本文へ移動

編集後記2025

<編集後記> 4月11日号 高菜の存在価値

高菜トルティーヤ(画像提供:中園久太郎商店)
 今年の高菜漬の漬込みがピークを迎えている。収穫時期が早い南九州では天候不順により7割作となり、北部九州でもほぼ同様の状況とみられている。
 筆者が本紙記者として初めて高菜産地の取材に赴いた20数年前、高速九州道八女インターから南関インター間は道路の両側が高菜畑で、濃い緑色の風景が一面に広がっていたことを今でも鮮明に覚えている。
 一汁三菜に欠かせなかった漬物も、食の多様化や、最近では米の高騰でご飯のお供としての価値が薄れてきている。そんな中で高菜漬は、昭和30年代から油炒め製品が開発され、“惣菜”としての新たな存在価値が生まれた。現在でも、和洋中を問わず様々な料理の素材として重宝されており、今後もその分野での広がりが期待される。
 課題は、冒頭に書いた原料の確保だ。現在、高菜漬に使用されている「三池高菜」は、柳川地区を治めていた立花家の当主・立花寛治が、筑後地方の農業振興のために私財を投げうって農事試験場を作り、中国の青菜と日本の紫高菜を組み合わせて出来た品種だ。
(柳川「御花」サイトより https://ohana.co.jp/stories/tachibana-history/
 今も脈々と受け継がれている立花氏の意思を途切れさせてはいけない。気温が乱高下する天候に強い品種の開発や、栽培方法の研究などが進むことを期待したい。
(菰田隆行)
【2025(令和7)年4月11日第5192号4面】

<編集後記> 4月1日号 昔のままという価値

天秤押しによるすぐき作り
 京都のすぐき漬が令和6年度の100年フードに選ばれた。
 京都市農協や京都府漬物協同組合はこれを足がかりに、無形民俗文化財登録も目指していく。
 塩だけで、天秤押しというテコの原理を利用した手法で300kgの圧力をかけて漬け込み(現代ではプレス機を使うところも多い)、その後加温して40度ほどに保った室で熟成させる独特の製法だ。
 味は、塩だけで漬けて乳酸発酵させた香りと酸味がある。そのまま食べても美味しいが、醤油やごまなどをかけると旨味が補強される。シンプルがゆえにアレンジもしやすい。
 これを好む人にとって、現代の漬物は「美味しすぎる」のではないかと思わされる。
 冬になると、京都市内のスーパーでは姿物のすぐき漬が真空パックで、生鮮品のように100g当たり300円くらいの価格設定で売られている。重量が厳密に設定され、価格を変えるのに多大な苦労がかかるメーカー品とは対照的だ。
 約400年前に上賀茂地域で生まれたとされるすぐき漬は、製法も味も、売り方までも昔のままだ。これからもその価値を守り続けてほしい。(小林悟空)
【2025(令和7)年4月1日第5191号6面】

<編集後記> 3月21日号 ぬか漬けの価値

アボカドのぬか漬け
 ぬか漬けを漬け始めてからもうすぐ1年が経つ。
 日本いりぬか工業会の「ぬか漬けの日(5月8日)キャンペーン」を機に漬け始め、それ以降、食卓の一品となっている。 
 定番の胡瓜、かぶ、大根、人参などを中心に様々な野菜を漬けているが、最近のお気に入りはアボカド。アボカドを半分にカットし、種を取り出し皮が付いたまま漬ける。2日ほど経つとクリーミーな身にぬかの香りが染み込み、さわやかでコク深い味わいに仕上がる。特にハイボールとの相性が良く、晩餐のお供にピッタリな一品だ。
 ぬか漬けファンの懐を直撃しているのが昨今の野菜高騰。胡瓜1本60円、アボカド1個200円。近所のスーパーや八百屋をめぐり、お得な漬け材を探すものの、そう簡単には見付からない。だがよく考えてみると、上等な酒の肴が60円や200円で手に入ると思えば、大変安い買い物ではないか。しかも食物繊維やビタミンB1などの栄養素がたっぷり摂取できる。
 ぬか漬けを漬け始めてから腸内環境が改善されたのか、以前より身体も軽く感じる。実際に漬けることで、ぬか漬けの価値を実感する一年となった。(藤井大碁)
【2025(令和7)年3月21日第5190号10面】

<編集後記>3月11日号 愛される商品の秘訣

 ボートレースびわこのカツカレー
 全国調理食品工業協同組合近畿ブロック会(阪田嘉仁会長)が3月1日、滋賀県大津市のボートレースびわこにて、湖魚佃煮のPRを行い取材で訪問した。昼食時に食堂へ入ると、競艇ファンたちが、かつ丼やカツカレーを注文する声が聞こえた。「勝つ」のゲン担ぎで、競艇場では毎日ゲンが担がれる。
 ゲン担ぎで私が思い浮かぶのは、大阪のうどん双樹が製造販売する「すべらんうどん」。うどんの中央に穴を空ける特許製法で作られ、その穴に箸を引っかけて食べると、箸からうどんが「すべらん」「落ちない」と受験生に人気の縁起物だ。大阪天満宮を中心に販売し、入試シーズンにはすぐに売り切れる。
 販売場所、タイミング、ネーミングが絶妙に重なることが、愛される商品の秘訣だと考えさせられる1日だった。
(高澤尚揮)
【2025(令和7)年3月11日第5189号6面】

<編集後記>3月1日号 走りながら考える  

SMTS2025の食料新聞ブースに来訪する池野会長(右)
 「走りながら考えろ」。ウエルシアホールディングス株式会社代表取締役兼会長執行役員最高経営責任者の池野隆光氏が日頃から社員にかけている言葉だ。
 目標や目的があれば、まずそれに向かって走り出す。そして、走ることだけに集中するのではなく、どうすれば目標や目的を達成できるのかを考える。
 走りながら物事を考えることは簡単なことではない。歩くスピードならば余裕を持って考えることができるが、他社に追い付かれたり追い越される可能性もある。成功するためには頭をフル回転させながら誰よりも早く走らなければならない、ということだ。
 池野氏の言葉を聞いて、ある人のことを思い出した。2006年7月から病に倒れる2007年11月まで、サッカー日本代表監督を務めたオシム氏だ。同氏は「考えながら走るサッカー」を標榜し、現代の日本サッカーの礎を築いた。
 成功している人には何かしらの共通点があることが多いが、私が取材を通して関わることができた池野氏とオシム氏には共通の言葉があった。 (千葉友寛)
【2025(令和7)年3月1日第5188号5面】

<編集後記>2月21日号 食に保守的   

 SMTSで地域食を眺めながら、子どもの頃のこんな記憶がふとよみがえった。
 両親は食に関して保守的な人だが、それは決して珍しいことではないことをその後の人生で学んだ。むしろ、多くの人は食事で失敗したくないからと、入念な事前調査をして、旅行雑誌や口コミで美味しいと太鼓判を押されているものを選ぶ。
 日本人だけではない。ホテルの朝食バイキングでは、和食に手を付けずに、食べ慣れているフライドポテトを山盛りにする外国人もよく見かける。
 取材をしていると、発売後数カ月経ってから売れ始めた、という話をよく聞く。どんなに美味しい商品でも、最初の一口に挑戦してもらうまでには時間や工夫を要するのだろう。食の探究心が強い食品業界の人々は、世の平均とのギャップに注意が必要だ。
(小林悟空)
【2025(令和7)年2月11日第5187号6面】

<編集後記>2月11日号 スーパーがインフラに

2024年SMTS開会式
 SMTS(スーパーマーケット・トレードショー)が今回で59回目を迎える。第1回開催の1964年には、スーパーの存在感は今ほどではなかった。都市を除けば、全国的に地域の個人商店で、夕飯の買い出しをするのが主流であった。  
 歴史を振り返ると、それから90年代まで、スーパーは長らく大量生産、大量消費の象徴であった。だが2000年代以降、今でいうサステナビリティの取組が進み、食品ロス削減、環境に優しい包材使用の推進などに力を入れていく。
 そして、商品販売に留まらず、生活講座イベント開催等、情報発信の場にもなっていく。スーパーの役割は多様化し、人々の生活のインフラになっていった理由として、現場の創意工夫は間違いないが、そのきっかけ作りとして、SMTSが最新情報を常に提供してきた貢献は大きい。(高澤尚揮)
【2025(令和7)年2月11日第5186号16面】

<編集後記> 1月21日号 餅の食べ方

砂糖醤油で食べる焼き餅はソウルフード
 一年のうち1月は、お雑煮などで最も「餅」を食べる機会が多い月だ。
 その餅も、全国で形や食べ方に大きな差がある。お雑煮に使われる餅の形は東日本と西日本で異なり、その境目は岐阜県の関ケ原辺りになる。(農林水産省月刊誌「aff(あふ)」より)
 関ケ原より東の都道県は角餅、西の府県は丸餅が一般的だ。境界線上にある岐阜、石川、福井、三重、和歌山の5県では、角・丸2種類とも使われているところもある。
 また、食べ方についての調査では、東日本では「いそべ」、西日本では「砂糖醤油」が多数派を占め、東西で大きな差がみられることがわかった。(ウェザーニュース「好きな焼き餅の食べ方」アンケート調査より)
 九州出身の筆者も、餅に海苔を巻くいそべ焼きよりも、甘しょっぱい砂糖醤油での食べ方が子供の頃から食べ慣れた味で、ソウルフードのひとつだ。
 最近では餅の食べ方も多様化し、3500万人以上のユーザーを抱える日本最大級のレシピ動画アプリ「デリッシュキッチン」で「餅」と検索すると、200種類以上のメニューが表示されるほど。
 この時期はちょうど、お供えしていた餅を鏡開きで食べる頃。ぜひ、様々なメニューを試して美味しく食べてみたい。
(菰田隆行)
【2025(令和7)年1月21日第5185号6面】

<編集後記>1月11日号 おせち百景

正月のおせち
 今年の正月、十数年ぶりに母の手作りおせちを食べた。おせちといっても、栗きんとん、黒豆、筑前煮、なますといった簡易的なものだが、その味付はやはり身体に馴染むものがあった。なますにマグロの切り身が入っていたり、その由来は分からないが、代々受け継がれてきた伝統の味がある。 父の故郷である富山のかぶら寿司がおせちと共に食卓に並ぶのも正月の恒例で、久しぶりに、その味わいに舌鼓を打った。汁物では、里芋の茎を干した“ずいき”の粕汁が懐かしかった。こちらも調べると富山の郷土料理のようだ。
 一方、妻の実家では、病気療養中の義母に代わり、妻と義姉がその味を受け継ぎ振る舞った。栗きんとん、黒豆、田作り、なます、たたきごぼう、煮しめの他、白と黄色のコントラストが美しい市松錦卵が目を引いた。おせちと共に、ビーフシチューが登場するのも妻の実家の正月の恒例だ。  正月の食卓の風景は、その家により様々だ。独自に受け継がれてきたレシピやメニューもあるだろう。だからこそ、面白く奥深い。その味わいをどのように次世代へつないでいくか。つながらず消えてしまう故郷の味があるのは寂しい限りだ。
 意外にも、ずいきの粕汁は子どもたちから大好評で、家に持ち帰り、次の日も、その次の日も子どもたちは喜んで食べた。郷土料理伝承の第一歩は、まず食卓に上げ、食べてもらうことだと身をもって実感する正月となった。(藤井大碁)
【2025(令和7)年1月11日第5184号15面】
株式会社食料新聞社
〒111-0053
東京都台東区浅草橋5-9-4 MSビル2F

TEL.03-5835-4919(ショクイク)
FAX.03-5835-4921
・食料新聞の発行
・広報、宣伝サービス
・書籍の出版
TOPへ戻る