本文へ移動

コラム/視点2023

いかなご豊漁のために

 播磨灘・大阪湾の今年の「いかなご漁」は3月4日に解禁された。だが、大阪湾では実質4日で漁獲が終了し、昨年の4日、一昨年の3日に続いて不漁続きだ。かつては1万tを超えていた兵庫県の漁獲量は2016年以降、2000t以下にまで激減している。
 兵庫県の水産技術センターによると、いかなご不漁の要因の1つとして、現在の海の水がきれい過ぎて、エサとなるプランクトンの数が大幅に減っているという。高度成長期に播磨灘・大阪湾では工場排水や下水の流入で植物プランクトンが異常に増殖し、赤潮が発生した。そのため国がプランクトンの栄養分になる窒素やリンといった「栄養塩」を法規制した結果、プランクトンが大幅に減少した。
 いかなご漁師の中には、昨今の燃油高で漁に出ても採算が合わないと、今年初めて漁獲を諦めた人もいる。いかなごが豊漁だと聞く日が訪れるのは厳しい。
 SDGsの14番目に「海の資源を守ろう」がある。海洋汚染を防ぐことはもちろん重要ではあるが、海洋資源を失うことなく、科学的にそして計画的に海を回復させることが重要だ。
 兵庫県では2020年に条例を改正し、排水基準を緩和した。一方で大阪府は、大阪湾はリンの量が十分にあると主張し、排水基準の緩和には慎重だ。中長期的ないかなごの回復計画策定が望まれる。
(大阪支社 高澤尚揮)
【2023(令和5)年3月21日第5123号16面】

高齢者の笑顔作る介護食 10年で生産額5倍に拡大

 内閣府によれば、日本の総人口は1億2550万人、うち高齢者(65歳以上)は3621万人。高齢化率は28・9%に上る。総人口は減少局面にあるが、高齢者人口は2045年まで微増を続け、高齢化率は36・8%まで上昇すると推計している。
 こうした状況下、高齢者向けの食事提供の重要性は増し、求められる品質も高まっている。
 株式会社マルタマフーズ(服部太郎社長、大阪府東大阪市)は福祉施設向け給食の委託製造という形で、高齢者のQOL(生活の質)向上と、福祉施設の負担軽減へ貢献している。
 本部管轄事業部エリアマネージャーの市川泉氏は「治療が目的の病院と違い、福祉施設は元気に楽しく過ごしていただくことが目的。一番大切なのは美味しく食事を摂ること。美味しければ心が健康になり、量をしっかり摂れるので体も健康になれます」と話す。
 複数の施設へ同一メニューを提供するのでなく、同社では施設ごとの様々な希望や予算に合わせたオーダーメイドの「給食」であることが大きな特徴だ。季節の食材や行事を取り入れたり、入居者の摂食レベルに合わせた柔軟なメニュー提供を行っている。
 平均寿命が延びるにつれて施設で過ごす期間も延びるようになり、一つの施設に様々な摂食レベルの入居者がいることが大半だ。このため調理には非常に高い技術と時間が求められるようになっており、それが委託事業に需要がある理由となっている。  
 こうした細かなニーズに対応するため同社でも活用しているのが、食品メーカーが製造するやわらか食の存在だ。見た目が良く、誰が食べても美味しいやわらか食は幅広い摂食レベルの人へ提供できるメリットがある。
 市川氏は「以前は刻んで出さざるを得ず元の見た目や食感を維持できない食材や、中には提供すること自体を諦めていた食材もありました。やわらか食の場合は加圧や酵素などの方法で、加工が施されていて、厨房で再現することは不可能です。もっとバリエーションが拡がることを期待しています」と話す。
 同様に、減塩食品の拡充も必要としている。特に漬物や佃煮など厨房で作ることが難しい食品は多数ある。このため現在は食品メーカーとタッグを組みオリジナルのやわから食、減塩食の開発にも着手している。
 日本介護食品協議会によるユニバーサルデザインフード生産統計によれば、2012年には生産額108億2500万円だったのが、2021年には524億1200万円と、約5倍の規模となっている。
 今後もその成長は続きそうだ。(小林悟空)
【2023(令和5)年3月1日第5121号6面】

2023年おせち総括 おせち商材順調に推移

おせち料理の需要は堅調
課題は原料確保と人手不足
 昨年のおせち商戦は、販路や地域によって濃淡があったものの、おおむね順調に推移した模様だ。単品おせちに関しては、栗きんとん、黒豆、昆布巻、田作り4品への集約がさらに進み、セット物の売上比率が高まった。
 3年ぶりに行動制限のない年末年始となり、人流が活発化。帰省客が増加し、一昨年以上に首都圏から地方へと人が流れた。
 首都圏の量販店では、一昨年の年末商戦において想定以上に人が動き、食品全体でロスが出たこともあり、昨年は発注の段階からおせち関連商材の数量を一昨年比で5%程抑えた店舗が多かった。一方、地方の量販店は発注を一昨年並かやや増やした店舗が多く、数量は横ばいから微増で推移した。
 おせち関連商品は、品目にもよるが全体的に値上げが実施され、数量が減少した首都圏においても売上ベースでは昨年並、地方では売上増となった店舗が多かった。
 コロナ禍で市場が拡大を続けてきた重詰めおせちは好調を維持したものの、過去2年のような伸びは見られなかった。近年の市場拡大と共に新規参入が増加、販売チャネルが多様化し、競争は激しさを増している。昨年は、大手通販会社が冷凍おせちの販売数量を大きく伸ばしたと見られ、パイの取り合いが続く。
 昨年のおせち商戦では、巣ごもりにより勢力を伸ばしてきた少人数おせちから大人数おせちへのシフト、百貨店では店舗予約が前年比で増加するなど、コロナ前への回帰も見られた。
 二極化の流れもさらに顕著化し、百貨店の高額おせちが好調だった反面、ローソンストア100が販売する「100円おせち」も、約300万食を販売するなど支持を集めた。
 おせちは近年、作るものから買うものへ消費者行動が変化したことにより、単品、重詰め共に底堅い需要があるのは確かだ。その一方で、原料確保や人手不足が大きな課題となっている。
 今年の年末商戦に関しては、昨年以上に原料確保が難しくなることも予想され、今から価格設定を含めた販売戦略に気をもむ事業者も多い。
 今春には新型コロナの「5類」への移行が実施される予定で、2024年おせちはウィズコロナの中での商戦となる可能性が高い。コロナ禍の巣ごもり需要により、伝統的なおせち文化が改めて脚光を集めた。正常化した社会においても、その魅力を存分に発揮し、売上増に結びつけていきたい。
(藤井大碁)
【2023(令和5)年1月21日第5118号1面】

株式会社食料新聞社
〒111-0053
東京都台東区浅草橋5-9-4 MSビル2F

TEL.03-5835-4919(ショクイク)
FAX.03-5835-4921
・食料新聞の発行
・広報、宣伝サービス
・書籍の出版
TOPへ戻る