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漬物JAS・全国漬物検査協会2023

全漬検 第31回漬物技術研究セミナー

宮尾会長
大羽実行委員長
全漬検の漬物技術研究セミナー
多角的視点から未来語る 
 一般社団法人全国漬物検査協会(宮尾茂雄会長)は2月27日、東京都江東区の森下文化センターで第31回漬物技術研究セミナーを開催した。
 講演は、一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会の青山志穂代表理事が「塩の魅力~使い方や選び方で食と健康が変わる」、続いて㈱潤佳のユウ・シャーミンCEOが「薬膳入門~漬物の健康効果新発見~」をテーマに行われた。
 青山代表理事は、塩ブームの変遷や適塩のメリット、塩業界から見た漬物の印象を語り、ユウCEOは薬膳の基礎知識や漬物原料の健康性、薬膳としての漬物の新しい見せ方について語った。
 休憩を挟み研究発表に移ると、会津天宝醸造㈱は「みそ漬のリニューアル」で売上が伸びたこと、農林水産消費安全技術センターは「元素分析により梅の原料原産地が判別できること」を発表。
 ㈱アキモは「浅漬原料と製品中の低温菌叢解析」、東海漬物㈱は「発酵ぬか床の菌叢構造の把握とかき混ぜに関する考察」、㈱天政松下は松下雄哉社長自らが「人材戦略とSNS」をテーマに語った。㈱新進は「食品安全管理とFSSC22000への移行(九州新進)」、最後に遠藤食品㈱が「SDGsの取り組み」を紹介し、同セミナーは締めくくられた。
 宮尾会長は「多角的な視点でより漬物を知ることができた有意義な1日だ。参加された方はこの知見を自社に持ち帰って活用してほしい」と語った。
 講演では、異分野からの視点で漬物発展の未来についてヒントが与えられた。セミナーでは、専門的な研究発表とともに、マーケティングや採用、衛生管理、SDGsと、出席した経営者も大いに参考となる内容であった。また登壇者は9名中4名が女性で、漬物に関わる業界で女性の活躍を裏付ける内容となった。
(高澤尚揮)
青山代表理事
 講演、セミナーに先立ち宮尾会長は「昨年、会長の職を拝命した宮尾です。新型コロナの感染が落ち着き、外食・土産用の漬物の需要が回復していると聞く。だが、業界は依然人手不足など課題が山積している。本セミナーで各社の発表を聞いて、日々の仕事に活かしてほしい」と挨拶した。
 大羽恭史実行委員長は「ウクライナ戦争などの影響で物価が高騰し、食品の値上げが相次いでいる。しかしその中で、漬物業界は値上げに慎重すぎると感じる。消費者が離れることを恐れているのは理解できるが、企業存続、業界存続のために一致して取り組むことが不可欠だ」と語った。
 発表の概要は次の通り。
 ▼青山志穂代表理事「塩にこだわり適塩を」
 一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会の青山志穂代表理事が「塩の魅力~使い方や選び方で食と健康が変わる」をテーマに講演。昨今、塩は消費者から敬遠される存在となり、「減塩」を打ち出すメーカーが年々増えている。
 しかし、「減塩」商品の市場規模を見た時に実際は2015年から頭打ちで、消費者は糖質オフの方を重視しているとのデータを明らかにした。
 一方で「塩ブーム」は依然として続いており、その要因として、①チョコレート、焼きそばなど「親しみのあるものとのかけ算」、②塩にこだわるのが「かっこいい・おしゃれ」というイメージ③新興メーカーの参入を挙げた。
 特に新興メーカーの参入により、パッケージをスタイリッシュにしたり、プラスチックから紙製に変更したりするところが増加し、業界に刺激を与えている。
 青山氏は、塩業界は減塩より「適塩」をアピールしており、ストレスの多い生活では、筋肉神経の緊張緩和のためにマグネシウムを中心としたミネラルが消費される。そのため、ミネラルの摂取を身体が自然と欲するとした。
 塩業界から見た漬物として、「漬物は粗塩で漬けると良い」と言われるが、粗塩という種類の塩はなく、塩業界では、ナトリウム以外のミネラルを含む塩を指すと解説。
 どこの産地の、どんな製法の塩を使用した漬物なのかを消費者やバイヤーに伝えることで、商品の価値が高まるのでは、とアドバイスした。
ユウCEO
▼ユウシャーミンCEO「薬膳から見た漬物」 
 ㈱潤佳のユウシャーミンCEOは、「薬膳入門~漬物の健康効果新発見~」をテーマに講演した。初めに「薬膳」とは、健康目的に合わせて医食同源の効能から食材を選ぶことと説明し、夏には身体を冷やすきゅうりやトマトを、冬には身体を温める生姜やシナモンを意識的に摂取することを薦めた。
 薬膳では、身体と心が影響し合う「身心一如」、季節・気候が人に影響する「天人合一」の思想があり、良質な食が身体と心を作り、季節に合った旬の食べ物を摂る大切さを説いた。
 また、「五味(苦味、酸味、甘味、辛味、鹹味〔かんみ〕)」の食材や調味料をバランスよく摂ることで、五臓をいたわることになると話した。
 漬物商品のイメージアップのためには、素材の効能をアピールすることで美味しさに加えて健康性を伝えることができる。かぶらは身体を温め解毒作用があり、野沢菜もかぶらの仲間であるため同じ作用がある。さらに、調味料の使い分け(辛味、塩味、甘味等)や、販売ターゲットの年齢層も意識するよう呼びかけ、「薬膳としての漬物」の可能性を訴えた。

高橋室長
▼高橋喜之室長「みそ漬けリニューアル」
 会津天宝醸造㈱研究室の高橋喜之室長が「会津味噌を使用したみそ漬のリニューアル」について発表した。同社では約40年前から「本格みそ漬」を販売し、一時は月間1万5000パックを出荷していたが、2016年以降は月2000~3000パックにまで売上が低迷。そこで2018年から名称を「会津味噌蔵元のみそ漬け」にリニューアルし、様々な変更を行った。色調の改善、魚介エキスで旨味を増やすことで塩分を下げ、また甘味を強めるなどの工夫を凝らした。
 そして、販路を量販店から宅配限定にシフトし、数量限定を打ち出したところ、現在は月間約1万3000パック出荷にまで伸ばすことができた。
 高橋氏は、マーケティング戦略として、「数量限定という希少性」が1番消費者に届いたのではと語り、今後の課題は数量増に伴う規格外原料の処理で、向き合っていくと語った。

水沼チーフ
▼水沼忍チーフ「浅漬の低温菌叢解析」
 ㈱アキモマーケティング本部研究開発グループの水沼忍チーフが「MALDI-TOF-MSを用いた浅漬け原料及び製品中の低温菌叢解析」を発表。近年、消費者からの漬物の低塩化需要が高まり、微生物の制御力が低下傾向にある。一方で製造現場では効果的な微生物制御法方法の確立が急務であり、特に浅漬けでは加工度が低く加熱殺菌も行われない。そのため原料野菜や製造環境等から混入する微生物の影響を強く受けており、原料の殺菌強化や製造工程の衛生度向上など微生物制御法の確立のため様々な取組が行われている。
 浅漬は流通段階での菌叢の変化の網羅的解析、原料野菜・製造環境の菌叢解析が必須と考えられている。同社では、MALDI-TOF-MSによる微生物同定システムの利点である「迅速性」「低ランニングコスト」に着目し、浅漬けの保存中の菌叢変化や原料野菜などの菌叢解析を目的に、2017年より九州産業大学生命科学部と共同研究を実施している。
 本発表では、糖しぼり大根製品において、菌叢解析を行った。大根原料は非発酵性のグラム陰性菌で低温増殖可能なシュードモナス属、土壌由来のアルスロバクタ‐属や野菜との親和性が高い担子菌酵母が優占となった。これらの菌は、塩水漬・調味漬と工程を経るにつれて減少した。
 今回の研究で、解析結果のデーターベースを増やすことができ、今後もデーターベースの構築を継続したいとした。
森田専門調査官
▼森田美文専門調査官「元素分析で産地判別」
 独立行政法人農林水産消費安全技術センターの森田美文専門調査官は「元素分析による梅農産物の原料原産地判別法の開発」を発表。梅干・梅漬は加工品であるが、種子の中身(仁)であれば、調味液等の影響をほぼ受けず、梅原料に含まれる土壌や水質から産地を判別することができる。
 その際に、森田氏は農産物の分析で実績のある「元素分析」を用いた。元素分析とは、測定した元素の中からどの元素の濃度を使用するか検討し、最適な判別得点を算出できる数式を作成して行う。
 今回、元素分析による梅農産物漬物の原料原産地判別検査法を開発するため国産試料60点、外国産試料50点を分析した。森田氏は本研究により、梅の原産地が国内か海外か判別できることで産地偽装を見破り、国内産ブランドの地位を維持することができるとした。

杉浦主任
▼杉浦俊作主任「ぬか床の菌叢構造」
 東海漬物㈱漬物機能研究所の杉浦俊作主任は「遺伝子学的菌叢解析に基づく発酵ぬか床の菌叢構造の把握とかき混ぜに関する考察」を発表。発酵・熟成したぬか床内には、乳酸菌や酵母など多様な菌が生育しており、複雑な菌叢構造を形成している。その菌叢構造は一般的に、表面に産膜酵母やカビ、内部に乳酸菌種、底部に酪酸菌が生育すると大まかに考えられている。
 ぬか床の上層と下層では、優勢菌種あるいは菌叢構造が異なると見られていた。本研究では、「かき混ぜる」ことによって、ぬか床菌叢を均一に保ち、発酵・熟成を安定させることを証明した。
 ぬか床をかき混ぜず放置すると、上層と下層の優勢乳酸菌種の偏りを引き起こす。かき混ぜることによって、ぬか床底部への有機酸及びアミノ酸の蓄積を妨げることに加え、各ぬか床層における特定の乳酸菌種と酵母種の偏りを解消する効果を有すると考察できた。

松下社長
▼松下雄哉社長「SNSで人材獲得」
 ㈱天政松下の松下雄哉社長は「人材戦略とSNS」について発表した。SNSを活用する企業は増加傾向で、漬物業界においても同様である。漬物業界30社のSNS導入状況は約46%、全業種の平均とあまり変わりのない結果で、漬物企業が特段SNS活用に遅れているわけではないと説明。
 しかし、全業種のSNS活用で実際に効果を実感しているのは約2割といい、継続のモチベーションが下がっている企業もある。
 松下社長は「一般的なSNS活用は顧客への認知拡大や、商品・企業ブランディングを目指しているが、自社では『人材採用』に目的を絞って活用している」と話した。
 企業への応募者は、どんな社風か、どんな社長や社員が働いているか、ほぼ知らずに応募して入社する。一部ミスマッチが生じての短期離職が問題であった。そもそも、応募者自体を十分に集めることさえ難航していた時期もある。
 しかし、自社のTwitter、Instagram、YouTube、TikTokで顔が見える発信をすると、応募者が全国平均の約1・8倍にまで伸びた。
 最後に松下社長は、人材獲得のためには企業がウェブサイト以外にどれだけ情報開示しているかで明暗が分かれると力説して締めくくった。
森山課長代理
 ▼森山美希課長代理「食品安全管理とFSSC」
 ㈱新進食品安全推進室の森山美希課長代理は、「食品安全管理を形骸化させない取組とFSSC22000への移行」を発表。九州新進では2019年に食品安全規格を選択する際、審査費用が安価なISO22000を取得。しかし、より食品安全管理体制を強化するため、2021年からFSSC22000へ移行の取組を開始し、2022年に認証を取得した。
 次に、利根川工場では、ISO9001にて取り組んでいた既存文書を活用し、食品安全管理体制を構築した。工場で製造している約200アイテムを製品特性や工程ごとにカテゴリー分けを行い、HACCP文書を作成した。設備予防保守対応としては、カード管理を行うことで、進捗状況の見える化を実現した。
 現在は年2回の検証と年1回の内部監査を実施し、2018年のFSSC22000取得後の取組で、食品安全チームメンバーの課題抽出能力が向上した。

中田課長
▼中田昌宏課長「遠藤食品のSDGs」
 遠藤食品㈱施設部兼仕入部の中田昌宏課長は、自社の「SDGsの取組」を紹介した。同社は昨年、地元栃木の「とちぎSDGs推進企業支援事業」へ登録。具体的な取組として、栃木県産の野菜(生姜)の使用継続・使用数量アップや、働きやすい職場の環境づくりの継続、再生可能エネルギーの促進が挙げられる。
 2030年に向けた指標では、栃木県産生姜の使用を2020年の約70tから2030年には約100tに増やす予定で、職場では残業時間の低減、有給取得率の向上、太陽光発電システムの継続使用・バイオマスフィルムの使用検討を推進していく。
 すでに同社では電気代削減のために従業員の帰宅を促し、10年前と比較して95%残業時間を削減したり、箱を木箱からステンレスBoxに変更(不要な包装資材の削減)するなど、着実に実現へ前進している。
【2023(令和5)年3月1日第5121号2面】
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