品株式会社 代表取締役社長 中田吉昭氏
今年度は増収の見通し
SNSで若年層にアプローチ
SNSで若年層にアプローチ
中田食品株式会社(和歌山県田辺市)の中田吉昭社長にインタビュー。今年の梅の開花状況きや梅干しの売れ行きなどについて話を聞いた。コロナ禍でやや低調だった売れ行きは底を打ち、今年度の業績(3月決算)については増収で着地する見通し。また、若い世代へのアプローチやファン作りのツールとしてSNSによる情報発信に手応えを感じており、今後も積極的に取り組んでいく方針を示した。(千葉友寛)
◇ ◇
――今年の梅の開花状況は。
「開花状況は例年並みとなっている。2月の半ばから20日くらいに満開期を迎えた。開花後は寒い日が続かなかったので、ミツバチも良く飛んでいた。色々な品種の花が一気に咲いた感じで、南高の交配にもつながったと思う。ここまでは順調にきている」
――2022年の梅干しの売れ行きと産地の原料在庫状況は。
「量販店の売れ行きはPOSデータの通り、数%下がっている。1年を通して見ると、夏は梅雨明けが早く、暑い日も多かったので売れ行きは良かったが、夏以外はやや低調で、全体でも5%くらいのマイナスとなっていると思う。売れ筋は低級原料の普及品で、中国産の梅も根強い人気がある。昨年は円安の影響があったので値上げを実施したが、値上げしても売れ行きは変わらなかった。ただ、今後は物価が上昇している中で消費者の生活防衛意識がますます高まっていくため、梅干し業界はさらに厳しい状況になると予想している」
――ここ数年の御社の業績について。
「弊社の数年間の売上げは、2018年にテレビ番組と猛暑の影響で特需が発生し、弊社も1年間で約20億円伸びたが、その翌年は紀州梅が凶作となり原料価格高騰で、値上げを余儀なくされ売上が6%ほど落ちた。2020年からのコロナ禍に於いて、売上げは若干落ちたが減少を最小限に抑える努力を続け、本年度は売上げを維持して前年と変わらない着地を予想している」
――在庫状況と値上げの動きについて。
「在庫状況は各社で異なるが、紀州は2年続けて良い作柄となっていることもあり、産地在庫としては余裕がある状況。販売面が課題となる。昨年は一昨年と比較して作柄はやや悪かったが、原料価格が落ち着いていたこともあり製品価格も値上げにはならなかった。包装資材、調味料、段ボールの他、物流費や電気代など、様々な製造コストが上がっているが、原料価格が安定していることと企業努力によって吸収している形だ」
――若年層へのアプローチについて。
「梅干し業界はこれからも買い続けていただくための努力をしていく必要がある。梅干しの主な購買層は中高年世代だが、梅干しが好きな若い人も多い。2月11日に和歌山市で開催された東京ガールズコレクション(TGC)で、ケータリングのブースを出したところ、モデルさんたちから大変好評をいただいた。若い女性への発信力が大きい人気モデルやタレントが『梅干しが美味しい!大好き』とSNSにアップしてくれて大きな反響を呼んでいる。若い人は梅干しが嫌い、梅干しを食べない、といったイメージを持っている人も多いと思うが、実際はそうではないことがうかがえる。そのような意味でも潜在需要はまだまだあると思っている」
――今年1月に和歌山の梅干しメーカーが発信したSNSの情報が話題となった。
「かなり大きな話題になり、改めてそういう時代なのか、ということを実感した。表現の仕方には注意が必要だが、個人的には梅干しが話題になったことはポジティブに捉えている。弊社もSNSによる情報発信に取り組んでいるが、着実にファンが増えていると感じている。今後も上手く活用して梅と弊社の魅力を発信していきたいと考えている」
◇ ◇
――今年の梅の開花状況は。
「開花状況は例年並みとなっている。2月の半ばから20日くらいに満開期を迎えた。開花後は寒い日が続かなかったので、ミツバチも良く飛んでいた。色々な品種の花が一気に咲いた感じで、南高の交配にもつながったと思う。ここまでは順調にきている」
――2022年の梅干しの売れ行きと産地の原料在庫状況は。
「量販店の売れ行きはPOSデータの通り、数%下がっている。1年を通して見ると、夏は梅雨明けが早く、暑い日も多かったので売れ行きは良かったが、夏以外はやや低調で、全体でも5%くらいのマイナスとなっていると思う。売れ筋は低級原料の普及品で、中国産の梅も根強い人気がある。昨年は円安の影響があったので値上げを実施したが、値上げしても売れ行きは変わらなかった。ただ、今後は物価が上昇している中で消費者の生活防衛意識がますます高まっていくため、梅干し業界はさらに厳しい状況になると予想している」
――ここ数年の御社の業績について。
「弊社の数年間の売上げは、2018年にテレビ番組と猛暑の影響で特需が発生し、弊社も1年間で約20億円伸びたが、その翌年は紀州梅が凶作となり原料価格高騰で、値上げを余儀なくされ売上が6%ほど落ちた。2020年からのコロナ禍に於いて、売上げは若干落ちたが減少を最小限に抑える努力を続け、本年度は売上げを維持して前年と変わらない着地を予想している」
――在庫状況と値上げの動きについて。
「在庫状況は各社で異なるが、紀州は2年続けて良い作柄となっていることもあり、産地在庫としては余裕がある状況。販売面が課題となる。昨年は一昨年と比較して作柄はやや悪かったが、原料価格が落ち着いていたこともあり製品価格も値上げにはならなかった。包装資材、調味料、段ボールの他、物流費や電気代など、様々な製造コストが上がっているが、原料価格が安定していることと企業努力によって吸収している形だ」
――若年層へのアプローチについて。
「梅干し業界はこれからも買い続けていただくための努力をしていく必要がある。梅干しの主な購買層は中高年世代だが、梅干しが好きな若い人も多い。2月11日に和歌山市で開催された東京ガールズコレクション(TGC)で、ケータリングのブースを出したところ、モデルさんたちから大変好評をいただいた。若い女性への発信力が大きい人気モデルやタレントが『梅干しが美味しい!大好き』とSNSにアップしてくれて大きな反響を呼んでいる。若い人は梅干しが嫌い、梅干しを食べない、といったイメージを持っている人も多いと思うが、実際はそうではないことがうかがえる。そのような意味でも潜在需要はまだまだあると思っている」
――今年1月に和歌山の梅干しメーカーが発信したSNSの情報が話題となった。
「かなり大きな話題になり、改めてそういう時代なのか、ということを実感した。表現の仕方には注意が必要だが、個人的には梅干しが話題になったことはポジティブに捉えている。弊社もSNSによる情報発信に取り組んでいるが、着実にファンが増えていると感じている。今後も上手く活用して梅と弊社の魅力を発信していきたいと考えている」
【2023(令和5)年3月21日第5123号2面】
紀州みなべ梅干協同組合 理事長 殿畑雅敏氏
利益の確保が課題
農家とともに歩み産地を維持
紀州みなべ梅干協同組合殿畑雅敏理事長(株式会社トノハタ社長)にインタビュー。梅干しの売れ行きや在庫状況などについて話を聞いた。ここ2年は良い作柄が続いており、今年も良好な開花状況となっている。原料在庫は問題ない状況だが、紀州梅産地も農家の後継ぎが課題となっている。殿畑理事長は農家の収入の安定化を図ることが産地の維持につながると指摘。再生産可能な価格を提示し、ともに歩んでいく姿勢を示す必要性を強調した。
◇ ◇
――梅干しの売れ行きは。
「全般的に良くない。昨年から物価高が続き、日常生活に必要なものかどうかの線引きが厳しくなったことが影響していると思う。中国産の梅は円安の影響で仕入れ価格が上がっている。それに加え、製造コストも上昇しており、各社値上げを行っている。国産についても製造コストは上がっているものの、原料に余裕があり価格も安定しているため価格改定の動きにはなっていない。ただ、調味資材、物流費、電気代などの製造コストが短いサイクルで上昇を続けており、利益の確保は大きな課題となっている」
――中国と紀州の開花状況は。
「中国の主産地は6、7割作という話も聞いているが、紀州は順調に開花している。日本の作柄は中国と連動することが多いので、終わってみないとはっきりとしたことは分からない。今の時点で一喜一憂することはあまり意味がない」
――農家の生産意欲について。
「農家は価格の安定を求めている。一昨年は豊作で、昨年は平年作となったが、原料価格が大きく下がることはなかったのでこの2年の収入は良かったと思う。今年は作柄にもよるが、極端な動きにはならないと予想しており、そのような意味では安定した価格で推移すると見ている。紀州も農家の後継ぎの問題が浮上しているが、後を継いでもらうためにも価格の安定化を図っていかなければならない。過去には再生産が難しい価格となったこともあるが、農家、加工業者、流通、消費者のみんなが納得できる価格帯を模索していくことが重要だ」
――今年は価格訴求の動きが出てくる可能性もある。
「各社自由競争の下で経営されているので、コメントは控えたい。紀州梅産地では豊作時に価格が下がり、不作時に価格が上がる、ということが繰り返されてきた。農家の後継者がしっかりと後を継いで産地を維持していくためには原料価格の安定が必要。再生産可能な価格を提示し、ともに歩んでいく姿勢を示さなければ産地が30年、50年、100年後まで続くことはない。年によって作柄が異なるので、多少の変動はあったとしても目先の数字のために動くのではなく、5年、10年といったスパンでとらえる必要がある」
――今後の見通しは。
「予報では今年の夏は暑くなるとのことなので、梅干しが売れる環境になることを期待している。また、5月には新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行するため、より外出機会が増えることが想定される。暑い日の外出は熱中症対策が必要になってくるため、梅干しが活躍する場は増えると見ている」
(千葉友寛)
【2023(令和5)年3月21日第5123号2面】
紀州みなべ梅干協同組合の加盟社一覧
トノハタ HP
◇ ◇
――梅干しの売れ行きは。
「全般的に良くない。昨年から物価高が続き、日常生活に必要なものかどうかの線引きが厳しくなったことが影響していると思う。中国産の梅は円安の影響で仕入れ価格が上がっている。それに加え、製造コストも上昇しており、各社値上げを行っている。国産についても製造コストは上がっているものの、原料に余裕があり価格も安定しているため価格改定の動きにはなっていない。ただ、調味資材、物流費、電気代などの製造コストが短いサイクルで上昇を続けており、利益の確保は大きな課題となっている」
――中国と紀州の開花状況は。
「中国の主産地は6、7割作という話も聞いているが、紀州は順調に開花している。日本の作柄は中国と連動することが多いので、終わってみないとはっきりとしたことは分からない。今の時点で一喜一憂することはあまり意味がない」
――農家の生産意欲について。
「農家は価格の安定を求めている。一昨年は豊作で、昨年は平年作となったが、原料価格が大きく下がることはなかったのでこの2年の収入は良かったと思う。今年は作柄にもよるが、極端な動きにはならないと予想しており、そのような意味では安定した価格で推移すると見ている。紀州も農家の後継ぎの問題が浮上しているが、後を継いでもらうためにも価格の安定化を図っていかなければならない。過去には再生産が難しい価格となったこともあるが、農家、加工業者、流通、消費者のみんなが納得できる価格帯を模索していくことが重要だ」
――今年は価格訴求の動きが出てくる可能性もある。
「各社自由競争の下で経営されているので、コメントは控えたい。紀州梅産地では豊作時に価格が下がり、不作時に価格が上がる、ということが繰り返されてきた。農家の後継者がしっかりと後を継いで産地を維持していくためには原料価格の安定が必要。再生産可能な価格を提示し、ともに歩んでいく姿勢を示さなければ産地が30年、50年、100年後まで続くことはない。年によって作柄が異なるので、多少の変動はあったとしても目先の数字のために動くのではなく、5年、10年といったスパンでとらえる必要がある」
――今後の見通しは。
「予報では今年の夏は暑くなるとのことなので、梅干しが売れる環境になることを期待している。また、5月には新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行するため、より外出機会が増えることが想定される。暑い日の外出は熱中症対策が必要になってくるため、梅干しが活躍する場は増えると見ている」
(千葉友寛)
【2023(令和5)年3月21日第5123号2面】
紀州みなべ梅干協同組合の加盟社一覧
トノハタ HP
紀州田辺梅干協同組合 理事長 大谷喜則氏
春夏に向けて販売強化
求められるイノベーション
紀州田辺梅干協同組合の大谷喜則理事長にインタビュー。梅業界の現状や今後の見通しなどについて話を聞いた。現在、売場で主流となっている調味梅は市場に登場してから約50年が経っており、その歴史とともに歩んできた大谷理事長は梅産業の更なる発展に向けてイノベーションの必要性を指摘。若い世代が力を発揮できる環境を整え、持続可能な梅産業を構築していく意向を示した。(千葉友寛)
◇ ◇
――梅の開花状況は。
「今年は気温が低く、花が咲くタイミングがやや遅くなった。紀州では開花が遅い年は豊作になると言われており、気候も安定しているので現時点では良い作柄になると予想されている」
――梅干しの売れ行きは。
「紀州の作柄は2年続けて良かったのだが、梅干しは漬物売場の中でも高価格帯で、コロナの影響や物価高による節約志向が高まっているため売れ行きは芳しくない。産地の原料在庫は余裕がある状況で、タンクを空けて新物を漬けられるように春夏に向けて販売を強化していく必要がある。農家の生産意欲を維持するためにも原料をバランス良く動かしてくことが重要で、今年は豊富な原料をどのように販売につなげていくか、ということが課題だ」
――梅メーカーのSNSが話題となった。
「SNSは情報が一気に拡散されるので、怖さを感じた部分もある。だが、その影響力が良い方向に向けば良いPRになるし、漬物があまりアプローチできなかった若年層にも情報を発信できる可能性もある。青年部組織の若梅会では、SNSを活用して梅をPRする事業がスタートしている。内容についてはこれから詰めていく方向で取り組んでいる。食べ方や梅の健康機能性に関する情報を発信できればと思っている」
――調味梅の歴史について。
「紀州で調味梅が生まれて約55年が経つ。昔は白干しが一般的だった。梅を調味液に漬け込む調味梅は異端的な存在で、当時は批判的な意見もあったようだが、干しの逆の発想でドリップも出るが、塩分や酸味は抑えられ、美味しい味付けで食べやすくなったことで、支持されるようになっていった。ご飯を食べるのに白干しは1粒で十分だったが、調味梅は3粒4粒と食され、消費量も増加した。かなり前の話では、紀州で漬けられる梅の量は年間50万樽(1樽10㎏)だったが、現在は平年作の年で250万樽と言われている。そのような流れで生産者も業者も増えて現在の梅産業が形成された」
――今後の見通しは。
「紀州の梅産業でも世代交代が進んでいる。まだ後を継いでいない企業でも子息が会社で働いているなど、世代交代の準備を進めているように見受けられる。デジタル社会となり、今後も予想を上回る速度で時代が進んでいくだろう。若い人が力を発揮しなければ企業も産業も置いていかれてしまう。現在、梅干し売場の主流となっているのは調味梅だが、これまでは大きな変化もなく売場を維持できた。しかし、これからは次の時代、世代に向けて持続可能な梅産業を構築していくためにもイノベーションが必要な時にきている。コロナ禍で思うような事業を行うことができなかったが、若梅会を始め、これからの梅産業を支える若い力に期待している」
【2023(令和5)年3月21日第5123号4面】
紀州田辺梅干協同組合の加盟社一覧
大谷屋 HP
求められるイノベーション
紀州田辺梅干協同組合の大谷喜則理事長にインタビュー。梅業界の現状や今後の見通しなどについて話を聞いた。現在、売場で主流となっている調味梅は市場に登場してから約50年が経っており、その歴史とともに歩んできた大谷理事長は梅産業の更なる発展に向けてイノベーションの必要性を指摘。若い世代が力を発揮できる環境を整え、持続可能な梅産業を構築していく意向を示した。(千葉友寛)
◇ ◇
――梅の開花状況は。
「今年は気温が低く、花が咲くタイミングがやや遅くなった。紀州では開花が遅い年は豊作になると言われており、気候も安定しているので現時点では良い作柄になると予想されている」
――梅干しの売れ行きは。
「紀州の作柄は2年続けて良かったのだが、梅干しは漬物売場の中でも高価格帯で、コロナの影響や物価高による節約志向が高まっているため売れ行きは芳しくない。産地の原料在庫は余裕がある状況で、タンクを空けて新物を漬けられるように春夏に向けて販売を強化していく必要がある。農家の生産意欲を維持するためにも原料をバランス良く動かしてくことが重要で、今年は豊富な原料をどのように販売につなげていくか、ということが課題だ」
――梅メーカーのSNSが話題となった。
「SNSは情報が一気に拡散されるので、怖さを感じた部分もある。だが、その影響力が良い方向に向けば良いPRになるし、漬物があまりアプローチできなかった若年層にも情報を発信できる可能性もある。青年部組織の若梅会では、SNSを活用して梅をPRする事業がスタートしている。内容についてはこれから詰めていく方向で取り組んでいる。食べ方や梅の健康機能性に関する情報を発信できればと思っている」
――調味梅の歴史について。
「紀州で調味梅が生まれて約55年が経つ。昔は白干しが一般的だった。梅を調味液に漬け込む調味梅は異端的な存在で、当時は批判的な意見もあったようだが、干しの逆の発想でドリップも出るが、塩分や酸味は抑えられ、美味しい味付けで食べやすくなったことで、支持されるようになっていった。ご飯を食べるのに白干しは1粒で十分だったが、調味梅は3粒4粒と食され、消費量も増加した。かなり前の話では、紀州で漬けられる梅の量は年間50万樽(1樽10㎏)だったが、現在は平年作の年で250万樽と言われている。そのような流れで生産者も業者も増えて現在の梅産業が形成された」
――今後の見通しは。
「紀州の梅産業でも世代交代が進んでいる。まだ後を継いでいない企業でも子息が会社で働いているなど、世代交代の準備を進めているように見受けられる。デジタル社会となり、今後も予想を上回る速度で時代が進んでいくだろう。若い人が力を発揮しなければ企業も産業も置いていかれてしまう。現在、梅干し売場の主流となっているのは調味梅だが、これまでは大きな変化もなく売場を維持できた。しかし、これからは次の時代、世代に向けて持続可能な梅産業を構築していくためにもイノベーションが必要な時にきている。コロナ禍で思うような事業を行うことができなかったが、若梅会を始め、これからの梅産業を支える若い力に期待している」
【2023(令和5)年3月21日第5123号4面】
紀州田辺梅干協同組合の加盟社一覧
大谷屋 HP
3月21日号 塩特集
一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会 代表理事 青山志穂氏
漬物と塩の共創を
減塩より「適塩」推進
一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事の青山志穂氏にインタビュー。塩は人間になくてはならないもので、食品の味付けに必須の存在である。しかし、近年の減塩ブームが「塩=悪」というイメージを持たせ、塩の摂取を控える消費者が出てきている。青山代表は、2月の全国漬物検査協会の漬物技術研究セミナーで講演し、「適塩」推進と、漬物業界がもっと塩に関心を持つことで共創できると訴えた。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
ー塩に関心を持ったきっかけ。
「大学を卒業後、食品業界に携わりたいという思いから大手食品メーカーに入社し、商品開発やマーケティングを学んだ。山形のイタリアン『アル・ケッチァーノ』の奥田政行シェフに出会い、塩が食材の味を引き立たせることに驚き、塩のことをもっと知りたいと思った。沖縄に移住し、塩の販売店へ転職、塩の買い付けから販売まで担当させてもらった。そこで得た人脈が、今の仕事に活きている。塩を販売するよりも、塩の魅力を啓蒙したいという思いが高まり、協会を設立した」
ーソルトコーディネーターとは。
「ジュニアソルトコーディネーター、ソルトコーディネーター、シニアソルトコーディネーターの3つを用意し、順に難易度が高くなっていく。ジュニアは塩の基礎知識(原料・製法・特性)や歴史など、入門編。ソルトコーディネータ‐は塩と食材の相性についてグループディスカッション付きで学ぶ。塩と美容は女性受講者の関心が高いテーマだ。この2つはオンライン講座だが、シニアは講師として塩の魅力を語れるまで知識とプレゼン力を身に着けてほしい。そのため、対面で2日間じっくり受講し、実技試験も実施する。シニア取得者の経歴は、ダイビング好きで大の海好きになり塩に関心を持った方がいたり、美容から入ったりと幅広い。和歌山の梅干メーカーの方までいる」
ーソルトコーディネーター取得のメリットは。
「塩への理解が深まることが1番。当協会のウェブサイトでコーディネータ‐の紹介を行っており、講師として講演依頼を受けることもできる。また、コーディネーターが在籍のお店も紹介しており、ネットコスメショップや焼肉屋、塩がコンセプトのレストランまで閲覧できる。ウェブサイトでは、コーディネーター同士が交流できる特別ページもあり、取得後も協会の担当者だけでなく、取得者同士でフォローしあえる」
ー塩のトレンドは。
「『減塩市場』は2015年から頭打ちで、実は思ったほど伸びていない。食品メーカーとしては、塩チョコ、塩やきそばを発売し、定番化している。環境への優しさをアピールする製塩メーカーは、パッケージにもこだわっている。減塩よりもむしろ『適塩』の時代が来ていると感じ、塩業界の関係者も同じ方向を向いている。お肉と塩、そばと塩など食材と合わせる店が増えている。味の相性はもちろん、塩の粒の大きさも重要で、味の濃いお肉は粒が大きいのがおすすめだ」
ー漬物における塩の役割
「漬物の塩は『粗塩』が良いと一般的に言われる。だが粗塩とは正式な名称でなく、塩化ナトリウムの純度が低い塩を指す。にがり成分やマグネシウム、カルシウムが野菜に含まれるペクチンと結合し、マグネシウム塩やカルシウム塩を作り、漬物の歯切れが良くなる。漬物の野菜には豊富にカリウムが含まれており、ナトリウムの排出を促し、血圧上昇を抑制する働きがある。『漬物は塩分が高いからダメ』と決めつけるのではなく、ぜひ理解してほしい。吟味した塩を使うと、食への意識が高い層の支持がより得られそうだ。漬物と塩が共創することで、両者への関心を高められる」
【2023(令和5)年3月21日第5123号8面】
ソルトコーディネーター協会
株式会社天塩 代表取締役社長 鈴木恵氏
7月で創業50周年
”赤穂の塩作り”啓蒙幅広く
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり〝差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社では、今年7月11日に創業50周年を迎える。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、今年から4年間をかけ、”赤穂の塩作り”の啓蒙を幅広く行っていく予定だ。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や50周年の取組について聞いた。
(藤井大碁)
◇ ◇
――足元の状況。
「昨年12月までは前年並で推移していたが、年明け1月、2月は塩の動きが良くない。消費者物価指数が上昇し、節約志向が高まっている。塩だけではないが、余計な物は買わないという消費行動が浸透している。また卵の高騰や不足により料理メニューが限定されていることもマイナス要因となっている。例年春先から需要が増え、6月には梅の漬け込みも控えているので、動きが活発化していくことを期待したい」
――値上げについて。
「塩業界も製法により差はあるがエネルギーコストや物流費の高騰により大きな影響を受けている。弊社においても、輸入する天日塩が大幅に上昇し、電気代などの燃料代の高騰も影響が大きい。そのため今年7月に2019年以来の価格改定を実施する予定だ」
――厳しい環境下、どのような施策があるか。
「塩は一世帯あたりの購入数量は減っているが、購入単価は上がっている。量をたくさん買う人は減少しているが、健康性や美味しさといったこだわりを持って、付加価値の高い塩を選ぶ人は増えていることが分かる。マーケティングに力を入れ、消費者一人ひとりが何を求めているか、細分化したニーズを汲み取り、商品開発に生かしていく」
――業務用の引き合いが増えている。
「SDGsなど環境配慮の流れが強まる中、自然の力を利用して作る天日塩は環境への負荷が少ないということで、我々の塩を選んでもらえる機会が増えている。また価格と品質の二極化が進む中で、塩で差別化を図り、製品に付加価値を付けようとする食品メーカーからの引き合いも多い」
――キッチンカーの販売やイベントに積極的だ。
「子供からシニア層まで幅広い年齢層に”赤穂の天塩”を使用した料理を食べてもらう貴重な機会になっている。食べてもらうだけでなく、対話やサンプリングをすることで消費者ニーズを汲み取ることもできる。塩や調味料は、消費者が使い方を認知しなければ購入に結びつかいないため、売場に並べているだけでは消費は増えない。イベントで塩や調味料の使い方を説明しながら草の根的に広めていく必要がある」
――50周年を迎える。
「おかげ様で7月11日に50周年を迎える。これまで弊社を支えてくれたお得意様や取引先様、その他関係者の方々に深く感謝を申し上げたい。また2026年には、赤穂で塩田が開墾されて400年を迎える。弊社では今年から2026年までの4年間をかけて、赤穂の塩作りの歴史や赤穂という場所について認知してもらうための活動を行っていく予定だ。イベント出店やキャンペーンなども積極的に行い、50周年の感謝の気持ちを伝えていく。また〝天塩ファン〟の方との交流にも力を入れる。ファンの方を集めて天塩のことをもっと知ってもらうイベントを4年間通して開催し、さらにファンの方との絆を深めていく」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】
電子版 Web展示会 天塩
”赤穂の塩作り”啓蒙幅広く
株式会社天塩(鈴木恵社長、東京都新宿区)は、江戸時代から続くにがりを多く含ませた塩づくり〝差塩製法”を継承した「にがりを含んだ塩」にこだわり、日本の伝統食文化の良さを未来につなげている。同社は赤穂化成が製造する「赤穂の天塩」の家庭用塩および関連商品の販売専門会社である。「赤穂の塩作り」は文化庁より日本遺産に認定され、その歴史的な価値が証明されている。同社では、今年7月11日に創業50周年を迎える。2026年には赤穂で塩田が開墾されてから400年のメモリアルイヤーが控えており、今年から4年間をかけ、”赤穂の塩作り”の啓蒙を幅広く行っていく予定だ。同社代表取締役社長の鈴木恵氏に塩の動向や50周年の取組について聞いた。
(藤井大碁)
◇ ◇
――足元の状況。
「昨年12月までは前年並で推移していたが、年明け1月、2月は塩の動きが良くない。消費者物価指数が上昇し、節約志向が高まっている。塩だけではないが、余計な物は買わないという消費行動が浸透している。また卵の高騰や不足により料理メニューが限定されていることもマイナス要因となっている。例年春先から需要が増え、6月には梅の漬け込みも控えているので、動きが活発化していくことを期待したい」
――値上げについて。
「塩業界も製法により差はあるがエネルギーコストや物流費の高騰により大きな影響を受けている。弊社においても、輸入する天日塩が大幅に上昇し、電気代などの燃料代の高騰も影響が大きい。そのため今年7月に2019年以来の価格改定を実施する予定だ」
――厳しい環境下、どのような施策があるか。
「塩は一世帯あたりの購入数量は減っているが、購入単価は上がっている。量をたくさん買う人は減少しているが、健康性や美味しさといったこだわりを持って、付加価値の高い塩を選ぶ人は増えていることが分かる。マーケティングに力を入れ、消費者一人ひとりが何を求めているか、細分化したニーズを汲み取り、商品開発に生かしていく」
――業務用の引き合いが増えている。
「SDGsなど環境配慮の流れが強まる中、自然の力を利用して作る天日塩は環境への負荷が少ないということで、我々の塩を選んでもらえる機会が増えている。また価格と品質の二極化が進む中で、塩で差別化を図り、製品に付加価値を付けようとする食品メーカーからの引き合いも多い」
――キッチンカーの販売やイベントに積極的だ。
「子供からシニア層まで幅広い年齢層に”赤穂の天塩”を使用した料理を食べてもらう貴重な機会になっている。食べてもらうだけでなく、対話やサンプリングをすることで消費者ニーズを汲み取ることもできる。塩や調味料は、消費者が使い方を認知しなければ購入に結びつかいないため、売場に並べているだけでは消費は増えない。イベントで塩や調味料の使い方を説明しながら草の根的に広めていく必要がある」
――50周年を迎える。
「おかげ様で7月11日に50周年を迎える。これまで弊社を支えてくれたお得意様や取引先様、その他関係者の方々に深く感謝を申し上げたい。また2026年には、赤穂で塩田が開墾されて400年を迎える。弊社では今年から2026年までの4年間をかけて、赤穂の塩作りの歴史や赤穂という場所について認知してもらうための活動を行っていく予定だ。イベント出店やキャンペーンなども積極的に行い、50周年の感謝の気持ちを伝えていく。また〝天塩ファン〟の方との交流にも力を入れる。ファンの方を集めて天塩のことをもっと知ってもらうイベントを4年間通して開催し、さらにファンの方との絆を深めていく」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】
電子版 Web展示会 天塩
マルニ株式会社 代表取締役社長 脇田慎一氏
小袋塩強化で増収増益 7月から価格改定を決断
昨年、特殊製法塩協会4代目会長に就任したのがマルニ株式会社(大阪府八尾市)の脇田慎一社長だ。異業種で磨いた経営手腕を買われた脇田社長は2017年にマルニへ入社し、2020年に社長就任。小袋塩の設備投資を推進し売上拡大を実現した。塩業界の競争やコスト上昇への考えを聞いた。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--略歴を。
「パナソニックで35年間働き、うち20年以上を海外で過ごし、各地の現地法人経営に携わってきた。2017年、日本帰国を機に人材バンクに登録したところ、マルニからオファーがあり入社した」
--経営課題とは。
「マルニは1962年から『エンリッチ塩』を発売、業容を拡大してきた。しかし2002年に塩の専売制度が廃止(自由化)され新規参入が増え競争が激化したこと、減塩志向が強まったことから、売上を大きく落とし赤字経営が続いていた。一方で小袋塩の注文は増えていたものの、生産設備の能力不足からお断りせざるを得ない場面が度々発生していた。そこで小袋塩の需要増を見込んで工場拡張、設備投資を行った」
--小袋塩の動き。
「小袋の受注は順調に増え、本社移転等の経営改革実施により黒字転換できた。弁当や惣菜に添付する利用が多くコロナ禍でテイクアウトやデリバリーが増加したのも当社にとって好機となった。工場拡張・設備投資により生産能力を2・5倍程まで強化したのだが、それでもフル稼働という状態が続いている」
--選ばれる理由。
「味・品質は当然として、小回りが利く点を評価頂いている。設備投資は大型機1台でなく小型機を複数導入する形とした。小袋塩のフレーバーや外装など要望に応じ、小ロットで対応可能だ。授業員30人規模なので意思疎通がスムーズで、依頼対応の速さもある。そうして実績が増えてきたことにより問屋・商社様からも小袋塩といえばマルニと定着して依頼が舞い込む好循環が生まれている」
--今後の方針は。
「売上は改善したが、それと同時に原料塩や各種資材、電気代などコスト上昇が襲いかかっている。このままコスト増が続けば再び赤字転落は避けられず、今年7月から価格改定を実施する決断をした。しかし中外食業界においても他のあらゆるコストが上がっている中、小袋塩がカット対象になることも出てくる。この状況をただ受け入れるのではなく攻めの姿勢で、来年からは第2期工事としてエンリッチ塩生産設備の刷新に取り組む。小袋塩の生産能力に余裕を持たせるとともに『エンリッチ塩』のリニューアルやSDGs対応も進めていく計画だ」
--御社の強みは。
「製造、開発、営業、総務など各部署に30年以上勤続しているプロフェッショナルが居るのは、塩について素人である私にとって大変ありがたかった。課題と目標を示せば具体策は彼らが自ら立案し実践してくれる。私が前職で習得した松下幸之助の全員経営を実践できる環境が揃っていた」
--特殊製法塩協会会長として。
「協会が第一に掲げるのが『適塩』の普及。塩が悪者扱いされることは私達にとって市場縮小に直結する。何より、誇りを持って作っているものなのだからその価値をしっかり伝えていかなければいけない。人が集まるイベントへの協賛など、塩は適切に摂るべきものであると伝えていきたい。会員の意見を汲み取り関連省庁や塩に関わる業界団体が集まる全国塩業懇話会へ伝えていくことも重要だ。燃料や資材コストの上昇による価格改定、ゼロカーボンへの対応など、特殊製法塩業界の実情に寄り添い、サポートしていける協会でありたい」
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--略歴を。
「パナソニックで35年間働き、うち20年以上を海外で過ごし、各地の現地法人経営に携わってきた。2017年、日本帰国を機に人材バンクに登録したところ、マルニからオファーがあり入社した」
--経営課題とは。
「マルニは1962年から『エンリッチ塩』を発売、業容を拡大してきた。しかし2002年に塩の専売制度が廃止(自由化)され新規参入が増え競争が激化したこと、減塩志向が強まったことから、売上を大きく落とし赤字経営が続いていた。一方で小袋塩の注文は増えていたものの、生産設備の能力不足からお断りせざるを得ない場面が度々発生していた。そこで小袋塩の需要増を見込んで工場拡張、設備投資を行った」
--小袋塩の動き。
「小袋の受注は順調に増え、本社移転等の経営改革実施により黒字転換できた。弁当や惣菜に添付する利用が多くコロナ禍でテイクアウトやデリバリーが増加したのも当社にとって好機となった。工場拡張・設備投資により生産能力を2・5倍程まで強化したのだが、それでもフル稼働という状態が続いている」
--選ばれる理由。
「味・品質は当然として、小回りが利く点を評価頂いている。設備投資は大型機1台でなく小型機を複数導入する形とした。小袋塩のフレーバーや外装など要望に応じ、小ロットで対応可能だ。授業員30人規模なので意思疎通がスムーズで、依頼対応の速さもある。そうして実績が増えてきたことにより問屋・商社様からも小袋塩といえばマルニと定着して依頼が舞い込む好循環が生まれている」
--今後の方針は。
「売上は改善したが、それと同時に原料塩や各種資材、電気代などコスト上昇が襲いかかっている。このままコスト増が続けば再び赤字転落は避けられず、今年7月から価格改定を実施する決断をした。しかし中外食業界においても他のあらゆるコストが上がっている中、小袋塩がカット対象になることも出てくる。この状況をただ受け入れるのではなく攻めの姿勢で、来年からは第2期工事としてエンリッチ塩生産設備の刷新に取り組む。小袋塩の生産能力に余裕を持たせるとともに『エンリッチ塩』のリニューアルやSDGs対応も進めていく計画だ」
--御社の強みは。
「製造、開発、営業、総務など各部署に30年以上勤続しているプロフェッショナルが居るのは、塩について素人である私にとって大変ありがたかった。課題と目標を示せば具体策は彼らが自ら立案し実践してくれる。私が前職で習得した松下幸之助の全員経営を実践できる環境が揃っていた」
--特殊製法塩協会会長として。
「協会が第一に掲げるのが『適塩』の普及。塩が悪者扱いされることは私達にとって市場縮小に直結する。何より、誇りを持って作っているものなのだからその価値をしっかり伝えていかなければいけない。人が集まるイベントへの協賛など、塩は適切に摂るべきものであると伝えていきたい。会員の意見を汲み取り関連省庁や塩に関わる業界団体が集まる全国塩業懇話会へ伝えていくことも重要だ。燃料や資材コストの上昇による価格改定、ゼロカーボンへの対応など、特殊製法塩業界の実情に寄り添い、サポートしていける協会でありたい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】
伯方塩業株式会社 代表取締役社長 石丸一三氏
業務筋のシェア拡大強化 価格以上の価値あるブランドへ
伯方塩業株式会社(愛媛県松山市)の石丸一三社長へインタビュー。2023年度は創業50周年を迎える年であり、中期経営計画の最終年度となる。コロナ下で外食向けの出荷減や、現在の諸コスト高騰といった困難に直面しながらも国内シェア拡大に力を注いできた。今年7月には価格改定を実施するが、10年ビジョン『世界で1番有名な塩メーカーになる』に基づくブランド育成へ取り組むことで、価格以上の価値を提供していく。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--創業50周年の取組は。
「対外的には、キャンペーンや広告等で発信し、塩について考え、関心を持って頂く機会を作っていく。社内的には、一過性のイベントで終わらせずこれを機にさらなる飛躍が目指せるような変革の年と位置づけている」
--中期経営計画の達成状況は。
「営業面では、新型コロナウイルスの影響から外食店など業務筋の動きが鈍り、目標から遅れている。しかしその一方で新規にビールのノベルティ採用や、コンビニPBの原料採用など大口の供給が始まっている。ポストコロナの時代へと移れば、この3年間の取組が芽を出していくと期待している」
--新規取引獲得に積極的だ。
「当社が成長していくには国内シェアを拡大することが必要になる。特に業務筋にはまだまだ伸びしろがある。中外食向けの『味香塩』シリーズについても新規取引獲得の武器として、提案先を広げている」
--価格改定について。
「今年7月出荷分より価格改定を実施する予定。輸入原料の調達コストや燃料代、輸送費などが上昇している。合理化を尽くしてきたが、これ以上の自助努力による吸収は不可能と判断した」
--価格改定の進捗は。
「家庭用は大半のお取引先様にご理解いただけているのだが、その先に居る消費者の目は厳しい。固定ファンを手放さず、売場を見て決める浮動層をどう取り込めるかが重要となってくる。現在は若い世代へ向けてWebでの発信に力を入れている。『伯方の塩』の宣伝だけでなく塩そのものへの理解関心を引き出せるよう、戦略的な発信を模索している」
--業務用は。
「当社だけでなく食に関わるあらゆるコストが上昇している状況下、全体的な原材料見直しをされているお客様もいる。そういう時に、伯方の塩は代えずに今まで通り使おうと思ってもらえなければいけない。そのためには対消費者のブランド育成や、50年間大切にしてきた誠実できめ細かい対応をさらに徹底することが必要」
--ブランドについて。
「2019年度からの10年ビジョンとして『世界で1番有名な塩メーカーになる』を掲げている。宣伝をバンバン打つということではなくて、1番の核は『社員が自らの仕事に誇りを持ちイキイキと働ける会社を目指そう』ということ。このビジョンに向かって取組を進める過程や結果を通して、顧客サービスの向上や地域社会への貢献を達成し、周囲からの評判が上がり、自然と伯方塩業というブランドが認知されることを目指している」
--脱炭素が求められている。
「自然塩存続運動から生まれた当社にとって、環境保護への取組は重要課題。現在は塩水を煮詰める釜を入れ替え熱効率を改善するなど設備更新に取り組んでいる。将来的にはA重油からより効率の良い燃料へ切り替える、工場の太陽光発電を増設する、発生したCO2を有効利用するなど様々な観点からカーボンニュートラルを実現し、世界に誇れる塩メーカーを目指したい」
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--創業50周年の取組は。
「対外的には、キャンペーンや広告等で発信し、塩について考え、関心を持って頂く機会を作っていく。社内的には、一過性のイベントで終わらせずこれを機にさらなる飛躍が目指せるような変革の年と位置づけている」
--中期経営計画の達成状況は。
「営業面では、新型コロナウイルスの影響から外食店など業務筋の動きが鈍り、目標から遅れている。しかしその一方で新規にビールのノベルティ採用や、コンビニPBの原料採用など大口の供給が始まっている。ポストコロナの時代へと移れば、この3年間の取組が芽を出していくと期待している」
--新規取引獲得に積極的だ。
「当社が成長していくには国内シェアを拡大することが必要になる。特に業務筋にはまだまだ伸びしろがある。中外食向けの『味香塩』シリーズについても新規取引獲得の武器として、提案先を広げている」
--価格改定について。
「今年7月出荷分より価格改定を実施する予定。輸入原料の調達コストや燃料代、輸送費などが上昇している。合理化を尽くしてきたが、これ以上の自助努力による吸収は不可能と判断した」
--価格改定の進捗は。
「家庭用は大半のお取引先様にご理解いただけているのだが、その先に居る消費者の目は厳しい。固定ファンを手放さず、売場を見て決める浮動層をどう取り込めるかが重要となってくる。現在は若い世代へ向けてWebでの発信に力を入れている。『伯方の塩』の宣伝だけでなく塩そのものへの理解関心を引き出せるよう、戦略的な発信を模索している」
--業務用は。
「当社だけでなく食に関わるあらゆるコストが上昇している状況下、全体的な原材料見直しをされているお客様もいる。そういう時に、伯方の塩は代えずに今まで通り使おうと思ってもらえなければいけない。そのためには対消費者のブランド育成や、50年間大切にしてきた誠実できめ細かい対応をさらに徹底することが必要」
--ブランドについて。
「2019年度からの10年ビジョンとして『世界で1番有名な塩メーカーになる』を掲げている。宣伝をバンバン打つということではなくて、1番の核は『社員が自らの仕事に誇りを持ちイキイキと働ける会社を目指そう』ということ。このビジョンに向かって取組を進める過程や結果を通して、顧客サービスの向上や地域社会への貢献を達成し、周囲からの評判が上がり、自然と伯方塩業というブランドが認知されることを目指している」
--脱炭素が求められている。
「自然塩存続運動から生まれた当社にとって、環境保護への取組は重要課題。現在は塩水を煮詰める釜を入れ替え熱効率を改善するなど設備更新に取り組んでいる。将来的にはA重油からより効率の良い燃料へ切り替える、工場の太陽光発電を増設する、発生したCO2を有効利用するなど様々な観点からカーボンニュートラルを実現し、世界に誇れる塩メーカーを目指したい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号9面】
鳴門塩業株式会社 専務取締役 石井英年氏・取締役営業本部長 青木貴嗣氏
二次値上げ95%完了へ 安全安心な国産塩の価値発信
鳴門塩業株式会社(安藝順社長、徳島県鳴門市)は、年間最大20万tの製塩プラントを有する国内製塩大手である。昨年4月に業務用塩を1㎏当たり10円以上、11月に同14円以上の値上げを実施。年に2度の値上げは塩業界として極めて異例かつ、値上げ幅も過去最大である。石井英年専務と青木貴嗣部長は石炭価格を筆頭にコスト上昇が自助努力の範囲を超えていることを指摘。安全安心な国産塩の供給には、適正価格の追求が必要であると訴える。(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--値上げの背景は。
石井専務「当社を含め日本塩工業会3社は膜濃縮製塩法を採っている。これはイオン交換膜という特別な装置で海水から塩の成分を集めて濃い塩水を作り、最後にそれを燃料で煮詰めて塩にするというもの。製塩時の燃料、人件費、設備維持修繕費や輸送費が国産塩の価格を決定していることになる。これらのコストが一斉に上がっているのは皆様もご承知の通り。合理化で吸収できる範囲を越え、昨年11月に1㎏当たり14円以上の値上げを実施する決断へ至った。1年で2度、大幅な値上げとなり、ご負担をおかけするが理解いただきたい」
--進捗は。
青木部長「年度内に95%以上のお客様において値上げが完了する。輸入塩への切替を検討されるお客様でも、国産塩の長所をしっかりお伝えすることで納得いただいている。一方、他の国産塩メーカー様も同様に価格改定をされているようで、当社へ代替の相談をいただくこともあるのだが、提示される単価では請けられないケースが増えているのが正直なところ」
--国産塩の長所とは。
石井専務「一番は安全安心であること。イオン交換膜は分子レベルで海水を処理するので目に見える異物は勿論のこと、海水中に含まれる環境ホルモンやダイオキシン、ヒ素などの物質も除去できる。仮に海が汚染されていたとしても安全ということになる。この製塩法は日本が生み出したものであり、世界に誇れる技術だと言える。また万が一のクレーム発生時にも国産であれば迅速な対応が可能で、あらゆる点でリスクを減らせる」
--御社ならではの強みは。
青木部長「当社は2002年に医薬品製造許可を取得し、医薬品GMP管理のもと、日本薬局方塩化ナトリウム(医薬用原薬)を生産するようになった。医薬品の製造は食品よりさらに厳しい管理が求められる。この経験が食品製造においても意識を高め、衛生管理レベルは格段に向上している」
--家庭用塩の値上げは。
石井専務「業務用と同じく価格改定を実施する方針。ただ家庭用の場合、一度棚落ちしてしまうとその後の再導入が難しく、長期的な損失が発生してしまう。塩は日配品等と違いサイクルが長いので慎重にならざるを得ない。時期や改定率を検討するとともに、価格以外の価値を訴求をしていく努力が必要と感じている」
--塩の価値について。
青木部長「日本独自の製塩法による品質や安全性の面の発信、またカーボンニュートラルで環境に優しい塩作りを実現し、積極的に国産塩を選んでいただける未来を作っていきたい。国産塩はこれまで食のインフラ的側面が強く、またこれほど強烈なコスト上昇は今までなかった。困難な状況だが、塩の価値を見つめ直し発信する機会になったと前向きに捉えていきたい」
◇ ◇
--値上げの背景は。
石井専務「当社を含め日本塩工業会3社は膜濃縮製塩法を採っている。これはイオン交換膜という特別な装置で海水から塩の成分を集めて濃い塩水を作り、最後にそれを燃料で煮詰めて塩にするというもの。製塩時の燃料、人件費、設備維持修繕費や輸送費が国産塩の価格を決定していることになる。これらのコストが一斉に上がっているのは皆様もご承知の通り。合理化で吸収できる範囲を越え、昨年11月に1㎏当たり14円以上の値上げを実施する決断へ至った。1年で2度、大幅な値上げとなり、ご負担をおかけするが理解いただきたい」
--進捗は。
青木部長「年度内に95%以上のお客様において値上げが完了する。輸入塩への切替を検討されるお客様でも、国産塩の長所をしっかりお伝えすることで納得いただいている。一方、他の国産塩メーカー様も同様に価格改定をされているようで、当社へ代替の相談をいただくこともあるのだが、提示される単価では請けられないケースが増えているのが正直なところ」
--国産塩の長所とは。
石井専務「一番は安全安心であること。イオン交換膜は分子レベルで海水を処理するので目に見える異物は勿論のこと、海水中に含まれる環境ホルモンやダイオキシン、ヒ素などの物質も除去できる。仮に海が汚染されていたとしても安全ということになる。この製塩法は日本が生み出したものであり、世界に誇れる技術だと言える。また万が一のクレーム発生時にも国産であれば迅速な対応が可能で、あらゆる点でリスクを減らせる」
--御社ならではの強みは。
青木部長「当社は2002年に医薬品製造許可を取得し、医薬品GMP管理のもと、日本薬局方塩化ナトリウム(医薬用原薬)を生産するようになった。医薬品の製造は食品よりさらに厳しい管理が求められる。この経験が食品製造においても意識を高め、衛生管理レベルは格段に向上している」
--家庭用塩の値上げは。
石井専務「業務用と同じく価格改定を実施する方針。ただ家庭用の場合、一度棚落ちしてしまうとその後の再導入が難しく、長期的な損失が発生してしまう。塩は日配品等と違いサイクルが長いので慎重にならざるを得ない。時期や改定率を検討するとともに、価格以外の価値を訴求をしていく努力が必要と感じている」
--塩の価値について。
青木部長「日本独自の製塩法による品質や安全性の面の発信、またカーボンニュートラルで環境に優しい塩作りを実現し、積極的に国産塩を選んでいただける未来を作っていきたい。国産塩はこれまで食のインフラ的側面が強く、またこれほど強烈なコスト上昇は今までなかった。困難な状況だが、塩の価値を見つめ直し発信する機会になったと前向きに捉えていきたい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号10面】
株式会社九州ソルト 代表取締役社長 髙本公利氏
塩の売上キープが課題 食品以外にも積極的に着手
株式会社九州ソルト(福岡県福岡市東区)は、平成8年(1996年)2月に九州の塩元売9社により設立された「九州塩業協業組合」を礎とし、平成13年(2001年)10月に現行の株式会社に組織変更。同社は昨年6月、髙本公利氏が代表取締役社長に就任した。髙本社長に九州の業界動向、同社の今後の方針などについて話を聞いた。
株式会社九州ソルト(福岡県福岡市東区)は、平成8年(1996年)2月に九州の塩元売9社により設立された「九州塩業協業組合」を礎とし、平成13年(2001年)10月に現行の株式会社に組織変更。同社は昨年6月、髙本公利氏が代表取締役社長に就任した。髙本社長に九州の業界動向、同社の今後の方針などについて話を聞いた。
(菰田隆行)
◇ ◇
‐九州業界の現況。
「九州はそもそも農業や水産業が盛んで、漬物や海産物の加工品に塩を使用する頻度は高いが、天候や季節に大きく左右されやすい。また、九州の西海岸での漁獲高は年々減少しており、熊本県の阿蘇たかなも、農家の高齢化、担い手問題で収穫高の減少が大きく影響してきている。昨今では塩蔵から冷凍保存へと変わってきていることもあり、加工食品向けの販売をどうキープしていくか、どうやって伸ばしていくのかが課題だ」
‐塩以外の製品動向。
「現在、塩と添加物等の一般商品の販売比率は7‥3ぐらいだが、それを6‥4くらいに持っていきたいと考えている。一般商品は糖類、グルソー、うまみ調味料、ビタミン剤、クエン酸などになるが、他にも食品添加物をはじめ工業用薬品等も増やしていきたいと考えている。ただ、それらの製品は輸入に頼っているので価格も不安定であり、どう対応していけるかがこれからの検討課題だ。工業用では、クリーニング業向けで水処理用の塩の取引からクリーニング用の糊として使用される澱粉、現在ではアルカリ剤での実績も上がってきている。外の業種でも横に広げられる製品を見つけていきたい」
‐SDGsへの対応。
「営業車はハイブリッドなどの低公害車を導入しているが、配送トラックもアイドリングストップ機能付きトラックとか、ハイブリッドトラックなどの低公害車の導入を検討しなければならないと考えている。今後は、SDGs対応した商品が求められてくるので、対応商品の取り揃え、対応した容器や包材なども取り扱っていきたい。なかなか難しい課題ではあるが、できるところからやっていきたいと考えている」
【2023(令和5)年3月21日第5123号11面】
九州ソルト HP
https://www.kyushu-salt.com/
◇ ◇
‐九州業界の現況。
「九州はそもそも農業や水産業が盛んで、漬物や海産物の加工品に塩を使用する頻度は高いが、天候や季節に大きく左右されやすい。また、九州の西海岸での漁獲高は年々減少しており、熊本県の阿蘇たかなも、農家の高齢化、担い手問題で収穫高の減少が大きく影響してきている。昨今では塩蔵から冷凍保存へと変わってきていることもあり、加工食品向けの販売をどうキープしていくか、どうやって伸ばしていくのかが課題だ」
‐塩以外の製品動向。
「現在、塩と添加物等の一般商品の販売比率は7‥3ぐらいだが、それを6‥4くらいに持っていきたいと考えている。一般商品は糖類、グルソー、うまみ調味料、ビタミン剤、クエン酸などになるが、他にも食品添加物をはじめ工業用薬品等も増やしていきたいと考えている。ただ、それらの製品は輸入に頼っているので価格も不安定であり、どう対応していけるかがこれからの検討課題だ。工業用では、クリーニング業向けで水処理用の塩の取引からクリーニング用の糊として使用される澱粉、現在ではアルカリ剤での実績も上がってきている。外の業種でも横に広げられる製品を見つけていきたい」
‐SDGsへの対応。
「営業車はハイブリッドなどの低公害車を導入しているが、配送トラックもアイドリングストップ機能付きトラックとか、ハイブリッドトラックなどの低公害車の導入を検討しなければならないと考えている。今後は、SDGs対応した商品が求められてくるので、対応商品の取り揃え、対応した容器や包材なども取り扱っていきたい。なかなか難しい課題ではあるが、できるところからやっていきたいと考えている」
【2023(令和5)年3月21日第5123号11面】
九州ソルト HP
https://www.kyushu-salt.com/
株式会社ソルト関西代表取締役社長 山本博氏
約200社の塩が値上げ 脱炭素を製配両面で議論尽くす
株式会社ソルト関西(山本博社長、大阪市中央区)は、平成13年に関西域内の卸売会社6社が事業統合して設立された塩の元売企業。山本社長は、全国塩元売協会会長、塩元売協同組合理事長、そして塩の各団体が垣根を越えて業界を取り巻く共通課題へ取り組むべく結成された全国塩業懇話会初代会長の要職を務めている。元売企業と業界団体両方の立場から、塩の価格改定へ理解を求めるとともに、共通課題である脱炭素実現への取組を語った。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--塩の値上げについて。
「業務用の国産塩値上げが昨年中に出揃い、現在はほぼ全てのお取引先様へご案内し、了承いただけた。塩は製造時の燃料代や人件費、輸送費などが価格決定の要素であり、その全てが上がっている。年に2度の値上げというのは初めての事態だったが、切羽詰まった状況であることを真摯に説明してきた。各社で値上げ幅が似通っていることもあり値上げによる切り替えなどもほとんど起こらなかった。現在は業務用の値上げが済み、家庭用塩の値上げ商談が始まっている」
--家庭用塩の値上げ状況。
「当社が取引する約200社の大半が値上げされ、大手各社は揃って7月に実施される。家庭用塩は製法が輸入天日塩を国内で再加工するものや、グルソー等添加物を加えたもの、岩塩など製法や原料がまちまちで値上げ幅にも差はあるが、この物価上昇の影響を受けていない製品は皆無と言える状況だ」
--御社の業績は。
「塩の出荷量はほぼ変わらず、値上げした分がそのまま売上にも反映された。食用としての塩は急に抑えられるものではなく、コロナや物価高といった突発的な影響はほとんど受けていない。また当社では塩以外の調味料や資材関係も扱っているのだが、それらも同様の状況だ。ただし利益面はほぼ横ばいで、売上増加分もその案内に掛かる営業コストや輸送費上昇で相殺されている」
--懇話会の取組は。
「懇話会では我々元売業界やメーカーらが集まってそれぞれの意見を集約している。業界が最も頭を悩ませているのが脱炭素の取組。政府は2030年度までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年には実質排出ゼロとすることを目標に掲げており、塩業界においても製造や輸送時の燃料を削減する責任がある。本来であればその実現へ向けて投資を始めている時期なのだが、物価上昇によりその資金が食いつぶされたのは痛い誤算だった。値上げ対応に終われ議論も停滞しているのが実情」
--脱炭素への構想は。
「製造面で言えば、燃料を石炭や重油からクリーンエネルギーへ切り替えるには新たな設備が必要で莫大な時間も費用もかかる。当面は、発生したCO2を炭酸マグネシウムなど別の物質に変換して活用する、また発生するCO2を相殺する植樹に投資する、など収支をゼロへ近づける方法など現実的なアイデアが出ている。各企業任せにするのでなく、懇話会を通じて研究機関や塩事業センターから知恵を借りるなど取り組んでいる。また輸送面では共同配送や、鉄道・船の活用拡大など具体的な実現方法について詳細な議論をしている。塩は低単価高重量だが消費期限はないので、柔軟な対応が可能だろう」
--塩の情報発信については。
「減塩志向が強まっているが、塩は身体に必要不可欠であることもまた『くらしお』で活動いただき広く知られるようになってきたと思う。味や製法の違い等は各社発信に取り組まれているが、その後押しを業界団体としてどう取り組んでいけるか模索中だ。また少子高齢化への対策として、海外市場の開拓も視野に入れる必要がある。日本の塩は異物混入や汚染がなく、世界トップレベルの品質を持つことを主体的に発信していけるよう議論を進めていきたい」
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
--塩の値上げについて。
「業務用の国産塩値上げが昨年中に出揃い、現在はほぼ全てのお取引先様へご案内し、了承いただけた。塩は製造時の燃料代や人件費、輸送費などが価格決定の要素であり、その全てが上がっている。年に2度の値上げというのは初めての事態だったが、切羽詰まった状況であることを真摯に説明してきた。各社で値上げ幅が似通っていることもあり値上げによる切り替えなどもほとんど起こらなかった。現在は業務用の値上げが済み、家庭用塩の値上げ商談が始まっている」
--家庭用塩の値上げ状況。
「当社が取引する約200社の大半が値上げされ、大手各社は揃って7月に実施される。家庭用塩は製法が輸入天日塩を国内で再加工するものや、グルソー等添加物を加えたもの、岩塩など製法や原料がまちまちで値上げ幅にも差はあるが、この物価上昇の影響を受けていない製品は皆無と言える状況だ」
--御社の業績は。
「塩の出荷量はほぼ変わらず、値上げした分がそのまま売上にも反映された。食用としての塩は急に抑えられるものではなく、コロナや物価高といった突発的な影響はほとんど受けていない。また当社では塩以外の調味料や資材関係も扱っているのだが、それらも同様の状況だ。ただし利益面はほぼ横ばいで、売上増加分もその案内に掛かる営業コストや輸送費上昇で相殺されている」
--懇話会の取組は。
「懇話会では我々元売業界やメーカーらが集まってそれぞれの意見を集約している。業界が最も頭を悩ませているのが脱炭素の取組。政府は2030年度までに温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年には実質排出ゼロとすることを目標に掲げており、塩業界においても製造や輸送時の燃料を削減する責任がある。本来であればその実現へ向けて投資を始めている時期なのだが、物価上昇によりその資金が食いつぶされたのは痛い誤算だった。値上げ対応に終われ議論も停滞しているのが実情」
--脱炭素への構想は。
「製造面で言えば、燃料を石炭や重油からクリーンエネルギーへ切り替えるには新たな設備が必要で莫大な時間も費用もかかる。当面は、発生したCO2を炭酸マグネシウムなど別の物質に変換して活用する、また発生するCO2を相殺する植樹に投資する、など収支をゼロへ近づける方法など現実的なアイデアが出ている。各企業任せにするのでなく、懇話会を通じて研究機関や塩事業センターから知恵を借りるなど取り組んでいる。また輸送面では共同配送や、鉄道・船の活用拡大など具体的な実現方法について詳細な議論をしている。塩は低単価高重量だが消費期限はないので、柔軟な対応が可能だろう」
--塩の情報発信については。
「減塩志向が強まっているが、塩は身体に必要不可欠であることもまた『くらしお』で活動いただき広く知られるようになってきたと思う。味や製法の違い等は各社発信に取り組まれているが、その後押しを業界団体としてどう取り組んでいけるか模索中だ。また少子高齢化への対策として、海外市場の開拓も視野に入れる必要がある。日本の塩は異物混入や汚染がなく、世界トップレベルの品質を持つことを主体的に発信していけるよう議論を進めていきたい」
【2023(令和5)年3月21日第5123号11面】
3月11日号 トップに聞く
株式会社大安 代表取締役社長 大角安史氏
亀岡工房概要 素材の味生かす伝統技術
【大阪支社】株式会社大安(大角安史社長、京都市左京区)は2月20日より「伏見工房」から移転し「亀岡工房」を稼働開始した。コンセプトは「人とモノの流れがスムーズで安全清潔な工房 smooth! safety! Cleanliness!」。大角社長は、効率的で衛生的、また職員にとっても安全で働きやすい作業環境を実現できたと話す。
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー移転の経緯は。
「伏見工房が稼働開始したのが平成2年。一般的に言えば老朽化というほど古くないが、当時の基準で建てられており現在求められている衛生レベルに完璧に対応していくには改修が必要だったことや、3階建てで作業効率が悪かったことから移転を検討していた。背中を押したのが新型コロナウイルス。当社もお土産販売に大打撃を受けたことで、抜本的な改革を強く意識した。そんな折にこの地に新しい企業団地を立ち上げるお話を頂き、2020年7月に決断した」
ー亀岡移転の利点は。
「亀岡は当社の主力で京都三大漬物の一つである千枚漬の原料である聖護院かぶらの産地。農業離れにより原料確保が難しくなっていく時代において、産地と連携を密に取れるメリットは大きい。河川の氾濫や土砂崩れといった災害に強い点も魅力だった。ただ通勤の問題から退職を余儀なくされた職員さんがいたことを申し訳なく思う。新しい土地でより良い会社になることを誓いたい」
ースムーズ、安全、清潔がコンセプトだ。
「ワンフロアで、人もモノも一方通行とした。初日から早速『動線に従えば良いので迷いなく動ける。3階建てだった頃より作業性が段違いに良い』と好評だ。また陰陽圧管理やインターロック方式の設備を整えたことで異物の侵入を徹底的に防ぐなど工夫を凝らした。『安全』は食品安全の意味だけでなく、職員にとっての安全を含んでいる。前述の通り災害に強いことや、工房内でのフォークリフトを廃止したことで事故の原因を断っている」
(大阪支社・小林悟空)
◇ ◇
ー移転の経緯は。
「伏見工房が稼働開始したのが平成2年。一般的に言えば老朽化というほど古くないが、当時の基準で建てられており現在求められている衛生レベルに完璧に対応していくには改修が必要だったことや、3階建てで作業効率が悪かったことから移転を検討していた。背中を押したのが新型コロナウイルス。当社もお土産販売に大打撃を受けたことで、抜本的な改革を強く意識した。そんな折にこの地に新しい企業団地を立ち上げるお話を頂き、2020年7月に決断した」
ー亀岡移転の利点は。
「亀岡は当社の主力で京都三大漬物の一つである千枚漬の原料である聖護院かぶらの産地。農業離れにより原料確保が難しくなっていく時代において、産地と連携を密に取れるメリットは大きい。河川の氾濫や土砂崩れといった災害に強い点も魅力だった。ただ通勤の問題から退職を余儀なくされた職員さんがいたことを申し訳なく思う。新しい土地でより良い会社になることを誓いたい」
ースムーズ、安全、清潔がコンセプトだ。
「ワンフロアで、人もモノも一方通行とした。初日から早速『動線に従えば良いので迷いなく動ける。3階建てだった頃より作業性が段違いに良い』と好評だ。また陰陽圧管理やインターロック方式の設備を整えたことで異物の侵入を徹底的に防ぐなど工夫を凝らした。『安全』は食品安全の意味だけでなく、職員にとっての安全を含んでいる。前述の通り災害に強いことや、工房内でのフォークリフトを廃止したことで事故の原因を断っている」
ーSDGsについて。
「工房の屋根に太陽光パネルを敷くことで、工房内の冷蔵庫や空調にかかる電気の大部分を賄えるようになる。また今回の移転を機に女性事務員専用の制服を廃止して男女統一のジャンパーへ切り替えるなど男女の待遇差解消を推進している。食品ロス関連の取組としては、削減だけでなく有効活用や負荷低減の方向で取り組んでいる。京都市動物園の餌として野菜残渣を提供する取組を京都漬協とともに2年前から実施している。また今年5月には、野菜残渣の発酵化粧品『至貴ーShikiー』を発売する。さらに今春以降、生ゴミ処理機を設置する予定で、回収や償却にかかる燃料使用を削減する計画だ」
ー今後の方針は。
「環境としてはコロナ禍が収束ムードで観光客が戻ってきているし、価格より品質を重視される店から卸売りの商談を頂く機会も増えている。スムーズ、安全、清潔を実現した環境で、さらに品質を高めて、お届けしていきたい」
亀岡工房外観
【住所】亀岡市篠町夕日ヶ丘四丁目3番地1
【電話番号】(0771)21‐1171(代)
【FAX】(0771)21‐1173
【面積】敷地面積1万906平米、建物延床面積4406平米
【変更点・特徴的な設備】
▼上着掛室=コートやウィンドブレーカーなど汚れの付着しやすい上着専用のロッカーを設置した。
【底見せ長靴ラック】 長靴を突起に引っ掛けるように保管するラックを導入。底面のカビ防止や、汚れ発見に繋がる。
▼レンタル作業着=作業着の自宅洗濯をやめ、クリーニング店のレンタルサービスを活用。従業員の負担軽減と衛生レベル向上に。
▼工房内のフォークリフト廃止=事故防止のためハンドリフトに切り替えた。
▼一方通行の動線=原料入荷から加工、出荷までを一方通行で行える。下漬熟成庫、本漬熟成庫も動線上に設置。
▼空調・陰陽圧管理=工房内を陽圧にし異物、害虫の飛来を防止する。工房全館に空調が利き、品質管理や働きやすさの改善にも貢献。
▼生ゴミの低温保管庫=害獣、害虫の発生を防ぐため生ゴミを低温保管する。
▼太陽光発電=工房屋根部分に太陽光発電システムを設置。日中の電力使用の大半を賄える。
▼惣菜製造室=ちりめん山椒などの佃煮・惣菜用設備は別室で設置。
「工房の屋根に太陽光パネルを敷くことで、工房内の冷蔵庫や空調にかかる電気の大部分を賄えるようになる。また今回の移転を機に女性事務員専用の制服を廃止して男女統一のジャンパーへ切り替えるなど男女の待遇差解消を推進している。食品ロス関連の取組としては、削減だけでなく有効活用や負荷低減の方向で取り組んでいる。京都市動物園の餌として野菜残渣を提供する取組を京都漬協とともに2年前から実施している。また今年5月には、野菜残渣の発酵化粧品『至貴ーShikiー』を発売する。さらに今春以降、生ゴミ処理機を設置する予定で、回収や償却にかかる燃料使用を削減する計画だ」
ー今後の方針は。
「環境としてはコロナ禍が収束ムードで観光客が戻ってきているし、価格より品質を重視される店から卸売りの商談を頂く機会も増えている。スムーズ、安全、清潔を実現した環境で、さらに品質を高めて、お届けしていきたい」
亀岡工房外観
【住所】亀岡市篠町夕日ヶ丘四丁目3番地1
【電話番号】(0771)21‐1171(代)
【FAX】(0771)21‐1173
【面積】敷地面積1万906平米、建物延床面積4406平米
【変更点・特徴的な設備】
▼上着掛室=コートやウィンドブレーカーなど汚れの付着しやすい上着専用のロッカーを設置した。
【底見せ長靴ラック】 長靴を突起に引っ掛けるように保管するラックを導入。底面のカビ防止や、汚れ発見に繋がる。
▼レンタル作業着=作業着の自宅洗濯をやめ、クリーニング店のレンタルサービスを活用。従業員の負担軽減と衛生レベル向上に。
▼工房内のフォークリフト廃止=事故防止のためハンドリフトに切り替えた。
▼一方通行の動線=原料入荷から加工、出荷までを一方通行で行える。下漬熟成庫、本漬熟成庫も動線上に設置。
▼空調・陰陽圧管理=工房内を陽圧にし異物、害虫の飛来を防止する。工房全館に空調が利き、品質管理や働きやすさの改善にも貢献。
▼生ゴミの低温保管庫=害獣、害虫の発生を防ぐため生ゴミを低温保管する。
▼太陽光発電=工房屋根部分に太陽光発電システムを設置。日中の電力使用の大半を賄える。
▼惣菜製造室=ちりめん山椒などの佃煮・惣菜用設備は別室で設置。
【2023(令和5)年3月11日第5122号8面】
大安
3月11日号 クローズアップ
株式会社新進 企画開発本部係長 調理師 藤重俊行氏
バームクーヘンで新規事業
地元食材とバターにこだわり
株式会社新進のグループ会社である新進物産株式会社(金児正成社長、前橋市鳥羽町)では、3月21日開業予定の「道の駅まえばし赤城」(前橋市田口町)にバームクーヘン専門店「The Butter Baum」をオープンする。新規事業を担当する株式会社新進企画開発本部係長調理師の藤重俊行氏に新たなチャレンジのきっかけやバームクーヘンへのこだわりについて聞いた。
(藤井大碁)
◇ ◇
―新規事業をスタートする経緯。
「新たな道の駅が開設されることを機に、前橋市より道の駅の出店者の公募があり、その運営事業者の一社として弊社が選ばれたのが新規事業のきっかけ。新進では小麦澱粉を作っており、製菓材料として幅広く販売していることに加え、グループ会社である新進物産ではお菓子の取り扱いがあり、販路も持っているので、グループの強みを生かせる事業として菓子事業をスタートすることになった」
―バームクーヘンの製造販売を行う。
「バームクーヘンであればオープン設計の〝見せる工場〟を作ることができる、というのが大きな理由となった。新進グループでは安心安全をモットーにしており、見える工場を作れば、それをお客様にアピールすることができる。また、クルクル回転する製造工程が見えることで、幅広い年齢層の方に興味を持ってもらうことができるのもバームクーヘンの強みではないかと考えている」
―「The Butter Baum」のこだわり。
「小麦澱粉は自社製、小麦粉は県内産、鶏卵は前橋市内の養鶏所のものを使用するなど、できる限り地元原料を使用することにこだわっている。また、ブランド名にあるように、特に〝バター”の風味を重視した。厳選した国産の発酵バターを使用。手作業でバターを熱して、焦げるギリギリで香りを際立たせた〝焦がしバター〟を使用することで、味わいに違いを出している。店内のカフェでは、バームクーヘンの上から県内製造の特製バターをかけ、熱々のバームクーヘンでバターを溶かして食べてもらうメニューも提供する予定だ」
―開発の苦労。
「国内外の30種類以上のバームクーヘンを試食し、今までにないバームクーヘンを目指した。ふんわりしているもの、しっとりしているものはあったが、ふんわりとしっとりを両立しているバームクーヘンはなかなか無く、そこを目指した。配合が難しく、繊細なので、生地の調整に苦労した。直火焼と蒸し焼きを繰り返すことで、これまでにない新しい食感を生み出すことに成功した」
―道の駅ではオリジナル漬物も販売する。
「前橋産の大根、胡瓜、茄子、生姜、椎茸といった5種類の野菜を使用した福神漬や、前橋産のきのこを使用した漬物など、地場の素材を使用した特別感のある商品を販売していく予定だ」
―最後に。
「新進の創業は、焼麩の製造からスタートしており、小麦粉を使用した事業はある意味で原点回帰と言えるものかもしれない。新規事業なので目標を高く持ち、いずれは群馬県を代表するスイーツとして弊社のバームクーヘンを育てていきたい」
【2023(令和5)年3月11日第5122号4面】
地元食材とバターにこだわり
株式会社新進のグループ会社である新進物産株式会社(金児正成社長、前橋市鳥羽町)では、3月21日開業予定の「道の駅まえばし赤城」(前橋市田口町)にバームクーヘン専門店「The Butter Baum」をオープンする。新規事業を担当する株式会社新進企画開発本部係長調理師の藤重俊行氏に新たなチャレンジのきっかけやバームクーヘンへのこだわりについて聞いた。
(藤井大碁)
◇ ◇
―新規事業をスタートする経緯。
「新たな道の駅が開設されることを機に、前橋市より道の駅の出店者の公募があり、その運営事業者の一社として弊社が選ばれたのが新規事業のきっかけ。新進では小麦澱粉を作っており、製菓材料として幅広く販売していることに加え、グループ会社である新進物産ではお菓子の取り扱いがあり、販路も持っているので、グループの強みを生かせる事業として菓子事業をスタートすることになった」
―バームクーヘンの製造販売を行う。
「バームクーヘンであればオープン設計の〝見せる工場〟を作ることができる、というのが大きな理由となった。新進グループでは安心安全をモットーにしており、見える工場を作れば、それをお客様にアピールすることができる。また、クルクル回転する製造工程が見えることで、幅広い年齢層の方に興味を持ってもらうことができるのもバームクーヘンの強みではないかと考えている」
―「The Butter Baum」のこだわり。
「小麦澱粉は自社製、小麦粉は県内産、鶏卵は前橋市内の養鶏所のものを使用するなど、できる限り地元原料を使用することにこだわっている。また、ブランド名にあるように、特に〝バター”の風味を重視した。厳選した国産の発酵バターを使用。手作業でバターを熱して、焦げるギリギリで香りを際立たせた〝焦がしバター〟を使用することで、味わいに違いを出している。店内のカフェでは、バームクーヘンの上から県内製造の特製バターをかけ、熱々のバームクーヘンでバターを溶かして食べてもらうメニューも提供する予定だ」
―開発の苦労。
「国内外の30種類以上のバームクーヘンを試食し、今までにないバームクーヘンを目指した。ふんわりしているもの、しっとりしているものはあったが、ふんわりとしっとりを両立しているバームクーヘンはなかなか無く、そこを目指した。配合が難しく、繊細なので、生地の調整に苦労した。直火焼と蒸し焼きを繰り返すことで、これまでにない新しい食感を生み出すことに成功した」
―道の駅ではオリジナル漬物も販売する。
「前橋産の大根、胡瓜、茄子、生姜、椎茸といった5種類の野菜を使用した福神漬や、前橋産のきのこを使用した漬物など、地場の素材を使用した特別感のある商品を販売していく予定だ」
―最後に。
「新進の創業は、焼麩の製造からスタートしており、小麦粉を使用した事業はある意味で原点回帰と言えるものかもしれない。新規事業なので目標を高く持ち、いずれは群馬県を代表するスイーツとして弊社のバームクーヘンを育てていきたい」
【2023(令和5)年3月11日第5122号4面】
新進HP
3月1日号 トップに聞く
東京中央漬物株式会社 代表取締役社長 齋藤 正久氏
惣菜やおつまみを強化
SNSで若い世代にPR
東京都公認の漬物荷受機関である東京中央漬物株式会社(東京都江東区豊洲)の齋藤正久社長にインタビュー。23年3月期下半期の業績や今後の展望などについて話を聞いた。漬物市場がシュリンクする中で、漬物以外の商品や売場に目を向ける必要性を強調。また、漬物離れが進む若い世代に向けてはSNSの活用を提言した。(千葉友寛)
◇ ◇
‐23年下半期の業績予想は。
「一言で言えば苦戦している。コロナ禍で無利子無担保の融資政策が行われたが、業績が改善せずに倒産、廃業している企業が増加している。年明け以降、漬物業界でも数社の倒産があり、その部分でも影響があった。弊社の売上は1年間で12月が一番多くなるのだが、今後の影響を考えて絞ったところもある。上半期は99・6%となったが、10月~1月は97・9%と落ち込んだ。最終的な着地としては99・2%を予想している」
‐小売用と業務用の売れ行きは。
「小売用は値上げの影響もあって苦戦している。業務用についてはインバウンド需要の増加も見込めるので、売上を伸ばしたいと思っている。昨年3月にまん延防止等重点措置が全面解除となったことで、外食関係の売れ行きが回復し、7割~8割戻ってきている。ただ、納め先でもコロナ禍で倒産、廃業したところもあるので、そこの部分は回復しない。今後はインバウンド需要も含めて新たな販路を開拓していく必要がある」
‐新たな販路とは。
「弊社は漬物専業問屋だが、漬物以外の商品でも新しい商品を取り入れていきたいと考えている。具体的には惣菜に近い商品を注視していて、売場も漬物ではなく惣菜や青果に置けるもの、人気のある土産品も魅力だ。取引のあるメーカーは漬物を提案しようという意識が強いと思うが、漬物以外の商品も案内してほしい。そのような商品があれば弊社のところで止めずにバイヤーに紹介し、これまでとは異なる売場に展開していきたいと考えている」
‐ニーズのトレンドは。
「スーパーの動きを見ると、個食向けや簡便性の高い商品が売れている。単身世帯が増加し、世帯人数も減少している中で、食べ切りサイズの商品や蓋を開けたら食べられるスライスのカップ製品が伸長している。その他にはザーサイなど、漬物というよりはお酒のおつまみのような商品も良い動きとなっている。若い人は料理をする機会が減っており、惣菜やおつまみを購入して家でご飯を食べてお酒を飲む、という流れになっている。そのようなところで売れる商品の提案を強化していきたいと思っている。そうしなければ売上は伸びない」
‐漬物の値上げの動きについて。
「昨年からずっと続いており、値上げの案内があればその都度得意先と商談している。現在は5月くらいまで話がきているが、その先はない。まだ様子を見ている企業もあるが、時期や金額などメーカーの希望通りにはいかないケースも多い。そのため、案内は早く出すことを推奨している」
‐若い世代へのPRについて。
「私の友人の子供でも漬物を食べたことがない、と言っていた。漬物に対してネガティブなイメージを持っている人はまだまだ多く、私もこの業界にいなければ食べず嫌いだったかもしれない。その部分は業界にとって大きな課題だ。特に若い人は漬物に興味を持っていないし、食べる機会もない。ではどうすれば良いのかということを考えると、若い人の多くが利用しているSNSでの情報発信が有効だと考えている。各企業でも漬物を素材としたレシピ提案を行っているが、このような活動を通してPRを行ってほしい。弊社もSNSの活用を検討している」
‐市場がシュリンクする中で御社の役割は。
「原材料の高騰や後継者不足など、多くの問題を抱えていることに加え、時代の移り変わりが速く対応していくことが困難になっている。取引先がついていけるように先頭に立って次の一手を考え、情報交換やアドバイスを継続的に行っていきたいと考えている。弊社が主力とする得意先は約200社あり、幅広い売場や販路がある。今後も情報と関係を密にして互いに利益を出せる形を構築していきたい」
【2023(令和5)年3月1日第5121号1面】
東京中央漬物 HP
2月11日号 SMTS特別インタビュー
秋本食品株式会社 代表取締役専務 秋本善明氏
持続可能な事業を推進
変化に対応し100周年へ
今年10月に創業90周年を迎える秋本食品株式会社(秋本大典社長、神奈川県綾瀬市)の代表取締役専務食品事業本部長(兼)マーケティング部長の秋本善明氏にインタビュー。年末年始の売れ行きや値上げの動きなどについて話を聞いた。同社はSDGsの観点から賞味期限延長の取組に注力して食品ロス削減などに貢献していく方針で、100周年に向けて持続可能な事業を推進していく姿勢を示した。(千葉友寛)
◇ ◇
‐年末年始の売れ行き。
「全体的に見ると前年並みで推移している。中でも浅漬が苦戦した。白菜漬は売れたのだが、千枚漬やなますなど年末商材の動きが悪かった。キムチについても市場としては前年をクリアしているのだが、自社の動きは販促ができていないこともあり、あまり良くなかった。悪かった要因としては野菜安、生活費の上昇、物価高などが上げられる。その他の品目については、酢漬が値上げの影響で厳しい数字となっていて、沢庵は原料不足で一時期は販促を行うことができなかったが、年末には間に合った。在庫がある梅干しは、年末の動きも悪くなく、春夏に向けても期待している。あと、本漬の売れ行きはまずまずだった」
‐製造コストが上昇している。
「調味料、副資材、電気代とあらゆるコストが上がっていて、毎日のように値上げ要請が届いている。我々が使用する原料はほぼ国産のため、海外原料より上がり幅は小さいが、肥料代も上がっていることから国内の農家からも来年度は価格を上げる、という話もある。国内においても人件費、運賃が上がっている他、ハウス栽培で必要となる燃料やガスの価格も上昇しており、国産原料の価格は確実に上がる。これまで国産原料は価格が上がらないという前提で取り組んできたのだが、来年度は現在の製品価格を維持することは困難になることが予想される。製造コストは前年を大きく上回るペースで増えており、企業努力で吸収できるレベルをはるかに超えている。持続可能な事業を推進していくためにも、しっかりと価格転嫁していくことが重要だ」
‐値上げの動きは。
「弊社では昨年の春から案内を行い、夏以降に値上げを実施した。主力商品の一部は量目調整だが、大半の商品は価格改定。弊社は先行する形だったこともあって商品を差し替えられるケースもあったが、それは商品力がなかったということでもあり、ある意味で仕方がないことだと思っている。特に浅漬は差別化が難しい品目で、こだわって作った商品の価格が例えば1・5倍になった場合、価値を認めて購入していただけるのか。近年、浅漬についてはお客様が何を求め、どこに価値を感じるのか見極めるのが難しくなっている。弊社の値上げは一巡したが、製造コストが上昇し続けているため、第2弾の対策をどのような形で行っていくか検討している段階だ」
‐御社の取組について。
「弊社では、『あとひきだいこん』や『王道キムチ』といったオンリーワンの商品を安売りすることなく、味と品質にこだわって大事に販売していきたいと考えている。また、ここ数年の継続課題として賞味期限延長にトライしている。賞味期限が延長できれば売場のロス率低下につながり、お客様にもメリットがある。昨年9月には主力商品の一つである『オモニの極旨キムチ』の賞味期限を21日間から31日間に延長した。これらはSDGsの観点からも重要なポイントとなっており、今後も重要課題として取り組んでいく」
‐漬物市場の将来性。
「私見だが、漬物はデリカの売場でもすでに販売され実績を出している事例もあるが、お客様に部門の境目はない。お客様が商品を購入するのに便利か便利じゃないか、ということが重要で、関連販売でメニューをイメージできる商品を提供できれば支持されるはずだ。ただそういった商品を既存の漬物売場に置いても埋もれてしまうし、そもそも漬物売場を通らない人も多い。画一化された売場ではなく、クロスMDを活用するなど、売場そのものをコーディネートしていきながら漬物に興味を持ってもらう仕掛けが必要だと思っている。その為には店側の協力も必要となる」
‐自社のPRを。
「弊社は今年10月に創業90周年を迎える。『味の逸品』を掲げ、先々代から受け継いできた『味』と『品質』をこれからも守り続けていきたいと考えている。創業当時は沢庵が主力商品だったが、時代のニーズに合わせて浅漬やキムチに主軸を移してきた。全国の有力な漬物メーカーとパイプがあり、幅広い得意先を持つ漬物製造ベンダーとしての強みを活かしながら、100周年に向けて時代の変化にしっかりと対応し、『秋本の商品は美味しい』と言っていただけるような商品を作り続けていきたい」
‐年末年始の売れ行き。
「全体的に見ると前年並みで推移している。中でも浅漬が苦戦した。白菜漬は売れたのだが、千枚漬やなますなど年末商材の動きが悪かった。キムチについても市場としては前年をクリアしているのだが、自社の動きは販促ができていないこともあり、あまり良くなかった。悪かった要因としては野菜安、生活費の上昇、物価高などが上げられる。その他の品目については、酢漬が値上げの影響で厳しい数字となっていて、沢庵は原料不足で一時期は販促を行うことができなかったが、年末には間に合った。在庫がある梅干しは、年末の動きも悪くなく、春夏に向けても期待している。あと、本漬の売れ行きはまずまずだった」
‐製造コストが上昇している。
「調味料、副資材、電気代とあらゆるコストが上がっていて、毎日のように値上げ要請が届いている。我々が使用する原料はほぼ国産のため、海外原料より上がり幅は小さいが、肥料代も上がっていることから国内の農家からも来年度は価格を上げる、という話もある。国内においても人件費、運賃が上がっている他、ハウス栽培で必要となる燃料やガスの価格も上昇しており、国産原料の価格は確実に上がる。これまで国産原料は価格が上がらないという前提で取り組んできたのだが、来年度は現在の製品価格を維持することは困難になることが予想される。製造コストは前年を大きく上回るペースで増えており、企業努力で吸収できるレベルをはるかに超えている。持続可能な事業を推進していくためにも、しっかりと価格転嫁していくことが重要だ」
‐値上げの動きは。
「弊社では昨年の春から案内を行い、夏以降に値上げを実施した。主力商品の一部は量目調整だが、大半の商品は価格改定。弊社は先行する形だったこともあって商品を差し替えられるケースもあったが、それは商品力がなかったということでもあり、ある意味で仕方がないことだと思っている。特に浅漬は差別化が難しい品目で、こだわって作った商品の価格が例えば1・5倍になった場合、価値を認めて購入していただけるのか。近年、浅漬についてはお客様が何を求め、どこに価値を感じるのか見極めるのが難しくなっている。弊社の値上げは一巡したが、製造コストが上昇し続けているため、第2弾の対策をどのような形で行っていくか検討している段階だ」
‐御社の取組について。
「弊社では、『あとひきだいこん』や『王道キムチ』といったオンリーワンの商品を安売りすることなく、味と品質にこだわって大事に販売していきたいと考えている。また、ここ数年の継続課題として賞味期限延長にトライしている。賞味期限が延長できれば売場のロス率低下につながり、お客様にもメリットがある。昨年9月には主力商品の一つである『オモニの極旨キムチ』の賞味期限を21日間から31日間に延長した。これらはSDGsの観点からも重要なポイントとなっており、今後も重要課題として取り組んでいく」
‐漬物市場の将来性。
「私見だが、漬物はデリカの売場でもすでに販売され実績を出している事例もあるが、お客様に部門の境目はない。お客様が商品を購入するのに便利か便利じゃないか、ということが重要で、関連販売でメニューをイメージできる商品を提供できれば支持されるはずだ。ただそういった商品を既存の漬物売場に置いても埋もれてしまうし、そもそも漬物売場を通らない人も多い。画一化された売場ではなく、クロスMDを活用するなど、売場そのものをコーディネートしていきながら漬物に興味を持ってもらう仕掛けが必要だと思っている。その為には店側の協力も必要となる」
‐自社のPRを。
「弊社は今年10月に創業90周年を迎える。『味の逸品』を掲げ、先々代から受け継いできた『味』と『品質』をこれからも守り続けていきたいと考えている。創業当時は沢庵が主力商品だったが、時代のニーズに合わせて浅漬やキムチに主軸を移してきた。全国の有力な漬物メーカーとパイプがあり、幅広い得意先を持つ漬物製造ベンダーとしての強みを活かしながら、100周年に向けて時代の変化にしっかりと対応し、『秋本の商品は美味しい』と言っていただけるような商品を作り続けていきたい」
【2023(令和5)年2月11日第5119号2面】
秋本食品株式会社
2月11日号 SMTS特別インタビュー
株式会社山重 代表取締役社長 杉山博氏
原点回帰で新たなスタート
ニーズを創造し需要開拓
株式会社山重(東京都葛飾区)は、漬物をはじめ日配のプロとして全国に物流網を持つ一次荷受問屋。取引先は全国44都道府県、仕入れ件数は346件と地方の名産品も数多く取り扱っている。同社は単に商品を物流に乗せるだけではなく、メーカーと商品を共同開発して企画・売場提案を行いながら量販店、外食、中食、ベンダーなど様々な販売チャネルに供給。開発力と提案力を併せ持つ同社は業界内外から高く評価され、厚い信頼を寄せられている。杉山博社長に今期の業績及び来期の見通しについて話を聞いた。
(千葉友寛)
◇ ◇
‐漬物の売れ行きと今期の業績について。
「漬物の売れ行きは全般的に増加要因が見当たらない。巣ごもり需要の反動もあるが、特に浅漬の動きが悪く、売場も縮小傾向にある。コロナ禍で需要が増えたキムチも落ち着いている。消費者の所得が増えない中、燃料費高騰による様々な物価上昇が家計を圧迫し、購買意欲の低下対象商品として漬物が含まれている感がある。弊社は3月決算で未だ確定していないが、厳しい外的要因の中、前年比並みの売上を維持したものの、事務所移転に伴うコストにより減益の見通しだ」
‐昨年10月に事務所を埼玉から東京に移転した。
「弊社は4月から61期となる。漬物業界の構造的問題を打破するためには、創業者が築いた経営理念に改めて向き合うことが大事であると考え、原点回帰の意味を込めて、葛飾の事務所に5年ぶりに戻ってくる形となった。内装も一新し、新たな気持ちで事業を行っていきたいと考えている」
‐漬物売場について。
「消費者は生野菜を食べるが、野菜の加工品は食べない。漬物の歴史を振り返ると、『生野菜を食す』『主食のお供』としての関係がマッチして漬物が広まったが、現代ではこの2つに何か見えない壁のようなものがあると思っている。その壁を打ち崩さない限り、漬物の需要は増えない。この壁を取り崩す提案を行うことこそが当社の使命だと考えており、61期より仕掛ける予定でいる。一方、現状の商品群に目を置くと、新商品が消費者の購買意欲を沸かせる大きな差別化までには至っていないのではないかと考えている。そこで注目されるのが地方の名産品だ。近年では、『山形のだし』や『いぶりがっこ』が地方で発掘されて広域流通につながった。日頃からアンテナを高く張り、そのような商品を見つけて提案するのが問屋の本質であるが、その部分こそが他社にない当社の強みだと思っている」
‐昨年から続く値上げの動きは。
「漬物売場でも値上げの動きは増えているが、肌感では全体の6、7割くらいに留まっている。カテゴリーにもよるが、商品の切り替えや消費者離れを懸念して値上げに踏み切れないメーカーも数多く存在する。弊社は値上げの要請があれば得意先に案内を行うが、まだ様子を見ているところもある。原材料価格が上がり、包装資材や調味料の他、電気代、燃料代、物流費などのコストが上昇する中、価格転嫁しなければ採算が合わなくなる。更に、巣ごもり需要の反動による漬物業界の規模縮小によって体力勝負の様相となっており、特に、価格転嫁をストレートに反映できない中小企業には大きな影響が出てくるだろう」
‐ 一次荷受問屋である御社の役割は。
「我々に求められているのは提案力。メーカーと協力して新たな商品を開発し、ニーズを創造していくことは経営方針でもある。少子高齢化や単身世帯の増加などを考えると、食品業界において伸びていくのは惣菜と冷凍食品。漬物を従来の売場だけで販売していても市場を維持することはできない。それならば、惣菜売場で販売できる惣菜風の漬物を開発したり、関連販売で漬物を置けるような提案を行っていくことが必要だ」
‐新しい事業や取組について。
「まだ詳細は言えないのだが、新しい需要の開拓という意味では幅広い人へのPRが重要で、漬物をより身近に、より便利に利用できる情報を提供していきたいと考えている。価値のある、すなわち『食したい、買いたい』という購買意欲を湧き立たせる漬物ならば、適正価格でも販売が可能であると考えている。間もなく迎える61期から新たな仕掛けを行っていきたいので、ご期待いただきたい」
◇ ◇
‐漬物の売れ行きと今期の業績について。
「漬物の売れ行きは全般的に増加要因が見当たらない。巣ごもり需要の反動もあるが、特に浅漬の動きが悪く、売場も縮小傾向にある。コロナ禍で需要が増えたキムチも落ち着いている。消費者の所得が増えない中、燃料費高騰による様々な物価上昇が家計を圧迫し、購買意欲の低下対象商品として漬物が含まれている感がある。弊社は3月決算で未だ確定していないが、厳しい外的要因の中、前年比並みの売上を維持したものの、事務所移転に伴うコストにより減益の見通しだ」
‐昨年10月に事務所を埼玉から東京に移転した。
「弊社は4月から61期となる。漬物業界の構造的問題を打破するためには、創業者が築いた経営理念に改めて向き合うことが大事であると考え、原点回帰の意味を込めて、葛飾の事務所に5年ぶりに戻ってくる形となった。内装も一新し、新たな気持ちで事業を行っていきたいと考えている」
‐漬物売場について。
「消費者は生野菜を食べるが、野菜の加工品は食べない。漬物の歴史を振り返ると、『生野菜を食す』『主食のお供』としての関係がマッチして漬物が広まったが、現代ではこの2つに何か見えない壁のようなものがあると思っている。その壁を打ち崩さない限り、漬物の需要は増えない。この壁を取り崩す提案を行うことこそが当社の使命だと考えており、61期より仕掛ける予定でいる。一方、現状の商品群に目を置くと、新商品が消費者の購買意欲を沸かせる大きな差別化までには至っていないのではないかと考えている。そこで注目されるのが地方の名産品だ。近年では、『山形のだし』や『いぶりがっこ』が地方で発掘されて広域流通につながった。日頃からアンテナを高く張り、そのような商品を見つけて提案するのが問屋の本質であるが、その部分こそが他社にない当社の強みだと思っている」
‐昨年から続く値上げの動きは。
「漬物売場でも値上げの動きは増えているが、肌感では全体の6、7割くらいに留まっている。カテゴリーにもよるが、商品の切り替えや消費者離れを懸念して値上げに踏み切れないメーカーも数多く存在する。弊社は値上げの要請があれば得意先に案内を行うが、まだ様子を見ているところもある。原材料価格が上がり、包装資材や調味料の他、電気代、燃料代、物流費などのコストが上昇する中、価格転嫁しなければ採算が合わなくなる。更に、巣ごもり需要の反動による漬物業界の規模縮小によって体力勝負の様相となっており、特に、価格転嫁をストレートに反映できない中小企業には大きな影響が出てくるだろう」
‐ 一次荷受問屋である御社の役割は。
「我々に求められているのは提案力。メーカーと協力して新たな商品を開発し、ニーズを創造していくことは経営方針でもある。少子高齢化や単身世帯の増加などを考えると、食品業界において伸びていくのは惣菜と冷凍食品。漬物を従来の売場だけで販売していても市場を維持することはできない。それならば、惣菜売場で販売できる惣菜風の漬物を開発したり、関連販売で漬物を置けるような提案を行っていくことが必要だ」
‐新しい事業や取組について。
「まだ詳細は言えないのだが、新しい需要の開拓という意味では幅広い人へのPRが重要で、漬物をより身近に、より便利に利用できる情報を提供していきたいと考えている。価値のある、すなわち『食したい、買いたい』という購買意欲を湧き立たせる漬物ならば、適正価格でも販売が可能であると考えている。間もなく迎える61期から新たな仕掛けを行っていきたいので、ご期待いただきたい」
【2023(令和5)年2月11日第5119号19面】
株式会社山重
2月11日号 SMTS特別インタビュー
株式会社五味商店 代表取締役社長 寺谷健治氏
過去最多140社が出展
『冷凍食品』『全国銘菓』コーナーも
『スーパーマーケット・トレードショー2023』(2月15日~17日・幕張メッセ)において、全国から厳選した食品を紹介する株式会社五味商店(千葉県我孫子市)の「こだわり商品コーナー」(会場9ホール)は今回で24回目の出展となる。スーパーマーケット・トレードショーの出展者代表委員も務める五味商店の寺谷健治社長に、今回の見どころや現在の消費トレンドについて聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
――今回の見どころ。
「今回の出展者数は昨年より32社多い140社で、過去最多となる。ブース面積も前回より広がる。全国商工会連合会から新規で20社が出展するなど新規出展者も39社あり、今回もたくさんの発見をして頂けると思う。ブース内では、夏の展示会の際にバイヤーさんから要望が多かった『冷凍食品』と『全国銘菓』のコーナーを展開する。今、一番有益な情報をタイムリーに提案することで、来て良かったと思って頂けるブース作りを行っている」
――足元の状況。
「3月決算は前年並の売上を見込んでいる。コロナ下の3年間で売上は上昇を続けてきたが、ピークは過ぎ、昨年夏以降は動きが落ち着いてきている。だが引き続きこだわり商品へのニーズは高止まりしている。様々な物が値上がりし、節約志向が強まっているが、自分の欲しいものにはしっかりとお金を払う〝メリハリ消費〟が定着した。こうした消費者ニーズに対応していけば、まだまだ売上が伸ばせると考えている」
――消費者トレンド。
「現在、出展者の皆様に出品をお願いしているのは〝サステナブル”や〝SDGs〟の要素を持つ商品だ。時代の変化や、世代による価値観の違いもあり、価値のある商品は十人十色になっている。これまでのような大きな市場はシュリンクし、今後は細分化した市場への対応が求められる。美味しさや安全安心が商品の絶対条件だとすれば、サステナブルやSDGsといった要素は必要条件と言える。だがZ世代のように、そうした価値観に基づいて商品を選択する人たちが増えてきている。また、甘すぎる商品も時代が変わり受け入れられなくなってきている。減塩、添加物や砂糖の不使用等素材を生かした薄味への変化が求められている」
――新しい売場。
「ある農協の直営店舗では、弊社から商品を卸すようになり、商品単価が1割以上上昇し、全体の売上も伸長した。各地の農作物直売所では生鮮品については地元農家から仕入れられるが、加工品の品揃えに課題を持つ店舗もある。この部分を弊社が補うことで売上増に貢献できる事例が出てきている。近年、食品を取り扱う雑貨店が増え、売り先が広がっているが、まだまだこうした新しい売り先を開拓できると考えている」
――食品メーカーにとって厳しい環境が続いている。
「様々なコスト増により、経営のプロでないと生き残るのが難しい時代になっている。前述の通り、消費者ニーズは多様化しており〝付加価値のある市場〟は確かに存在する。だが、その市場にあった商品を作り、販売していくためには、経営力・販売力・商品力といった3つの力が必要で、どれかが欠けても競争に勝てない。この中で一番大切なのは経営力を磨くことだ。そのために、経営者のマインドを外向きに変えていく作業が必要で、トレードショーへの出展はその一つのステップとなる。昨年初めて出展した事業者は、経営者が新しい世界を見てやる気になり、新工場を建設することになった。新工場ができれば、雇用が生まれ、地域活性化につながる。弊社の目標はこうしたケースを1つでも多く作っていくことだ」
――今後の見通し。
「時代の変化は早いが、〝人間が生活の豊かさを求めること〟はいつの時代も変わらない。その豊かさは時代と共に変化し、サステナブルやSDGsといった自然との共生という価値観が広がっている。豊かな生活をしたいというのは、人間の本質的なものであり、それがある限りは、我々の商品を供給することで喜んで頂けるのではないか」
【2023(令和5)年2月11日第5119号5面】
株式会社五味商店
『冷凍食品』『全国銘菓』コーナーも
『スーパーマーケット・トレードショー2023』(2月15日~17日・幕張メッセ)において、全国から厳選した食品を紹介する株式会社五味商店(千葉県我孫子市)の「こだわり商品コーナー」(会場9ホール)は今回で24回目の出展となる。スーパーマーケット・トレードショーの出展者代表委員も務める五味商店の寺谷健治社長に、今回の見どころや現在の消費トレンドについて聞いた。(藤井大碁)
◇ ◇
――今回の見どころ。
「今回の出展者数は昨年より32社多い140社で、過去最多となる。ブース面積も前回より広がる。全国商工会連合会から新規で20社が出展するなど新規出展者も39社あり、今回もたくさんの発見をして頂けると思う。ブース内では、夏の展示会の際にバイヤーさんから要望が多かった『冷凍食品』と『全国銘菓』のコーナーを展開する。今、一番有益な情報をタイムリーに提案することで、来て良かったと思って頂けるブース作りを行っている」
――足元の状況。
「3月決算は前年並の売上を見込んでいる。コロナ下の3年間で売上は上昇を続けてきたが、ピークは過ぎ、昨年夏以降は動きが落ち着いてきている。だが引き続きこだわり商品へのニーズは高止まりしている。様々な物が値上がりし、節約志向が強まっているが、自分の欲しいものにはしっかりとお金を払う〝メリハリ消費〟が定着した。こうした消費者ニーズに対応していけば、まだまだ売上が伸ばせると考えている」
――消費者トレンド。
「現在、出展者の皆様に出品をお願いしているのは〝サステナブル”や〝SDGs〟の要素を持つ商品だ。時代の変化や、世代による価値観の違いもあり、価値のある商品は十人十色になっている。これまでのような大きな市場はシュリンクし、今後は細分化した市場への対応が求められる。美味しさや安全安心が商品の絶対条件だとすれば、サステナブルやSDGsといった要素は必要条件と言える。だがZ世代のように、そうした価値観に基づいて商品を選択する人たちが増えてきている。また、甘すぎる商品も時代が変わり受け入れられなくなってきている。減塩、添加物や砂糖の不使用等素材を生かした薄味への変化が求められている」
――新しい売場。
「ある農協の直営店舗では、弊社から商品を卸すようになり、商品単価が1割以上上昇し、全体の売上も伸長した。各地の農作物直売所では生鮮品については地元農家から仕入れられるが、加工品の品揃えに課題を持つ店舗もある。この部分を弊社が補うことで売上増に貢献できる事例が出てきている。近年、食品を取り扱う雑貨店が増え、売り先が広がっているが、まだまだこうした新しい売り先を開拓できると考えている」
――食品メーカーにとって厳しい環境が続いている。
「様々なコスト増により、経営のプロでないと生き残るのが難しい時代になっている。前述の通り、消費者ニーズは多様化しており〝付加価値のある市場〟は確かに存在する。だが、その市場にあった商品を作り、販売していくためには、経営力・販売力・商品力といった3つの力が必要で、どれかが欠けても競争に勝てない。この中で一番大切なのは経営力を磨くことだ。そのために、経営者のマインドを外向きに変えていく作業が必要で、トレードショーへの出展はその一つのステップとなる。昨年初めて出展した事業者は、経営者が新しい世界を見てやる気になり、新工場を建設することになった。新工場ができれば、雇用が生まれ、地域活性化につながる。弊社の目標はこうしたケースを1つでも多く作っていくことだ」
――今後の見通し。
「時代の変化は早いが、〝人間が生活の豊かさを求めること〟はいつの時代も変わらない。その豊かさは時代と共に変化し、サステナブルやSDGsといった自然との共生という価値観が広がっている。豊かな生活をしたいというのは、人間の本質的なものであり、それがある限りは、我々の商品を供給することで喜んで頂けるのではないか」
【2023(令和5)年2月11日第5119号5面】
株式会社五味商店
https://www.syokuryou-shinbun.com/pages/477/(電子版地域セレクション)
1月21日号 DTS特別インタビュー
全国スーパーマーケット協会 事業部展示会課兼事業創造室チーフディレクター 籾山朋輝氏
「お弁当・お惣菜大賞」注目度上昇
今年は“プラントベース元年”に
デリカテッセン・トレードショー2023(以下、DTS)が2月15日から17日まで幕張メッセにて開催される。DTSは中食産業の最新情報を発信する商談展示会。主催者企画「お弁当・お惣菜大賞」は近年注目度が上昇、売場の販促ツールとして大きな存在になりつつある。DTS会場内では今年も受賞商品の一部を実食できるフードコートを展開する予定だ。DTSを主催する一般社団法人全国スーパーマーケット協会事業部展示会課兼事業創造室チーフディレクター・籾山朋輝氏にインタビュー。籾山氏はデリカ売場の動向やトレンドについて語った。
今年は“プラントベース元年”に
デリカテッセン・トレードショー2023(以下、DTS)が2月15日から17日まで幕張メッセにて開催される。DTSは中食産業の最新情報を発信する商談展示会。主催者企画「お弁当・お惣菜大賞」は近年注目度が上昇、売場の販促ツールとして大きな存在になりつつある。DTS会場内では今年も受賞商品の一部を実食できるフードコートを展開する予定だ。DTSを主催する一般社団法人全国スーパーマーケット協会事業部展示会課兼事業創造室チーフディレクター・籾山朋輝氏にインタビュー。籾山氏はデリカ売場の動向やトレンドについて語った。
(藤井大碁)
―デリカ売場の動向。
「昨年一年間のデリカカテゴリーの売上推移は他のカテゴリーと比較して突出して良かった。直近のSM3団体統計調査のデータを見ても、12月は全店ベースで106・9%となっており、全カテゴリーで一番伸び率が高い。即食や簡便性を求める生活スタイルがコロナ前に戻りつつあり、さらに加速している。当初は、外食の復調により、スーパーの売上は落ち込むと予想されていたが、現状は惣菜以外のカテゴリーもそこまで落ちていない。直近の数字は値上げの影響もあり、詳細分析が難しい部分もあるが、スーパーへの来店頻度や購買額が上がっていると推測できる。コロナ特需が薄れて他業態に売上がシフトしそうなところだが、食品スーパーは健闘しており、その中でも惣菜カテゴリーは大健闘している」
―惣菜カテゴリーが好調な要因。
「コロナを機に消費者の生活スタイルが変化したことが大きい。外食の中でも居酒屋の売上はコロナ前に戻り切っておらず、その需要の一部がスーパーでの購買に流れていると考えられる。デリカ売場では、家飲み需要に対応するため、おつまみ系のラインナップを増やしており、好調を持続している。様々な物が値上がりして節約志向が高まる中、外食より中食、内食を選択する消費者が多く、そうした流れも追い風になっている」
―DTS2023の見どころ。
「出展者数は前回とほぼ同様で、約40社・団体の220小間。今回は新規の惣菜ベンダーが出展する。惣菜ベンダーは、現在の惣菜売場の課題である人手不足を補完する役割を担っており、今回の展示会においても注目を集めそうだ」
―お弁当・お惣菜大賞への注目度が上昇している。
「メディアで取り上げられる機会が増えたこともあり、おかげ様で反響が大きい。店舗の売場活性化のためにうまく活用して頂いている。専門店や大手スーパーのエントリーも年々増加している。過年度の受賞商品をリバイバルしてフェアを実施した店舗では、売上が大きく伸びたと聞いている。また従業員の商品開発のモチベーションを上げるためにお弁当・お惣菜大賞を活用する企業も増えてきている。商品開発の枠組みの中に、お弁当・お惣菜大賞のエントリーを紐づけ、明確なゴールを設定することで、開発チームのモチベーションアップにつなげている」
―売場のトレンド。
「今年、お弁当・お惣菜大賞のエントリーで際立って増えたのが、プラントベース由来の食材を使用した商品だ。SDGsの流れに加えて、健康のために手に取る消費賞が増えている。コンビニでの販売や外食での提供も増えており、消費者にとってより身近な存在になってきた。今後も売上が伸びていくことが予想され、各社の商品開発が活発化している。今年は、デリカ売場にとって〝プラントベース元年〟と言える年になるのではないか」
―売場の課題。
「人手不足が深刻化している。事業者側も手間をかけた商品が売れるのは分かっているが、それを全店で展開する際の人時を考えた時に商品化できないというジレンマがある。うまく人を集めて独自商品を開発したり、プロセスセンターをフル活用するなど、各事業者が知恵を絞って対応している。ただ足元では、他の売場と同じようにベンダーからの仕入れ商品を販売せざるを得ない状況もある。理想と現実をすり合わせて、インストアとアウトパックをうまく使い分ける必要が出てきている」
―今後の見通し。
「デリカ売場は好調を維持している。新商品開発に加え、唐揚げや餃子といった定番品のブラッシュアップや粗利率の改善も重要になってきている。今までは、価格訴求型の商品が多かったが、外食ニーズを取り込むために、もうワンランク上の惣菜開発が活性化し、それが消費者に受け入れられている。来店頻度を下げない仕掛けをしつつ、商品開発をさらに推し進めていけば、まだまだ売上を伸ばせるのではないか」
【2023(令和5)年1月21日第5118号6面】
デリカテッセン・トレードショー公式サイト
https://www.delica.jp/
―デリカ売場の動向。
「昨年一年間のデリカカテゴリーの売上推移は他のカテゴリーと比較して突出して良かった。直近のSM3団体統計調査のデータを見ても、12月は全店ベースで106・9%となっており、全カテゴリーで一番伸び率が高い。即食や簡便性を求める生活スタイルがコロナ前に戻りつつあり、さらに加速している。当初は、外食の復調により、スーパーの売上は落ち込むと予想されていたが、現状は惣菜以外のカテゴリーもそこまで落ちていない。直近の数字は値上げの影響もあり、詳細分析が難しい部分もあるが、スーパーへの来店頻度や購買額が上がっていると推測できる。コロナ特需が薄れて他業態に売上がシフトしそうなところだが、食品スーパーは健闘しており、その中でも惣菜カテゴリーは大健闘している」
―惣菜カテゴリーが好調な要因。
「コロナを機に消費者の生活スタイルが変化したことが大きい。外食の中でも居酒屋の売上はコロナ前に戻り切っておらず、その需要の一部がスーパーでの購買に流れていると考えられる。デリカ売場では、家飲み需要に対応するため、おつまみ系のラインナップを増やしており、好調を持続している。様々な物が値上がりして節約志向が高まる中、外食より中食、内食を選択する消費者が多く、そうした流れも追い風になっている」
―DTS2023の見どころ。
「出展者数は前回とほぼ同様で、約40社・団体の220小間。今回は新規の惣菜ベンダーが出展する。惣菜ベンダーは、現在の惣菜売場の課題である人手不足を補完する役割を担っており、今回の展示会においても注目を集めそうだ」
―お弁当・お惣菜大賞への注目度が上昇している。
「メディアで取り上げられる機会が増えたこともあり、おかげ様で反響が大きい。店舗の売場活性化のためにうまく活用して頂いている。専門店や大手スーパーのエントリーも年々増加している。過年度の受賞商品をリバイバルしてフェアを実施した店舗では、売上が大きく伸びたと聞いている。また従業員の商品開発のモチベーションを上げるためにお弁当・お惣菜大賞を活用する企業も増えてきている。商品開発の枠組みの中に、お弁当・お惣菜大賞のエントリーを紐づけ、明確なゴールを設定することで、開発チームのモチベーションアップにつなげている」
―売場のトレンド。
「今年、お弁当・お惣菜大賞のエントリーで際立って増えたのが、プラントベース由来の食材を使用した商品だ。SDGsの流れに加えて、健康のために手に取る消費賞が増えている。コンビニでの販売や外食での提供も増えており、消費者にとってより身近な存在になってきた。今後も売上が伸びていくことが予想され、各社の商品開発が活発化している。今年は、デリカ売場にとって〝プラントベース元年〟と言える年になるのではないか」
―売場の課題。
「人手不足が深刻化している。事業者側も手間をかけた商品が売れるのは分かっているが、それを全店で展開する際の人時を考えた時に商品化できないというジレンマがある。うまく人を集めて独自商品を開発したり、プロセスセンターをフル活用するなど、各事業者が知恵を絞って対応している。ただ足元では、他の売場と同じようにベンダーからの仕入れ商品を販売せざるを得ない状況もある。理想と現実をすり合わせて、インストアとアウトパックをうまく使い分ける必要が出てきている」
―今後の見通し。
「デリカ売場は好調を維持している。新商品開発に加え、唐揚げや餃子といった定番品のブラッシュアップや粗利率の改善も重要になってきている。今までは、価格訴求型の商品が多かったが、外食ニーズを取り込むために、もうワンランク上の惣菜開発が活性化し、それが消費者に受け入れられている。来店頻度を下げない仕掛けをしつつ、商品開発をさらに推し進めていけば、まだまだ売上を伸ばせるのではないか」
【2023(令和5)年1月21日第5118号6面】
デリカテッセン・トレードショー公式サイト
https://www.delica.jp/
1月11日号 トップに聞く
三井食品工業株式会社 代表取締役社長 岩田浩行氏
盤石な利益体質の構造作る
新しい事業で販路拡大
三井食品工業株式会社(愛知県一宮市)の岩田浩行社長にインタビュー。昨年8月から今期を迎え、製品の売れ行きや原料動向、今後の方針などについて話を聞いた。3カ年計画では盤石な利益体質の構造を作ることを目標に掲げていることを明かした。
(千葉友寛)
◇ ◇
-製品の売れ行きについて。
「前期は減収増益となったが、今期は非常に厳しい1年になると予測している。3カ年計画では盤石な利益体質の構造を作ることを柱としている。利益面については原材料の部分で大きく変わってくるため、原料仕入れは重要なポイントとなる。従来は旬の素材を安く購入しようとしていたが、天候の影響などによるリスクも大きいため、一定の価格で安定供給できればその方が良い、ということで原料野菜の契約率を高める取組を進めている。原料野菜の契約率を高めていくために、安定した収益の確保を目指している」
-値上げの動きについて。
「当社の浅漬製品は、量目調整か価格改定のどちらかでの対応で、昨年9月から10月に平均6%の値上げを行った。当社は他社より先行した動きとなり、切り替えられることもあったし、売れ行きは苦戦している。経営者の考え方次第だが、かつてない程に製造コストが上がっている中で値上げをせず、売上を優先しても未来はないと思っている。当社では過去に全品の値上げを行ったことがなく、今回の値上げはある意味で訓練だと思っている。もちろん、原材料や製造コストが下がれば製品価格も下げる。この10年、20年の間、製品の価格が変わっていない、ということ事態がおかしいことだが、現在の流れで価格を維持することはとてもできない。コロナ禍で政府は無利子無担保の融資を行った。融資の返済は年明けから本格的に始まるので、業界問わず様々な話が出てくるだろう」
-進行する円安の影響も大きい。
「漬物も含めて日本は多くの原材料を輸入に依存している。だが、進行する円安の影響もあり、日本の優位性は失われつつある。また、日本が他国に買い負ける事例も出てきており、海外のものが日本に入ってこなくなるかもしれないし、今後数年で海外の原料や製品の方が高くなる可能性もある。そこでクローズアップされるのが国産原料や国内製造の製品だ。生産の維持と拡大には大きな課題があるが、需要があれば減っていくばかりではないと考えている」
-漬物のマーケットや未来像は。
「正直に言って、明るい材料は少ない。ベンダーとしては新規取引先も増えて良い話もいただいているが、業界はシュリンクしており、これからの5年で淘汰も進むだろう。当社の本漬製品も5年後を見据えた時、どこまで売上に貢献できているのか分からない。事業継続の最善策として考えられるのは、適正価格での販売、健康機能性の訴求、新商品開発などが上げられるが、それらは過去にもやっていることで、新しい施策はない。だが、明るい話題もある。当社の事業を見直してみると、やはり野菜加工が強みであり特徴でもある。漬物を製造しなくても味付けした野菜をこれまでとは違うルートに販売できれば販路を広げていくことができる。詳細は言えないが、私が社長に就任してから新しい取組を進めている。その事業はまだスタートの段階だが、全体の売上の3~5%まで増えていて、10%を目指している。その市場にはまだまだ伸び代があり、さらに拡大していく可能性がある。そのようなところにスポットを当て、前向きに進んでいきたいと考えている」
【2023(令和5)年1月11日第5117号11面】
三井食品工業 HP
https://mitsuishokuhin.jimdo.com/
新しい事業で販路拡大
三井食品工業株式会社(愛知県一宮市)の岩田浩行社長にインタビュー。昨年8月から今期を迎え、製品の売れ行きや原料動向、今後の方針などについて話を聞いた。3カ年計画では盤石な利益体質の構造を作ることを目標に掲げていることを明かした。
(千葉友寛)
◇ ◇
-製品の売れ行きについて。
「前期は減収増益となったが、今期は非常に厳しい1年になると予測している。3カ年計画では盤石な利益体質の構造を作ることを柱としている。利益面については原材料の部分で大きく変わってくるため、原料仕入れは重要なポイントとなる。従来は旬の素材を安く購入しようとしていたが、天候の影響などによるリスクも大きいため、一定の価格で安定供給できればその方が良い、ということで原料野菜の契約率を高める取組を進めている。原料野菜の契約率を高めていくために、安定した収益の確保を目指している」
-値上げの動きについて。
「当社の浅漬製品は、量目調整か価格改定のどちらかでの対応で、昨年9月から10月に平均6%の値上げを行った。当社は他社より先行した動きとなり、切り替えられることもあったし、売れ行きは苦戦している。経営者の考え方次第だが、かつてない程に製造コストが上がっている中で値上げをせず、売上を優先しても未来はないと思っている。当社では過去に全品の値上げを行ったことがなく、今回の値上げはある意味で訓練だと思っている。もちろん、原材料や製造コストが下がれば製品価格も下げる。この10年、20年の間、製品の価格が変わっていない、ということ事態がおかしいことだが、現在の流れで価格を維持することはとてもできない。コロナ禍で政府は無利子無担保の融資を行った。融資の返済は年明けから本格的に始まるので、業界問わず様々な話が出てくるだろう」
-進行する円安の影響も大きい。
「漬物も含めて日本は多くの原材料を輸入に依存している。だが、進行する円安の影響もあり、日本の優位性は失われつつある。また、日本が他国に買い負ける事例も出てきており、海外のものが日本に入ってこなくなるかもしれないし、今後数年で海外の原料や製品の方が高くなる可能性もある。そこでクローズアップされるのが国産原料や国内製造の製品だ。生産の維持と拡大には大きな課題があるが、需要があれば減っていくばかりではないと考えている」
-漬物のマーケットや未来像は。
「正直に言って、明るい材料は少ない。ベンダーとしては新規取引先も増えて良い話もいただいているが、業界はシュリンクしており、これからの5年で淘汰も進むだろう。当社の本漬製品も5年後を見据えた時、どこまで売上に貢献できているのか分からない。事業継続の最善策として考えられるのは、適正価格での販売、健康機能性の訴求、新商品開発などが上げられるが、それらは過去にもやっていることで、新しい施策はない。だが、明るい話題もある。当社の事業を見直してみると、やはり野菜加工が強みであり特徴でもある。漬物を製造しなくても味付けした野菜をこれまでとは違うルートに販売できれば販路を広げていくことができる。詳細は言えないが、私が社長に就任してから新しい取組を進めている。その事業はまだスタートの段階だが、全体の売上の3~5%まで増えていて、10%を目指している。その市場にはまだまだ伸び代があり、さらに拡大していく可能性がある。そのようなところにスポットを当て、前向きに進んでいきたいと考えている」
【2023(令和5)年1月11日第5117号11面】
三井食品工業 HP
https://mitsuishokuhin.jimdo.com/
小西酒造株式会社 代表取締役 小西新右衛門氏
伝統食の再評価期待
SDGsを後押しにPR
小西酒造株式会社(兵庫県伊丹市)の小西新右衛門社長にインタビュー。同社は、清酒「白雪」を製造し、関連会社の白雪食品は、その酒粕を使用した奈良漬で知られる。小西社長は、日本酒造組合中央会副会長を始めとする要職を歴任し、現在は白雪食品の社長、伊丹商工会議所会頭、兵庫県公安委員会委員長の役職も担う。昨秋には旭日小綬章を受章した。日本酒、奈良漬、仕事への思いを聞いた。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
‐コロナ禍で何を考えていましたか。
「コミュニケーションの機会がいかに大切かということに気付かされた。そして、コミュニケーションの場において、日本酒や奈良漬といった嗜好品が果たす役割は少なからずあり、ポストコロナでどう展開していくかを考えた。これから、嗜好品は量の多さではなく、生活により華を添える存在として求められていき、少量良質が主流になっていくだろう」
‐若い人の間では日本酒や奈良漬への親しみが薄れている。
「ライフスタイルや食の好みは時代によって確かに変化していく。しかし、シェアが少なくなっても戦略を練ってPRし続ければ、増やしていくことは可能だ。日本酒や奈良漬を試さずに先入観で苦手意識を持っている方もいる。改めて好きになってもらうこと、また新しく好きになってもらうように粘り強く提案する必要がある」
‐新しく好きになってもらうためには。
「1つは海外に輸出して新規顧客を開拓することだ。すでに強化している。伊丹の土地で470年以上も清酒を作り続けていることを現地で話すと、伝統とストーリーに関心を持ってくださる。グローカルという言葉があり、地元に太い根があるから、自信を持って外へ出ていける。もう1つは、SDGsだ。白雪奈良漬は清酒『白雪』の酒粕を使って製造する伝統的な保存食。伝統食が再評価されるチャンスと捉え、まだまだ魅力があると期待している。SDGsが後押しになると見て、PRしていきたい」
‐小西社長が仕事で大切にされていること。
「まず仕事を好きでいること、職人技やもの作りへの思いを重視することだ。メーカーとして1番大事なことだと考えている。DXの推進は行っていくが、基本があってこそと感じる。また、いかに企業と企業で新しいものや価値を生み出せるかを考えている。コラボレーション先を常に探している」
【2023(令和5)年1月11日第5117号18面】
小西酒造 HP
https://www.konishi.co.jp/
SDGsを後押しにPR
小西酒造株式会社(兵庫県伊丹市)の小西新右衛門社長にインタビュー。同社は、清酒「白雪」を製造し、関連会社の白雪食品は、その酒粕を使用した奈良漬で知られる。小西社長は、日本酒造組合中央会副会長を始めとする要職を歴任し、現在は白雪食品の社長、伊丹商工会議所会頭、兵庫県公安委員会委員長の役職も担う。昨秋には旭日小綬章を受章した。日本酒、奈良漬、仕事への思いを聞いた。
(大阪支社・高澤尚揮)
◇ ◇
‐コロナ禍で何を考えていましたか。
「コミュニケーションの機会がいかに大切かということに気付かされた。そして、コミュニケーションの場において、日本酒や奈良漬といった嗜好品が果たす役割は少なからずあり、ポストコロナでどう展開していくかを考えた。これから、嗜好品は量の多さではなく、生活により華を添える存在として求められていき、少量良質が主流になっていくだろう」
‐若い人の間では日本酒や奈良漬への親しみが薄れている。
「ライフスタイルや食の好みは時代によって確かに変化していく。しかし、シェアが少なくなっても戦略を練ってPRし続ければ、増やしていくことは可能だ。日本酒や奈良漬を試さずに先入観で苦手意識を持っている方もいる。改めて好きになってもらうこと、また新しく好きになってもらうように粘り強く提案する必要がある」
‐新しく好きになってもらうためには。
「1つは海外に輸出して新規顧客を開拓することだ。すでに強化している。伊丹の土地で470年以上も清酒を作り続けていることを現地で話すと、伝統とストーリーに関心を持ってくださる。グローカルという言葉があり、地元に太い根があるから、自信を持って外へ出ていける。もう1つは、SDGsだ。白雪奈良漬は清酒『白雪』の酒粕を使って製造する伝統的な保存食。伝統食が再評価されるチャンスと捉え、まだまだ魅力があると期待している。SDGsが後押しになると見て、PRしていきたい」
‐小西社長が仕事で大切にされていること。
「まず仕事を好きでいること、職人技やもの作りへの思いを重視することだ。メーカーとして1番大事なことだと考えている。DXの推進は行っていくが、基本があってこそと感じる。また、いかに企業と企業で新しいものや価値を生み出せるかを考えている。コラボレーション先を常に探している」
【2023(令和5)年1月11日第5117号18面】
小西酒造 HP
https://www.konishi.co.jp/
1月1日号 トップに聞く
東海漬物株式会社 代表取締役社長 永井英朗氏
東海漬物株式会社(愛知県豊橋市)の永井英朗社長にインタビュー。第81期(2021年9月~2022年8月)の業績と第82期期首及び値上げの状況などについて話を聞いた。2023年の展望などについては、高品質と差別化を中心に浅漬市場(約800億円)のシェア10%獲得を目標に掲げ、野菜加工のメーカーとして売場を拡大していく方針を示した。(千葉友寛)
◇ ◇
ー第81期決算について。
「過去最高の収益となった2021年8月期(80期)と比較すると、81期は減収減益となった。売上は前期比2・5%減の微減で、利益は更に前期を大きく下回った。80期はコロナの影響による巣ごもり需要のプラスと原料状況が安定していたこともあって、81期はその反動が出た結果となった。当社は9月が期首であり、比較障害のないコロナ禍のプラス影響は2020年3月から2023年2月までと考えている。2023年3月以降は前年対比で比較することになる」
ー値上げについて。
「7月に『きゅうりのキューちゃん』の内容量を10g減量し、9月に一部本漬刻み製品の価格改定を行い、11月から『こくうま熟うま辛キムチ』の320gを20g減量し、『特級福神漬』と『カレー福神漬』をそれぞれ10g減量した。原料の他、調味料、添加物、包装資材、物流費とあらゆるコストが上がっており、海外原料については円安の影響も大きい。82期は出だしからコストが上がっており、80期の基準と比べても150~160%となっている。原料比率も5~10円上がっており、『キューちゃん』においても10g減量しただけではとても吸収できるレベルではない。だが、これ以上の減量や価格改定は支持を得られない可能性もあり、手探りで対応している状況。2023年春以降に向けては、原材料等の状況を見ながら様々なことを検討していく」
ー値上げの影響は。
「『きゅうりのキューちゃん』の内容量調整を行った時は約1カ月、パッケージの裏面に理由とお詫びを掲載した。いまのところ、他の商品も含めて影響は見られない。『こくうま熟うま辛キムチ』は、切り替えを行っているところなので注視しているが、大きな影響はないと予想している」
ーキムチ、本漬、浅漬の売上構成比は。
「キムチ65%、本漬は沢庵を含めて25%、浅漬10%。今後は浅漬を強化していきたいと考えており、浅漬市場(約800億円)の10%シェア獲得を目指している」
ー原料面と製造面の課題は。
「国内の原料野菜については、天候リスク、生産者高齢化リスク、農業資材・エネルギー価格の高騰による原価アップを懸念している。特に生産者の高齢化はどうしようもない問題で、事業継承が可能なのか確認させていただいている。主力原料である白菜の契約率は70%で、足りない時は市場から購入する。契約率を100%にしないのは、豊作になっても不作になってもリスクを最小限に留めるためで、青果会社とのパイプをつなぐ意味もある。製造面は2022年の中京工場(物流併設)と所沢工場(物流併設)の2工場の旧工場からの建て替えを行い、生産能力のアップ、品質保証の拡充、新機械設備導入による新商品開発を進める。品質管理については、全工場でGFSIスキームとなるFSSC22000、JFS‐C規格を取得する方針で、その準備を進めている。今後は新工場を活かす新商品の開発を行っていく」
ー今後の見通し。
「コロナで打撃を受けた企業は数多くある。無利子、無担保の融資を受けた企業もあるが、返済が本格的に始まる。販路にもよるが、小規模事業者にとっては厳しい状況になると思う。当社としては市場がシュリンクする中でも生き残れる企業になるため、10年後を見据えて行動していかなければならない。普通に考えても、売上を増やすためには他社のシェアを取るしかない。野菜加工のメーカーとして売場を広げていくために市場がシュリンクしても残る商品を開発することが重要で、高品質や差別化、お得意先様とのパイプがポイントになる。自分たちの強みをブラッシュアップし、供給体制を整えていく必要もある。FSSC22000などの認証資格取得は最低条件で、それがなければPBを受けることが難しく、PBを受けなければNBも受けにくいという流れもある。認証のコストも増えているが、当たり前のことを当たり前のようにやっていかなければ生き残ることができない時代になっている。SDGsの取組も必要で、全工場で生野菜残渣のたい肥化システム導入を目指している」
ー漬物の需要拡大の方策は。
「当社の経営理念である『野菜をもっと、野菜にもっと』を数値で出せるようにベジメーター(緑黄色野菜の数値を計測する機器)を会社としてレンタルしていて、展示会・各種イベントで活用している。ベジメーターで計測するべジスコアは緑黄色野菜の摂取状態を反映する。1日の目標野菜摂取量は350gで、健康につながるバランスの良い食事の中に漬物も入れてほしいと思っている」
ー2023年に向けて。
「今年の干支は『卯(うさぎ)』、十干は『癸(みずのと)』。干支は十二支・十支の組み合わせで60通りある。今年の干支は『癸・卯』。私が生まれた1956年の楽曲『ケ・セラ・セラ』(ドリス・デイ)は、『ケ・セラ・セラ=何とかなるさ』と訳されていることが多いのだが、本当の意味は『人生は自分次第でどうにでもしていける』ということだそうだ。ウィズコロナと厳しい経済状況が続くと思うが、みんなで力を合わせ、『ケ・セラ・セラ』の気持ちと『これまでとこれからの努力が花開き、実り始める』といった縁起の良さを表している『癸・卯』のごとく、難局を飛び越えていきたいと思っている」
【2023(令和5)年1月1日第5116号5面】
東京中央漬物株式会社 代表取締役社長 齋藤正久氏
東京都公認の漬物荷受機関である東京中央漬物株式会社(東京都江東区豊洲)の齋藤正久社長にインタビュー。23年3月期上半期の業績や2023年の展望などについて話を聞いた。人口減や少子高齢化で漬物の需要減少が見込まれる中、漬物以外の品目にも目を向ける必要性を指摘。現在は惣菜を強化しているが、将来的には冷凍食品も視野に入れる意向を示した。
(千葉友寛)
◇ ◇
ー23年3月期上半期の売上は。
「上半期の売上は0・4%減で、10月を含めると99・7%と昨対に近い数字に戻ってきている。主力の量販向けはやや低調だが、業務用が回復傾向でカバーしている。漬物業界もコロナの影響で倒産、廃業といった話も出てきているが、良い企業は関係なく業績を伸ばしている。皆川会長からもよく言われているのだが、いつまでもコロナのせいにはできない。少しずつではあるが、新規のお得意先様も増えており、12月も倉庫を目一杯使っている」
ー御社の強みは。
「全国の漬物を一手に引き受けて、供給することができる。主要な取引先は約300社で、取扱い数は1000品を超え、小ロットにも対応している。弊社の強みは引き出しの多さと経験、それと知識。全国にパイプがあり、ある商品が原料不足で供給が難しい時も全力で類似品を探す。それが無理なら供給可能な代替品を提案する。漬物のことは弊社に任せていただきたい、と思っている」
ー今後の見通し。
「漬物の市場は年々縮小している。少子高齢化が進む中、漬物だけを取り扱っていても売上は落ちていくだけだ。漬物以外の品目にも目を向けていく必要がある。近年、当社では売れ行きが好調な惣菜に近い商材に力を入れており、アイテム数を増やしている。量販店の惣菜売場は商品が充実しており、人の往来も多い。人が来る売場に商品を置くことが重要で、そのような商品の取り扱いも少しずつ増えている。また、コロナ禍で伸びた市場として冷凍食品があるが、今後は取り扱わなければならない状況になることも予想される。将来的にメーカーが冷凍食品を製造するようになれば、弊社もそれに対応できるように取り組んでいく必要がある」
ー漬物の動きは。
「新生姜は好調で、8月まで112%だった。9月は値上げの影響で少し後退したが、その後もプラスで推移している。沢庵は上半期108%で、10月も良かった。一部の国産製品で値上げが実施されたが、本格的には来春からになる。量販店では微減の浅漬だが、業務用の需要が回復して全体としてはプラスとなった。キムチは巣ごもり需要が増加したことで昨年まで好調だったが、その反動で数%のマイナスとなっている。梅干しは梅雨明けが早くて猛暑となったこともあって、7月は106%となったが、8月は80%台まで落ちた。9月は110%と持ち直したが、上半期は96~98%となった。これからの動きに期待したい」
ー値上げについて。
「漬物業界は他の食品よりも遅れていたが、秋冬から本格化し、来春までに大半の商品が量目調整または価格改定を実施する見通しだ。メーカーから弊社に申請が届いている商品については順次商談を行っていて、案内があったところについては7割方値上げが実施できている。得意先によっては時間がかかったり、1年に1回しか改定できない、といったケースもあるが、全体的にはスムーズに商談することができている。ただ、このような状況でも値上げの案内が届いていないメーカーもある。様々なコストが上昇している状況で、すでに企業努力で吸収できるレベルではなくなっている。もともと薄利でやっているケースが多いと思うので、赤字での製造を余儀なくされているケースもあるだろう。状況としては適正価格で販売できなければ会社の存続が危ぶまれるところまできており、まだアクションを起こしていない企業の状況を懸念している」
ー2023年の展望は。
「政府は、コロナの感染者が増えても以前のように規制を厳しくすることはないだろう。そうなれば、円安効果もあるのでインバウンド需要が期待でき、観光関連、飲食関係が良くなっていく。コロナの影響で巣ごもり需要が増加し、量販店は好調となって観光や飲食関係は低迷することとなったが、それが元に戻っている流れだ。利益を確保することは年々難しくなっているが、業務用の方が利益を取りやすい。企業としては利益率を高められるように何をすれば良いのか、どこの取引をメインにしていくのか定めていく必要がある」
(千葉友寛)
◇ ◇
ー23年3月期上半期の売上は。
「上半期の売上は0・4%減で、10月を含めると99・7%と昨対に近い数字に戻ってきている。主力の量販向けはやや低調だが、業務用が回復傾向でカバーしている。漬物業界もコロナの影響で倒産、廃業といった話も出てきているが、良い企業は関係なく業績を伸ばしている。皆川会長からもよく言われているのだが、いつまでもコロナのせいにはできない。少しずつではあるが、新規のお得意先様も増えており、12月も倉庫を目一杯使っている」
ー御社の強みは。
「全国の漬物を一手に引き受けて、供給することができる。主要な取引先は約300社で、取扱い数は1000品を超え、小ロットにも対応している。弊社の強みは引き出しの多さと経験、それと知識。全国にパイプがあり、ある商品が原料不足で供給が難しい時も全力で類似品を探す。それが無理なら供給可能な代替品を提案する。漬物のことは弊社に任せていただきたい、と思っている」
ー今後の見通し。
「漬物の市場は年々縮小している。少子高齢化が進む中、漬物だけを取り扱っていても売上は落ちていくだけだ。漬物以外の品目にも目を向けていく必要がある。近年、当社では売れ行きが好調な惣菜に近い商材に力を入れており、アイテム数を増やしている。量販店の惣菜売場は商品が充実しており、人の往来も多い。人が来る売場に商品を置くことが重要で、そのような商品の取り扱いも少しずつ増えている。また、コロナ禍で伸びた市場として冷凍食品があるが、今後は取り扱わなければならない状況になることも予想される。将来的にメーカーが冷凍食品を製造するようになれば、弊社もそれに対応できるように取り組んでいく必要がある」
ー漬物の動きは。
「新生姜は好調で、8月まで112%だった。9月は値上げの影響で少し後退したが、その後もプラスで推移している。沢庵は上半期108%で、10月も良かった。一部の国産製品で値上げが実施されたが、本格的には来春からになる。量販店では微減の浅漬だが、業務用の需要が回復して全体としてはプラスとなった。キムチは巣ごもり需要が増加したことで昨年まで好調だったが、その反動で数%のマイナスとなっている。梅干しは梅雨明けが早くて猛暑となったこともあって、7月は106%となったが、8月は80%台まで落ちた。9月は110%と持ち直したが、上半期は96~98%となった。これからの動きに期待したい」
ー値上げについて。
「漬物業界は他の食品よりも遅れていたが、秋冬から本格化し、来春までに大半の商品が量目調整または価格改定を実施する見通しだ。メーカーから弊社に申請が届いている商品については順次商談を行っていて、案内があったところについては7割方値上げが実施できている。得意先によっては時間がかかったり、1年に1回しか改定できない、といったケースもあるが、全体的にはスムーズに商談することができている。ただ、このような状況でも値上げの案内が届いていないメーカーもある。様々なコストが上昇している状況で、すでに企業努力で吸収できるレベルではなくなっている。もともと薄利でやっているケースが多いと思うので、赤字での製造を余儀なくされているケースもあるだろう。状況としては適正価格で販売できなければ会社の存続が危ぶまれるところまできており、まだアクションを起こしていない企業の状況を懸念している」
ー2023年の展望は。
「政府は、コロナの感染者が増えても以前のように規制を厳しくすることはないだろう。そうなれば、円安効果もあるのでインバウンド需要が期待でき、観光関連、飲食関係が良くなっていく。コロナの影響で巣ごもり需要が増加し、量販店は好調となって観光や飲食関係は低迷することとなったが、それが元に戻っている流れだ。利益を確保することは年々難しくなっているが、業務用の方が利益を取りやすい。企業としては利益率を高められるように何をすれば良いのか、どこの取引をメインにしていくのか定めていく必要がある」
【2023(令和5)年1月1日第5116号14面】